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16、襲撃

 朝の陽ざしの中、クロルたち四人は荷馬車に揺られていた。昨日に続き、御者をするモルグ。

 クロルとシルスは荷台の中央に仲良く並んで座り、荷台の後ろにはルトが腰掛けている。


 荷馬車は、草原の間に伸びる街道を進む。さわやかな風が、四人の髪を揺らす。牧歌的な風景が、そこにはあった。

 そうして、今日の旅も順調に進むと思われたが……。


「うん? 何か動いたような」

 つぶやくシルス。荷台の上で立ち上がり、後方を鋭く見つめる。

「シルス、どうしたのだ?」

「うーん」


 モルグの問いに答えず、後方を眺めるシルス。俺も、そちらに視線をやる。うーん、俺には何も見えないけど……。

 後方には草原、その先に森がある。シルスの目線からして、見ているのは草原。数百メートルほど後方だろう。


 草の中に何かいるのか? 今、荷馬車が走っている辺りは、草の丈が大人の腰ほどの高さもあり、何か潜んでいてもおかしくない。


「やっぱり、何か動いた」

「どこだ?」

「ほら。あそこ」

 ルトが尋ねると、シルスが左後方を指差す。


 むっ、確かにそう言われると……。その方向の草が不自然に揺れているようにも思えた。

 それは、左後方二百メートル。何かが草を掻き分けて進んでいるように、草が揺れている。


「確かに、何かいるな」

「あ、あっちにも」

 シルスが、今度は右後方を指差す。ふむ、確かにそっちも草が揺れている。ただ、未だ草を揺らしているものの正体がわからない。


 とっ、そのとき、シルスが大きな声を上げる。

「……あっ。グレイウルフだ!」

「む。それは本当か?」

 驚くモルグ。うーん、よく見えたな。


「間違いないと思う」

「ルトは見えたか?」

「俺には見えない」

 モルグはルトにも確認するが、シルスにしか見えていないようだ。


 と、ここでシルスの横にクロルがやってくる。鋭く後方を見つめるクロル。ぽつりとこぼす。

「ほんとだ……」

 むっ、クロルにも見えたのか? 俺には揺れる草しか見えないのに……。


「クロルちゃんも見えた?」

「ん……。六匹いる」

「え! そんなに?」

 シルスが驚く。俺も驚いた。六匹? 全然見えない……。


「ほんとに六匹もいるの?」

「ん」

「不味いな」

 シルスが問い。クロルが肯定すると。ルトがつぶやいた。


「確かに不味い。モルグ爺。こっちを狙っているかも! たぶん、草に隠れて、こちらに近づこうとしてたのだと思う」

「その可能性が高いじゃろうな。……しかし、グレイウルフがこんな所に出てくるとはの」


「じいちゃん、どうする?」

「うーむ。シルスよ。スピードを上げるが、追ってくると思うか?」

「たぶん。本来、森の深いところを縄張りとするグレイウルフが、わざわざ草原に来ているんだもの」


「ふむ。餌を求めてという可能性が高いか」

「ええ」

「ならば、そう簡単に見逃してはくれんな」

 顔をしかめつつも、モルグはクーニュに鞭を入れる。


 クーニュの走るスピードが上がった。するとグレイウルフにも動きが……。それまでよりも、わかりやすく揺れる草。

 時々、グレイウルフの姿も確認できるようになる。


 こちらが、荷馬車のスピードを速めたことで、グレイウルフは隠れるのを辞めたようだ。

 一直線に、こちらに向かってくるグレイウルフ。その数は六匹。クロルの言った通りだった。


「やっぱり。来た!」

 シルスが吐き捨てるように叫び。背中に背負っていた弓を取り出す。

「しっかり。掴まるのじゃぞ!」

 モルグが叫び、さらにスピードの上がる荷馬車。


 揺れが大きくなり、縁にしっかりと掴まるクロル。そんなクロルの頭を、優しくなでるルト。

「大丈夫だからな」


 そうは言うが、このままでは追いつかれるぞ。明らかに、こっちよりグレイウルフのほうが早い。

 すでに距離を詰められ、百メートルほどの所までグレイウルフは迫っていた。


 とうにも、逃げきれそうにない。そうなると、なんとかして撃退しなければいけないが……。

 モルグたち三人の中で、まともに戦えるのは狩人のシルスだけだ。と、ここで更なる問題も発生する。


 前方二百メートルにも草を掻き分けて進む影。四匹のグレイウルフ。


「なんと! 前からも来ておるぞ!」

「嘘!」

 モルグの叫び声を受け、後方を気にしていたシルスが、勢い良く振り返る。


「挟み撃ちか……」

 苦そうにつぶやくルト。明らかに組織だって動いているグレイウルフ。これは、だいぶ前から狙われていたな。

 前世の狼は賢い動物だと聞いているが、グレイウルフもかなり賢いようだ。


「左に迂回してやり過ごすのは?」

「無理じゃ。車輪に草が絡まるおそれがある。それに、草原では速度も出せん!」

 ルトの提案に難色を示すモルグ。


「……」

 そんな二人の傍ら、表情を引き締め、無言で弓を引き絞るシルス。前方にいる一匹に狙いを定めると、矢を放った。


 その矢は、前方百メートルほどまで近づいていた、グレイウルフの一匹に見事命中。一匹が倒れる。

 ふむ、弓の腕は自信があると言っていただけのことはある。揺れる荷馬車の上で、大したものだ。


「少しスピードを落として! 前の奴から倒す」

 叫びながら、第二射を放つシルス。その矢も吸い込まれるようにグレイウルフに命中、だが今度は倒れない。

 それでも、矢を受けたダメージから、そのグレイウルフは左に逸れていく。


 これで前方には残り二匹のグレイウルフ。たが、不味いことに、残った二匹のグレイウルフは、もうすぐそこまで迫っていた。


「くっ、しまった!」

 第三射を外してしまうシルス。同時に、前方からやってきた二匹のグレイウルフが跳躍の姿勢に入る。

 ふむ、ついに俺たちの出番がきたか。


「伏せて!」

 腰からショートソードを抜き放ちながら叫ぶシルス。すぐに身を低くするモルグ。何時の間にか持っていたダガ―を構えるルト。

 ここで、クロルが動く。


 クロルは、大ぶりなモーションで、両手に持った小石を投擲した。同時に、土属性魔法を発動させる俺。

 クロルが投げた小石を操る。二匹のグレイウルフ目掛けて、勢い良く跳んでいく四つの小石。


 ふふ、これぞ。俺が編み出した、人前での攻撃方法。人前では、できるだけ魔法を控えるという制限の中。

 これならば、一見するとクロルが投げたように見える。


 俺とクロルは、グレイウルフが襲撃してきたときから、万一に備え、ずっとスタンバっていたのだ。


「ギャ!」

 四つの小石は、二匹のグレイウルフに二発ずつ命中した。悲鳴をあげる一匹、右へと逸れる。


 そしてもう一匹は、小石が命中して怯み、跳躍をキャンセルしたところに、クーニュが突進。

 走るクーニュに踏み潰されながら、転がっていく。


「へ? 今のクロルちゃんが?」

 呆けるシルス。クロルの顔をまじまじと見る。

「ん」

 頷くクロル。


「後ろが来るぞ!」

 呆けていたシルスが、ルトの声で現実に帰ってくる。荷馬車のスピードを緩めたため。後ろの奴らも、もうそこまで迫っていた。


 さらに、さきほど小石を受け、右に逸れた一匹もそれらに合流。後方から七匹のグレイウルフが迫る。


「ごめん」

 シルスは呆けていたことを謝りつつ。ショートソードを鞘に戻し、弓に矢を番え放つ。クロルも右手で小石を二つ投擲。

 俺はすかさず、小石を土属性魔法で操る。


「ギャン!」

 シルスの矢を受け、倒れるグレイウルフ。

 さらに俺の小石を受けたグレイウルフも、当たり所が良かったようで、追いかけるのを辞めた。


 これで、残り五匹……。


「アオーン!」

 残った五匹のうち、一際大きいグレイウルフが吼え。それを合図に、グレイウルフが左右に散開した。

 左に三匹。右に二匹。荷馬車と並走するグレイウルフ。


「スピードをあげて! ルト、右を警戒して」

 左側に矢を放ちながら叫ぶシルス。ただ、残念なことに矢は外れる。

「シルス!」

 大きな声で、ルトが叫ぶ。


 シルスが左手側の相手をしている隙に、右から一匹が近づいてきていた。すかさず、クロルが小石を二つ投擲。

 俺も土属性魔法を発動。しかし、小石はすんでのところでかわされる。それでも、追い払うことには成功。


「クロルちゃん。右をお願いできる?」

「ん」

 ここでシルスも、クロルがかなり使えることを理解したらしく。右側のグレイウルフの対応を任せてきた。


 右をクロルに任せ、シルスは左側の対応に集中。グレイウルフに弓を向けるシルス。

 今度は慎重に狙いを定め放つ。さらに一匹、グレイウルフが矢を受け、追うのを辞めた。


 これで残り四匹……。


 クロルとシルスが残りのグレイウルフを相手取る。クロルが小石を投擲し、シルスは矢を放つ。

 グレイウルフはなかなか荷馬車に近づけない。


「あと三匹……」

 シルスが三本の矢を放ち。さらに、もう一匹数を減らすことに成功する。

「アオーン!」

 残っていたうちの三匹、一際大きいグレイウルフが吼える。


 すると、三匹のグレイウルフはいっせいにスピードを落とした。どうやら、諦めたらしい。

「危なかった」

 額を拭い、シルスはしみじみとつぶやいた。

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