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23、薬草探し・前篇

 薬草を求め。まあまあ傾斜がある山道を進むシルスとクロル。そんな二人が、ふと立ち止まった。


「今度はこの辺りを探してみましょう」

「ん」

 二手に分かれ周囲の探索を始める二人。


 周囲にはところどころ、朝の日差しが木々の隙間から差し込み。地面を照らしている場所が……。

 そこを重点的に見て回る二人。今探している薬草、エルミ草は日当たりの良い場所にしか自生しない。


「ケイ」

『任せろ』

 俺は周囲の植物に対して、片っ端からステータス表示能力を使っていく。すると看板に、植物の名前が次々表示される。


 自分以外の存在に対しては、名前だけしか表示できないステータス表示能力。それがここにきて初めて役に立った。

 実物の薬草を見たことがないクロルに代わり、俺が薬草を見つけるのだ。せっかく日の目をみたこの能力。ここで活躍しないでどうする!


『駄目だ。ここにはない』

「そう」

 思いとは裏腹にエルミ草は見つからない。その後も場所を変えて探索するも、結果は同じ……。


「どう、クロルちゃん」

「ない」

「うーん。やっぱり、もうちょっと開けた場所じゃないとかな」

 そう言って、再び歩き出すシルス。クロルも後に続く。


 うーむ。すでに何度か場所を変えて薬草を探し続けているが、なかなか見つからないものだな。

 俺はそんなことを思いつつ、山道を歩む二人を見守る。


「クロルちゃん。大丈夫?」

 怪我をしているというのに、確かな足取りのシルスが、クロルを気遣う。

「はぁ、はぁ。大丈夫」

 俺を杖のように使い、山道を歩むクロルは息を切らしていた。


「そう。昨日も言ったけど、辛くなったら遠慮なく言ってね」

「ん」

 シルスの言葉に頷いてみせるクロル。


 それからも、しばらく歩き続ける二人。するとぽっかりと、大きく開けた窪地に辿りつく。

 半径二十メートルほどの、楕円形に開けたその場所は、踝程度の高さの植物が生い茂っているのみで、木々はない。

 

「クロルちゃん。この辺りを探そう。日当たりも良いし、この辺りならきっと生えているわ!」

「ん」

 クロルとシルスは再び二手に別れ、周囲を探索し始める。


「ケイ」

『任せろ』

 ステータス表示能力を駆使してエルミ草を探し始める俺とクロル。するとしばらくして……。


「あっ!」

 看板に流れるように表示されていく、植物の名前を追っていた俺とクロルは、ついにエルミ草という文字を見つける。


「どれ?」

『右手側、五歩先。その辺りにある』

 言葉だけでは説明しにくいが。幸いクロルも、シルスからエルミ草の特徴を聞いていたので、すぐにエルミ草を探し当てる。


「これ?」

『うむ。それだ』

「シルス。あった!」

 大きな声でシルスを呼ぶクロル。するとシルスが駆け寄ってくる。


「あったの?」

「これ」

「確かにエルミ草だ! よく見つけたわね」

「ケイのおかげ」


「物の名前がわかる魔法だっけ? 便利ね」

『役に立ったようでなによりだ』

 そう言葉を返す俺だったが、シルスは丁寧な所作でエルミ草を採取しており、こっちを見ていなかった。


「これだけじゃ。量が足りない。でも、ひとつ見つかったんだから、他にも生えているはずよ。荷物を置いて、ここら辺を探しましょう」

「ん」

 本格的に探すため、荷物を下ろした二人。再び二手に別れる。


「シルス。あった!」

「こっちも。あったわ!」

 ステータス表示能力を使い、そう時間を空けることなく二本目を発見する俺とクロル。同時にシルスもエルミ草を発見したようで。


「クロルちゃん。そっちはそっちで採ってくれる? さっき私がしたみたいに、根っこから丁寧に抜くの」

「わかった」

 シルスに言われた通りに、クロルは丁寧にエルミ草を採取する。

 

 そうして。その後も、周辺を探索することで何本かのエルミ草を採取。順調にエルミ草を集めていく二人。

 そしてあと二、三本あれば、村を救うには十分な量の薬草を確保できるというところで……。


「キャア!」

 背後から突如、悲鳴が響く。


 何だ? 俺はすぐさまシルスのほうへと視線を移動する。そこには、二本の細長い紐のようなものに巻きつかれたシルスの姿……。

 二本の紐は丁度シルスの向こう側の地面から伸びており、シルスの両手を腰に固定するように、身動きを封じるように、巻きついている。


「シルス!」

 異常事態を把握したクロルが声をあげ。シルスのほうへと駆け出す。シルスとの距離は十メートルほど。

 探索をしている間に、いつの間にか離れていたようだ。


 駆けるクロル、シルスとの距離を五メートルほど詰めたところで、シルスのほうに変化が……。

 シルスの向こう、四、五メートルほど先の地面が盛り上がり。そこから、ひょっこりと魔物が顔を出す。


 その魔物の姿は、なんと言えばよいか……。なまずともぐらを足して二で割った。そんな感じの見た目。

 大きさは、まだ顔だけしか見えていないので、その全貌は見えないが。体長二メートルは超えていそう。


 そして、何より目を引くのは、魔物の鼻先から伸びている四本の髭。うねうねと宙をなびくその髭は相当な長さ。

 おそらくあれが奴の武器だな。かなり自在に動かせそう……。シルスを拘束していた紐の正体も、その髭だ。


 しまったな……。今いる場所は開けていた分。魔物が接近してきてもすぐに発見できると油断していた。

 まさか地面の下からやってくるとは思いもつかず。そこまでは気が回らなかった。失態である。


 いや、悔むのは後だ。ともかくシルスを助けなければ!


 魔物が現れたことで、動きを緩めるクロル。しかし、すぐに腰からショートソードを抜くと、再び駆け出す。

 ただ、その動きは当然魔物にも見えているわけで……。案の定、魔物のほうも動き出した。


 魔物はシルスを拘束しているものとは別の、残っていた二本の髭を鞭のようにしならせ、クロルへ攻撃。

 勢いよくクロルに迫る二本の髭。ただ、クロルは全く動じることなく、果敢に突っ込んだ。


 おいおい。いくら立ち入り禁止のスキルに守られていることを理解しているとはいえ。怯みさえしないとは……。

 まあ、俺のことを信頼してくれているよいで、嬉しいけどな。ならば、その信頼には答えないと。


 俺は立ち入り禁止のスキルを使い、魔物の進入を阻む。結果、魔物の髭はクロルの手前で見えない壁に弾かれた。

 ただ、どうにも状況はかなり不味そうである。


 シルスは魔物の髭による拘束から逃れようともがいているが、難しいみたいだし。クロルがこのまま進むのも問題。

 どうやら、クロルはシルスに巻きつく髭を、ショートソードでどうにかしようと考えているようだが……。


『クロルよ。このまま進むならば、魔物の進入を許可しないといけなくなるぞ』

 シルスに巻きつく髭も魔物の体の一部。ゆえにシルスに近づくには、魔物の進入を許可しなければならない。

 そうしなければ、シルスは巻きつかれた魔物の髭ごと壁に阻まれてしまう。


 くっ。仕方あるまい!


 クロルは俺の忠告には気付かなかった。ゆえに、仕方なくクロルの意思を尊重して、魔物の進入を許す。

 ただ、同時に土属性魔法を発動して、魔物周辺の土を動かし、魔物の視界を奪うように被せた。


 ううむ。やっぱり大量の土を動かしたりすると魔力の消費が激しい。今ので三分の一は持っていかれた。

 しかし、立ち入り禁止のスキルの欠点を補うためには、魔物の注意を引いておかないと不味いから、仕方ない。


 立ち入り禁止は、一度スキル範囲内に進入したものに対しては、進入したものが範囲外に出ない限り、阻むことができなくなるという欠点がある。

 そのため、一度魔物の進入を許可した以上は、魔物がスキルの範囲外に出ないと、再度阻むことはできなくなるのだ。


 そして、それはつまり。魔物が先ほどのように髭を使って攻撃してきた場合、それを防ぐ方法がないということ。

 ゆえに魔物に攻撃させないよう。魔物の注意を引く必要があった。もっとも、その時間稼ぎも大して意味をなさなかったがな……。


 さすが、地面の中から現れた魔物。俺が被せた土など、前足ですぐにかき分けてしまった。

 ただ、少し隙があったのも事実。その隙を利用して、シルスの前へと回り込んだクロル。


 クロルは、右手に持つショートソードを、シルスを拘束している髭のうちの一本に叩き込む。

 すっぱりと切れる魔物の髭。続いて、残りのもう一本の髭に向けてショートソードを構えるクロルであったが……。


 それよりも早く、魔物は残った髭によるシルスの拘束を解除。そしてその髭を、クロルに向けて鞭にように振るう。


「クロルちゃん!」

 クロル! シルスの叫び声と、俺の内心の声が重なる。クロルの斜め上から、魔物の髭が勢いよく迫っていた。

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