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20、シルスを探して

「はぁ、はぁ、はぁ」

 息を切らせながら、傾斜のある山道を登るクロル。すでに山に足を踏み入れてから、一時間以上経っていた。


「はぁ、はぁ。シル、ス……。どこ、だろ」

 立ち止ったクロル。杖として使っていた俺に、体重を預けるように寄りかかって、息を整えている。

 クロルは健脚だが、さすがに山道はキツイ様子。


『大丈夫か。少し休んだほうが良いのではないか?』

「平、気。急が、ないと」

『いや、無理は良くないぞ』

 そう言葉をかけるも、クロルは忠告を聞かずに歩き出した。


 あまり無理はして欲しくないのだが。どうにもクロルは、気持ちが急いているようで、俺の忠言を聞いてくれない。

 まあ、シルスとは出発した時間の開きがあり。なおかつシルスがいたという痕跡すら、見つけられていないのだから、急ぐ気持ちもわかるが……。


 だからといって、無理をするのは良くない。ふむ、ここはひとつ。びしっと言ってやるべきか。

 そんなことを思ったとき、クロルが声をあげた。


「ケイ!」

 クロルは、びしっと足元を指差している。おお! これは! クロルが指差していた地面には、人間のものと思われる足跡が。


「シルスの、かな?」

『その可能性は高いだろう』

 この足跡は、まだ新しいように見える。おそらくシルスので、間違いないだろう。すぐに周りを見渡す俺たち。


 すると他にも足跡を発見。さらに、不自然に切り払われた枝も見つけた。それらは山の上へと続いている。

「シルス。慎重に、進んでる。かも」

 痕跡を調べていたクロルがそんなことをつぶやいた。


『そうなのか?』

「ん」

 うーん、そう言われても俺にはさっぱりだが……。しかし、それでも理には適っているように思える。


 山に危険な魔物が多いことを、シルスは重々承知していた。魔物に見つからないように慎重に歩を進めている可能性は十分にある。

 ふむ。それならば、俺の立ち入り禁止のスキルで、魔物を気にせず進めるクロルのほうが、足は速いかもしれない。


『どうやら、希望がみえてきたようだな』

「ん」

 頷いて、再び歩き出すクロル。その足取りは、どこかさっきより軽やかに見えた。


 そうして、さらに一時間ほど進むと。


「はぁ、はぁ、はぁ」

 クロルは息も絶え絶えになっていた。傍らの大きな木にもたれかかり、皮の水筒を取り出すと、ごくごく水を飲むクロル。


『少し休むべきだな』

「でも」

『クロルよ。よく聞くのだ』

 すぐにでも歩き出しそうなクロルを、きちんと休ませねば。


『さっき言っていたではないか。シルスは慎重に進んでいると。ならばいずれ追いつく。ここは無理せず、少し休むのだ』

「……ん」


 俺の忠告にしぶしぶといった様子で従うクロル。ただ、それでも五分も休憩せずに、歩き始める。


 当然、その程度の休憩では、すぐに息が上がるが。それでも、弱音を吐くことはなく、山を登り続けるクロル。

 そんなクロルをなんとか言い含め、何度か休憩を挟みつつ。そうして、さらに二時間ほど進んだとき……。


 クロルが、いきなり駆け出した。おいおい。どうした? 何か見つけたのか? そんなに急ぐと危ないぞ。

 そう思った瞬間。案の定、足をもつれさせたクロルが、顔面から盛大に地面へとダイブする。


「わっ!」

 言わんこっちゃない。疲れているところで、さらに足場の悪い所を走ったのだ。そら、そうなるよ。


『クロル! 大丈夫か?』

「痛い……」

 幸い大きな怪我をしなかったものの、鼻頭を打ったらしくクロルは涙目だった。顔面からいったもんな……。


『走るからだ。まったく、いきなりどうしたというのだ?』

「あれ」

 服についた木の葉や、土を払いながらクロルが、前方を指差す。……あれは!


 クロルが指差した先にある木の幹に、一本の矢が刺さっていた。


『シルスの矢か!』

「たぶん」

 木へと近づいたクロルが、矢を引っこ抜こうと引っ張る。矢は丁度、クロルの身長と同じ高さに刺さっていた。


 ふーむ。ここに矢が刺さっていたということは、シルスは魔物に襲われたのかもしれない。

 あっ! 矢を引っこ抜こうとしているクロルの左側に、何か大きな生物が通ったかのような痕跡がある。


『クロルよ。あっちにも何かあるぞ! おっと、あっちとは左側だ』

 文字を表示すると同時に、土属性魔法を使い、クロルのポケットの小石を動かし、合図を送った。


「なに?」

 矢を引っこ抜こうと格闘を続けていたクロルが、合図に気付いて俺の言葉を見る。すると、すぐさま駆け出した。

 だから走ると……。そう思うも、幸い今度は転ぶことはなかった。


「血の臭い」

 俺が見つけた痕跡の所へと急行したクロルがつぶやく。うーむ、臭いか。残念ながら俺は、臭いは感じない。

 なんでだろうな? 目や耳はなくても、見えるし、音も拾えるのにな。


「あっ!」

 何かに気付いたクロル。左手側の木の根を指差す。すぐに、そちらを確認すると……。そこにはべったりと血の跡が残っていた。


 おいおい。もしこれが、シルスの血液なら相当の出欠量だぞ。最悪の光景が頭を過ぎる。


「乾いてない」

 ふむ。血がまだ乾いていないといことは、つまりそれは……。

「ガァー!」

 俺が思考を巡らせようとしたところに、唸るような声が響いた。


 慌てて音の方向を見る俺。すると、巨大な赤い生物の姿が目に入る。三十メートルほど先の、木々の合間に見えるその生物。

 体長四メートルは越えているだろうか。赤銅色をした毛を持つ熊のような魔物だ。すぐにステータスを使い、鑑定もどきを行う。


『レッドベア』

 名前だけが表示される、相変わらずのステータス。

「レッドベア?」

 文字を見たクロルが首を傾げる。


 はい、まったく役に立ちませんでしたとも。


「ガァ!」

 レッドベアが近くにあった木に右腕を振り下ろした。すると、簡単にへし折れる木。すごい膂力だ。

 直径、十五センチほどの木を簡単にへし折るとは。


 ただ、何をしているのだろうか。ここから見る限りでは、何かと戦っているわけではない。

 それなのに暴れているレッドベア。イラだっているのだろうか?


「シルス……」

『シルスはいないようだな。だが、レッドベアと戦った可能性はある』

 遠めなので見間違いかもしれないが、レッドベアの体には、矢が突き刺さっているように見えた。


『ともかく、一旦隠れるべきではないか?』

 幸い、レッドベアはまだこちらには気付いていない様子。今のうちに、身を隠すべきだろう。

 立ち入り禁止があるとはいえ、見つからないに越したことはない。


 そう思っての提案だったが、クロルは一向に動こうとしない。レッドベアに鋭い視線を向けている。

 何を見ているんだ? 俺が疑問に思うと同時に、クロルは口を開く。


「何か。探してる」

 うん? そう言われると……。レッドベアはしきりに首を振っているし、何かを探しているようにも見える。


 と、そのとき。俺たちの背後で「ガサガサ」と草木が擦れる音が響く。何だ? 俺とクロルが音のほうへ振り向く。

 すると丁度、木々の合間からシルスが出てくるところが見えた。


「シルス!」

「しっ!」

 クロルが少し大きめの声を出したので、シルスが唇に人差し指をあて、静かにしろとジェスチャーをする。


「シルス。良かった」

 慌てて声のトーンを落とすクロル。


「ちょっと、クロルちゃん。何でここにいるのよ!」

 クロルがここにいることに、シルスは驚き、慌てた様子でクロルの傍まで近づいてくる。


「シルスと。あと薬草、探しに」

「何考えてるの! この山は危ないのよ! それなのに。こんな所まで。魔物に襲われたらどうするの!」

 シルスは小さな声で、激しくクロルを責めた。


「シルスこそ」

 言い返すクロル。その目線はシルスの左わき腹に注がれている。シルスは怪我をしているようだ。

 シルスのわき腹、服に血が滲んでいた。


「私は……。っとにかく。ここから離れるわよ」

 何か言い返そうとしたシルスであったが、言い争っている場合ではないと思い直したようで、クロルの右手をとった。


 しかし、少し遅過ぎたな。なにせ……。


「ガァァァ!」

 すでにレッドベアは俺たちを発見していたのだから。レッドベアは雄叫びをあげながら、こっちに迫っていた。

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