表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/41

17、村に到着

「危なかった」

 額を拭い、シルスはしみじみとつぶやいた。

「ああ、危なかった」

 シルスの隣でルトも、ほっと一息ついている。


「なんとかなったのう。もう少し進んだ所で、一旦休憩にするとしよう。クーニュを休ませてやらねばならん」

 そう言って、モルグは荷馬車のスピードを緩めた。


「それにしても……。クロルちゃんのおかげで助かったわ。ありがとう」

「別に……。大したこと、ない」

「いや、本当に助かったぞ」

 シルスが褒めるが、淡白に返すクロル。そんなクロルの頭をルトが撫でる。


「そうじゃよ。実際、シルス一人で対応できる数ではなかった。クロルちゃんがおらねば、どうなっていたことか」

「……なら。良かった」

 クロルは、釈然としていないように見える。


 まあ、実際のところ小石を飛ばしていたのは俺だから。クロル的には自分の力ではない分、複雑なのだろう。

 それからしばらくの間、荷馬車は街道を進む。そして十分にグレイウルフたちから離れたところで……。


「よし、これだけ離れれば大丈夫じゃろう。休憩としよう」

 モルグが荷馬車を停めた。桶と水筒を持って、荷台から跳び降りるルト。クーニュの前に桶を置き、そこに水を張る。


「ふむ。丁度昼時じゃ。クーニュを休ませる間に、昼食を食べることにしよう」

 モルグの提案で、四人は昼食を食べることに。すぐにシルスが荷台のリュックをごそごそ漁り。

 乾燥したパンと、干し肉を取り出すと全員に配った。


「にしても、クロルちゃん。さっきの投石。本当にすごかったわ!」

「そう?」

「そうよ! すごい速さ、そして見事な命中精度だったわ!」

「確かにな」


 興奮してクロルの投石技術を褒めるシルスと、感心したように頷くルト。昼食を食べながらの団欒が始まった。


「シルスも弓。うまかった」

「そう? まっ、これでも村で一番の腕前だからね!」

「シルスは昔から、弓だけはうまかったからな」

「ちょっと。だけってなによ!」


 ルトの言葉に憤慨するシルス。その傍ら、一人だけ険しい表情をして考え込むモルグ、ぽつりとつぶやく。


「それにしても、なぜグレイウルフがこんな所におったんじゃろうか……」

 そういえば、グレイウルフは森の深い所に生息している。そのようなことを言っていたな。

 ここらで見かけるのは珍しいのか?


「確かに、グレイウルフが草原まで出てくるなんて、変だよね」

 モルグのつぶやきを、シルスは耳聡く拾い。考察を重ねる。

「そもそも、この辺りの森に、奴らは生息していないはずだ」

 シルスに続き、ルトも考察を述べる。そこへクロルも口を挟む。


「そうなの?」

「ええ。グレイウルフは森の奥深くに住む魔物。街道に出てくることは稀だし。ルトの言ったように、この辺りにはいない魔物なの」


「ふーん」

 質問したくせに、興味がなさそうなクロル。

「まあ、ともかく。念のため、先を急ぐとしよう」

 結論は出なかったが、モルグが纏めた。


 それから、四人は手早く昼食を済ませると、旅を再開。何事も問題が起こることもなく、平穏無事に荷馬車は進み。半日ほど。


「ほれ、あそこがわしらの村じゃ」

 モルグが指差した先には、夕焼け空の下、ぼんやりと村が見えていた。


「そういえばクロルちゃん。泊まる所はあるの?」

「うーん」

 シルスに問われ。考え込むクロル。うーむ、泊まる所か。宿があればそこに泊まることもできるが……。


 今のクロルは無一文ではない。というのも、ザックがくれた餞別の中には、お金も入っていたから……。

 まるで隠すかのように、リュックの底のほうに忍ばされていた巾着の中に、お金が入っていたのだ。


 そういうわけで、クロルはお金を少しは持っている。ただ、クロルは宿には泊まらない可能性が高い。

 お金が勿体ないからと、野宿を選ぶ気がする。俺としてはしっかりと体を休めるため、宿に泊って欲しいのだが。


「考えてなかったのね。それならうちに泊まらない?」

「いいの?」

「ええ。うちは、お母さんと二人暮らしだから、場所もあるし。クロルちゃんなら大歓迎よ!」


 優しい提案をしてくれるシルス。しかし、クロルはシルスの提案に即答せず、どうしようかと悩んでいる。

 それを見かねて、シルスが口を開く。


「遠慮しなくていいのよ?」

「そうじゃ。遠慮せずとも良い。なんなら、うちでも良いが」

「ああ。うちでも構わないぞ」

 シルスに続き、モルグとルトも泊めてくれると言う。


 ふーむ。ここまで言われているのだ。遠慮なくお願いして良いと思う。むしろ、断るほうが悪いだろう。

 そう思った俺は、クロルを後押しすることに……。土属性魔法を発動。クロルのローブの左ポケットの小石を動かす。


 これは、人前では話すことを控えるようにしている俺が、少しでもクロルに意思を伝えるために編み出した方法。

 肯定なら左ポケット、否定なら右ポケットの小石を動かす。そうやって、賛否を伝えるのだ。


「……お願いします」

 シルスのほうへ向いて、ぺこりと頭を下げるクロル。俺の後押しが効いたのか。それは定かではないが。

 ともかく、クロルはシルスの家に泊めてもらうことにしたようだ。


「じゃあ。クロルちゃんはうちに泊まるということで!」

 笑顔を浮かべるシルス。丁度、そのときに荷馬車は村の入り口に。

「わしらの村にようこそ」

 村に入る瞬間、モルグが言った。


 荷馬車はそのまま、ゆっくりと村の中を進み。やがて一軒の家の前に停車する。同時に、家の中から一人の女性が出てきた。


「おかえりなさい」

「おお、ルーシェ。ただいま」

「ただいま。母さん」

「おばさま、ただいま!」


 荷台から降りる三人。口々に女性に挨拶を返す。女性、ルーシェはルトの母親のようである。


「あら。そちらの子は?」

 ルーシェが、荷台から降りようとしていたクロルに気付く。

「この子は途中で拾った子じゃ。クロルと言う」

 モルグはクロルを引っ張り、ルーシェの前に。


「初めまして。かわいい子ね」

 しゃがみ込み。クロルと目線を合わし笑顔で挨拶するルーシェ。

「初めまして」

 ぺこりとお辞儀を返すクロル。


「母さん。親父は?」

 ここで荷台から荷物を降ろしていたルトが、疑問を口にする。どうやら、父親が出迎えに出てこないことを不思議に思ったらしい。


「ああ、父さんは……」

 ルーシェは答えようとしたが、クロルを見て言葉を濁らせる。

「クロルちゃん、私の家に行くわよ」

 ルーシェの雰囲気から何かを感じ取ったシルスが、クロルの腕を引っ張る。


「ん」

 頷いたクロル。荷台からリュックを降ろそうとするが。

「持ってあげる」

 リュックはシルスに奪われた。


「ありがと」

 リュックをシルスに任せ、クロルは俺を担ぎ上げる。

「行きましょ!」

 ルトの家の隣を目指すシルス。クロルも後に続く。


 その背後ではモルグとルト、ルーシェがひそひそと会話していた。うーむ。なんだろうか……。

 何かあったのは確実だが、声は拾えない。気にはなったが、どうしようもないので意識を逸らす。


「ただいまー」

 扉を開け。シルスは元気よく家の中へと足を踏み入れる。

「あら、おかえり」

 出迎えてくれる女性。シルスの母親だろう。


「あら。そちらは?」

「この子はクロルちゃん。一人で旅をしているところ、私たちと出会って。ここまで一緒に来たの」

 シルスは、クロルの両肩に手を置いて、前に押し出す。


「初めまして。私はシルスのお母さんで、サハリと言うの。よろしくね」

 シルスの母親、サハリはしゃがみ込み。クロルに右手を差し出す。

「クロル。よろしく」

 遠慮がちに、サハリの右手を握り握手するクロル。


「それでね。お母さん、この子をうちに泊めてあげたいのだけど……」

「いいわよ。こんなにかわいい子なら大歓迎」

「ありがと」

 あっという間に話が纏まったな。


「じゃあ、お母さん。クロルちゃんをお願い。私は荷物降ろしてくるから」

 クロルのリュックを、テーブル近くの椅子の上に置くと、シルスは外に出て行こうとする。


「わかったわ。クロルちゃん、こっちにおいで。……ああ、それは壁にでも置いておきなさい」

 サハリさんにテーブル近くの椅子を勧められたクロル。サハリさんの言う通りに俺を壁に立てかけ。テーブルに近づく。


 クロルは、そのまま椅子に座るかと思われたが、途中でリュックのほうへ。リュックを漁り始める。

「これ。どうぞ」

 クロルはリュックから取り出したグレイウルフの肉を、サハリに差し出す。


「これは?」

「泊めてくれる。お礼」

「あらあら、いいのに。律儀な子ね。じゃあ、今日の夕食に使わせてもらうわね」

 苦笑しながらも、お肉を受け取ったサハリ。台所のほうへ去っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ