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第6話 素直な心も必要なのです

 レイフィードとミリルはティオニアの部屋を出て、ひとまずミリルの部屋へと移動した。

 二人が部屋に入り、レイは後ろ手にドアを締めた。


「…………」


「…………」


 レイとミリルが数秒間顔を見合わせて、同時に床に座りこんだ。


「き、緊張しました……」


 なぜか伯爵本人と会った時よりも、娘のティオと話したときの方がレイの緊張度は高かった。

 長期の護衛対象者で、どう接すればいいか迷っていたところがあることも理由のひとつである。


 伯爵からはティオは15歳と聞いていた。

 レイは16歳、ミリルは14歳であるため二人の間になるのだが、レイにはティオの落ち着きようは年上にしか思えなかった。


「実は私も結構どきどきしたよぉ。でもいい人そうで安心したなぁ。

 私、ティオさんのこと好きかも」


「少し冷たい印象はありますが、嫌な感じはしませんでしたね」


 どんな人間であれ護衛することにかわりはないのだが、やる気の度合いはどうしても違ってくる。

 過去の経験からもそれは明らかであり、レイもミリルも今回の依頼がうまくいくようがんばろうという気になっていた。


「ミリルはすぐに仲良くなれそうですね。

 いきなり敬語も外してましたし、本当にミリルは度胸がありますね」


「え? だってティオさんが敬語やめろって言ったじゃない。

 私そのとおりにしているだけなんだけど」


 きょとんとしているミリルにレイは苦笑する。

 ミリルは、何気なくすっと他人の心に入っていくところがあるのだ。


「ティオさんは私たちの偽りの素性についても信じているようでしたし、このまま友好的に接して護衛をしていくこととしましょう」


「うん。とは言っても、こんな学校の中で何かが起こるとは思いづらいんだけどねぇ。

 単に伯爵様が子離れできなくて、ティオさんの様子が知りたいだけって可能性もありそう」


「それならそれが一番ですね」


 ひどい親馬鹿具合を想像して互いに笑い合う。

 ひとしきり笑った後、ミリルが「あっ」と荷物を漁り始めた。


「ミリル?」


「えへへへ。さっき入寮手続きしたときにもらったでしょ。ばばーん!!」


 ミリルはそれを高く掲げた。

 紛れも無くライリッシュ学園の制服である。

 戦闘訓練も前提としているのだろう。制服としての機能は備えているが、動きやすさも重視されているようだった。


「ちょっと着てみるね!」


 言うが早いか、いきなり服を脱ぎだした。

 レイは内心複雑な気持ちになりながらも、慣れた様子で反対側を向いた。


「ミリル、張り切ってますね」


「というか、結構楽しみかな? 制服だってかわいいし…………ほらっ、どう?」


 見事な早着替えである。

 謎のポーズを取ったミリルの制服姿は、家族としての欲目を引いても端的に言って似合っていた。


「かわいいですね。初めて着たとは思えないほどしっくりきてます」

  

「えへへ。ありがと。それじゃあ、姉さんも来てみよっかぁ」


「い!? わ、私は……明日からでいいです」


「えぇぇ。せっかく姉妹揃って制服デビューと思ったのになぁ。

 ま、おたのしみはとっておくよ!」


 ミリルは悪気全開で、いっそレイは清々しい気分になった。でも今日は絶対に着ない。


「さて、私も部屋に戻りますね。

 私たちも荷物の整理をしないといけませんし。

 これから半年間はこの学校にいるのですから」


 レイは立ち上がり、部屋を出ようとドアへ歩いていく。


「……うん」


 急に沈んだ声になったミリルに、レイはどうしたのかと振り返った。

 

「ミリル?」


「あはは。……その、ごめんね。ローズレイクでは勝手に依頼受けるようなこと言っちゃって。半年って長いよね」


「今更それを言いますか?」


 あきれた口調で返すレイに、ミリルはうっと詰まる。


「確かにあのとき、ギルドのユウカさんはいっぱいいっぱいでしたし、伯爵様自ら来られていますから結局は依頼を受けることになる可能性は高かったでしょう。

 ですが、もし万が一私たちには難しい依頼だと判断すれば、お二方にどう思われようとも私は却下していましたよ」


「うう……だよね」


「ミリルは私から見ると大胆なときがありますが、それでもあのような考えなしの行動をしたことはなかったと思います」


「……うん」


「だから、今度からはちゃんと私とも相談してくださいね。私も……今後は『女性限定依頼』だから、というだけで却下などしませんから」


「…………わかった。ごめんね。姉さん」


「それでは、この話はこれで終わりにしましょう。

 荷物整理に手伝いが必要なら呼んでくださいね」


 レイはぱんっと両手で柏手を打ち、にっこり笑って水に流すよう言う。

 振り返って今度こそドアに手をかける。

 その瞬間ミリルはたまらなくなって呼びかけた。


「あの、姉さん! 本当はね、私、依頼の詳細なんて興味なかったの!

 私、私…………兄さんと学校行ってみたかったの。この依頼を受ければそれが叶うんだって思って、それで気づいたら受けるって言っちゃってて……。

 だから、だから、勝手に受けてごめんなさい…………あと、断らないでくれてありがと」


「……ミリル」


「ほらほら、私も荷物整理するから。あとで一緒に食堂行こうね。

 寮生は無料だって言うけど美味しいのかな? 楽しみだね!」


「あ、っと……」


 ミリルはそそくさとドアを開けて、レイを廊下へと押し出してしまった。


(……ミリルが照れた顔って、久々に見ましたね)


 レイは自分の部屋に戻り、ベッドに転がる。

 新品と見まごうほどのシーツは、レイを柔らかく包んだ。


 孤児院出身の自分たちは、院長でもあるシスターが親代わり、先生代わりであった。

 学校に通う余裕など、あるはずもなかったのだ。

 普通の子であれば普通に通えたであろうそれに、レイも興味があるかと問われれば是であった。

 

「まったく、妹は本当に得ですよね……」


 この調子ではきっと、また自分はミリルのワガママを聞いてしまうのだろう。

 それでもいいかと、レイは思うのだった。

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