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第5話 ご令嬢との初対面は穏やかで……

 レイフィードとミリルが、ティオニアの部屋へと入室する。


「……わぁ」


 自分たちの部屋とは違う、凝った内装にミリルは思わずため息が漏れる。

 豪奢な調度品が空間に主張しすぎない程度に設置されており、テーブルの上にはひと目で高級とわかるティーセットが置かれている。

 さすがにベッドに天蓋はついていないが、一人で眠るには充分すぎる大きさで、見た目からして寝心地は任せろという気合が伝わってくる。


 ティオニアの部屋は、二人の部屋よりも明らかに広い。

 同じ寮部屋でも、ものすごい格差であった。

 二人は部屋の入口付近で思わず呆然と立ち尽くしてしまう。


「座ったら? 立っている方が楽ならそれでいいけど」


「あ、いえ。失礼します」


「失礼します」


 レイとミリルはアンティーク調の椅子に座る。

 ティオニアは最初から机とセットになっている簡素な椅子に座っていた。


 椅子に座り、レイはティオニアの顔を初めてまともに見たが、ニーグレッツとはまるで似ていない。

 年は15歳と聞いている。切れ長で冷静な眼差しが印象的な、藍色の髪の美しい少女だとレイは思った。


「お父様から貴方たちのことは簡単にだけど聞いているわ。ネイフィードの地を治める分家の者ですよね。

 お父様と遠縁の関係にあるとか」


「はい。エルリエール伯爵には深く感謝しております。

 長らく顔も会わせていなかった私たちに、学校へと通う手配をしていただきました」


「遠方であるネイフィードから王都までの移動は大変でしたでしょう。

 お父様からは、貴女たちにの面倒を見るよう言われているわ。

 困ったことがあれば、私に遠慮なく言いなさい」


「ありがとうございます。

 ティオニア様のご配慮、深く感謝いたします」


「そう。なら私のお願いも聞いてもらうわね。

 さっそくだけど敬語はいらないわ。私を呼ぶのもティオで構わない。

 堅苦しいのは好きではないの。私に対しては身分について考えなくていいわ」


「……ええ。わかりました。あなたがそれを望むのでしたら、そのようにしますね、ティオさん」


「まだ少し固いわね」


「あの、私、妹のミリル・カーマインです。

 ティオさん、姉さんはこの口調が自然体なの。私に対してもこんな感じだし、あんまり気にしないでいいと思うよ」


「そう? ならいいわ。

 ……それにしても貴女たち」


 ティオは、レイとミリルの顔を交互に見比べている。


「…………」


 見比べている。


「…………」


 まだ見ていた。


「な、なにか?」


 とうとう視線に耐え切れなくなりレイが問うと、ティオはレイを上から下までじっくりと見つめた。


「貴女、この学校へと来た理由は何?」


「え……」


「まさかハンターになりたくて、などとは言わないでしょう? その必要はないものね」


「ええ!?」


 思わず声を上げてしまうレイ。


(え? え? ……まさかいきなりハンターだとバレているのですか!?

 そんな馬鹿な!? 会ってまだ数分ですよ!?)


(すっごーい!! やっぱりイイトコのお嬢様は違うんだなぁ)


 動揺するレイとミリルに構わず、ティオはさらに続ける。


「貴女のように愛らしい外見をしているならば、この上級学校レベルの男であれば、選り取りみどりでしょう」


「いや、そんなことは…………ん、んん?」


「私としては商人の息子を押すわね。貴族の子でまともな跡取りはいないと思っていいわ。没落した貴族の家や、どうにもならない次男三男に嫁ぎたいのならば止めないけれど」


「は、はぁ。……あの、一体なんの話ですか?」


「ここへは政略結婚のために来たのでしょう? 貴女のような子がハンターになどなれるとは思えないし」


 ティオの発言にレイは丸太でぶん殴られたようなダメージを受けた。

 隣でミリルがキラキラと目を輝かせている。


(さすが姉さん! 男と思われないどころか、すでにお嫁さんになる話が前提だなんておそろしい娘!)


(なぜですかああああああああああああああああああああ!!!)


 心中で血涙を流すレイ。

 レイは、「私はれっきとした男でBランクハンターなんです!!」と絶叫したいのをぐっと堪えた。


 レイは気を取り直して、


「あの、ここってハンター養成所みたいなところですよね?

 そんなお見合いみたいなこと考えている人いるんですか?」


「何を言っているの? 確かにハンターとしての訓練もあるけれど、ほとんど建前みたいなものでしょう。

 確かに少数はそう考えてる人もいるでしょうけど、ほとんどは中流から下流の貴族とそれなりの商人の子の社交場じゃない」


「……そうなんですか?」


 レイにもミリルにも初耳であった。

 が、ミリルはレイを半眼で見つめた。


(姉さん……やっぱり天然だよね。私、それ気づいてたよ。

 学校の設立経緯がどうあれ、貴族でハンターになろうとするなんて普通はいないでしょ)


(ええ!? なんでそれ言ってくれなかったんですか!?)


(言ってもどうにもならないし……言わないほうが面白いかなァって) 


(ひどい)


 もはや気力も絶え絶えなレイに、ティオが首をかしげる。


「その様子だと、本当にまだ結婚は考えてなさそうね。

 でも少しは視野に入れておいた方がいいわよ。相手は待ってくれないから。

 もちろん貴女もね」


 ティオの視線に、ミリルは「はーい!」といい返事をした。

 レイにだけはわかる超空返事であった。

 

「……今日はこのあたりにしましょうか。

 貴女たちもでしょうけど、私もまだ寮についたばかりで疲れているの」


 ティオの言葉に、レイとミリルは席を立つ。

 顔合わせとしては充分だろう。レイの心労だけは半端ないが。


「わかりました。それでは明日からよろしくお願いしますね」


「おやすみなさ~い」


 ティオが「ええ」と返事をするのを確認して、レイとミリルは部屋を後にした。

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