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第25話 もう一つの準決勝と

 中間試験、準決勝の試合を勝利したレイにミリルが走ってきて抱きついた。


「流石が姉さんね! ナージュさんから一撃も貰わないで完勝できるなんて、先生たちでも難しいでしょ!」


 ミリルは自分のことのように得意げである。


「ぐ、偶然ですよ……たまたまです……」


 レイはミリルを離しながら、自分でも苦しいと思う言い訳を述べる。

 ナージュの放つ気に触れて、ついつい真剣になってしまったが過度に目立つつもりはなかったのだ。


「お疲れ様。思わず手に汗握ったわ。それこそまるで近衛騎士同士の戦いのようだったわね」


 興奮気味のティオニアがレイの熱戦を称える。

 遠巻きにレイ達の様子を伺う生徒たちも、ティオと同じように目を輝かせていた。

 とても不審者を見る目付きではない。

 なぜ貴族の女子がそれほどまでに強いのか、などというのは生徒たちにとっては瑣末な問題のようである。


(う……最近は自重していた分、反動でもついてしまったみたいですね……)


 上級学校においては、もはやカーマイン姉妹は『そういう存在』という扱いなのか、多少常識はずれのことをしても受け入れてもらえるようであった。


(それにしても、最後の一撃は本当に驚きましたね。

 『烈奏波』でしたっけ? 人間相手にはオーバーキルもいいところです。

 おそらくBランクの魔物あたりなら即死レベルの攻撃力でしょう)


 試合の決着後、ナージュは一礼をしてすぐに反対方向へと歩いていった。

 自身の必殺の突きが躱されたからと、特段憤ってる様子はなかった。

 この試合を期に、ナージュからレイにどうこうというのはなさそうだが……、


(あんな危険な技を仕掛けてくるなんて……ある意味私を信頼してくれているのでしょうが……。

 単なる一ハンターとしてお相手する分には喜んでお受けしたいとは思いますが、この学校にいる間はちょっと遠慮して欲しいですね……)


 最後の一合については、レイは完全に本気であった。

 というか、本気でやらなければ下手をすれば死んでいてもおかしくなかったのだ。


 レイがなるべくナージュと接触しないようにしようと思った矢先、ナージュの笑顔がレイの目に映った。

 惚けているマリーの頭を撫でるナージュは、普段からは想像できないくらいに優しげであった。


(……ええ。悪い人ではないですからね。

 今後も、誠実にお相手させていただくとしましょう)


 兄妹のやり取りに共感してしまったレイは、即座に認識を改めてしまうのであった。

 しかし、レイがほのぼのとした気持ちになったのもつかの間、


「レイフィード様! さきほどの戦い、見事な試合でした!!」

 

「うわぁ!?」


 小走りで体当たりするかのように、ナナミがレイの腕を取った。

 ナナミは両手でレイの腕を絡めとるようにして、身体を密着させる。

 柔らかな感触に、レイは思わず顔を赤らめた。


「ちょ、ちょっとナナミさん……」


 意志と力を込めてナナミを離そうとするが、ナナミはぎゅっと固定して離れるどころかレイの耳元まで顔を近づける。


「本気のレイ様、とても勇ましかったですよ」


「……それはどうも」


「それはそうと、困っているレイ様ってやっぱり魅了的ですね。ふふふふ」


「わざとですね? やっぱりわざと身体を押し付けてるんですね!?」


 レイは今度こそ力を込めてナナミを引きはがそうとする。

 ナナミはレイに逆らわず解放し、


「私はナージュ様とは違って、か弱い女ですので手加減してくださいね」


 器用にウインクをして離れていった。

 これから行われるもう一つの準決勝、片方の選手はナナミであった。


(なんとも自由な人ですね……。

 ナナミさんだってナージュさん並に強いので、下手な手加減などできないと思うのですが)


 整列するナナミを見ていると、くいくいと袖が引っ張られた。

 ミリルだ。


「……姉さん、なんかナナミさんと妙に親しげだよね?

 ナナミさんはドルドレーグのメイドさんなんだから、手出しちゃだめだよ?」


「出しませんから」


 見当はずれの心配をするミリルの頭を軽く叩く。

 ミリルが頭を押さえながら、「むぅ……」と不満気にうめくが、あえて取り合わない。


 と、ティオが少しずつレイから離れていった。頬が赤い。


「…………」


「ティオさん、意味ありげに私から距離取らないでくださいね……。

 私、誓ってノーマルですから」


「そーだねー」


 ミリルは笑いながらレイの腕を軽くつねった。

 ティオからのドエロテクニシャン疑惑が完全に払拭されておらず、更には同性もイケルと思われてしまったことに、ちょっとだけ泣きそうになるレイであった。

 



 ◇ ◇ ◇




 ナナミと男子生徒の試合が始まって間もなく。

 中肉中背の二十歳くらいの男が、あくびをしながら演習場を歩いてきた。

 生徒たちがその姿を認め、徐々にざわめきが広がっていく。

 男は甲冑こそ装備していないが、二本の剣を腰に下げ、胸当てには王国の紋章が刻まれていた。

 試合の途中であったが、アーノルドは他の教師に一声かけて男の元へと向かった。


「グエン・シーバ殿。ようこそ、ライリッシュ学園へ」


「遅れて申し訳ないですね、アーノルド先生。……ふわぁ」


「……せめて手で隠してもらえると助かるな」


 アーノルドはがしがしと頭をかいて苦虫を潰したような顔をする。

 グエンは心底眠そうにもう一度あくびをした。


「帝国との親善試合が近くてね。こちらも追い込みをかけて鍛錬しているところなんですよ。

 いや、一晩寝てもなかなか疲れがとれなくてですね」


「わかった。もう何も言わんから、せめて残り少ない試合だけはまともに見ていってくれ。

 でなければ、お前を呼んだ俺の立場がない」


「……ふわぁ…………わかりましたよ。

 にしても、目の前のこれは余興かなにかですか?」


 グエンが眠そうに目をこすりながら聞くと、アーノルドがすぐさま否定する。


「そんなものがあるわけないだろう。

 これが準決勝の二試合目だ」


「は…………では、あのメイドにしか見えない娘が勝ち上がってきたということですか?」


「そうだ」


 はっ、とグエンはあからさまに嘲る。


「僕のいない間に、上級学校は路線変更でもしたのですか?

 確かにどうしようもないところだとは僕自身感じていましたが、さすがにこれは……。 

 木っ端貴族どものために、ハンターを育てるという建前すら消し飛んだんですか?」


「それはお前自身の目で見て確かめるんだな。

 ……と、決着がついたか」


 アーノルドは急ぎナナミ達の元へと戻り、勝者を宣言する。

 グエンは聞き流しながら、再度こみ上げてくるあくびをどうにか噛み殺した。

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