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母と僕が、
通称、タイガー池に戻ると、
6頭のサーベルタイガーは、まだ居た。
おそらく、縄張りだと考えられる。
しかし、我々の姿は、見えない様である。
こちらの存在に、気付かれない事は、
非常に、ありがたい。
もし、襲われた場合、僕の無意識は、
サーベルタイガーを、殺す危険性があるのだ
生前、僕は、雪国に住んでいた。
結果、熊や猪が出没して、
幼稚園が休みに成る事があった。
熊や猪が攻撃して来た場合、
人間など、殺されてしまうのだ。
その為、地元の住人は、
一刻も早い駆除を希望する。
そうしなと、お母さんが、パートに行けないのだ。
熊が出没する環境で、幼稚園児を家に残し・・・
仕事に行く事は、非常に困難なのだ。
ところが、世の中の大半の人間は、
現実を知らない。
結果、
現実には、不可能な解決策を、
得意気に発言する。
すると、無知な人は、
それが、正しい解決策と誤解する。
そして、メルヘンチックな発言で、
自分を善人だと思い込む。
熊を殺さないで・・・
麻酔銃を使って・・・
しかし、麻酔銃など、存在しないのだ。
麻酔銃を使う場合、
それは、狩猟免許を持った医師が必要なのだ。
医師免許が無ければ、麻酔は使えないのだ。
そして、麻酔銃が必要である。
しかし、そんなモノ、製品として、
存在しているのだろうか・・・?
結果、麻酔銃が使えないので、
医師が、吹き矢を使い、麻酔針を発射する。
しかし、刺さった瞬間、
熊が、眠る訳では無いのだ。
瞬間に寝る程の、麻酔を使った場合、
熊でも死ぬのだ。
その為、眠るまでに、
数分かかる分量しか使えない。
つまり、吹き矢が命中しても、
その医師は、熊の攻撃を受けて死ぬのだ。
だから、麻酔など使えないのだ。
それを、生けたまま捕獲して、
山奥まで連れて行き・・・
そこで解放する。
そんな事が、出来る訳が無いのだ。
数百キロある熊を、オリに入れ、
それを、運ぶには、車が必要なのだ。
つまり、道路があるのだ。
山奥になど、連れて行けないのだ。
ヘリコプターを使う場合、
その費用は、誰が出すのか・・・?
墜落した場合、誰が保証するのか・・・?
そこまでしても、数日後には、戻って来る・・・
その場合は、どうするのか・・・?
少し考えれば、解る事である。
しかし、熊や猪の駆除が、ニュースに成ると、
無関係な偽善者が、苦情と称する、嫌がらせを行う。
元々は、人間が、彼らの住みかを奪った。
などと、暴言を吐く。
では、そんな暴言を吐く人間が、
人間の代表として、
費用や損害に対応してくれるのか?
というと、そんな事を、
実行した人など居ない。
陰湿な嫌がらせを行うだけ、
自分を、正義と勘違いしているだけ・・・
雪国の人間が、全て、都会に移り住んだら、
日本の農業は終わりである。
農業を守る為には、
その地域で生活する為の、
スーパーマーケットが必要なのだ。
そこで、働く人が必要なのだ。
そして、その人達の暮らしの為には、
ガソリンスタンドも、病院も、床屋も・・・
つまりは、人の暮らしが必要なのだ。
日本を成立させる為には、
誰かが、雪国に住む必要があるのだ。
その為には、熊や猪を殺す事も必要なのだ。
僕は、その様な地域で育った。
その為、サーベルタイガーが、
僕の家族の害に成るなら、
殺す事など、平気である。
しかし、僕には、バリアがあり、
サーベルタイガーには、
母の存在は知られていない。
『助かった・・・』
『殺さずに済む・・・』
僕は、サーベルタイガーを、
殺したい訳では無いのだ。
そんな事を、考えながら、
池の底を観察する。
すると、魚以外にも、数種類の生き物がいた。
しかし、それが、
何を食べるのか・・・?
その様な事は解らない。
その為、
僕の知る、生き物・・・
それに似たモノを探し、
回復魔法で、老化を調べ、
歳を取っても、小型サイズ・・・
つまり、
これ以上、
大きく成長しない事を確認。
それを、バケツに瞬間移動させて行く。
「ミナミヌマエビ」に似たエビ、
大きさは2センチ程度、藻を食べている・・・
「ドジョウ」はドロに潜る為、
ドロの停滞を防ぎ、
池の底のドロ腐りを防いでくれる。
次に池のフチを確認、
「タニシ」を探す。
タニシは、水の不純物を食べる為、
水を透明にする効果がある。
「水草」は光合成によって、
水の中の二酸化炭素を、酸素に変える。
「ミジンコ」は、メダカのエサ。
それ以外にも、興味深い、魚や貝が多く居たが、
どの様な生態なのか、不明なので、
捕獲しない事にした。
これらを、2つのバケツに入れ終えると、
次の瞬間、
我々は、再び、1番池の近くにいた。
池の底に、バケツを置き、
コップ1杯分の水を入れる。
その後、芋畑で、バケツを2つ確保、
再び、タイガー池へ・・・
しかし、今度は、池ではなく、
その先の川に向かう。
同じ場所で、捕獲すると、
生態系が、乱れる危険性と、
近親交配が、心配だからである。
川が流れて来る方向、
岩塩の大地を背に、牛の大地を進んで行く。
つまり、西へ向かって行くと、
牛の群れが見えてきた。
水を飲んでいる。
その場所は、河川敷の様に成っていた。
しかし、通常、河川敷で見られる石がない・・・
つまり、「石無し川」である。
僕の知る限り、川原は、
丸い石で埋め尽くされているのだが、
ここは、土の河川敷である。
それを踏まえて、考える・・・
『つまり、石が運ばれて来ない・・・』
『その程度の水量・・・』
『つまり、洪水には成らない・・・』
『だから、石が運ばれて来ない・・・』
現在、川の水位は、
50センチから80センチ、
川幅は、10メートル、
水量としては、充分である。
そして、川の水は、ほぼ、流れていない。
数キロ先に、タイガー池があり、
そこが終点なので、
これ以上、流れて行けないのだ。
現在は、春・・・・
雪解け水が流れて来る季節。
それで、水位が80センチ・・・
水の流れは止まっている・・・
川に石がない・・・
つまり、山で大雨が降っても、
この川には、それほど、流れて来ない。
もし、大雨によって、
タイガー池が溢れる程、大量の水が、
毎年、流れ込むのなら、
その水に流されて来た石が、
この河川敷に、転がっているハズである。
ところが石が無い・・・
という事は、
おそらく・・・
この川は、
『干上がる時期もある・・・』
季節によっては、水の無い時期がある。
その様に考える必要があった。
基本的に、水が少ないのだ。
だから、木々が生えないのだ。
という事は、
我々が暮らす、枯れた大地の、川の水も、
季節によっては、
干上がる可能性がある・・・
僕は、あせった。
『1番池の魚は、どう成る・・・?』
当然、不安に成る。
しかし、
僕は、その様な環境を知っていた。
生前、住んでいた地域の、
田んぼや、用水路である。
夏場、田んぼには、メダカやタニシがいる。
しかし、秋には、その水は無く成る・・・
では、タニシは、どこに行くのか?
なぜ、次の年には、復活しているのか?
それは謎だが、
メダカは水路に逃げ、
川に逃げ、そして冬を越し、
そして夏、再び、田んぼの戻って来る。
おそらく、タイガー池や、この石無川の生き物も、
水が少なくなれば、森の方向に泳いで行き、
上流で、生き延びる。
おそらく、タニシは、
土の中で生き延びる・・・
という方法で、
水の無い時期を、乗り切るのだと思う。
つまり、1番池に魚を運ぶ行為は、
無駄では無いのだ。
『1番池の魚も、同じ事をする・・・』
『そして、生き延びる・・・』
僕は、その様な説明で、
自分の不安を取り除いた。
しかし、である。
では・・・・
『畑は、どうする・・・?』
川の水が無く成るなら、
その対策が必要である。
1番川にそって、畑を作ったのだ。
1番川の、水を与える為に、
1番川の近くに、畑を作ったのだ。
ところが、その水が、無くなる時期がある・・・
その様に、考えられた。
『では、山の中に、畑を作るか・・・?』
山は、雲の流れを邪魔するので、
その結果、雨が降るのだ。
つまり、最後まで、水が確保出来る場所、
それは、山の中なのだ。
しかし、山に行くには、
片道、4日・・・
回復魔法を使っても、
片道2日・・・
『水の無い時期だけ、移り住む・・・』
『土砂崩れは・・・?』
『カビは・・・』
『山は危険だ・・・』
『住めないから平地に来たんだ・・・』
問題は山積みだが、
時間が無い・・・
行動再開である。
通称、メダカ、ドジョウ、エビ、タニシ、水草、
これらを集め、1番池へ・・・
その繰り返しで、作業開始から、1時間、
1番池には、10個のバケツが並んだ。
その間、バケツには、少しずつ、
1番池の水を入れ、
魚の様子を確認していた。
『大丈夫だ・・・』
そこで、最初のバケツの魚を放流・・・
そして、そのバケツを持って、再び、
石無川に戻る。
しかし、今回の目的は、
川ではない、
この川をさかのぼり、森を目指す。
森に到着・・・
『ここからは、未知の世界だ・・・』
『何がいる・・・?』
このに来るまでに、猪やネズミ、恐竜も見かけたが、
それは、想定の範囲であり、
驚く様なモノはいなかった。
しかし、ここからは、違う、
原始人が居る可能性があるのだ。




