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26、リグ村へ到着

 シルスと別れてから二日後の昼下がり。クロルは雨の中、ひたすら街道を南へと歩き続けていた。

 特に魔物に襲われることもなく、旅は順調そのもの。強いて問題を挙げるとすれば、天気が崩れていることぐらいだが……。


 それも、さしたる問題ではない。雨水は立ち入り禁止のスキルによって、阻むことができるので、クロルが雨に濡れることはないからだ。

 だから、問題になるのは火を熾すのが難しくなることと、街道の土が水を吸って不快な粘性を持ってしまっていることぐらいかな。


 もっとも、それがクロルの機嫌を損ねているが……。


 ぬかるんだ地面に足を取られるのが、どうにもお気に召さないようで、クロルの表情は空模様と同じに曇っている。

 だが、それも、あと少しの辛抱。目的のリグ村までは徒歩二日だと聞いているので、今日中には辿りつけるはずだ。


 おっ! 噂をすればなんとやらであった。遠くにぼんやりと村の姿を捉える。どうやら、思ったよりも近くまで来ていたらしい。


「ケイ。魔法」

 俺と同じく村が見えた様子のクロル。つぶやくと、フードを被った。


 ああ、そうだな。立ち入り禁止のスキルによる傘は、そろそろやめておこう。まだ、村は遠いが誰かに見られる可能性もある。

 なにより、この雨の中旅をしてきたのに、服が濡れていなかったら不自然だから、この辺からしっかり服を濡らしていくのが良い。


 ただ、風を引かないと良いが……。


 そんな心配をしつつも、立ち入り禁止のスキルを解除する。すると、ざあざあと降り注ぐ雨が、ローブにシミをつくり始めた。


 先ほどまでよりも、若干歩調を速めるクロル。それに合わせて、遠くに見える村の姿がどんどん大きくなっていく。

 おお! リグ村は大きいと聞いていたが、その通りみたいだ。リグ村はこれまでの村と比べると、建物が多い。


 しかも、今までの村は、建物と建物の間がけっこう離れており、散村って感じだったが、リグ村は建物が密集している。

 村の中心をうねるように街道が延び。それを中心に楕円形に広がる建物の群。向かって左側には、整然と整えられた田畑。


 この規模だと町と呼んでも差し支えないのではないだろうか? 規模からして人口も、千人は越えているだろう。

 そんな風に、俺が村を観察しているうちにも、クロルは進み続け。そうしてしばらくすると、村の入り口に辿り着いた。


 村の入り口には、これまでの村と違い、入場ゲートのような、丸みを帯びたアーチ型の門。アーチには『ようこそリグ村へ』という文字が。

 そして、そんな門から左右に続く、木で出来た腰ほどの高さの柵。その柵はどうやら、村を囲むように延びているようだ。


 やっぱり、この規模なら町と呼んでも差し支えない気が……。簡易的なものとはいえ、きちんと村全体を覆う柵もあるし。

 なにより、開きっぱなしの門の内側に伸びる通りは、まるで商店街のようで。なんていうのか、とても文明的な様相だった。


 内側に開け放たれた門を潜るクロル。特に門番がいるわけでもないので、普通に素通りできる。

 そうして村に入ると、クロルはそのまま真っ直ぐ通りを進んでいく。雨のせいか、通りに人影はない。


 ふむ、あそこが宿で。あっちは雑貨店、あそこは精肉店で、そこは青果店ね。けっこう、いろいろな店があるようだ。

 左右に立ち並ぶ建物は、その多くは扉が閉じられているが。ところどころは扉が開いており、その多くは看板を掲げていた。


 それにしても……。クロルはどこへ向かっているのやら。きょろきょろと周囲を見てはいるものの、クロルは一向に立ち止まらない。

 気になった俺は、土属性魔法を発動。クロルのポケットに入っている小石を揺らす。合図を受けて、立ち止まるクロル。


「なに?」

『クロルよ。何を探しておるのだ?』

「役場」

 ふむ。そういえば、この村に来た目的は乗合馬車に乗るためだったな。


 そして、聞いている話では、乗合馬車を管理しているのは村役場だった。だから、村役場を探しているわけか。

 俺もクロルも村役場の場所までは知らないから、探さないといけない。村役場、ある程度大きい建物のはずだが……。


 俺は視点を限界まで上げて、辺りを軽く見渡してみる。しかし残念ながら、村役場を発見することはできなかった。

 うーむ。そもそも、お店と同じで看板がかかっているものなのだろうか? もし、そうでないなら、探すのは困難だ。


『クロルよ。先に今晩の宿を探してはどうだ? 宿の者に聞けば、村役場の位置を教えてくれるだろう』

 あるいは、宿を取るにしてもできるだけ安い宿のほうが良いから、一度村を巡ってみるのもありだな。


「お金、もったいない。野宿」

『いやいや。何を言うのだクロル。今晩は宿に泊まるべきだ』

 せっかく、宿のある村に着いたのだ。お金がもったいないという意見にも一理あるが、休めるときには休むべきである。


 クロルはいつも平気だと言うが、ずっと歩き詰めで体は疲れているはず。そうでなくとも、野宿だといろいろ堪えることが多い。

 食事だって簡素なものに成りがちだし、体の汚れだって満足に落とせない。そのうえ、眠るのだって固い地面だと、ぐっすり眠れないだろう?


 だから、たまにはきちんと体の汚れを落として、心身をリフレッシュ。そして、まともな料理を食べ。

 そのうえで、きちんとしたベッドで眠って、旅で溜まった疲れを、きちんと癒すべきなのだ。


「いい。野宿」

『いや、しかしだな。この天気だ。それに野宿ばかりで疲れているだろう? ここらで少し贅沢しても――』

「魔法ある。外でも、大丈夫」


 俺の言葉を最後まで聞くことなく、遮るように答えたクロル。うーむ、立ち入り禁止のスキルが悪い方向に働いている。

 確かに立ち入り禁止のスキルがあれば、雨風はクリアされるし。安全にも問題はないからな。だが、それでもだ。


 だからといって野宿というわけにはいかない。休める時はきちんと休んでもらわないと……。


『いや、確かにそうかもしれないが。疲労までは回復しない。ここは宿に泊まって英気を養うべきだ』

「でもお金……」

『無論。お金を使いたくないのはわかっているが、私は心配なのだ』


「わかった……。じゃあ。乗合馬車、値段見て。余ったら。宿、泊まる」

 むっ。言われてみれば、確かに乗合馬車の値段がいくらか、わからない現状では宿は取れないか。


『ふむ。確かに宿に泊まることよりも、乗合馬車のほうが重要か』

 クロルの持つお金には限りがある。宿に泊まるために、乗合馬車に乗るお金がなくなっては、元も子もない。


 いくら今日休むことができても。それで乗合馬車に乗れなくなって、クロルが徒歩で旅を続けることになっては不味い。

 ただ、お金が余ったら、そのときは宿に泊まってもらうからな。そのときに、再度ごねたりしないでくれよ?


『わかった。だが、お金が余ったら。絶対に宿に泊まるのだぞ』

「ん」

 頷いて、歩き出すクロル。そうして、さらに真っ直ぐ、村役場を求めて通りを進んでいると……。


 ふむ。なにやら賑やかな声がもれている建物があるな。丁度、右前方の建物だ。かかっている看板を見るに、そこは酒場のようである。

 まだ日も暮れていないのに、随分と騒がしい。まあ、娯楽のない世界だろうし。それに今日は雨だから、日が高いうちに酒を飲むのも仕方ないのかな?


『どうした? 何を立ち止っている?』

 クロルが酒場の前で立ち止まったので、再びクロルのポケットの小石を土属性魔法で動かし、話しかけた。

 酒場の喧騒が気になったのだろうか?


「役場の場所、聞く」

『ここでか?』

「ん」

 酒場で道を尋ねる。ありなのか?


 酒場で情報収集、物語の中ではけっこうオーソドックスな手段な気はする。ただ、やめておいたほうが良いだろう。

 そういう情報収集は、酒場でしか得られない、酒場ならではの情報を集めるためで……。道を尋ねるなら、別に酒場でなくとも良い。


 酒場で酒を飲んでいる以上、おそらく時間をもてあました暇人だろうけど。酔っ払いに道案内を頼むのは、どうかと思うし。

 なにより、クロルのような少女が酒場に突撃するなど、トラブルの予感が……。駄目だ。道を聞くなら、別の店にするのだ。


『クロルよ。道を聞くにしても、酒場はやめておいたほうが……。おい! 待つのだ!』

 文字を表示するも一歩遅く。クロルは俺の言葉を読むことなく、俺を肩に担ぎ直し。酒場の入口に向かっていた。

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