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第53話 開戦

 上級学校の敷地内では各所で喧騒が生まれていた。

 その中でも特に騒ぎの大きな場所は屋外の演習場であった。

 今日の授業初めは実践形式の訓練からであり、ほとんどの生徒はすでに演習場に生徒が集まっていた。


 演習場には、何人もの怯える生徒と、どこからか現れた多数の黒ずくめが対峙していた。

 数は双方三十程度だが、戦力差は火を見るよりも明らかであった。

 数人の黒ずくめが前に出て、


「……上級学校生徒諸君。この状況の意味するところ、諸君らであれば察することができると思料する。

 抵抗せず、我らに同行するならば手荒な真似をするつもりはない。

 が、従えないのであれば容赦はせん。問答の必要はない。手早く始末させてもらおう。

 さぁ。生か死か、選ぶがい…………」


「バースト・フレア!!」


 耳をつんざくような爆裂音。

 黒ずくめの台詞が終わる前に、ミリルが突き出した両手から魔法が放たれた。

 黒ずくめたちは中距離からの炎爆魔法に直撃され、軽々とボールのように吹き飛ばされ戦闘不能に陥った。


「な!? 貴様!?」


「話が長いよおじさん。要は私たちを誘拐しにきたんでしょ? 私は反対するから、かかってきなよ」


「くっ!? 上級学校の生徒ごときが粋がるなよ! 木っ端貴族の分際で!!」


「残念だけど、私は貴族じゃないんだよね」


 そうしてミリルは生徒たちを振り返った。


「私は、ミリル。Cランクハンターのミリルです! ここは私が引き受けます! みなさんは下がっていてください!

 でもあんまり遠くには行かないでね! どこに敵がいるかわからないからっ!!」


 生徒たちは困惑しざわめきながらも、ミリルの言葉に従い後ろへと下がっていく。

 ミリルの実力は生徒たちが知るところであり、その言葉には確かな説得力を感じた。生徒たちは状況が理解できないながらも、パニックになるようなことはなかった。


「はっ!! ハンターといえど、Cランクごときが我らの相手になるものぐぁああ!?」


「不用意に近づいてくるとは愚かですね」 


 ミリルに襲いかかろうとしていた黒ずくめを、レイフィードが斬って捨てた。


「あ、姉さんってば、どこ行ってたの!?」


「ティオニア様の部屋から出て、手近な黒ずくめを相手にしていました。

 予想はしてましたが、随分と不穏な状況ですね」


「そーだよ。殺気ダダ漏れだし、こいつら一体何考えてるんだか……」


 後方に控えている黒ずくめたちに緊張が走る。

 レイとミリルを前に、黒ずくめたちは慎重に間合いをとっていた。


「こいつら、できるぞ……」


「ああ、油断するなよ」


 ミリルの魔法は確かに数人の黒ずくめを打ち倒したが、あくまで不意打ちによるものだった。

 しかし、レイの鋭い一撃は純粋に実力差によるものだと、黒ずくめたちは痛感していた。


「彼らはアサシンで間違いないでしょうね。

 別の場所で戦った相手は、動けない程度に傷を負わせたら、あっさりと自爆してきました」


「げぇ。ホント危ない連中だなぁ。

 でもアサシンの割には、派手に動いてるよね」


「そこは私も気になっています。

 ですが、彼らの後ろにいるものが国であるならば、ここまで目立った動きをしても問題はないのでしょう」


「え? 国? 敵国ってこと?」


「違いますよ。それでは騒ぎをもみ消すことは容易ではありません」


「なにそれ……じゃあこの王国内ってこと!?」


 レイは頷く。


「ええ。彼らは王国の暗部。

 ここは市街からは離れてますからね。多少の無茶はいくらでももみ消せるのでしょう。

 限られた者の暴走、という線はありませんね。この上級学校には幾人もの貴族のご子息さまがいらっしゃいますが、上流と呼べる関係者の方はいらっしゃいません。

 ……こんな強引な方法で彼らを捕らえたとして、一体だれが得をするのでしょうね」


 これに、黒ずくめたちは大いに動揺した。

 隊長格の黒ずくめが慌てて声を上げる。


「貴様!? 一体どこまで知っている!?」


「ふふっ」


 黒ずくめの問いに、レイは怪しく笑うのみ。

 

(え? 姉さんなにか知ってるの?)


(まさか、ずっと上級学校にいて、王国内部のごたごたなど知るわけないでしょう)


(じゃあハッタリ!? 怪しい笑み浮かべないでよ!? ミリルまで騙されちゃったよ!!)


(それよりもミリル、さすがに数が多すぎます。散開されたら手の打ちようがありません。

 敵の戦意をできるだけ削ぎますよ。私も全力でいきます)


(りょーかい!)


 詠唱を開始するミリルは下がり、レイが前に出る。

 レイはゆらりと片手で剣を持ち、散歩でもするような気安さで歩く。


「くそっ!! 外部に漏らすわけにはいかん!! この2人だけは絶対に殺せ!!」


 4人の黒ずくめ――アサシンたちが弾かれたようにレイに襲い掛かる。

 レイは歩きながら歌うように口ずさんだ。


「アンリミテッド・パーミッション」


 レイの魔法に反応して、一瞬レイの剣が輝く。

 レイは襲い来るアサシン達の短剣をすべて迎え撃ち、


「な!? ……ば、ばかな!?」


 アサシンの短剣は例外なく大きく弾き飛ばされた。転がっていく短剣はすべてひしゃげている。

 通常、武器を手放す愚など犯さないはずのアサシンであったが、レイの剣撃は抗うことのできない圧倒的な力が込められていた。

 注意の逸れたアサシンたちに、レイは拳で、蹴りで、柄で打撃を与え次々と打ち倒した。


「……そうか、貴様、魔法剣士…………付与魔法の使い手か!」


「ご明察です」


 レイは不敵な笑みを浮かべて剣を構える。


 付与魔法とは、剣や槍等、自分の手にしてる武器になんらかの効果を付与する魔法である。

 武器の切れ味を鋭くしたり、武器の重さを軽くしたり、逆に重くしたりすることができる。


 付与魔法は、攻撃魔法や補助魔法のようにメジャーな魔法ではない。回復魔法よりも希少である。

 そして、その威力は個々人によるものが非常に大きく、強さはまったくの未知数であった。


「私の魔法は、武器の頑強さを増し、より強い力を武器に伝えること。

 私の腕でも、剛力を持つ戦士と打ち合う程度なら、訳ありませんよ」


 レイの言葉に、アサシンたちは一度大きく間合いをあけた。

 ミリルが詠唱しているため、距離を取れば一方的に魔法を使われることは承知していたが、来るとわかっている魔法を避ける方がレイと無策で斬り合うよりも安全だと判断したのだ。


(……これで少しは時間を稼げます。

 先生方が来てくれればやりようはあるのですが、未だくる気配はありません。そちらはそちらで手を打たれているのでしょうか)

 

 レイは、ちらっと後ろの生徒たちをかえりみる。

 怯える生徒たちの中には、槍を構えた赤髪のメイドと、育ちのよさをうかがわせる黒髪の少年も混ざっていた。


(ナナミさんは、ドルドレーグさんを護るのに手一杯……今いる他の人たちでは、アサシンを相手にするのは危険すぎますね)


「ミリル、魔法はそのまま維持していてください」 


 こくりとミリルが頷く。

 いつでも魔法を放てるように維持するためには集中力を要する。気を抜けない状況に、ミリルの気力はじりじりと削られていった。

 アサシンたちは、どうやってレイたちを排除するか逡巡している。

 その間もレイは不敵に笑みを浮かべながら、思考を繰り返していた。


(このままだとジリ貧…………勢いでぶつかって倒せない相手ではありませんが、数が数です。一気に片を付けられるかは賭けになりますね。

 私の付与魔法は威力こそはありますが、発動時間はあまり長く持たないし、何度も使える魔力はありません……。

 なにか、いい手はないでしょうか…………なっ!?)


 レイは一瞬自分が幻でも見たのかと思い、実際に目をこすった。

 しかし目の前の光景は変わることはなかった。


「な、な、なんなんだこいつはぁ!?」


 動揺するだけのレイとは違い、アサシンたちの混乱は深刻である。


 虚空より現れたのはトロル。Bランク級の巨体のモンスターである。

 アサシンたちの前に現れたトロルは、残忍な嗤いを浮かべながら棍棒を振るう。

 その一撃は、間近にいたアサシンの防御をやすやすと打ち砕き、宙を舞わせていた。


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