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生前の僕は、小学5年生だった。
僕は、何かを始めると、
病的に没頭してしまうので、
ほとんど、何も、させてもらえず、
唯一、許されていたのが、
家族の監視付きの、テレビ鑑賞だった。
つまり、僕にとって、
テレビだけが、唯一の娯楽だったのだ。
そして、そんな僕は、
テレビアニメが好きだった。
生前は、毎日、見ていた。
可能であれば、
アニメの主人公の様に、生きたかった。
しかし、僕は、
魔法使いだった。
僕の魔法が、
周囲に知られる事で、
偉大な人々を、失業者にしてしまう。
その危険性があった。
だから、理解出来た。
『アニメは、あくまでもアニメ・・・』
『影響されては、いけない・・・』
僕の見ていたアニメは、
漫画雑誌に連載されていた。
連載漫画は、
毎回、盛り上がりが無ければ、
人気が下がり、打ち切られる。
結果、毎回、盛り上がる様に、
考えられている。
とは言っても・・・
毎回、ラスボスを、倒せる訳が無い。
では、どの様に盛上げるのか・・・?
簡単な事である。
登場人物が、失敗をすれば良いのだ。
それで、話は盛り上がる。
結果、続きが気に成って、
来週号も売れる。
その為、少年漫画の主人公は、
豪快な人物が多い。
慎重に考え、行動していたのでは、
失敗が減り、盛り上がりに欠け、
話が、進まないのだ。
その為、少年漫画の主人公は、
明らかな失敗を繰り返す。
例えば、
大食いキャラ・・・
皆の食料を食べてしまう。
その後、都合の良い展開で、
物語が動き出す。
ところが、
その主人公の、人間性を考えた場合、
本当に、そんな事をするだろうか?
食料が無くなれば、誰かが死ぬ可能性もある。
そんな状況で、主人公が、
仲間の食料を、全て食べるだろうか?
そんな酷い事が、出来るだろうか?
そんな人物に、仲間は、
着いて来るだろうか?
現実的に、無理があるのだ。
他にも、
方向音痴キャラ・・・
確実に道を間違える。
しかし、その結果、毎回、都合良く、
物語が動き出す。
ところが、仲間がピンチという状況で、
道に迷う・・・
見当ハズレな場所を探す・・・
現実世界なら、その間に、仲間は死んでいる。
つまり、致命的な欠点なのだ。
しかし、これらの人物は、
その問題点を、改善しない。
毎回、迷惑をかけ、
全く、反省しない・・・
そして繰り返す・・・
現実世界なら、駄目人間である。
しかし、それが、漫画なのだ。
そもそも、この類の主人公は、
身体を貫通する様な、ダメージを受けても、
「うぉぉおぉぉ!!!」
といって立ち上がり、
ベストコンディションでも、倒せなかった強敵を、
倒してしまうのだ。
人間では無いのだ・・・
漫画なのだ・・・
つまり、この様な人物に、
感化されてはいけない・・・
それを踏まえ、
おそらく、漫画の主人公であれば、
のん気なセリフを言って、
前に進めば、都合の良い、失敗が起こる。
魔法が使えなく成っても、
話が盛り上がる。
恐竜に襲われても、
コミカルに逃げれば、
仲間が死ぬ事は無い。
あるいは、死ねば、死んだで、盛り上がる。
しかし、我々は違う、
誰かが死ぬエピソードなど
必要無いのだ。
だから、僕は、
この先、前進する事の危険性を、
家族に伝えた。
単語による、カタコトの会話で、
どこまで通じるのか、
それは、解らないが、
僕は、家族に伝えた。
そして、
進むか、戻るかを、
3人に、話し合ってもらった。
僕には、先生がいない・・・
僕を導き、育ててくれる指導者がいない・・・
だから僕は、全てを自分で、考える。
自分で、考えているのだから、
全て正しく思える。
その結果、自分を、賢いと思い込む。
だから、僕は、僕に教える必要がある
『賢い芝居は、絶対にするな・・・』
それを、何度も自分に言い聞かせる。
皆が、
「右に行く」と言っている場面で、
賢い芝居をして、
「いや!ここは左に行く!」
などと、反論する。
それが、賢い芝居である。
そこに、考えなど無い・・・
それらしい理由を言った所で、
本当の目的は、
皆を、唖然とさせたいだけ・・・
自分を、誇示しただけ・・・
ただ、それだけの事である。
そんな愚かな事は、してはいけない。
僕は、自分に、そう言い聞かせた。




