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朝の8時ごろ、
芋畑に全員で集まり、
バケツを使った水やりを行う。
その水をくむ1番川は、
最も深い位置は、約2メートルあり、
川幅は10メートル以上ある。
現在、水の量は、約10センチ程度、
岸から、ゆるやかな斜面を下り、
川底に、歩いて下りる事が出来る。
つまり、以前は、
動物が斜面を下り、水を飲んでいたのだ。
では、作業開始である。
まず、木製バケツから、ドロを出す。
そして、僕は、そのバケツに向けて・・・
『ゆうごう・・融合・・・!』
その様なイメージで、魔法を送る。
現在、バケツの内壁には、
少量ではあるが、ドロが付着している。
それと、バケツを融合させるのだ。
この魔法は、生前、2つのガラス片を、
1つに融合させた時と、同じモノである。
しかし、今回は、
木製のバケツと、ドロである。
実際に、その様な事が可能かどうか・・・?
そんな事は、解らないが、
『ドロは土・・・木も最終的には土に成る・・・』
『ドロの中には砂がある・・・』
『砂は、元々石である・・・』
『木は、コハクという宝石に成る・・・』
『つまり、ドロと木には共通点が多い・・・』
『だから融合する!』
などと、僕は、僕を、強引に納得させながら、
木製バケツに魔法を送った。
実際、見た目に変化は無い。
その後、全員で、
バケツを、川底に運び、水を入れ、
父が、斜面の上まで運び、
母と祖母が、
それを順番に受け取り、
5メートル離れた畑まで運ぶ、
結果、畑の前には、
10個の水入りバケツが並んだ。
その後、3人は、手で、バケツの水をすくい、
優しく、水をまく。
僕が教えた訳ではない。
最初、父が、バケツから、直接、水をまいたら、
土が飛び散ったのだ。
これでは、土の中の芋が出てしまう。
それを見て、祖母が工夫したのだ。
そして、祖母が、言った。
「小さい、バケツ、作る」
つまり、
「おわん」や「コップ」の様な器の事である。
僕は、森の中から、割れていない木を探し、
コップを10個作った。
すると、父は、コップに水を入れると、
その水を上に向かいまいた。
どうやら、父は、雨を降らせたい様である。
それを見て、僕は思った。
『ジョーロ・・・』
『人間なら、幼稚園児でも知っているが・・・』
すると、祖母が、僕に言った。
「コップ、下、穴、穴、穴」
祖母は、ジョーロの原理を、考え出したのだ。
『天才だ・・・・』
『本当に凄い人だ・・・』
僕は、祖母を尊敬した。
僕は、直径2ミリ程度の石を、
瞬間移動させ、
コップの底に、6個の穴を開けた。
祖母は、うれしそうに、それを使った。
その後、
ジョーロコップを10個、
普通のコップを10個作り、
ドロを入れ、
丈夫にする為に、魔法を送った。
実の所、コップでの水やりは、
非常に効率が悪いので、
今後は、父や祖母が、それを改善して行く。
平凡な日常であった。
『僕は、本当に死んでしまうのか・・・』
悲しい気持ちに成った。
僕は、現代で1度死んでいる。
現代にも、僕の両親がいる。
不思議な事に、僕は、
その事に関して、
正直、悲しくない・・・・
なぜか、死んだという実感が湧かないのだ。
しかし、この原始の世界で、
僕は、必要とされている・・・
『役に立っている・・・』
その誇りがある。
だから、この世界で、死ぬ事は・・・
この人たちを残して死ぬ事は・・・
『悲しい・・・』
『人が生きる意味、それは必要とされる事だ・・・』
僕は、その様に思った。
では、次に、引っ越しである。
ネズミの拠点から、
1番川のある、この畑までは、
約20キロ離れている。
この距離を毎日、通って、
水をやるのは、効率が悪い、
また、水が必要な場合も困る。
そこで、畑の近くに、
引っ越す事に決めていたのだ。
では、どの程度の距離が良いのか・・・?
それを、父と祖母に考えてもらう。
すると、祖母は、事前に決めていた様で、
即答した。
それは、川から、北に10メートルの位置だった。
そこで、僕は、ネズミの拠点に引き返すと、
祖母が、決めた新ネズミの拠点に、
牛の肉など、荷物を全て運んだ。
では、ここからは、別行動である。
僕と母は、牛の大地に向かう。
母には、木製バケツを、1つ、持ってもらう。
次の瞬間、
塩漬けポイント、
その後、光のトンネルを進む事、2秒程度・・・
我々は、牛の大地に居た。
昨日、牛を捕獲した場所である。
周囲に草はあるが、牛の姿は無い・・・
『おそらく、牛の本能だ・・・』
肉食獣のエサである牛は、
同じ場所には、定住出来ない。
恐いから、逃げる・・・
移動するのだ。
周囲に肉食動物も居ない。
エサである牛が居ないので、
当然である。
しかし、相変らず、足の長い鳥がいる。
どう見ても、シラサギである。
水辺に立って、魚を狙う、
足の長い、白い鳥・・・
『どこに水辺があるのか・・・・?』
『それとも、あの鳥は、虫を食べるのか・・・?』
周囲には、牛のフンがある。
つまり・・・
『牛のフンを食べる虫がいて・・・』
『あの鳥は、その虫を食べて生きている・・・?』




