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牛の大地を進む事で、
我々は、何かに襲われる危険性がある。
僕が、勝手に、牛の大地と命名しただけで、
ここには、その牛を食べる肉食獣も、
生息しているハズ。
それが自然の摂理である。
結果、我々は、突然に襲撃に対して、
逃げる方法を、考える必要があった。
そして、空中から、空中への、
移動魔法を使えば、
我々は、逃げる事が可能だと考えられた。
もちろん、着地地点に、サソリなど、
危険な何かが居る危険性はある。
しかし、
その着地を、岩塩の大地で行えば、
リスクは、無いに等しい・・・
『では、現実問題・・・』
『我々は飛べるのか・・・?』
僕は、鳥の向こう側に、砂利を飛ばす事が出来る。
つまり、我々も、地面から、1メートル上の、
何も無い空中に、移動する事が出来る・・・
ところが・・・
僕は、その事に、恐怖を感じた。
『この理屈なら、空中移動が出来る・・・』
『目視出来る範囲なら、どこでも行ける・・・』
『それも一瞬で・・・』
『しかし、それなら・・・』
『この方法で、月に行けるのか・・・?』
『今は見えないが、夜になれば・・・』
『月は、目視出来る・・・』
『何も無い空中よりも、明確なゴールだ・・・』
『一瞬で、行けるのか・・・?』
『行った瞬間、死んでしまうだろう・・・』
『だから、僕の無意識が、それを阻止する・・・?』
『つまり、月には行けない・・・』
『魔法が発動しない・・・』
おそらく、その通りである。
つまり、僕の無意識が、
空中移動に関して、命の危険を感じた場合、
魔法は発動しないのだ。
では、100メートル前方の地面の、
1メートル上の空中・・・
この移動を、落下前に繰り返し、
飛行する事は、
『本当に可能なのか・・・?』
『本当に発動するのか・・・?』
僕の魔法は、試す事が出来ない。
つまり、本当に必要な場面が来るまで、
使えない・・・
徒歩で、牛の群れを追いかけ・・・
途中で、逃げる必要があった時・・・
『本当に飛べるのか・・・?』
『その時、発動しなかったら・・・?』
そして、気付く・・・
『牛の追跡などせずに・・・』
『空中移動魔法で・・・』
『水を探しては、どうだろうか・・・?』
しかし、その場合も、不安がある。
『空中で発生する問題・・・』
『対応出来るだろうか・・・?』
移動魔法には、理解出来ない部分がある。
我々は、300メートル刻みで、
移動して来たのだ。
つまり、300メートルごとに、
一瞬、停止しているのだ。
時速1080キロで進み、
瞬間的に、停止した場合・・・
通常、そんな事をすれば、
人は、前に吹っ飛ぶ。
しかし、僕の移動魔法では、
その様な現象は、起こらない。
つまり、移動魔法は、我々に、
加速による影響を、与えていない。
その為、我々は、ダメージを受けずに、
移動が繰り返せたのだ。
しかし、飛行する場合、
問題点が考えられた。
空中から、空中への移動・・・
次の瞬間、
再び、移動魔法を使う訳だが・・・
それまでの一瞬の間に、
我々は、少し落下する。
『これは、自然落下であり・・・』
『魔法とは別の力である・・・』
つまり、我々は、引力の影響を受ける。
その状態で、再び、
100メートル前方・・・
地面から、1メートル上の位置に移動・・・
すると、今回も落下する。
そして、そこには、
前回の落下の勢いも、加算される。
つまり、空間移動を繰り返せば、
その回数分、落下の勢いが増して行き・・・
最終的には、移動した瞬間、
『地面に叩きつけられる・・・?』
僕は、その様な危険性を感じた。
『移動魔法での空中移動は、危険だ・・・』
3人と1匹を、同時に、安全に、
飛行させる技術など、僕には無いのだ。
『落下の瞬間、バリアが有効なのか?』
『母だけに、効果があるのでは・・・?』
そして思い付く。
『移動魔法での、空中停止・・・』
『空中に立った状態・・・』
『これで一定の高さを保ち・・・』
『それで移動する・・・?』
理屈では、石槍を父の手元に、
返した時の様な事が出来る。
しかし、冷静に考える。
飛行魔法を使う場合、
それは、突然、襲われた瞬間である。
その状況で、3人と1匹を、同時に包み込み、
空中に浮かせ、
その状態で、空中移動を開始する。
『パニック状態で、それが可能なのか・・・?』
そして気付く。
『では、上昇すれば・・・?』
一瞬で、100メートル上に移動して、
その後、岩塩の大地方向へ、移動する。
1回の移動で、可能な限り、多く進み、
実質、3回程度で、岩塩の大地に戻る。
そうすれば、10センチの落下を、3回程度、
つまり、30センチの高さから、落ちた程度の衝撃で、
着地出来る。
しかし、本当に、そうなのか?
『本当に30センチの落下で済むのか・・・?』
確認したいが、練習では魔法が発動しない・・・
理屈の上では、僕は飛べる。
しかし、飛べたとしても、
安全は、保証出来ない。
そして、僕が、これだけ不安を、
感じているという事は、
僕が、月に行けない理屈と同様、
空中移動魔法は、僕の無意識によって阻止される。
つまり、発動しないのだ。
僕は、自分がとても、消極的に思える。
しかし、僕は、責任重大な立場なのだ。
例えば、幼児期に、
「傘は、パラシュートの様に使える」
それを本気で信じて、挑戦する子供が居る。
しかし、その多くは、低い位置から飛び降りる。
マンションの最上階から、飛ぶ子供など、
聞いたい事が無い。
つまり、それが、無意識の正体である。
本人は、出来る、つもり・・・
しかし、その無意識は、
その不可能を、理解している。
その為、安全な場所から飛ぶのだ。
つまり、
ビルの屋上からは、飛ばないのだ。
飛べないのだ。
火事に成って、焼けるか、飛ぶか・・・
それを選ぶ場面で、
下には、安全なマットが、あったとしても、
何割かの人間は、恐くて飛べないのだ。
それを踏まえ、今、僕が飛べる理屈を並べても、
本当に飛ぶ必要があった時、
それが実行出来る保証は無いのだ。
これは、遊びでは無いのだ。
僕は、自分に言い聞かせた。




