010
当時、僕は、5歳、
僕は、姉が怖かった。
だから、我慢が出来た。
丸めたティッシュを、
ゴミ箱に投げたい・・・
先程、投げたティッシュが、
不自然に落下したのだ。
それは、おそらく、魔法の力なのだ。
『もう1度試したい・・・』
しかし、それが出来ない。
『姉に注意される・・・』
『絶対に、泣かされる・・・』
その為、僕は、思う様に、練習が出来ない。
『何とか、出来ないのか・・・?』
そんな気持ちが、影響したのか、
それは起こった。
その日の夕方・・・
いつもの様に、トイレに入り、
息を吐ききり、
息を止め、
数秒我慢する。
『もう駄目だ・・・』
そして、腕時計の、秒針を見る。
この条件を守れば、3秒間だけだが、
秒針が、スローモーションで見える。
数日前から、それが可能に成っていたのだ。
その為、気持ちに余裕があった。
そして、その時、僕は、気付いた。
『あっ、時計の針も、動いているんだ・・・』
すると、その瞬間・・・
腕時計の針が、一気に20秒ほど動いた。
息を切らせながら、
僕は理解した。
『魔法は・・・』
『使おうとしたら、駄目なんだ・・・』
先程、ティッシュは、
飛び続けると考えたら、
垂直落下したのだ。
そして、逆立ちコマは、
8の字に、動かそうとすると、倒れるのだ。
つまり、これらの魔法は、
失敗によって発動しているのだ。
『失敗だ・・・』
『失敗するから、魔法が発動するんだ・・・』
僕は「おもちゃを取って来る」と、
母に伝え、子供部屋の前に向かった。
そして、ドアを少しだけ開ける。
そして、そのドアを、指で軽く突いた。
その結果、ドアが、開いて行く・・・
そこで、その瞬間、僕は、心の中で・・・
『ドア、とじろ!』と考えた。
すると、ドアが不自然に開いた。
完全では無いが、半分開いた。
『ひらいた・・・』
指で突いた力では、そこまで開かない。
もう1度、挑戦する。
結果は、失敗。
ドアは、開かない。
少し動いて、止まった。
『1回目は動いたが、2回目は止まった・・・』
理由は、何となく解った。
欲が出ているからだ。
『失敗で発動する魔法・・・』
それを、成功させようと、考えている。
考えて、あえて失敗している。
それは、失敗とは呼べない。
『だから、魔法は、発動しない・・・』
これは、当時の僕にとって、
非常に、複雑な問題だった。
『失敗で発動する魔法を、使いたい・・・』
その為には、失敗が必要である。
しかし、失敗をねらって、失敗した場合、
それは、成功である。
僕に必要なのは、正真正銘の失敗なのだ。
それは充分に、解っている。
「失敗したい」と考えては、駄目なのだ。
つまり、今後、失敗を利用して、
魔法を発動させようとしても、
それは、不可能なのだ。
『では、どうすれば良いのか・・・?』
僕は、考えた。
何度も何度も、色々考えた。
そして、気付いた・・・
『なぜ、僕は、開け!と考えるのか・・・?』
それは、自信が無いからである。
当然の様に出来るなら、考える必要は無い。
走る時に、
右足、上がれ!
左足、地面を踏みしめろ!
などと、考えない。
それでも走れる。
つまり、言葉で考えなくても、
魔法は発動するのだ。
繰り返しに成るが、当時5歳の僕に、
これほど明確な、思考は無い。
あくまでも感覚的に、理解しているだけだ。
それでも、解る事はあった。
『1回目の成功率は高い・・・』
『2回目は失敗する・・・』
1回目は、ひらめいた事を、
『試してみたい!』
という、純粋な気持ちで、行動している。
しかし、2回目は・・・
前回の成功を、記憶しているので、
その再現を、目指してしまう。
つまり、頭を、1回目の状態にすれば、
魔法は発動するのだ。
『では、どうすれば・・・』