表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/41

25、下山

「なんとかなったわね」

 魔物が絶命したことを確認して、正眼に構えていたショートソードを下ろすシルス。

 クロルも魔物からショートソードを引き抜きながら、魔物の背より下りた。


「クロルちゃん。大丈夫だった!」

 慌てた様子でクロルの傍に駆け寄るシルス。

「平気」

 何でもなさそうに答えるクロル。


 いや、平気って。さっき、魔物の髭に左肩を打ち据えられていただろ。けっこう威力あったし、絶対に怪我をしてるはず……。

 そう思いクロルの体を確認するが、クロルの体は魔物の返り血で真っ赤になっているため、怪我の有無がわからない。


「ほんとに大丈夫? 肩は? さっき髭が当たってたよね」

「痛!」

 怪我の有無を確かめるため、シルスが優しく肩に触れると、クロルは痛がった。やはり肩を怪我しているようだ。


「あっ。ごめん。でも、やっぱり肩を怪我してるのね。診るわよ」

 優しい手つきで、クロルの肩を診るシルス。露わになったクロルの右肩は、太めのみみず腫れのようになっていた。

 ただ、思ったよりも大したことない。


「ああ。良かった。思ったよりもひどくない。腫れになっているけど。大したことはなさそうね」

「そう」

「他は、他に怪我はない?」


「大丈夫」

「ほんとに?」

 肩の怪我の具合を確認したシルス、そのまま今度はクロルの全身を確認し始める。そうしてしばらくして……。


「はぁー。他に怪我はないみたいね。良かった。まったく、駄目じゃない。魔物に突っ込むなんて、あんな無茶をして!」

 肩の怪我以外に、クロルが怪我をしていないことを確認したシルスが、安堵するとともに叱責する。


 うーむ。良いぞ。もっと言ってやってくれ。クロルの奴、無茶をしたのに悪びれる様子もなく……。

 けろっとしているからな。反省してもらわないといけない。ちゃんと注意してやってくれ。


「うまく倒せたから良かったけど。クロルちゃんに何かあったらって。ほんとに心配したんだからね!」

 そうとも、俺やシルスがどれだけ心配したことか……。もう少し自分の身を省みて欲しいものだ。


「ごめん」

 シルスの語調に、ばつが悪そうになるクロル。

「もう絶対、あんな無茶しちゃ駄目よ。わかった?」

 素直に非を認めたクロルを、さらに言い含めるシルス。


「ん」

「まあ、言ってる場合でもないから。私はこれぐらいにしとく。あとは自称保護者に言ってもらうわ」

 ふむ。それは俺のことか。シルスよ、心得たぞ。


「保護者?」

「ほら。わかったなら、ケイを拾ってきなさい。私は荷物を取ってくるから」

「ん」

 首を傾げるクロルをシルスが促すと、クロルは俺のほうへ。


「ケイ。大丈夫?」

 そう言いながら俺を拾い上げるクロル。

『問題ないぞ。私は頑丈だからな』

 乱暴に扱われたが、特に痛みもダメージもなかった。


 おそらく、転生するときに頑丈な体にしてもらったおかげだな。


「良かった」

『いや、良くないぞ、クロル。あんな無茶をして、魔物に向かっていくなんて。何を考えているのだ!』

「だって。シルス、危なかった」


『いや。そうだとしてもだな。もう少しやりようがあっただろ』

「クロルちゃん。血の臭いに魔物が集まってくる前に。薬草を探して、ここを離れましょう」

「ん」


 俺が話している途中で、シルスに呼びかけられたクロル。俺の言葉を最後まで読まずに、俺を肩に担いでしまう。

 うーむ。シルスさんや、せっかく注意しようと思ったのに……。まあ、言ってることは至極当然なので、仕方ないが。


「はい。リュック」

「ありがと」

 背負いやすいように、クロルの背中側に差し出されたリュック。クロルは肩ベルトに腕を通していく。


「よし。じゃあ。また魔物に襲われたら大変だから、これからは二人固まって薬草を探すわよ」

「これ。どうする?」

 クロルが魔物の死骸を指差した。


「ああ。そのオルレチは。そうね……。時間もないし、髭だけ切って持って帰りましょうか」

 ふーん。こいつオルレチって言うんだな。今更ながら魔物にステータス表示能力を使っていなかったことに気付く。


 まあ、戦闘中に使ったところで意味はないが。せっかくなので……。ふむ、オルレチだな。


「髭。売れる?」

「ええ。まあまあの値段で売れるわよ」

 オルレチの髭を回収する二人。それが終わると、今度はエルミ草を探し。そうして十分な量のエルミ草を確保して。


「じゃあ、帰りましょう」

「ん」

 用は済んだので、シルスの先導で山を下り始める。おや、登ってきた方角とは別方向に進んでないか?


「シルス。こっち。あってる?」

「ああ、大分南に来ちゃってるから。まず山を下りて、それから回り道したほうが早いと思うの。というのも……」

 村は北側だが、シルスは東へ進むほうが近道だと言う。


 というのも、村から山へ入ったときは、一直線に南の方角に登り。その後、薬草を探して東側に山肌を回ったため。

 現在の位置からなら、今一度辿ってきたルートで帰るより、東の方角へ山を下ってから、平地を進み、村へ戻るほうが早いそうだ。


「ふーん」

 いまいちわかっていなさそうなクロル。俺もそこまで方角を把握できていなかったので、理解できていない。

 でも、シルスがそう言うならそうなのだろう。


 ちなみに、シルスの言う通りなら、このまま東に下山すると、丁度街道に出るそうなので、俺たちにとっては助かる。

 なにせ、クロルは書置きを残して勝手に村を出たわけで。それも、先を急ぐという書置きを残しただけ。


 それなのに村に戻り、シルスを探しに行っていたと知られると面倒だ。絶対、うるさく言われる。

 だから、街道に抜けるというなら、村には戻らず、そこでシルスと別れるってことで良いのではないだろうか?


 そんなことを思った俺は、丁度休憩となったところで、クロルに問いかける。


『クロルよ。この後、山を下りたらどうするつもりだ? シルスと一緒に村に戻るのか?』

「うーん……」

 考え込むクロル。


『わかっていると思うが、書置きを残してきた以上。村へ戻ったら、いろいろ言われるだろう』

「わかってる」

「なに? クロルちゃん、何も言わずに村を出てきたの?」


 ここで会話に入ってくるシルス。疑問を口にするも、すぐに自己完結する。


「あっ、そうか。魔法使いってことを秘密にしてたもんね。山へ行くなんてばれたら大変か」

『その通り。だから、急ぐ旅だと。書置きを残して、こっそりと村を出たのだ』

 一応補足として、シルスの考えを肯定する。


「なるほどね。でも、だとしたら、クロルちゃんが私と一緒に、村に戻ると大変でしょうね」

『そうだろうな』

「そう?」


「ええ。私も絶対怒られるから、帰るのが少し憂鬱だけど。クロルちゃんが山へ入っていたことを知られたら、たぶん私より怒られるわ」

「……」

『ふむ。そうなるとやはり、村には戻らないほうが良いか』


 幸い、東へ山を抜けた先にある街道は、クロルがこれから向かうリグの村と、シルスたちの住む村の間だ。

 それゆえ、先へ進むのにシルスたちの村を迂回する必要もない。


「そのほうがいいと思う。……でも、そ……それで……心……な」

『うん? 最後のほうが少し聞き取れなかったが』

 シルスの言葉の最後のほうは、ぼそぼそと小さな声だったため、聞きとることができなかった。


「ああ、なんでもないわ。クロルちゃん。下山したらそこで別れましょ。クロルちゃんは先に進むほうがいいと思う」

「ん。わかった」

 シルスの言葉に頷くクロル。話が纏まったところで、二人は歩き出す。


 そうして、山を下る二人。登りよりも下りるほうが足が速く。そして、登ってきたルートよりも短かったため。

 思いのほか早く、日が暮れる前には、山を下りることに成功する。下りた先にはシルスの言う通り街道があった。


「ここでお別れね」

「ん」

「クロルちゃん。気を付けていくのよ。絶対、無茶はしないでね。あとケイ、ちゃんとクロルちゃんを守るのよ?」


『任せておけ!』

「心配ね……。魔法使いだけど。意外に大したことないし……」

 力強く答えて見せた俺に、シルスは失礼なことを言った。どうやら、俺はあまり信用されてないらしい。


 まあ、確かに俺自身、魔法関係のスキルは魔力が少ないこともあって、しょぼいことは自覚しているが……。


「うーん。村に薬草を届けないといけないから無理だけど。私もついて行けたら」

『いやいや。シルスよ。心配し過ぎだ。私からクロルが離れさえしなければ、身の安全は確保できる。問題はあるまい』

「まあ、そうなんだけど。でも今日のこともあるし……」


『うーむ。それを言われると辛いところがあるが』

「クロルちゃん、できるだけケイと一緒に行動するのよ」

「ん」

「ほんとに気を付けてね」


「ん。シルス。また」

『また会おう』

「またね。クロルちゃん。ケイ」

 こうして、最後まで心配そうにしていたシルスと別れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ