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第38話 演習当日

 ダンジョン演習当日。

 レイフィードをはじめとした生徒たちは、アーノルド等教師達の案内で街外れにあるダンジョンへと来ていた。

 このダンジョンは小高い丘をくりぬいた形で作られており、地下へと潜っていくタイプである。


 居並ぶ生徒の数は十名程度。

 でぇと権なる賞品により、当初は参加者が急増したが、生半可な覚悟の者に苛立ったナージュが戦闘訓練で可愛がったため結局いつもの演習とあまり変わらない参加人数となっていた。


「以前に説明したとおり、通常のダンジョンでは灯り等は必須だが、このダンジョンは過去の宮廷魔術師により作られた場所だ。

 魔法による灯りで視界は確保されているから松明等は必要ない」


 アーノルドの説明を生徒たちは黙って聞いている。

 すでに聞いた話だったので退屈そうにしている者もいたのだが、


「それから、今回の演習は単独で入ってもらう。

 武器防具を除いたアイテムの持ち込みは禁ずる。演習前に所持品の検査を行うからな」


 何気なく言うアーノルドの言葉に、生徒たちは大きく動揺した。

 構わずアーノルドは続ける。


「ダンジョン最奥の部屋までたどり着いたものを合格者とする。

 合格者には『でぇと権』を進呈する。

 それでは、皆向こうで検査を受けるように。持っていたアイテムは私たちが預かっておく。

 検査を受けた者から地上に戻るための転送アイテムを渡すからな。これを使用したものは失格となるが、状況を自分で見極めて使用することを躊躇うなよ」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 魔法使いの男子生徒が手を挙げる。


「どうした?」


「単独ってなんですか!? それに学校ではアイテムの持ち込みができないだなんて言ってなかったじゃないですか!?

 もう用意だってしてしまいましたし、今更言われても困りますよ!」


「今回の演習は自身の実力がどこまで伸びてきたか、及び応用力を測るものだ。

 アイテムの準備をして万全の状態を確保するのも大事だが、それらは次回に使うんだな。頭を悩ませて準備をした時間は無駄にはならないぞ」


「いや、でも僕なんか魔力切れたら戦うことなんてできないんですよ!?

 単独行動で、それもアイテムなしでどうすればいいんですか!?」


「それを考えるのはお前自身だ。

 さて、他に質問がある者はいるか?」


 アーノルドはきっぱりと言い切った。

 声を荒らげていた生徒は口をパクパクとさせて、うつむいてしまう。

 撃沈した生徒を見て、他の者たちは言いたいことはあるものの、言ったところで無駄であることを悟ったのだった。




 一人一人生徒達が教師から検査を受けている。

 簡単にやっているようだが、不意打ちの検査だ。

 アイテムを隠し持てる生徒は皆無であった。


「今回の参加はやめておきましょうか?」


 レイは転送アイテムを見ながら独り言のようにこぼした。

 転送アイテムはポーションが入っている瓶と同様のもので、これをぎゅっと握りこみ呪文を唱えればダンジョンの入口へと転送されるとのことであった。


「うーん、そだねー…………どうしよっか?」


 レイやミリルにとっても、このアイテム制限は完全に予想外だった。

 学校側がこの条件を出す理由については推察できるが、現状を対処できるかどうかは別だ。


 レイは剣士であるので、体力の続く限り戦うことはできる。 

 ミリルも、人並み以上の魔力を有しているため、そのあたりの魔法使い、ましてや上級学校の生徒と比べれば段違いに長期的に戦える。

 しかしティオはどうか。


 ティオの武器は弓で、あとは回復魔法である。

 双方ともに戦闘に対して有効な手段であるが、単独で挑むのであれば、かなりの実力がなければ厳しい結果になるだろう。


「どうして? せっかくここまで来たのだし、挑戦しましょう」


「「…………」」


 参加しない方向で話をしようとしているレイとミリルを、ティオは不思議そうに見ていた。

 ティオの返答に、レイとミリルは若干頬をひきつらせる。


(……なんだって、こんな思い切りがいいんでしょうか、ティオさんは)


(半分は姉さんのせいでしょ。脳筋理論で鍛えすぎちゃったんだよ)


(そ、そんなこと……)


(あるよね? この前の依頼じゃ、ほとんどティオさん一人でゴブリンのアジトを掃討しちゃったし……)


(あ、あれは、ティオさんがどれだけ実力をつけてきたかを自覚して欲しくてですね。

 この上級学校での数ヶ月でティオさんはかなり強くなりましたし、とくにここ最近の成長度合いにはめざましいモノがあります! 強くなるには訓練はもちろん重視すべきですが、自信を持つことも大事です!

 私はティオさんに今どれだけのことができるようになったかを自覚してもらい、自身の力になればと……)


(…………)


 熱く語り始めたレイに、ミリルは半眼で沈黙した。


(あ、いえ……)


(姉さんて、ホント馬鹿だよね)


 遠慮のないミリルの視線に、レイは頭を垂らした。

 自覚がある分、その言葉はレイに効く。


「ティオさん、単独行動って初めてだよね? いつモンスターに襲われるかもわからないし、結構神経使うから大変だよ?」


「そうかもしれないわね。でも、そうそう体験できることではないし、いい機会よ。

 転送アイテムもあるし、危ないと思ったらいつでも戻れるのだから」


 ティオ、やる気まんまんである。

 レイはティオから発される眩しい雰囲気を好ましいと思うと同時に、ミリルの視線を避けるためちょっとだけ顔を背けた。あっさりと回り込まれた。


(姉さん、貴族の子女様が単独のダンジョン・アタックをいい機会とか言っちゃってるんですけどぉ?)


(…………)


(まったく。後で伯爵様に『なぜ娘が脳筋になっている!?』とか文句言われても知らないからね)


 レイは顔を引き攣らせる。

 あまり想像したくない事態であった。

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