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第68話 出立の日

 翌日、レイフィード達はドルドレーグの実家、フランシール家の屋敷を訪ねた。

 のだが……


「まさか、ドルドレーグさんもナナミさんも、出てしまっているとは思いませんでしたね」


 フランシール家の使用人に、二人の不在を告げられ、レイ達は仕方なく屋敷をあとにしていた。


 レイとしては、ナナミには自分の正体を知られてしまっていたり、それを黙ってもらっていたりと、いろいろな意味で世話になっていたので、せめて少しくらいは話をしていきたいと思っていた。

 ドルドレーグにしても、ナナミの仕えている者であるので、諸々礼を言うつもりであった。

 半月前、レイたちが学校を出発してティオニアの実家へと向かう際、ドルドレーグとナナミには簡単に経緯は説明していた。

 ティオニアを冒険者として自分たちのパーティに加えるつもりであることも伝えていたのだが、その時点ではまた会うつもりであり、レイたちが急いでいたこともあり、非常にバタバタとしたものだったのだ。


 レイは眉をハの字にして困った顔をしている。 

 隣を歩いているティオが、フランシール家の使用人からの返答を思い出す。


「どこに行ったのかわからないというのも、おかしな話ね」


「ねー。普通なら誰かに言ってくよね。

 ドルドレーグってなーんか全然貴族っぽくないけど、一応はちゃんとした貴族なんだし」


「ミリル……その言い方はちょっと……」


「えー。じゃあ姉さんは、ドルドレーグが貴族っぽいって思う?」


「え? そ、それはほら…………あ! 話し方が貴族っぽいですよね! 物腰も柔らかですし!」


「そっかなー? ドルドレーグの態度って、貴族というよりも、なんかエセ貴族っぽいんだよね。

 薬草にやたら詳しいし、貴族というより商人っぽいかも」


「そうね」


 ミリルにあっさりと同意するティオ。


「ティ、ティオさんまで……」


 少数派になったレイは口をもごもごさせるも、それ以上の抵抗はあきらめた。

 明らかに分が悪いのが手に取るようにわかってしまったのだ。

 そんなレイの葛藤は気にせず、ミリルはぴんっと人差し指を立てた。


「それより、これからどうするかだよ。

 私は今すぐにでも、王都を発つべきだと思うな。

 昨日は学校出たら夜になっちゃってたから、仕方なかったけどね」


「ミリルの言うとおりね。

 自分のことだから私が言うのもなんだけれど、いつ私がまた狙われるかわからないもの」


「そうそう。

 確かに、すぐにティオさんをどうこうっていう可能性は低いと思うけどね。

 姉さんの話だと、わざわざ隠すように別のアサシンと同じタイミングで事に及んでるし。人目を気にしてるのかわからないけど、露骨には手をだしてこないとは思うよ。

 でもだからって、襲われた王都でのんびりウロウロしてるっていうのはちょっと落ち着かないよね」


 ミリルとティオの言いようはもっともで、レイにも否はない。

 上級学校を卒業した今、王都ですべきことは何もなかった。


「……そうですね。ナナミさんたちに会えなかったのは残念ですけど、いつか落ち着いた頃にでも会いに来ればいいですね」

 

「そーそー。それに私たちが旅してれば、案外どこかでばったり会えちゃうかもしれないしね」


「あぁ。訓練や修行と称して、彼が屋敷どころか王都から放り出されるのね」


「えぇ……いくらナナミさんでも、そこまで無茶なこと…………………………あれ? しますかね?」


「するよ」

 

「するわね」


「……やってしまいそうですね」


 レイは、状況を容易く想像してしまい思わずドルドレーグへの同情心が生まれてしまった。




「あ、皆様方、ご無沙汰しております」


 レイたちは王都の乗合馬車の待合場所に着くと、穏やかな微笑みを浮かべたメイドと身なりのよい少年が手を振っていた。

 ナナミとドルドレーグである。


「え、どうしてここに……?」


 レイたちが駆け寄ると、ナナミが恭しく頭を下げた。


「レイ様たちはこちらへ来るものと思っていましたので。

 まだ、お別れの挨拶が済んでいませんでしたから」


「は、はぁ……。よく私たちがここへ来るとわかりましたね。

 王都の馬車の乗合所は他にもあると思うんですけど」


 困惑するレイに、ミリルも顔を出す。


「そもそも、私たちが今日出発するとも限らないと思うんだけど、ナナミさん、ずっと待ってる気だったの?

 ていうか、私たちが王都に帰ってきたのだって普通は知らないと思うんだけど……」


「ふふふ。皆様がこちらへ来るのはわかっていましたから。

 情報収集はメイドの基本性能ですよ、ミリル様」


 ぱちりとウインクするナナミに、ドルドレーグが頬を引き攣らせた。


「ナナミは人を使って、ローズレイク方面から来る馬車に君たちに似た風貌の娘たちが来たら知らせるよう頼んでいたんだよ。

 まったく、学校に連絡を取れば彼女たちが戻ってきたかはわかるだろうに……」


「あら、若ったら甘いですね。皆様が学校へ寄らない可能性もありますよ。

 学校に連絡したところで、こちらへ伝わるのが遅ければすでに王都を発たれてしまっているかもしれませんし。念には念を入れておきませんと。

 皆様がどの乗合所を使われるかは若干迷いはしましたが、特段の用件でもない限り、心理的にはティオニア様のご実家のローズレイクとは反対方向へ向かわれると思いましたから」


「……その用意周到さを、できれば僕のためにも使って欲しいなぁ」


 ドルドレーグがあくびを噛み殺す。

 朝早くにナナミにたたき起こされて、かれこれ数時間乗合所に待機していたのだった。



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