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第63話 かわいい娘とは旅をさせよ

「馬鹿なことを!? ハンターなど、お前にできるはずがないだろう!?」


「そうでしょうか? 私はこの半年で強くなりました。レイからの報告でご存知ですよね?」


「少しくらい魔物を討伐したからといって、それがなんだというのだ!! お前はこのエルリエールの娘なのだぞ!!!

 だいたい、お前は狙われたのだぞ!? まだ裏は取りきれてはいないが、お前を狙った大元の相手は王国の暗部である可能性が非常に高いのだ!!

 屋敷の中にいるのならともかく、のこのこと外に出るなど無事でいられるはずがないだろう!?」


「お言葉ですがお父様。エルリエールの家には、お兄様も、お姉さまもいらっしゃいます。

 私など、このエルリエールの家では、嫁に行くことでしか貢献することはできません。

 しかしそれすらも、私が暗部に目をつけられているのでは満足にこなすことができません」


「それがどうしたというのだ!? お前をむざむざ外へと出して危険に晒すわけにはいかんだろう!!!」


「ある程度の危険は承知の上です」


 興奮するニーグレッツに、ティオは一歩も引かない。

 ファリエルは探るような目で、レイとミリルを見た。


「あなたたちが、ティオニアに何かを吹き込んだのかしら?」 


「それは肯定とも否定とも言えますね。ティオニア様ご自身で決められたことですが、私たちも聞かれたことには正直に答えましたし」


「……報告書は私もひととおり見ているわ。学校ではそれなりにいろいろとあったのでしょう。

 もしかしたら、あなたたちとティオニアの間に、信頼関係ができているのかとも思っていたわ」


「そう思っていただいて構いません」


「でも、だからと言って娘を連れ去ろうとするのを、同意することはできないわね」


「お母様!? 連れ去るなどと、言わないでください!! 彼女たちと共に行くと決めたのは、私の意志です!!!」


 強い口調で言うティオに、ファリエルが冷たい視線を送る。


「屋敷にいれば、身の安全は確保できるというのに。それをわざわざ出ていくなど……。

 ティオニア、一体どうしたというのですか? 貴女はそのように聞き分けのない子ではなかったはずです。上級学校へ通ったことで、おかしな色へと染まってしまったのかしら?」


 ファリエルの言葉に、ティオはかっとなり口を開こうとして……


「お言葉ですが」


 涼やかな声が響く。


「お屋敷にいることが、本当に安全なのでしょうか?」


「な、何を言うのだレイフィード殿? まさか奴らが、このエルリエールの家にまで手を出すでもいうのか!?」


「ニーグレッツ様、そうではありません。王直轄の暗部といえど、そこまで強硬な手段に出るとは考えづらいです。

 しかし…………こちら側がティオニア様を引き渡すのであれば、問題はまったくありませんよね?」


「な、なに!? そんな馬鹿なこと……」


「ティオニア様の『力』については私もミリルも把握しています。

 その力を有効活用しようとする場合、暗部という部隊は非常に都合がいい。

 そして王直轄の暗部において有用な力を持つのであれば、それは政治的にも無視できない存在となります」


「だ、だからなんだというのだ!! まさか、私たちが娘を暗部に引き渡そうなどと思っているのでは……」


「まさかまさか、そのようなこと思うはずがないでしょう」

 

 動揺した様子のニーグレッツに、レイが可憐な表情で微笑む。

 レイの微笑みに、ニーグレッツもファリエルも見とれて思わず動きを止めた。


(あ……これ姉さん、切れたっぽい?)


 ミリルはレイの声の調子から、レイの感情を正しく読み取った。

 レイは目を細めたまま、優しげな口調で言葉を紡ぐ。


「ときに、ニーグレッツ様。こちらの依頼料なのですが……」


「な、なんだ?」


 レイは革袋をそっとニーグレッツへと押し返した。


「このお金で買おうと思います。ティオニア様の安全を」


「な、なに…………買う……?」


「ですから、ティオニア様の安全ですよ。

 彼女は身柄を奪われそうになったのです。それを護った報酬が、その金額なのですよね?

 ならばその金があれば、ティオニア様の安全は確保できると、ニーグレッツ様はそうお考えと捉えてよろしいですよね?

 ですので、そちらの報酬はお返しいたしますので、どうぞティオニア様のために有効にお使いください」


「…………」


 何も言えずにいるニーグレッツに向かって、レイが満面の笑みで手を広げた。


「ティオニア様は未だ狙われている可能性があります。

 そしてアーノルドは、ティオニア様の力をあらかじめ知っていて襲撃してきました。

 ……ニーグレッツ様、ティオニア様の力をもともと知っていたのは、どなたでしたか? アーノルドはどこからの情報で知ったのでしょうか?」


「そ、それは……」


「いえ、何事も例外はあります。もしかしたら十年前の件のメイドが、何らかの理由で今頃になって漏らしたのかもしれませんしね。

 ですが、現状すでに向こう側にティオニア様のことは伝わっています。

 屋敷内は全員が信用に足る方々なのでしょうが、万一のこともあるかもしれません。

 ここが確実に安全と言えるかは、いささか疑問が生じますね」


 レイの言葉に、ニーグレッツは苦々しい表情で俯いた。


「では、お話はまとまったようですので。

 私たちはこれで失礼いたします」


 レイが目配せをして、ティオとミリルが立ち上がる。

 と、それまで沈黙していたファリエルが口を開いた。


「待ちなさい」


 レイが視線を向けると、ファリエルが穏やかな表情で、目だけは鋭くし、


「レイフィード、と言ったわね。

 貴女たちにティオニアを護りきれるの? 今回はうまくいったようだけれど、今後ずっとそれが続くかしら?

 BランクやCランクのハンターに、それは可能なの?」


 優しげな口調で、しかし言葉には尋問するような雰囲気がつきまとっている。

 レイは、はっきりと答えた。


「ふりかかる火の粉は打ち払います。

 暗部も、崩壊の鐘も、他の何者も、一つたりとも例外はありません。

 たとえ何が来ようとも、すべて叩き潰しますよ」


「大した自信ね」


「ええ。こと、ティオさんを護ることに関してならば、私に勝てる者などおりませんから」


「そう。……さすが、魔獣級のモンスターを倒した者の言うことは違うわね」 


 ファリエルは穏やかな表情のまま、レイの目を捉えた。


「しかし、それだけの価値が、ティオニアにあるのかしら?

 わかっていると思うけれど、この家を出るのであれば私たちが納得しない限り、エルリエールの家名を口にすることは許されないわ。

 貴族の子女ではなく、ただの15の小娘に、それだけの価値はあるの?」


「ふふっ」


 レイは失礼を承知で、しかし我慢できずに噴き出した。


「ティオニア様が狙われている理由をお忘れではありませんか?」


「…………そうね。ただの小娘、とは言えないわね。

 なるほど、その力を利用すれば、十分に危険を犯す価値はあると……」


「そうですね。

 ですが、ティオニア様にその力を使ってもらうつもりはありません」


 レイはティオを見て、ファリエルへと目を向けた。


「ティオさんは、私たちの仲間で、大切な友人です。彼女を護るには十分すぎる理由ですよ。

 それにあの力を抜きにしても、ティオさんのハンターとしての能力は、決して私たちとも見劣りしません。

 彼女を、ただの小娘だとは、私には言えませんね」


「…………」

 

 ファリエルの目は深い碧色をしていて、レイにはその底を見ることはできなかった。

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