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オトシモノ  ~悪い男子~

作者: 片埜モリ

妙な色気のある小学生男子フウタくんと地味で目立たない小学生女子ユキの、ちょっとした恋物語。

マスコットには『コンドウ フウタ』と茶色い刺繍糸で名前が縫い付けてあった。


その名前を見た瞬間、ユキの小さな心臓は人生初と言っていいくらいの速さで鼓動を打ち始めた。


ユキは手のひらの中のマスコットをグッと握りしめる。


落とし主は5-3の教室の、入り口に近い席に座っていた。


いつものように周りをクラスの女子が固めている。


童顔のくせに男っぽくて、それでいてお笑いみたいなこともやるコンドウ フウタは、女子から人気がとてもある、ように見えた、ユキからは。


人気者の男子を囲んで楽し気な声をあげている女子たちをいつもユキはうらやましく見ていた。


でも。今日は違う。


今日の私は違う。


今日の私は彼のためになることをしに参上する。


この可愛いラッコのマスコット、おそらくはお母さんが作ったであろう愛らしいマスコットを、落としてはいけないマスコットを、堂々と彼に手渡す。


フウタはちょっと驚いて、あわててマスコットがついていた場所、手提げバッグとか、ランドセルとか、を確認して、そこにマスコットが無いことを認めると、恥ずかしそうな顔で言うだろう。


「さんきゅー」


ユキは興奮してきた。


「さんきゅー」


あのフウタの口からそれが聞けるなんて。今まで日陰の存在でいたかいがあったというものだ。


ユキが近づいても、フウタも周囲の女子も全く気がつかなかった。


相変わらず昨日のテレビの話題で盛り上がってる。


一人の女の子が妙に可愛らしい、ユキにとっては嫌な感じの笑い声をあげて、フウタの肩にちょっと手を置いた。


ユキは怒りで震えた。


おお、いやだ。なにあれ。わざとやってるんだろうか。いやらしい。


怒りに任せて一歩進むと、大きな声を出した。


「コンドウくん」


女子たちが振り返る。彼女たちの間から、きょとんとした顔のフウタの顔が見えた。


しまった、声が裏返った。


急に恥ずかしくなったユキはふいに顔が熱くなるのを感じた。


体の大きなミホが声を出す。


どうしたの、ユキちゃん。


さっきフウタの肩に手をかけたサエは無表情な顔でユキを見ていたが、急に大きな声を出すとユキに突進してきたので、ユキは面食らった。


「これ! なんであんたが持ってるの!?」


絶叫するサエの形相は小学生がこんな顔ができるのかと思うくらい、猿のように歪んでいた。


ユキはサエの剣幕に恐れをなして、まったく言葉が口から出てこなかった。


ユキからひったくったマスコットはサエの手の中で握りつぶされそうになっている。


サエは顔を真っ赤にしてフウタを振り向くと、ものすごくにらんでいるのだろう。


ユキから見えるフウタの顔がやや青ざめて、その目が見開かれているのが見えた。


フウタもおそらくユキと同様で、サエの剣幕に口がきけなくなっているようだった。


ぎゅうううう


かわいそうなラッコのマスコットはサエの中でこれ以上はないほど握りしめられ、次の瞬間、フウタの後ろの壁に叩きつけられた。

柔らかいマスコットはその投げられた勢いにも関わらず、後ろの各々のランドセルが納められた棚まであと一息届かず、サエの剣幕とは不釣り合いな感じでふんわりと床に落ちた。


マスコットが床に落ちる前にサエは廊下に消えていた。泣き声と共に。

サエと一緒にいたミホやその他の子たちは口々に「サエちゃん」と言いながら後を追って、廊下に出ていった。


後に取り残され呆然とするユキだったが、ふとフウタと目が合う。


フウタは困った顔をして目をきょろきょろさせていたが、ユキと目が合うと一瞬ニヤと笑ってみせた。


その一瞬のニヤが小学生とは思えないほど艶があるものだったので、ユキはふらふらした。


ふらふらしたまま席に戻るとユキは机に突っ伏した。



悪い男。


ん?


小学生だから悪い男子か?


そうか、悪い男子か。



冷たい机がユキのほてった頬に気持ち良かった。



=END=


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