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14、ヒッチハイク

「ここから南に三時間ほど進めば、森を抜けられる。そしたら、すぐの所に街道があるから、そこを進めばいい」

「わかった」


「魔物にはくれぐれも気をつけるんだぞ。それから、道中で他の旅人に出会ったら、同行させてもらえないか頼め。無論、相手は選べよ」

「ん」


「それと。もし、できればでいいが。無事、街に着いたら事付けを」

「事付け?」

「ああ、といっても。俺たちの村、エルグ村って言うんだが。ここに来る旅人は少ないから、ほんとにできればでいい」


「わかった」

「じゃあ、ほんとに気をつけてな」

「ん。ザック、また」

「ああ、またな」


 いろいろ心配してくれたザックに見送られ、村を後にしたクロル。ザックの言う通りに、南を目指し森を進む。

 肩に担いだ俺。ザックにもらった大きなリュックやショートソード。けっこうな荷物があるのに、クロルの足取りは淀みない。


 そうして途中、一度休憩を挟みながらも進み続けると、ついに森を抜ける。ふむ、これが街道か……。

 ザックが言っていた通り、森を抜けてすぐの所には、幅二メートルほどの踏み固められた土でできた道が伸びていた。


 その、かろうじて道とわかる程度の道を進むクロル。街道はしばらく森に沿って伸びていたが。

 すぐに、それも終わり、今度は草原の中へ。見渡す限り緑の草原、その間に茶色い線を描くように街道が伸びる。


 さらに街道を進むクロル。そして丁度、お天道様が真上に来た頃……。

「休憩」

 クロルがつぶやき。街道沿い左手側にあった、並んだ二つの岩へと近づく。


 クロルの身長を優に超える大きな岩と、腰掛けるに丁度良さそうな小さな岩。休憩にはもってこいの場所である。

 クロルは大きいほうの岩に俺を立てかけ。その横にリュックを降ろし、水筒を取り出した。


『疲れてはいないか?』

 水を飲むクロルに話しかける。

「ん。平気」

『無理をするべきではないぞ』


 無言で頷いたクロル。リュックから、パンと木の実を取り出すと。小さな岩に腰掛け、食べ始めた。

 しばらくの間、クロルが食事しているのを眺めていた俺。そんな俺の視界、遠くに動くものを発見する。すぐに視点を移動。


 クロルが歩んできた街道上に見えるそれを注視する。んー。遠くて、まだよく見えないが……。あれは荷馬車かな?

 屋根のない荷馬車のようなもの、それを引く魔物らしきもの。荷台には人が乗っているように見える。


 ステータス……。駄目だ、距離が遠い。ステータスはあまりにも遠く離れていると使えない。

 まあ、とりあえず、クロルに報告しないと。


『クロルよ。進んできた街道のほうから何か近づいて来るぞ』

 文字を表示しながら、同時にクロルのポケットの小石を土属性魔法を使い動かし、話があると合図を送る。

 食事中ゆえ、文字に気付いてもらえない可能性があるからな。


 俺の言葉を受け。素早く立ち上がるクロル。腰掛けていた岩に登る。

「荷馬車?」

『おそらく。そうだろう』

「クーニュ……。それに人が、三人」


 ほう。荷台に乗っている人数まで見えたのか。俺にはそこまでは見えないが……。クロルは目が良いようだ。

 あと、クーニュというのは馬車を引く魔物のことかな? 俺が考えているうちに、クロルは岩から降り、いそいそとリュックを背負う。


『どうするのだ?』

「うーん」

 選択肢はいくつかあるように思える。隠れてやり過ごす。あるいは隠れずにすれ違う。もしくは、接触を試み、同行を申し出る。


 俺としては、三つ目がお勧めだ。荷馬車に乗せてもらえば、旅が楽になるうえに、進むスピードも上がる。

 ただ、誰かに同行した場合、道中でのスキルの使用は、できるだけ控えなければならなくなるのが問題か。


 うーむ、クロル一人のほうがスキルを自由に使えて安全だが……。しかし、荷馬車の移動速度は魅力的だ。


『隠れて様子を見て。優しそうな相手ならば、乗せてもらえないか。交渉してみてはどうかな?』

「……」

 無言で考え続けているクロル。ただ、すぐに結論を口にする。


「隠れる」

 クロルは、俺を持ち上げると街道から逸れる。そうして草原に踏み込み、草が茂っている場所にかがみこむ。

 幸いなことにこの辺りの草丈は、クロルが十分に隠れられる高さがあった。


『やり過ごしてしまうのか?』

「様子見て、考える」

 ふむ。隠れてそのままやり過ごすのではなく。相手によっては接触を試みる。俺の提案を飲んでくれたらしい。


「見えない」

『ふむ。代わりを務めよう』

 茂みに隠れたことで、こちらからも相手を確認できなくなったクロル、代わりに俺がやってくる連中を吟味することに。


 そうしてしばらくすると、俺にもその一行のことが良く見える距離に……。クロルの言う通り、三人の人間と馬のような魔物が一匹か。

 この距離ならステータスも使えるだろう。三人と一匹のことを詳しく知りたいと念じる。


 すると『モルグ、シルス、ルト、クーニュ』と表示される。そしてこの表示を見たクロルが口を開く。


「名前?」

『うむ。あれらの名前だ』

「意味ない」

 うぐっ。言われてしまった。確かに名前だけがわかっても意味ないが……。


 内心で凹みつつ、三人を観察する作業に戻る。荷馬車を引くのは、黒い馬のような魔物。頭に二本の角があること以外は馬とそっくり。

 そして、魔物が引いている荷馬車には三人の人間、御者台で手綱を握る初老の男性。荷台には少女と青年、どちらも十六、七程度の年齢。


『老人と少女、それに青年の三人組みだ。さて、どうする?』

「……」

 俺には悪い連中には見えない。同行を申し出てみるのも良いと思うが。


『悪い奴らではなさそうだぞ。交渉してみても良いのではないか?』

 黙り込むクロルに、再度提案してみる。

「……わかった」

 しばらく悩んだあと、クロルがそう決断する。


『ならば、少しだけでも手伝おう』

 そう返答した後、俺は看板の表示を『一人で旅をしています。乗せていただけませんか?』に変更する。

 せっかく看板なのだから、それを活用しないと。ヒッチハイク、頑張ろう!


「……」

 俺の意図を汲んでくれたクロル、無言で俺を担ぎ上げ。街道に戻ると俺を掲げて見せる。

 すでに、かなり近くまで来ていた荷馬車の一行。


 一行もすぐに、街道に現れたクロルに気付いたようで、荷馬車のスピードが落ちる。どうやら、このまま通り過ぎることはなさそうだ。

 どんどん近づいてくる一行。こちらとの距離が三十メートルほどになった所で、荷馬車は大きく減速。


 同時に、少女が荷台から飛び降りる。そのまま、こちらに近づいてくる少女。右手にショートソードを持ち、警戒している様子。

 クロルは俺を下ろし、ローブのポケットに右手を突っ込む。そこは、いくつも小石が入っているポケットだ。


 クロルも警戒しているようだ。俺もいつでも立ち入り禁止のスキルを使えるように身構えておこう。

 様子を見るに、いきなり襲ってくる可能性は低いだろうが、念のためだ。もし襲いかかってきたなら、立ち入り禁止のスキルで安全を確保。


 そのうえで、クナモを倒したことで若干増えた魔力(やはり魔物を倒すと魔力は増えるようだ)で逆襲してやる!

 まあ、相変わらず、大したことはできないのだけどな。


 俺たちが身構えている間も、こちらに近づいて来ていた少女。クロルが警戒していることが伝わったようで。

 少女は、クロルとの距離が三メートルほどになった所で、立ち止まった。


「あなた一人?」

 少女がキョロキョロと周囲を見渡す。

「そう」

 少女の質問に即答するクロル。


 それでも尚、周囲を警戒していた少女だったが。

「……うーん。大丈夫みたいね」

 少女は腰の鞘にショートソードを戻し、大きく手を振る。少女の合図を受けたおじいさん。荷馬車を操りこちらに近づいてくる。


「乗せて欲しいの?」

 荷馬車のほうを一度確認した少女が、クロルに近づき尋ねる。

「ん」

 頷いてみせるクロル。


「わかったわ。相談してみる」

 クロルと少女が会話をしている間に、近くまでやってきた荷馬車が、少女の後ろで停まる。


「シルス。その子は?」

 御者台に座るおじいさんが少女に尋ねる。


「モルグ爺。乗せて欲しいんだって」

「ふーむ、お嬢さんは一人で旅をしておるのか?」

「ん。一人」

「モルグ爺。乗せてあげようよ!」


 一人でいるクロルが心配になったのか。少女がおじいさんに提案する。ふむ、少女は優しそうだし、この一行は当たりっぽい。


「なるほどのぉー。ルトや」

 おじいさんが荷台に座る青年のほうを見る。すると青年は、じろじろとクロルを見たあと、口を開く。


「いいんじゃないか」

「ふむ、良かろう。お譲さん、乗ると良い」

「さあ。こっち!」

 おじいさんの言葉を受け。笑顔を浮かべた少女、クロルの手を引いた。

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