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我々は、数日ぶりに、横穴で眠った。
もちろん、僕は眠れないので、
見張りを行っていた。
翌朝、朝食後、
我々は、瞬間移動を使い、
100メートル向こう側・・・
通称・向山に移動していた。
何も言わなくても、
タロは、自分の役割りを理解している。
芋を見つけ、僕に知らせる。
僕は、その地面を瞬間移動させる。
結果、地面には、
50センチ四方の穴が開き、
その隣には、
50センチ四方の、土ブロックが現れた。
祖母が、牛の骨を使い、土ブロックを崩し、
その中から芋を取り出す。
この方法であれば、地面を掘るよりも簡単に、
芋を集める事が出来る。
そして、崩した土ブロックは、再び、穴に戻す。
その間にも、タロは芋を探し、
次は、父、次は、母、という様に、
効率良く、芋を集めて、
昼の段階で、
40個ほどの芋と、
数十匹のミミズが集まった。
しかし、タロは休まない。
ドングリを見つけた。
地面に、大量のドングリが落ちている・・・
喜ぶ3人・・・
しかし、僕は、不安に成った。
『なぜ・・・・?』
現実的に考え、
『なぜ、食べられていない・・・?』
ドングリとは、野生動物の貴重の食料である。
それが、食べられずに、残っているのだ。
『毒があるのか・・・?』
僕は、母に確認する。
しかし、このドングリは、
3人が知るドングリであった。
つまり、食べる事が出来るのだ。
『では、なぜ、誰も食べなかった・・・・?』
この向山は、
我々が、2ヶ月過ごした横穴地域と同様、
津波を受けなかったのだ。
だったら、津波の時
このドングリ天国にいた、動物達は・・・?
今、どこに居る・・・?
なぜ、このドングリを食べなかった・・・?
この場所には、ドングリも芋もある。
津波以前から、
猪が住み着いていても、不思議ではない・・・
結果、津波を生き延びても、不思議ではない・・・
このドングリを食べても、不思議ではない・・・
ところが居ないのだ。
僕は、その理由に心当たりがあった。
『なるほど・・・』
あくまでも、僕の考えではあるが、
これまでの事実から推測すると、
生前の僕・・・
つまり、現代で死んだ僕は、
無意識の瞬間移動によって、
魂だけが、この世界に来た。
そして、その場所が海だった。
このままでは、魂が消滅してしまう・・・
魂が定着する身体が必要である。
そこで、僕の無意識は、
海を動かし、陸を目指した。
それが津波である。
その津波は、
南北に、数千キロの長さだったと、推測される。
そして、僕の無意識は、陸に住む動物を探した。
千里眼を使ったと考えられる。
条件は、
高い知能を持っている事、
受精の瞬間である事、
この2点だったと考えられる。
結果、その様な条件に合うモノなど、
簡単には見付からない。
では、その間、
津波を維持する為の、エネルギーは、
何だったのか・・・?
その時、僕の無意識に、
優しい心など、無かったと思う。
ただ、僕の身体を探し、
その際、僕の身体に合わない動物・・・
『これは駄目!』
その様に判断した動物は、
分解して、エネルギーに変換して、
消費した・・・
その様に考えられる。
つまり、このドングリ天国には、
動物が住んでいたのだ。
しかし、僕の無意識が、津波を維持する為に、
エネルギーに変換して消費したのだ。
もしかすると、
『3人村の住人も、僕が、消費した・・・』
実際の所は、永遠に分からないが、
その可能性は、充分に考えられた。
そして、津波の僕は、
山頂にいる原始人を見つけた。
その原始人は、儀式によって、
山頂で、子作りをしていた。
理想的な母を、見付けたのだ。
しかし、
このまま進めば、
津波で、母を殺してしまう・・・
その瞬間、僕の無意識は、津波を南北に分断させた。
そして、僕の魂は、
母の胎内に移動した。
一方、僕に分断された津波は、
コントロールを失う・・・
その多くは、
南北の山脈を越え・・・
南北のネズミの森をも壊滅させた。
結果、津波当時、山頂にいた3人は助かったが、
その下に位置する3人の村は、
津波の余波によって、壊滅した。
一方、3人村より、北側にあった横穴地域は、
壁山脈と、
我々が、内臓を捨てた崖、
つまり、
幅100メートル、
深さ10メートル以上の谷間によって、
津波の激突を受けなかった。
しかし、そこに居た動物の多くは、
その直前、僕に消費された。
今回の、ドングリは、その後に落ちたモノである。
だから、誰にも、食べられなかったのだ。
この事から、推測すると、
僕が、魔法を最大限に引き出した場合、
横幅、数千キロの津波を起こし、
千里眼が使え、
その際、僕の探し物に、該当しなかったモノは、
エネルギーとして消費される・・・
僕には、その様な能力があるのだ。
『悪魔だ・・・』
僕は、そう思った。




