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第60話 だから今の私は無敵ですよ

 レイフィードは魔法が使えなかった。

 いや、正しくは、一般的に言われる魔法が使えなかった。

 それがレイには不満だった。


「私も、ミリルのような攻撃魔法が使えるようになりたいです!」


「うんうん、気持ちはわかるけどね。魔法はどうしたって向き不向きがあるから。

 それにレイの使える付与魔法だって、すごい力なんだよ?

 普通の攻撃魔法とかよりも、すっごいめずらしいし」


「嫌です!」


 滅多にわがままを言わないレイが、駄々をこねる姿に院長は頭を悩ませた。


「もう。どうしてそんなに攻撃魔法にこだわるの?」


「だってこのままじゃあ、ダメなんです。

 私は、強くならなくっちゃいけないんです。

 そうじゃないと、私は、私は…………うぅぅ……」


 泣き出すレイの頭を、院長は優しく撫でた。


「レイ。あなたはきっと強くなる。

 だって、こんなにも強い意志を持ってるんだから。

 だから大丈夫だよ。あなたにはあなたの力があるんだから」


「嫌ですぅ!! 私は今すぐ強くなりたいんです!!!」


「…………も~、本当に今日のレイはわがままだなぁ……」


 泣き止まないレイに、院長は困り果てていたが、ふと、思い出した。


「ねぇ、レイ。

 私の鄕に伝わる、おまじないを教えてあげる」


「………………おまじない? いたいのいたいのとんでけー、みたいな?」


「ううん。そういう気休めのじゃくなって、本物の呪い。

 人によっては、すっごい力を発揮するような呪いなんだよ」


「ええ!? それ本当ですか!? 教えてください!!」


「うんうん。私にはさっぱり使えなかったけど、レイならもしかしたら使えるようになるかもね。付与魔法に似たところはあるみだいだし。

 ……これはね、簡単なようだけど、とーっても難しいコツがあるのよ。

 このおまじないは、呪文と、もう一つ必要なものがあってね、これがすっごく大事なの」


「なんなんですか、それって!?」


「それはね、ここよ」


 とんとんっと、院長がレイの胸を軽く叩いた。


「胸?」


「じゃなくて、はーと。要は気持ち、想い、ね」


「想い??」


「レイは、ミリルが大好きでしょ? それが想いだよ」


「べ、別に私は、ミリルのことなんか……」


「あはははは。じゃあ、私のことでいいよ。私も、レイが大好きだから」


「む…………先生なら……うん……」


「今感じてるのが、レイの想いだよ。それがもっともっと大きくなって、お互いの心が強くつながっていれば、きっとこのおまじないは使えるようになるから。

 だからレイ、君は強くなれるよ」


「そっかぁ……えへへへ」


「でも、おまじないばかりに頼ってたらダメだぞ。まずはレイ自身が強くならないとね!」


「うん! わかった!! ありがと、先生!!」




 ◇ ◇ ◇




 ミノタウロスの斧が降りおろされる。


「レイ!!!!!」


 ティオニアの叫びと同時に、


「ヴェンスエーレ」


 レイは小さな声で、しかしはっきりと、呪文を唱えた。

 瞬間、レイの身体は風のように軽くなる。

 人が受ければ武器ごと両断されそうな斧による斬撃を紙一重で避けると、レイはミノタウロスの懐へと飛び込んで跳躍し、巨体の顎を拳で打ち上げた。


 ミノタウロスが宙へと吹き飛び、やがて地面に叩きつけられる。

 断末魔の声をあげることなく、ミノタウロスはぴくりとも動かなくなった。


「な…………一体、何が起こった……?」


 驚愕するアーノルド。

 巨体のミノタウロスが宙を舞うなど、とても想像できるようなことではなかった。

 おそるおそるティオニアが呼びかける?


「…………レイ……?」


「はい、なんでしょうか? ティオニア様」


 砂塵が舞う中から返答がある。

 レイはぱっぱっと砂を払い、散歩でもするかのような気安さで出てきた。

 ティオの前まで歩いて、手を差しのべる。

 ティオは無意識にレイの手をとって、立ち上がった。


「今の……もしかして、貴女がやったの?」


「そうですよ。私のとっておきの切り札なんです。

 …………なんて実は、何度かやろうとしてたんですけど、これがなかなかうまくいかなくてですね。

 もしかしたら、私の完全な一方通行だったのかなと、ちょっと凹んだりもしました」


 あははは、と笑うレイに、ティオは何度も瞬きをした。


「む、難しい技なの? ……ええと、魔法なの?

 あぁ!! それより、怪我は!? 大丈夫なの!?」


 慌てるティオに、レイは肩に手を置いて落ち着かせる。


「私は大丈夫ですよ。まだちょっと痛いですけど、今は大丈夫です。

 なにせ今は、とっておきのおまじないが発動してますから」


「……おまじない?」


「そうです。だから今の私は無敵ですよ!」


 力こぶをつくるレイに、ティオはぽかーんとしていた。

 いつもしっかりとしているティオが、少しだけだらしなく口を開けっ放しにしていた。


「ちィッッ!!!」


 アーノルドが舌打ちし、間合いをとって詠唱を開始する。


「先生、もうやめませんか?

 ティオニア様から手を引いてもらえるなら、私は貴方をどうこうするつもりはありません」


「ほざくなよ小娘ぇ!!」


 アーノルドが素早く詠唱し、5体ものミノタウロスが召喚される。

 獰猛に吼え斧を構えるミノタウロスを前にして、レイは躊躇いなくその身を躍らせた。


「グオオォォオオオォォオ!!!」


 襲い来る斬撃を軽やかに躱し、レイはミノタウロスを次々と殴り飛ばす。

 顔面を、頭部を、腹を殴打され、ミノタウロスはなすすべなく倒れ伏した。


 レイの圧倒的な力に、アーノルドは動揺を隠しきれずにいた。

 しかし、アーノルドはレイとミノタウロスが戦う間に、詠唱を完成させていた。 


「……我が呼び声に応え…………顕現せよ!! サイクロプス!!!」


 アーノルドの召喚に応じて、ミノタウロスと同等の体格を持つ、全身蒼色の一つ目の怪物が現出した。

 巨大な金砕棒を手にして、口からはみ出た牙が合わさるたびに音を鳴らしている。


「うわぁ、サイクロプスまで喚び出せるのですか……魔獣と比べても引けを取らないですよね」


「その余裕な態度、気に食わんな! ミノタウロスを倒したくらいで調子に乗るなよ!!

 Aランク中位の魔物相手にどこまでやれるのか、見せてもらおうじゃないか!!!?」


 向かってくるサイクロプスには目をくれず、レイはティオに離れるよう促した。

 無視されているのを理解したのか、サイクロプスは激昂する。

 その巨体からは考えられないほどの機敏さでレイの前へと疾走し、金砕棒を全力で振り下ろす。

 重装備の戦士であっても、鎧ごと叩き潰すような凶悪な一撃に対して、


「せいッ!!」


 レイは拳を固めて、殴り返した。


「馬鹿なぁ!!?」


「………………ウソ」


 非常識極まりない光景に、アーノルドとティオが目を見開いた。


「あいたたた……結構痛いですね。

 これはお返しです!」

 

 レイは跳躍し、金砕棒をかちあげられて体勢を崩したサイクロプスの腹を蹴り上げた。

 サイクロプスの身体はくの字に曲がり、すぐに激しく嘔吐した。


「おっと危ないですね。この服、替えはきかないんですから」

 

 レイはサイクロプスの吐瀉物がかかる前に、すばやく退いていた。

 サイクロプスは何度かえづいて落ち着いたのか、荒く息をしながら獰猛な眼でレイを睨みつけた。


「さすがに魔獣級と言われるだけはありますね。大した耐久力です」


 雄叫びを上げて、サイクロプスが再度レイに襲いかかってきた。

 レイは横撃してきた金砕棒を蹴り飛ばし、レイを捕らえようと伸びてきた手をよけて、


「くらいなさい!!!」


 レイは、サイクロプスの頭上へと跳躍する。振り上げた右足を、サイクロプスの頭に勢い良く振り下ろした。

 レイのかかと落としが決まり、文字通りサイクロプスの頭を潰した。

 サイクロプスは息を吐き出すように断末魔の声をあげて、ゆっくりと地に伏した。


 虎の子のサイクロプスが倒されて、アーノルドは全身から汗が吹き出す。


「……なんなんだ…………なんなんだ!? お前は一体!?」


「私ですか? ただのBランクハンターですよ」


「馬鹿な!? サイクロプスを倒せるBランクハンターなどいるわけがない!!!」


「と言われましても、ここにいるのですからしょうがないじゃありませんか。

 ……確かに私たちは、ギルドへの貢献度よりも依頼料を重視してますけどね。

 危険度の高い依頼は、ほとんど受けないようにしていますし。

 私達のランクは実力と比べると、低めになってるかもしれません」


「くっ…………」


 平然と話すレイに、アーノルドは空恐ろしいものを感じた。

 新たに魔物を召喚しようとしたが、アーノルドの魔力はすでに限界が近かった。


「…………っ」


 アーノルドはレイの動向を注視しながら、素早くその場を離れていった。

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