表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これは魔法の書です。  作者: わおん
1/2192

001

その日、僕は衝撃的な事実を知った。



『家のトイレが、電動式・・・?』



当時4歳だった僕は、生まれて初めて、


「うろたえる」という体験をしながら、


トイレに向かった。



そして、緊張しながらドアを開ける。



すると、トイレのフタが、一瞬、開きかけ、


3センチほど上がった所で「バタン」と閉じた。



自動開閉機能の故障によって、


トイレのフタが、途中で閉じたのだ。



この瞬間、僕は悟った。


『僕は魔法使いじゃ無かった・・・』と



しかし、幼さとは、恐ろしいモノである。



幼稚園から帰って来る頃には、


その事をすっかり忘れ、


いつもの様にトイレに入り、左手を軽く振り上げた。



すると、トイレのフタが開いた。



それは、当時の僕にとって、当然の事であり、


この時は、何の疑問も感じなかった。



しかし、夕食の時間、



『あれっ? さっき、トイレのフタが開いた・・・』



その事に気づいた僕は、トイレのフタが気に成って、


夕食どころでは無かった。



『今すぐ、トイレに行って確認したい・・・』



しかし、当時の僕には、それが出来なかった。


夜1人では怖くて、トイレに行けないのだ。



実はまだ、夕方の6時だったのだが、


それでも充分に怖かった。



そして、トイレに行けない理由は、もう1つ・・・



食事中にトイレに行くと、2つ年上の姉が、


お姉さんをアピールする為・・・


ここぞとばかりに、文句を言うのだ。



今、思えば、それは、ただの文句である。



しかし、当時4歳の僕にとって、


文句を言われるという事は、


泣かされるという事である。



もちろん、泣かされたく無いし、


テレビも気に成る。



結果、僕は、魔法の確認よりも、


アニメの続きを優先した。



その後、お風呂の前に、再びトイレに向かう。


夜は恐いので、お母さんに、ついて来てもらう。



ドアを開けたままトイレに入る僕、


その瞬間、日頃の習慣で、


無意識に振り上がる左手・・・



しかし、次の瞬間「バタン」


フタが一瞬開き、閉じてしまった。



それを見て、僕は思った。


『やっぱり僕は、魔法使いじゃなかった・・・』



僕が生まれた頃、


魔法使いの少年が、大活躍する小説・・・


それが大ヒットして、


映画化された時期だったらしい。



そして、僕の姉は、


電動センサーで開くトイレのフタを、


魔法使いゴッゴに、使っていた様である。



おそらく僕は、それを何度も、見せられたのだろう。



そして、僕がそれを真似すると、家族全員が、


「魔法だ魔法だ」と喜んでくれたのだと思う。



結果、僕は自分を、


『トイレのフタを、開ける事の出来る、魔法使いだ』


と、思い込んでいたのだ。



しかし、それは勘違いだった。


『僕は、普通の人だ・・・』


僕は、その事に気付き、ガックリとした。



ところが、4歳児だからなのか?



次の日、トイレに入ると、


いつもの習慣で、左手を振り上げた。



すると、トイレのフタが開いた。


「あっ!」


僕は、そのフタを手で閉じて、


もう1度、左手を振り上げた。



しかし、トイレのフタは全く動かない。



最終的には、手で風を巻き起こし、


それで開けようとしたが・・・


何度やっても、結果は同じだった。



ところが、フタを閉じて1分が経過した事で、


再びセンサーが機能して・・・


フタが「バタン」



当時の僕に1分など解らないが、


僕はトイレを出た。



この時の僕は、都合良く考えたのだ。


『トイレのフタは、故障している・・・』


『しかし、少し開く・・・』


『その時に、魔法を使えば、フタは開く・・・』


僕は、自分が魔法使いである事を、


信じたかったのだ。



そして、尿意を我慢しながら・・・


1から10を10回数え、再びトイレに向かう。



「やったー!」



振り上げられた僕の左手、


正常に開いたトイレのフタ・・・



「おかーさーん、オシッコ漏れたー」


僕を笑う姉・・・


僕を叱る母・・・



しかし、僕のワクワクは、止まらなかった。


『やっぱり僕は、魔法使いかも知れない・・・』



翌朝、尿意も無いのに、幼稚園に行く前に、


再びトイレに行き、確認する。



「バタン」



『やっぱり壊れている』


僕は、その事を、得意気に確認すると、


1から10を、


超早口で10回数え再びトイレに・・・



「やったー!」



僕の左手の動きに連動して、


トイレのフタが開いたのだ。



そして良い事を思い付く・・・


『開く最中に、左手を振り下げたら・・・』


『フタは閉まるのか・・・?』


『これが出来たら・・・』


『僕は絶対に魔法使いだ・・・!』


と思った所で時間切れ、


母に連れられ幼稚園に向かう。



まだ、確定では無いが、


『たぶん、僕は魔法使いだ・・・』


当時の僕は、その事が、うれしかった。



ルンルン気分とは、この事である。



しかし、僕は、この事を誰にも話さなかった。


なぜなら、当時、僕のマイブームは、


「秘密」だったのだ。



変身ヒーローが、


正体を秘密にする理由は解らないが、


秘密はカッコイイのだ。



僕は、その様に信じていた。



しかし、幼児の精神力など弱いモノである。


絶対に秘密と称して、


誰かに言ってしまうモノである。



ところが、僕は言わなかった。


秘密にする理由が、もう1つあったのだ。



姉は、僕を馬鹿にする。



大人の視点からすれば、


6歳児の姉が、4歳児の弟に・・・


本当の事を、教えてあげている。


弟の為に、熱心に教えている。


その様に、見えただろう。


事実、その通りだったと思う。



しかし、幼児の僕に、それは理解出来ない。



僕は毎回、泣くまで姉に馬鹿にされるのだ。


それが辛いから、姉には見せない、教えない。



『今回の件だって、姉に知れたら・・・』


『どれだけ馬鹿にされるか・・・』



そんな不安があった。



その様な理由で、僕の自制心は、


鍛えられた様である。



本当は自慢したいのに、


本当に誰にも言わなかったのだ。



僕が、魔法使いである事を・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ