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僕が原始の世界に転生して約55日・・・
これまで、生活の拠点であった山を捨て、
我々は、平地を目指していた。
下山には2日かかる。
そして、現在、1日目の夜、
我々は、野宿をしていた。
これから、後1日、山を下り。
その後、2日間、森を進み。
そして、恐竜が生息する平地に出るのだ。
つまり、我々は、恐竜と戦うのである。
そんな時、僕の千里眼に異常が発生した。
何も見えなく成ったのだ。
実際には、真っ白な空間が見えていた。
その後、千里眼は回復したのだが、
妙な現象が起きたいた。
母の胎内が見えなく成ったのだ。
『この現象は、何なのか・・・?』
そして、その現象の正体が、何であるか、
僕は、理解した。
『僕の魔法が退化した・・・』
『レベルが下がった・・・』
つまり、僕は、
『魔法の制御が、出来る・・・』
『魔法の暴走を、止められる・・・』
という事である。
これまで、魔法は、1度、定着すると、
それを止めるという、選択肢が無かった。
結果、現在の僕は、
全方向が見えている。
見たくなくても、見え続ける。
しかし、今回、
母の胎内が見えなく成った。
つまり、1度、定着して、
発動が、止まらなかった魔法・・・
それを、止める事が、出来るのだ。
『助かった・・・』
それが、僕の感想だった。
実の所、これで、本当に助かるのか?
魔法の制御が出来るのか?
そんな事は解らない。
あくまでも、僕の予想であるが、
今後、僕が、本気で望めば、
再び、母の胎内を見る事は、可能に成る。
しかし、僕は、それをしなかった。
この世界では、魔法の練習が出来ない。
しかし、
この見えない状態を、継続すれば、
見ない練習が可能だと、考えたのだ。
『魔法の制御練習が出来る・・・』
僕は、うれしかった。
『つまり、これで・・・』
『殺す魔法も、制御出来る・・・』
その可能性が生まれたのだ。
僕には、恐怖があった。
この恐怖は、生前から続いていた。
例えば、
魔法で、蚊を殺す。
これを日常的に繰り返し、
この魔法が定着した場合・・・
『どう成る・・・・?』
『僕に注射を射った先生は・・・・?』
『鬼ごっこで、僕にタッチした相手は・・・?』
『僕の、殺す魔法で・・・』
『殺されてしまうのでは・・・?』
その危険性は、充分にあった。
だから、生前の僕は、
何も殺さないと、決めていた。
ところが、この世界では、
そんな事は、許されない。
僕は、生きるモノの責任として、
獲物を殺しているのだ。
それを家族に、食べてもらう。
それによって、僕は、生きているのだ。
つまり、僕は、日常的に、
殺す魔法を使っているのだ。
もし、この魔法が進歩して、
それが暴走したら・・・
例えば、母が砂利を投げなくても、
僕が、獲物を見つけ・・・
千里眼のズームで、獲物の頭部を見て・・・
その頭部だけを、音速で移動させれば、
首の骨が折れ、獲物は確実に死ぬ。
そして、これを日常的に、繰り返した場合・・・
その魔法が、定着して、
無意識に発動する様に成った場合・・・
『どう成る・・・?』
今後、原始人の生き残りと遭遇した場合・・・
『僕は、その原始人を殺してしまう・・・』
その可能性は高かった。
なぜなら、
3人の村は、壊滅している。
つまり、今後、出会う原始人は、
別部族の、初対面である。
結果、その原始人は、我々を、警戒する。
槍を構え、威嚇する。
その可能性は、充分にある。
そして、その瞬間、僕が、
家族の危険を感じたら・・・
僕は、家族を守る為、
条件反射で、その原始人を殺す・・・
日常的に、獲物を殺す感覚で、
その原始人の首を、へし折る・・・
この可能性は、充分にあった。
理屈では無い・・・
反射なのだ。
善悪で発動する訳では無い・・・
必要で発動するのだ。
クシャミが出る様に、
殺す魔法も出る。
それが未熟な魔法である。
しかし、その魔法を、制御出来る可能性が、
見えたのだ。
僕に、希望が生まれた・・・




