第66話 卒業の日
上級学校卒業の日。
レイフィード、ミリル、ティオニアはローズレイクの街より、ようやく王都へと戻ってきた。
「こんな時間になっちゃったねー」
ミリルは目を細めてしみじみと呟いた。
陽は随分と傾き、少しすれば夕暮れとなる時間だった。
「どうしますか? 先に宿の手配しておきます?」
「後でいんじゃない? 今くらいからじゃ、宿の込み具合は夜になっても変わんないだろうし」
「それもそうですね」
「でも、荷物を置いてからの方が楽じゃない?」
「確かにー」
「それもそうですね」
意見が一致して、3人は街の宿屋へと向かおうと歩きだした。
そこへ、レイたちの後ろから男が声をかけた。
「待て、レイフィード」
「はい?」
レイが振り返ると、苛立った様子の男が腕を組んで立っていた。王国の紋章が刻まれた胸当てと、腰には双剣を下げている。
レイはどこか見覚えがある男だと思い、うぅん? と首をかしげていると、
「グエンだ。グエン・シーバだ。会ったことのある近衛騎士の顔を忘れるな」
グエンの言葉を聞いて、レイは上級学校の中間試験でのことを思い出す。
レイとグエンはエキシビジョン・マッチのような形で試合をしていたのだ。
「あぁ! あのときはどうも! 今日はどうされたんですか?」
「……しゃあしゃあと抜かしやがる。
君が言ったんだぞ、3ヶ月後も来いとな」
「え? …………あぁ!」
レイはぽんっと手を打った。
上級学校では、卒業の日の今日、実践演習としての試合や、パーティを組んでの魔物討伐が行われていた。
レイはグエンに対して、中間試験のときの試合の後、それを見に来るように言っていた。
「忘れていたのか!? 言い放った張本人が忘れているとか、君、いい度胸しているな!?」
「い、いえいえ、決して忘れてたとかそういうわけではなくてですね…………ちょっといろいろありまして、記憶の彼方だったというかなんというか」
「…………はぁ、もういい。君たちの事情については、僕の耳にも入ってきている」
頭を手で押さえるグエンに、ティオはぴくりと眉を上げた。
「さすがは近衛騎士といったところね。一応伏せられている話のはずだけど?」
「元々はこちらの膝下で揉めていた話だからね。
そちらに迷惑をかけた連中の大半は、今回のことが露呈して内々に処理された。
君たちに直接ちょっかいをかけた連中については、どうにもなっていないけどね」
「…………」
グエンの言葉に、レイの視線が鋭くなる。
生徒たちを襲ったアサシンについて知る者は多いが、アーノルドについてはレイは限られた面々にしか話していない。誰かに話したところで、厄介事を呼び込むタネにしかならないと判断したのだ。
「ふん。そう睨むな。話はナージュから聞いたんだ。
先生が、あちら側だったことも驚いたが…………よくもまぁ、あの人を相手にして生き残ったものだ」
「向こうもいろいろと制限があったようですから。
まともにやれば危うかったでしょう」
「ちぇっ。やられると言い切らないとはね」
グエンは肩をすくめて嘆息した。
「君がいない卒業演習は退屈だと思ったんだがな。ナナミやナージュがいて、思った以上には楽しめたよ」
「そうですか。それはよかったですね」
「ああ。こうして君とも会えたし、僕はもう帰るとするよ。
じゃあな、レイフィード。それと、君らも」
気だるそうに手を挙げて、グエンは立ち去った。
小さくなる背中を見ながら、レイはぽつりと呟いた。
「……なんだか、前よりも機嫌よさそうでしたね」
「そりゃそーでしょーねー」
「え? どうしてですか?」
「………………街中で、偶然かわいい女の子3人に会えたからじゃないの?」
「はぁ、なるほど」
素直に納得するレイに、ミリルは大きなため息をついた。
◇ ◇ ◇
宿を取ってから、3人は上級学校を訪れた。
教務室で教師と話をし、一応上級学校卒業の言葉をもらうものの、はっきり言って形だけのものだった。
他の生徒はすでに解散していた。卒業試験を受けた者も同様とのことであった。
レイたちは、寮の部屋で必要な私物を回収しに行った。
ティオの部屋が一番物があったのだが、大半はハンターとしては不用なものであり、後にティオの家の使用人が回収しに来る手筈となっていた。
それぞれの用事が終わると、レイ達は寮の廊下で合流した。
「……そういえば、私やミリルも、正式にとして卒業できましたけど、いろいろといいんでしょうかね。
氏名を偽装し、ハンターであることもバレてしまいましたが」
「いーんじゃないの? そもそも、学校側にはアーノルドっていう絶対に黙ってて欲しい醜聞があるわけだし。
ねーさんと私のことなんて小さなことだよ」
ミリルの言葉に、レイはなるほどと頷いた。
外に出ると陽は沈んでいて、薄く照らす月明かりを頼りに歩いた。
「もっと早く着けば、先生だけでなく生徒にも会えたのでしょうね。
二人とも、挨拶をしたい人もいたでしょ? これから会いに行く?」
「いえ。会えなかったのは残念ですけどね。
結局皆さんを騙していた手前、後ろめたいところもありますし」
「ならドルドレーグのとこならいいんじゃないの? ナナミさんなら、私たちのこと知ってたわけだし」
「……えぇ。そうですね。
明日になったら、屋敷を伺ってみましょうか」
「それがいいわ。
きっと彼らも、貴女たちとは話をしておきたいでしょうし」
と、3人は学校を出ようとしたところで足を止めた。
門のところで待ち構えていた男女、ナージュとマリーに気づいた。




