第64話 打ち明ける? 打ち明けない?
レイフィード、ミリル、ティオニアは屋敷を出た。
外へと出る際、中での話が伝わっていたのか、それとも屋敷に残るものと思っていたティオが屋敷を出ようとしているからなのか、レイたちは使用人から奇異の視線を受けていた。
やがて屋敷が見えなくなるまでに歩いたころ、
「いやー、言ってやった言ってやったねー!! もー超すっきりした!!
ティオさん見た? 最後の方なんて伯爵様ずーっと下むいてるんだよ。形無しだったねぇ」
すーっとした表情でミリルがはしゃいだ。
「お父様のあんな顔、初めて見たわ」
「言い返してこなかったってことは、図星の部分があったんだろーねー。
それに引き換え、ファリエル様はなんていうか怖かったねー。あの人が黒幕なんでしょ? 姉さんが何言ってもどこ吹く風で、顔の皮の厚さが半端ないよね」
「ミ、ミリル? そんな大きな声は…………それに、ティオさんのご両親ですよ?
あまり失礼なことは……」
「えーー。だって、今回の発端をつくった人と、それを容認しちゃってるような人なんだよ? たとえティオさんの親だろうと、関係ないね!!」
ミリルはふんっと言い切ってから、
「って本心では思ってるけど……。
ティオさん、二人のこと悪く言ってごめんなさい」
殊勝に頭を下げた。
「いいわ。両親のことは尊敬しているし、以前の私なら納得してしまっていたでしょうけど。
今は、反発したい想いが強いから」
「わぁお、反抗期ってやつだね!」
「そうかもしれないわね。私、今まで親に逆らったことなんてなかったもの」
爽やかな顔をするティオに、レイは心中でひたすら謝罪した。
(ニーグレッツ様、ファリエル様、この度の数々の無礼、本当に申し訳ありません!
ほとぼりが冷めた頃、ティオニア様はお帰りになりますので、どうかそれまでお待ちください!)
レイは、ティオの両親と話をする前は、二人にあまりいい感情は持っていなかった。
特にファリエルに関しては、ミリルの言うとおり今回の一件の発端となった者である。
しかし、直接顔を合わせて話をしたところ、レイにはファリエルが権力のみのためにティオを利用しようとしている、とは思えなかったのだ。
(アーノルドの行動も不自然でした。
取引きのためとは言っていましたが、いくら報酬がよくなるとはいえ、あの時わざわざ私を待つ理由には薄いです。
もしかしたら、ファリエル様がティオさんを一人にしないため、そのような依頼をしていたのかも……)
都合のいい考え方ではあるが、レイにはその可能性が捨てきれなかった。
「でもさー、ティオさんのお父さんはまだしも、お母さんの方はやっぱりどうかと思うなー。
娘を暗部に売ろうとするなんてさ」
「お母様は、家を一番大事にしているの。
どうすれば、エルリエールの家が一番発展できるかを考えた結果でしょうから。
私は少し苦手だけれど、根っから悪い人ではないのよ」
「もー、ティオさんは甘すぎるよぉ。
……ま、今回は姉さんが言ってやったし、いいけどね。
それよりも、早く戻らないと」
「日程的にはギリギリね。学校に戻ったときに、すでに卒業扱いになっているとしたら残念だわ」
「半年も通ったんだからね。どーせなら、ちゃんと卒業したいもんね。
ほら、姉さん! いつまでも下向いてないでちゃっちゃと歩いてよ!」
「…………えぇ」
「ミリル。私先に行って馬車の手配をしてくるから。レイのこと、お願いね」
「うん! 任せて!」
ティオが小走りで駆けていった。
「ほら。姉さんもいつまで、やっちゃいましたー!? って顔してるの?」
「いえそれもあるんですが……今後のことを考えると気が重くなりまして……。
ねぇミリル。私、やっぱりティオさんには正直に話した方がいいと思うんですよ。本当は、私は男だと」
「ダメ」
すげなく否定するミリル。
「そ、そんなバッサリと………………確かにティオさんにとってはショックかもしれないですけど、このまま嘘をつき続けるなんて無理ですよ。
学校では部屋は別でしたけど、今後共にパーティを組んで行動するなら同室で過ごすことも多くなるでしょうし、性別を偽り続けるなど不可能です。
このようなことを打ち明けるなんて、普通に考えれば論外でしょうけど………………今ならもしかしたら、誠心誠意謝罪すれば、騙していたことを許してくれるかも、しれないかも? しれないんじゃあ、ないかなぁと思うんですが……?」
超自信なさげなレイに、ミリルはぴっと人差し指を立てた。
「ティオさんに姉さんのことを言ったとして、ミリルにもティオさんがどういう反応をするかはわかんないよ。
変態変態変態!! って罵倒してきそうな気もするし、案外ケロっとしてそうな気もするし」
「う、うぅ…………」
レイが懊悩する。
罵倒されるのはもちろん嫌だが、かといって受け入れられるのもそれはそれで嫌だった。複雑な漢心である。
(まぁ、姉さんの心配はもっともなんだけどね……)
頭を抱えるレイを前にして、ミリルはその日のことを思い出していた。




