第65話 なんとかなるなるー
アサシン、アーノルドの襲撃を撃退してから間もなく。
ミリルは感情を爆発させてティオから離れることがなかったため、二人はミリルの部屋へと向かった。
再襲撃の可能性は低かったが、念のためレイは部屋の前で待機していた。
やがて、落ち着いたミリルに、ティオは今日のこと、そして自らの力のことを語った。
「……そっか。だからティオさん、最初の頃は他人とあまり関わろうとしなかったんだ」
「ええ。でもいつの間にか貴女たちに感化されたのか、あまり気にしないようになっていたけれどね」
「うん……。
でもさ、ティオさんはこれからどうするの?
本当にティオさんのお母さんが裏で手を引いてるなら、家に戻るのって危険すぎるよね」
「そうね…………今回の件でしばらくの間はお父様が警戒してくださるだろうけど、それもずっとは無理でしょうね。
だから私は家を出るつもり。せっかく上級学校にも通ったのだし、ハンターとしてやっていこうと思うわ」
「え!? で、でも、そんなこと、あっさりと決めていいの!?」
「私には兄も姉もいるし、跡目については問題ないの。
それに結婚するにしても、トラブルを背負った娘を嫁に取ろうとする物好きなどいないでしょうから。
両親には多少何か言われるかもしれないけれど、本気で私が家を出るのであれば止められないと思うわ。
お父様は、あまり強くは出られない性格だし、お母様は家に不利益が及ばなければ話のわからない人ではないから」
「な、なるほどー。
……うん。それなら、ティオさん、私たちと一緒に行こうよ!!」
「え? …………いいの?」
「あったりまえだよ!!
っていうか、本当はティオさんのお母さんの話聞いたときに言おうと思ったんだけどさ……やっぱり貴族のお嬢様だと、あれやこれやフクザツな事情があるのかなって思っちゃって…………。
ティオさん、結婚の話とかよくしてたし。もしかしたら、言わないだけで婚約とかしてるのかなーって」
「幸か不幸か、そんな話はまだ上がってなかったわ。
お父様もお母様も、私が上級学校に入る前は、私の扱いについて決めあぐねていたところがあったし……。
でも、本当にいいの?
私は貴女たちと比べたら、まったく実力が伴わないわよ」
「へ? どうして?
だってティオさん、回復魔法使えるでしょ。しかもハイヒール。
それって中堅パーティくらいじゃ、なかなかいないよ」
「そうなの?」
「ハイヒールは魔法の難易度的にはCランクだけど、そもそも回復魔法が扱える人が希少だし。
経験不足を加味しても、ティオさんがどこかのパーティに入りたいって言えば、たぶん引くて数多なんじゃないかなぁ。水系統の魔法も使えるし、弓だって扱えるし」
「……でも、アーノルド相手には私は何もできなかったわ」
「そりゃ相手が悪いよ。姉さんがなんとかなったのは、例外中の例外と思ってくれていいから」
「だけどそれって、結局釣り合ってないってことじゃない?」
「…………えぇ? なんでそんなこと言うの?
ティオさん、ひょっとして私たちと来るのヤなの?」
「そんなわけないでしょ。でも、今までとは違うから……」
「そりゃ違うけどさ。だったら、変えていけばいいじゃん。
今でもティオさんの力は十分だと思うけど、それでも納得できないんだったら、変わればいいだけだよ!
はい、これで万事解決ね!!」
「…………もう。
でも、そうね。半年前はこんな風になるだなんて夢にも思わなかったし。
変わればいいのなら、変えてみせるわ」
「あの、ティオさん? 別に無理する必要はないからね?
っていうか、私は変わらなくてもいいと思ってるからね?」
「ありがとう、ミリル。
私、がんばるから」
「……ティオさんて、たまに人の話聞いてくれないよねぇ」
「あとは、レイにも話さないと。
…………いいって、言ってくれればいいけど」
「またまたぁ。姉さんがダメって言うわけな……………………あ」
「ミリル?」
「いや、うん、なんでもないよ……」
(あああああああ!? どうしよう!? ティオさんがこのまま一緒だと、姉さんずっと姉さんのままじゃん!? それどーなの!? いっそ、正直に姉さんのことぶっちゃける!?
…………いや、でも待てよ?
姉さんて、別に女装しててもしてなくても、あんまり変わらなくない?
…………………………………………うん。あんまり変わんないよね。じゃ、問題ない?
いやいや! それでも、いくら姉さんとはいえ、ずっと一緒に行動してればさすがにバレちゃうよね?
しまったぁー、まさかこんな難問にブチ当たるなんて……一体、どーしたらいいのさ!?)
「…………レイは反対するかしら。
レイって、意外とシビアなところがあるものね」
「そ……んなこともないんだけども…………。
と、ときにティオさん!? た、たとえばなんだけど、もしもね? もしも、途中でパーティメンバーが増えるとかあったとして、そのときに男の人が加入するとかあったとしても…………問題ないよね?」
「増える予定なの?」
「いやいやいや! たとえば! たとえばの話だよー!
…………たとえばなんだけどね。周りのパーティでは、そういうこともよくあるって聞くからさ。
私と姉さんは、ずっと二人でやってきたんだけど、一応ね。揉める原因にもなるし、あらかじめ聞いておこうと思ってさ!」
「そう。そうね、問題ね」
「うん、問題ないよ…………あるの!?」
「私自身は少し抵抗はあるけど、事情によっては構わないと思うわ。
でも、お父様とお母様がそのことを知れば、きっとその男性に多大な迷惑がかかるわね。
お父様は、少し過保護なところがあるから、おそらくその人を追い出そうと躍起になりそう。
お母様は、私にも何を考えてるかわからないところがあるから。一体何をするか…………正直に言って、その人が無事である保証はできないわね」
「そ、そっかー……あはははは!
ま、まぁたとえ話だからね! ミリルも、わざわざ男の人を加えようとは思ってないから!」
「そうしてくれるとありがたいわ。
もしも男性を加入させるときは、私が出ていくほかないもの」
「それはダメだよ!? それじゃ本末転倒だよ!?
わ、わかったよ!! 男の人はパーティに加えない!!! これが私たちの不文律ね!!!」
「…………ええ。そうしてくれると助かるわ」
「と、ところでね、ティオさん。話は全然変わるんだけど……。
知ってると思うけど、姉さんは裸見られるのすっごい恥ずかしがる娘ちゃんなんだけど、着替えも恥ずかしいみたいでね。できれば、いや、絶対に別々に着替えて欲しいの」
「そういえばそうだったわね。でも、私が着替える分にはいいんじゃないの?」
「ダメダメダメ!! 最近はね、姉さんったら裸見られるのも見るのもダメになっちゃってね!? 人が着替えてるのも気にするようになっちゃってね!?
そう! だからミリルも着替えは別々にしてるんだよ!? 姉妹で何言ってんのって感じだけどね!? もー、ホントしょうがないよね我が姉ったら!?
でもねー、こればっかりはねー、性格だからさ? 無理矢理直そうとするのもねー? なんかねー?」
「……わかったわ。
レイったら、相変わらず可愛らしいところがあるのね」
「ホントねー! どんだけ乙女だって言うのよねー?」
(こ、これでセーフ? セーフなの!?
でもこれ以上はどーしょもないよね!? あとはもう、どーにでもなれだよ!!
だいじょぶ、だいじょぶ。なんとかなるなるー…………よね?)
◇ ◇ ◇
頭を抱えるレイを前にして、ミリルは心の中で合掌した。
しかしミリルは心を鬼にして、レイの説得を図った。
「姉さんが言いたいこともわかるよ?
でも一番の問題はね、ティオさんは家を出たとはいえ、絶縁されたわけじゃないんだから。
エルリエールの名を出すことはないけれど、どこからティオさんのことを嗅ぎつけられるかわかんないでしょ?
伯爵家の娘が家を出て、男と一緒に旅してます、なーんて話が広がったらまずいでしょ? 駆け落ちしたようにしか聞こえないじゃん」
「…………ですかね。
でも、それだってティオさんに黙ってもらっていれば……」
「いやー、ティオさん、意外と天然なところもあるし。男に免疫もなさそうだし
たとえ姉さんのこと許してくれたとしても、きっと今までどおりの態度ではいられないと思うよ?
それで周囲にもおかしいことが伝わって、じきにバレるっと」
「う……」
レイにも想像ができるのか、思わずうめいてしまう。
「伯爵さまだって、愛娘が男と旅してるーなんて噂耳にしたらすっ飛んでくるよ。
いくら姉さんでも、伯爵さまは倒せないでしょ」
「当たり前です」
「だったら無駄な危険は犯さずに、今は現状維持が一番でしょ。
大丈夫! 姉さんは筋金入りのかわいさだから!! 普通にしてればどっからどー見ても可憐な女の子だから!!
ポロンっと見せなければ大丈夫だから自信をもって!!」
「……その自信、私にとっては世界で一番いらないものに分類されますね」
特大のため息をつくレイに、ミリルは体当たりするように腕に抱きついた。




