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僕が、地面の塩分を、除去した翌日・・・
ドングリが発芽していた。
地面の中の、イモの成長具合は解らないが、
おそらくは、イモにも、変化があると、
考えられた。
試しに、掘ってみたいが、
僕の何かが、それを止めた。
僕が、確認する事で、
その影響が、さらに強く成る可能性・・・
そして、それは、我々にとって、
「都合の良い影響」である可能性が高いのだ。
しかし、それを、考えると、不安に成る。
なぜなら、僕は、
都合の良いモノを、信じないのだ。
生前、僕は、
インチキ広告を見た。
僕は、それをインチキと感じた。
それは、毛生え薬の広告だった。
それを飲めば、髪の毛が増えるらしい。
しかし、そんなモノが本当にあるのか?
それが事実なら、
ヒゲは?鼻毛は?ワキ毛は?
あるいは、
耳毛が生えたり、
眉毛がつながって、
生活に、支障が出る危険性もある。
『なぜ、頭の毛だけに、作用するのか?』
『そんな都合の良い薬品など、存在するのか?』
そんなモノ、ある訳がない・・・
僕は、その様に考えた。
だから、インチキだと考えた。
僕は、その様な性格である。
そんな性格の僕が今、
ガン細胞は、消せるのに、
ドングリの細胞は、増やせる・・・
その様に矛盾した、魔法を使っている。
僕自身、納得行かないのに・・・
特別な知識も無いのに・・・・
魔法が勝手に、都合良く、作用してくれている。
『なぜ・・・?』
『そういえば昨日・・・地面の塩分を消した・・・』
『塩分を消費した・・・』
『僕は、消費する魔法が使える・・・』
『だから、ガン細胞も消費出来る・・・』
では?
『ドングリの細胞は・・・?』
『なぜ増えた・・・・?』
僕は、内心あせっていた。
恐怖を感じていた。
生前、テレビで見た事があったのだ。
『細胞の分裂には、回数制限がある・・・』
『その回数を越えると、細胞は死ぬ・・・』
それを踏まえ・・・
今回、ドングリは、細胞分裂を繰り返し、
わずか2日間で、発芽した。
『つまり、細胞分裂を多く繰り返した・・・』
『回数に、制限のある細胞分裂を、多く使った・・・』
『つまり・・・』
『回復魔法で、回復したら・・・』
『その分、寿命が短く成るのでは・・・?』
僕は、愕然とした。
父、母、祖母、タロ・・・
この3人と1匹は、
毎日、回復魔法を受けている・・・
『早死にする・・・?』
『死んでしまうのか・・・!』
考えても、答えなど出ない。
僕は、罪悪感に押し潰されそうに成った。
『では、どうするか・・・?』
『あくじゅんかん・・・』
僕は、悪循環を知っている。
甘いモノを食べ過ぎ、
その気持ち悪さを消す為に、
塩辛いモノを食べる。
しかし、気持ち悪さは消えず、
その上、ノドが乾き、
満腹で苦しく成る。
つまり、改善を求め、
何かを実行すると、
さらに、状況が悪化する・・・
その危険性が高いのだ。
僕は、回復魔法を使う事で、
都合良く回復する事を知っている。
しかし、その結果、
寿命が短く成る危険性に、気付いた。
もちろん、これは、あくまでも可能性であり、
本当に、寿命が短く成っていると、
決まった訳ではない。
しかし、今、僕は、
家族の寿命を、伸ばす事を、考えている・・・
どうしても、考えてしまう・・・
しかし、
『これを実行すれば、悪循環が発生する・・・』
困った・・・
一体、どうすれば良いのか、解らない。
しかし、選択肢は1つしか無いのだ。
『この件は、放置する・・・!』
僕の、回復魔法は、勝手に発動するのだ。
止める事など、出来ないのだ。
例えば、回復魔法の影響を止める為、
僕が、家族から、離れた場合・・・
父、祖母、タロは、
どの様にして、生きて行けるだろうか・・・?
自給自足出来る環境では無いのだ。
僕が、必要なのだ。
そもそも、僕から離れる事の出来ない母は、
一体、どうする・・・?
結局は、僕の影響を受けるのだ。
『僕は、逃げる事が出来ない・・・』
内心は辛かった。
今すぐ、何か・・・
寿命を伸ばす「何か」を考え、実行したかった。
しかし、それは、危険だった。
それによって、
『もし、不老に成ったら・・・・?』
『全く、老化しない身体に成ったら・・・?』
僕が、新たな回復魔法を発動させ、
その結果、細胞の老化を、止める事が出来た場合、
その後は、年を取らない・・・
ある意味、夢の様な話だが、
人は、賢く成る・・・
ある意味、大人に成る・・・
つまり、精神は年を取る・・・
『数百年、同じ生活が続く・・・』
『耐えられるだろうか・・・?』
退屈地獄である。
細胞は老化しないが、
ケガはする。
骨は折れるし、
その後遺症で、寝たきりにも成る。
その様な可能性も、考えられる。
永遠に寝たきり・・・
『餓死は、出来るだろうか・・・?』
『不老に成れば、死に方を考える・・・』
『不老に成れば、最終的に自殺を選択する・・・』
『生きている事がイヤに成って・・・』
『お互いに殺し合う・・・』
その様な可能性を考えると、
寿命を延ばす事は、危険だった。
だから、回復魔法を使う事で、
寿命を短く成る件は、
『放置する!』
僕は、僕に言い聞かせた。




