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第28話 敗北

 レイフィードとグエンが互いに剣を抜き放った。

 レイはなんの変哲もない直刀の剣。

 対してグエンはショートソードと通常の剣の間くらいの長さの剣を、左右に一本ずつ手にしている。


「王国の騎士さまが二刀流とは、面白いですね」


 通常、騎士は集団戦闘を前提にしている。

 剣、槍、弓、魔法。

 どれをとっても決められた型を踏襲するのが常だ。

 部隊員の実力を均一化するからこそ、部隊としての活動が可能になり、指揮する隊長はその結果を予測できるのだ。

 各々がバラバラに行動する傭兵でもなければ、二刀流などという常道から外れた者など通常は許可されるはずがない。


「僕の所属する部隊は特別さ。強ければ大抵の自由は押し通せる」


「それはわかりやすくて結構ですね。今もそれにならうとしましょうか」


「…………」


 レイの挑発を無視してグエンは半身になり上下に剣を構える。

 完全に戦闘態勢に入った。


 傍で様子見していたアーノルドがあきらめたように宣言する。


「……えー、これより特別試合を開始する」


 互いに剣を抜き放っているのだ。

 冗談で済む雰囲気はとうに通り越している。とても止められる状況ではない。

 周りの教師たちも容認していた。というより面白がっていた。教師たちは元ハンターということもあり、いい性格であった。


「両者準備は…………いいようだな。では開始!」


 ヤケと投げやりな気持ちでアーノルドが合図をした。

 ざわめく観衆。レイ達の声はほとんど聞こえていなかったが、険悪な雰囲気になっていくのだけは伝わっていた。


「なんだからよくわからないけど……姉さーん!! 騎士なんて関係なーい! やっちゃえ~~!!!」


 深いことは気にしないミリルが能天気に声援を送る。

 呼応するように、生徒たちもノってきた。近衛騎士であるグエンを応援する声も上がる中、


「レイフィード様ー、生徒の代表としてがんばってくださいねー」


 無責任に焚きつけるナナミの姿があった。

 ティオニアがナナミの肩を叩く。


「あの、なぜ彼女はあの騎士と戦うことに……?」


 ティオが顔に影を落としている。

 レイの強さは知っているつもりだが、さすがに近衛騎士相手では勝負にならないと思っているのだ。

 これが騎士グエンが特別に指導するという形であれば理解もできるが、両者の表情にそのような気配は一切ない。

 傍目に見ても、肌がひりつくような真剣さしか感じられなかった。


 心配するティオに、ナナミは苦笑した。


「レイフィード様って、素直ですから。穏やかに見えて意外と沸点低いじゃないですか。

 …………馬鹿にされて黙っていられる人ではないんですよ」


 ナナミは誰が、は省いて答えるのだった。




 互いに間合いを詰め、接近戦となる。


(攻撃手段に魔法はないのでしょうか?

 あったとしても、上級学校の生徒でしかない私には使うまでもないということでしょうか)


 次々と上下左右あらゆる角度から襲い来るグエンの連撃を、レイは弾き躱しながら思案する。


(強い、ですね。

 剣の腕の差は歴然としてます)


 レイは一瞬の隙を付いて攻撃に転じるが、すぐさまグエンの叩きつけるように放たれる連撃がレイをとどまらせる。

 このまますべてを躱しきることはできそうにないとレイは感じた。


(力、スピード、技。どれをとっても上をいかれています。

 王国騎士で二刀流が認められているというのは伊達ではありませんね)


 防戦一方となるレイに、グエンが嗤う。

 表情から、勝利を確信しているのがレイにも伝わった。


「この僕の剣をここまで防いだ者は、仲間の中でもそうはいない。誇っていいよ」


 話すグエンは、しかし剣を振るう速度は落とさない。


「お褒めいただき……恐悦です!」


 レイに余裕はない。いつグエンの剣が直撃してもおかしくない状況であった。


「やはり君は騎士になるべきだ。

 こんなところでその才能を腐らせ続ける理由がどこにある。

 もっと広い世界を見るべきだ」


「……あなたこそ、目の前のことをもっと見るべきですね」


 レイがグエンの剣を弾く。


「なっ!?」


 すぐさまグエンは連撃を見舞う。レイは相変わらず防戦一方である。

 しかし、間隙をついてはグエンの剣を弾き返した。


「貴様……!?」


「ここにいる方々は、確かに全員が懸命に努力をしているとは言いません。

 それでも、何も知らない貴方に愚弄されるような方は誰一人として存在しません」


 レイは上級学校に入った当初は、グエンほどではないが似たように考えていた。

 貴族だからと侮っていた。

 しかしそれは上級学校で過ごした3ヶ月の間で変わった。

 戦闘に優れていなくても、勉学、実務能力、社交術などで戦う場などいくらでもあるのだ。

 そして勿論、戦闘能力に優れている者もいた。


「食らいなさい。

 あなたが無能と言い放った者の一撃です」


 レイはグエンの剣を弾き返して、すぐさま剣を腰だめに構えた。

 一瞬で膨れ上がった気に、グエンは全力で応戦した。


「烈奏波!!」


「なめるなあああああ!!」


 突きと斬撃が交差する。

 レイの纏っていた防護術はグエンの双剣によって破壊され、腕や足や顔に斬撃が及び血飛沫が飛ぶ。


 そして、


「…………」


 レイの剣は、グエンの脇の下を抜けて虚空を貫いていた。

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