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僕が、原始人の胎児に成って、約55日・・・
つまり、2ヶ月目・・・
山中での横穴生活を捨て、
我々は、平地を目指していた。
今日1日、山を下り、
後1日で、下山出来る距離まで来た。
我々は、回復魔法の効果によって、
疲労を、大幅に軽減している為、
休まずに進む事も出来た。
しかし、現在、この地域には、
ネズミが居る様なので、
今日は、野宿をする事にした。
母の、6メートル範囲にいれば、
寒さも軽減出来るのだ。
横穴に比べれば、寒い様だが、
耐えられない寒さでは、無い様である。
僕は、千里眼の視点を変え、
ネズミを探した。
しかし、見つけられない。
『ネズミは居ないのか?』
と思ったら。
タロが、音を聞き分け、
ネズミを見つけ、
僕に知らせてくれた。
結果、母が砂利を1粒投げ、
僕が、そのネズミの頭を打ち抜く。
この繰り返しで、
7匹のネズミを捕まえた。
3人は、それを焼いて食べる。
タロは、生のまま、2匹もらった。
『タロは、音でネズミを見つけた・・・』
『では、タカは・・・?』
『どうやってネズミを見つけた・・・?』
『タカは、上空にいた・・・』
『音で見つけたとは思えない・・・』
『驚異的な視力・・・・?』
『しかし、それなら、僕にもある・・・』
僕には、千里眼があるのだ。
僕は、生前レベルの視力で、
全方向を、同時に見渡せる。
獲物を見つけた場合、
その姿をズームで、見る事も出来る。
通常、人間は、光の反射で、モノを見ている。
しかし、僕は、魔法の反射で、モノを見ている。
結果、真っ暗闇でも、見えるし、
太陽を見ても、まぶしく無い。
おまけに、色も識別出来る。
ところが、ネズミを探す事が、苦手である。
『なぜ?』
見えない訳では無い。
タロに教えて貰うと、
そこに居る事が解る。
『では、なぜ、見つけられない・・・?』
『ネズミが、保護色だから・・・?』
実際、ネズミは、地面や木々の色に、酷似していて、
見つけ難い・・・
『では、タカは、どうしてネズミを見つけられる?』
そして、僕は、唐突に、気付いた。
タカの目など、僕には関係無い。
僕は、僕に出来る事を、するベキなのだ。
と考えたら、
何となく、思い浮かんだ。
『サーモカメラ・・・・』
通常、カメラは、光の反射で、
映像を撮る。
しかし、サーモカメラは、
熱を感知して、それを撮る。
『僕は、見ている訳では無い・・・』
『魔法の反射を、感じ取っているのだ・・・』
それを、僕の無意識が補正して、
映像化しているのだ。
その為、僕が、見ている色も、
現実の色とは、違う可能性がある。
僕の無意識が、それらしき色を、
割り振っている可能性もあるのだ。
つまり、
『僕は、実際には、何も見えていない・・・』
つまり、
『見るのでは無く・・・感じ取る・・・』
僕が、そう考えた瞬間。
『ネズミの声・・・声が見えた・・・』
『音が見えてる・・・?』
僕は、千里眼の視点を変え、
その声が見えた場所を確認した。
すると、ネズミが居た・・・
『声が見える・・・?』
『では、ネズミの体温は見えるのか・・・?』
と考えた瞬間、
僕は、あせった・・・
『しまった!』
これは、魔法が暴走するパターンである。
僕が、魔法に関して、何かが気付き、
好奇心を実行した瞬間・・・
何かが起こる。
『手遅れだった・・・』
世界が真っ白に成った。
『何も見えない・・・』
突然、周囲が真っ白に成った。
『真っ白な世界・・・?』
『これは何だ・・・?』
『異空間なのか・・・?』
何が起きたのか、解らない。
『僕は、死んだのか・・・?』
『母は・・・!』
僕は、あせった。
『母を、巻き込んでしまったのでは!』
現在、母と僕は、一心同体である。
『僕が死ねば、母も死ぬ・・・・』
その危険性・・・
『僕は、何て事をしたんだ・・・!』
僕は、あわてて、
母を呼ぶ・・・
すると、
「ネズミ、美味しい」
母の声が聞こえた。
母は、無事である。
『よかった・・・』
その雰囲気から、
母には、被害が出ていない様である。
『では、これは何・・・・?』
僕は、今、真っ白な世界にいる・・・
『なぜ、白い・・・?』
『白いとは、僕の認識では、何も無い感覚・・・』
『なぜ、こう成った・・・?』
『ネズミの声が見えた・・・』
『そして、ネズミの体温が見れるか・・・』
『と考えた・・・』
『すると、真っ白な世界に成った・・・』
『母は、無事・・・・』
『つまり、僕も無事・・・・』
僕は、千里眼の視点を変えてみた。
すると、『あっ!』
『見えた・・・』
その後、普通に、全方向が見える状態に戻った。
『あの白い世界は、何だったのか・・・・?』
恐くて、もう1度、試す気持ちには、成れなかった。
『試す・・・?』
その瞬間、僕は、疑問を感じた。
『この世界では・・・』
『試しに魔法を使う事は、出来ない・・・』
つまり、先ほど、
『では、ネズミの体温は見えるのか・・・?』
と考えたが、
それで魔法が発動する事など、無いのだ。
『では、あの白い世界は何・・・?』
『体温が見えるか、試した結果・・・』
『魔法が発動した訳では無い・・・?』
『では・・・?』
『なぜ、白く成った?』
『白く成った理由は・・・?』
僕は思い出した。
『あっ!』
『あの瞬間・・・僕は・・・』
『魔法が暴走すると考え、あせった・・・』
『本気で、あせった・・・』
つまり、あの真っ白の世界は、
『僕が、あせった結果、発動した魔法・・・』
『あせる事で、発動する魔法・・・?』
『一体、どんな効果があるのか・・・?』
結局、この類の疑問には、誰も答えられない。
結果、僕は、答えが解らないまま、
その日の夜を向かえた。
『あの白い世界は、何だったのか・・・?』
考えても、何も解らない。
しかし、その後、
僕は、知る事に成る。
僕は、毎日、胎内の自分を観察している。
それを見て、何が解る訳でも無いが、
見る事で、一応の安心が得られるのだ。
ところが・・・
『えっ・・・見れない・・・』
僕は、母の、脳や心臓を見ようとした。
しかし、
『見れない・・・』
『なぜ・・・?』
これまでは、見る事が出来たのだ。
しかし、
それが、見えなく成ってしまったのだ。
僕には、心当たりがあった。
昼間に見た、白い世界である。
僕が『魔法が暴走する!』と、
あせった瞬間、それは出現した。
そして、今、母の胎内が見えない・・・
つまり、
『これが、白い世界の効果・・・』
『魔法が、退化した・・・』
『僕の魔法が、退化した・・・』
『使える、魔法が、使え無く成った・・・』
本来、見えるハズの、胎内が、
見えなく成ったのだ。
『僕の魔法の能力が低下した・・・』
『だから、僕は胎内が見えなく成った・・・』
という事である。
損か得かで言うと、
損である。
しかし、僕は、うれしかった。




