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現在、僕と母は、牛の大地で、
通称・シラサギの、次の動きを待っている。
なぜ、水の無い平原・・・?
なぜ、こんな場所に居るのか・・・?
何を食べるのか・・・?
それは、我々の食料に成るのか・・・?
そんな好奇心で、観察しているのだ。
しかし、数分間動きが無い・・・
退屈である。
僕には、不安があった。
『もし、今、僕が死んだら・・・?』
残された家族は、
何を食べて生きて行くのか・・・?
芋も、ドングリも、
食べられるのは、将来的な事であり、
今食べたら、数日で終わってしまう。
現在は、僕が、生きているので、
1週間に1度、
牛を捕獲する事が可能だが、
僕が死んだら、
それは、手に入らなく成る。
おそらく、今頃、
父と祖母は、
昨日の牛を切り分けて、
干し肉を作っているだろう・・・
しかし、それを食べ終わったら・・・?
その時、僕が死んでいたら・・・?
そこで考えたのが、
牛牧場である。
蚊の問題もあるが、
食料問題の方が深刻である。
実の所、
僕が、死んだ後、
一体、何が困るのか・・・?
そんな事は、解らない。
食料があっても、ケガや病気に成れば、
それは、命に関わる問題である。
結局、僕は、全てを丸投げした状態で、
死ぬ事に成るだろう・・・
全てが、中途半端・・・
牛は居るが、草が育たない・・・
その様な問題が、発生するだろう・・・
あるいは、牛が、繁殖して、
父や祖母が、殺される危険性も考えられる。
しかし、考え過ぎるあまり、
何もせずに、死ぬ方が、無責任である。
そこで、昨日、僕は、
ネズミの拠点から見て、
最も南にある湿地帯を、川に作り変えた。
そして、その南岸に、牛が食べる草を植えた。
僕が、生きている間に、
そこを、牧場にする・・・
ネズミの拠点から、
牧場までは、200キロ離れている。
現実的に考えて、
実用的とは思えない。
しかし、
ネズミの拠点で、牛を飼う事は、
問題が多い。
まず、牧草が無い、
その為、草を育てる必要がある。
しかし、草が育った場合、
芋畑への悪影響が考えられる。
つまり、将来的な、雑草被害と、
牛に、芋の葉を、食べられる被害・・・
その両方で、確実に苦しむ。
芋の葉が食べられたら、
地中の芋が、育たなく成るのだ。
だから、ネズミの拠点の近くでは、
牛は飼えない。
『では、牧場を、柵で囲む・・・』
その様な考えもあるが、
現実的に、その柵は、誰が作る・・・?
野生の牛に耐える柵・・・
年に何回、修理する・・・?
誰が、どの様にして・・・?
僕が死んだ後は・・・?
と考えると、柵も作れない。
そして、ネズミの拠点で、牛を飼えない理由は、
他にもある。
僕は、牛に近づけない。
僕が近くに居ると、
牛の知能が向上する可能性があるのだ。
もし、牛がタロの様に、賢くなった場合、
それを、殺して食べられるだろうか・・・?
おそらく、我々は、精神的苦痛を感じる。
つまり、僕は、牛の飼育に参加出来ない。
その為、我々は、芋畑の近くで生活して、
牛には、芋畑から、200キロ離れた南側で、
生息してもらう必要がある。
牛には、自力で、生きてもらうのだ。
ちなみに、
僕から、6メートル以上離れると、
寒さ軽減や、疲労回復が効果を失う。
つまり、牛を、
200キロも向こう側で、
育てる必要は無い様に思える。
しかし、
この世界の牛は、野生動物である。
本能がある。
肉食動物を恐れ、移動する習性がある。
その為、牧草の生えた土地を捨て、
移動する可能性が考えられる。
しかし、周囲には、草の生えた土地が無い・・・
結果、牛は、牧草地へと戻る。
そして、その状況を学習して、
その後、牛は、牧草地で生きる事に成る。
つまり、牧場の様な柵が無くても、
牛は、南の牧草地に、定住してくれる訳である。
しかし、と成ると、
牛のフンは、どうするのか・・・?
フンは、排泄された瞬間に、
肥料に成る訳ではない。
バクテリアが、フンの成分を分解して、
それによって、肥料に成るのだ。
フンを、直接与えると、
植物は枯れてしまうのだ。
つまり、牛を、放置した環境で、育てた場合、
牧草地は、
牛によって、草を食べられ、
フンによって、草が枯れる・・・
一体、どうすれば良いのか・・・?




