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4、第一異世界人

 転生してから早二カ月ほどの時間が経過したが、俺は相変わらずリツテニ村の入り口に佇んだままであった。

 理由は単純である。思った以上に魔力量の増加が微々たるものだったうえに、人もまったく来ないからだ。


 ここ二カ月、毎日魔力が底を尽くまで魔法を使い。地道に魔力量の上昇を図ってきたのだが。

 体感では二ヶ月前と比べて、十パーセントぐらいしか増えていない。最初が百だったとすれば、現在は百十といったところだ。


 ほんとに、全然増えていない……。


 いやまあ、割合で増えているみたいだから、このままのペースで増え続ければ、いずれはすごいことになるだろうけど。

 しかし何分、初期の魔力量が少な過ぎた。現状の魔力でできることは。


 風属性魔法は魔力をすべて使っても、数十メートル内に秒速五十メートル程度の突風を、一度おこすだけで精一杯。

 土属性魔法も一立方メートルの土を持ち上げ。二メートル移動させるだけで、魔力が底を尽きる。


 これでは、どうすることもできない。特に最悪なのはこの風属性魔法だ。本当に風をおこすことだけしかできない。

 アニメや漫画なんかで見た、風属性魔法らしいことは何一つできず。突風を吹かせることしかできないのだ。


 そして土属性魔法も微妙だ。他と比べれば使い勝手は良いが、それでも大したことはできないから……。

 もっとも、風邪属性魔法も土属性魔法も、どちらも二カ月前よりは格段にできることが増えている。


 これは魔力が増えたからではなく、最適化されたから。魔法は使えば使うほど最適化されるようなのだ。

 ゆえ、ここ二ヶ月頑張った結果。同じ事を行うのに必要な魔力が、だんだんと少なくなった。


 ただ、このペースでは一年経っても、一日に移動できる距離は五十メートルもいかないのではないだろうか。まったく困ったものである。

 ゆえに俺は、転生してから一週間も経たぬうちに、自力で移動することを諦め。そして考えた。


 自力で無理なら、人に運んでもらうことにしようと……。だからこそ、この二カ月。移動することなく、ずっとここに突っ立っていた。

 ヒッチハイクするなら、やはり目立つ所にいなくてはならないからな。そして、この場所がベストだと俺は判断した。


 俺の視点の位置は本体である看板を中心として、半径三メートル内を自在に移動でき、かなりの高さから周囲を見渡せる。

 その能力を生かして、確認したところ。村の周りをぐるりと囲む森は、かなり深そうであった。


 だから、下手に移動を始めて森へ踏み込むより、ここでこうして突っ立っていたほうが、人に発見される可能性が高いと判断した。

 その結果、もう二ヶ月も待ちぼうけ。ちくしょう。誰一人として人がやって来ねえじゃねーか。


 来たものといえば羽休めにやって来た鳥くらいのものである。まあ、ここは廃村だから、そう簡単に人が訪れるとは思わなかったが……。

 二カ月もあったのだから、旅人の一人ぐらいは来てくれても良いじゃないか。廃村でも、野宿よりも幾分かはマシになるはずなのにさ。


 それとも、この村は主要な街道からは外れた場所にあるのだろうか? あるいは人が多くない辺境にあるとか?

 どちらにしても、そろそろ限界である。俺は声を大にして叫びたい「誰か助けてくれ!」と。まあ、声は出せないのだが。


 はぁー。どうせ今日も誰も来ないのだろう。かといって移動するのもなー。ここまで人が来ないとなると、森はかなり険しいと予想できる。

 そんな中に突っ込んでしまえば、人に発見される確率は絶望的。人がいる場所を自力で目指すしかなくなるだろう。


 ただ、人がいる場所がどちらにあるのかわからない。いや、どちらに進んでもいずれは人に会える気はする。

 しかしそれでも、選ぶ方角で近い遠いというものがあるはずだ。だが、どの方角も木々に遮られて先が見えない。一か八か勝負するのもなー。


 それに、一日に移動できる距離などたかが知れている。やっぱり移動はなしだよ。はぁー。にしても、ここ二ヶ月で考え事が増えたな。

 まあ、それ以外やることないから仕方ない。考え事をしながら丸一日、ぼけーと突っ立っているのが、最近の俺の日課であった。


 うん? 俺の耳が物音を捉えた。いや、看板ゆえ耳などないのだが。ともかく、音は問題なく拾える。

 これは森のほうか。視点を森の方向へ。人が立てた音だと良いが……。視点をめいっぱい森に近づけて様子を窺う。


 あまり期待はすまい。この二ヶ月、物音を拾うことはあれど。すべて森に住まう魔物たちのものだった。おそらく今回もそうだろう。

 うーん、何やら木々の間を動いている影が見えるな。ふむ、あれはグレイウルフだろう。


 体長一メートルほどの灰色の狼のような魔物、グレイウルフ。ここ数日の間に森の中を歩いている姿を何度か見かけている。

 そういえば、ステータスが自分以外にも使えることに気付かせてくれたのが、こいつらだったな。


 もっとも、自分以外にステータスを使っても、名前しか表示されないので、あんまり意味ないけど。

 それよりも、よく観察するとグレイウルフは、何かを追いかけているようだ。いつもより活発に動いている。


 狩かな? 追われている何かの姿は見えないが。こっちに向かってきているみたいだ。

 グレイウルフの姿がだんだん近づいてきていることから、そう判断できる。


 しばらくして、かなり近づいたことで、ようやく追われているものの姿が見えた。おお! あれは、まさか!

 人間! なんと! かなり小さいが間違いなく人間だ。身長百二十センチなさそう。おそらく子供……。


 やった! こっちだ、こっちに来るんだ! 転生して初の人間との邂逅に歓喜しつつ。逃げる子供を心の中で応援する。

 なんとかして助けないと……。そうすれば、俺を運んでくれるかもしれない。そうでなくとも、せめて話しだけでもしたい。


 いい加減、会話に飢えていた。看板になっても心は人間、ここ二カ月人恋しくて仕方なかったのだ。この機会を逃す手はない!

 こっちに来てくれれば、立ち入り禁止のスキルで守ることができる……。ならば! 看板の表示を『看板の近くは安全です!』に変更する。


 これでは意味が通じないかもしれないが、他に良い案内文を思いつかなかった。ともかく、こっちへ来てくれ。

 最悪、魔法を使ってなんとかしてやるから! 


 今日はまだ魔法を使っていなかったのが幸いした。まだ魔力は十分残っているぞ! さあ、こっちへ来い!

 俺の願いが通じたのか、子供は廃村のほうへ走ってくる。


 そうだ! 良いぞ。そのままこっちに来い!

 近づいて来たことで、子供の風貌が見える。灰色のフードから覗くその容姿は……。女の子。

 八歳ぐらいの女の子だ。


 燃えるようなショートの赤毛に深紅の瞳。かなり整った顔立ち、将来美人になりそう。

 白いトップスに、黒の短パン、その上からフード付きの灰色のローブを羽織り。背中には小さなリュックを背負っていた。


 ついに廃村の近くまで辿り着いた少女、俺はすかさず立ち入り禁止のスキルを発動、グレイウルフは中へと入れないように設定する。

 これで準備は万端だ。さあ、こっちへおいで……。少女は俺のほうへ全速力で駆けて来る。スピードを緩める様子がない。


 俺の脳裏に一抹の不安がよぎる。これ俺の存在に気付いていないんじゃない? ああ……、やっぱり駄目だったか。

 案の定であった。少女は立ち入り禁止のスキルの有効範囲を華麗にスルーして、廃村の中に飛び込む。


 そして少女はそのまま、比較的損傷が少ない小屋に飛び込むと入り口を閉じた。俺の存在に気付かなかったか。

 まあ、それも仕方ない。必死に逃げていた少女は、村の入り口に佇む看板なぞ、眼中になかったのだろう。


「「ギャン!」」

 遅れてやって来たグレイウルフ、そのうち数匹が立ち入り禁止のスキルの壁にぶつかる。が、それだけ。


 一瞬困惑の色を浮かべるグレイウルフたちであったが、すぐにそこに何かあることを認識。

 立ち入り禁止の壁を迂回するように、廃村の中へと入ってしまった。


 うーむ。これで少女を助けるのが難しくなったな。だが、やるしかない! プランBである。すかさず俺は土属性魔法を発動した。

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