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第23話 中間試験開始

 上級学校中間試験の日である。

 生徒達は皆演習場に集合している。

 若手の教師、アーノルドが生徒たちの前に立っていた。


「えー、以前より通達していたが、今日は中間試験日だ。

 日頃の訓練の成果を存分に発揮できるよう、俺たち教師陣も力を尽くす。

 君たちは思う存分全力を出し切ってくれ。

 また、今日は特別に近衛騎士のグエン・シーバさんを招待しています。後ほど来ていただけると思います。

 騎士を目指す者は、この機会にしっかりとグエンさんにアピールするように。

 では、試験参加者は前へ」 


 レイフィード達十数名の生徒が前に出る。おおよそ生徒達の半数程度だ。

 アーノルドは他の教師を呼び、参加する生徒の前に立ち詠唱を開始する。


 この中間試験では、生徒たちは普段の訓練用の木製武器ではなく、各々で用意した武器を使用する。

 魔法の使用も自由だ。

 そんなことをすれば、普通に死傷者が出てもおかしくない。

 それを防ぐのが、教師たちの防護魔法である。

 生徒たち自身に個別の防護魔法を付与する他、試合の敷地内にも結界術式を駆使して大怪我を防ぐ仕様であった。


「では、第一試合を開始する。

 ティオニア・エルリエール及びナージュ・ゲシュタイン。前へ」


 訓練用ではない自分の弓を手にしたティオと、真剣を持ったナージュが距離を取った状態で向かい合って立つ。


「降参の宣言、又はどちらかの防護術が損壊した時点で決着とみなす。

 それでは試合開始!」


 合図とともに、ティオはすぐさま弓を構えた。




 ◇ ◇ ◇




 ミリルと、ナージュの妹であるマリー・ゲシュタインが対峙している。

 開始の合図がかかり、マリーはその場で、ミリルは回り込むようにして双方が詠唱を始めた。


「始まりましたねー」


 レイフィードが結界術式が展開されたすぐ手前で、のんびりと立っていた。


「そうね。彼女には勝って欲しいわ。

 私は早々に負けてしまったから」


 ティオは僅かに不機嫌な調子であった。

 レイへの返事が少し刺々しい。


「でも、いい勝負でしたよ?」


 レイはフォローするように言うが、ティオは口を尖らせたままだ。


「そうかしら? 彼とは何度戦っても、今のままじゃ勝てる気がしないわ。

 私の弓はすべて弾かれたし、接近されたらあの斬撃はどうにもできなかった」


 ティオとナージュの戦いは、ナージュによる袈裟斬りの一撃で勝負がついていたのだ。

 レイは二人の戦いを思い出す。


「剣と弓という相性の問題もありますし、ティオさんのまっすぐな弓術は対人戦よりも魔物討伐向きな面はありますね。

 けれど、ナージュさんはもったいぶるような性格ではありません。

 本当にティオさんを取るに足らない実力だと思っていれば、彼は開始直後に距離を詰めて即座に決着していたはずですよ」


 レイの言うとおりであった。

 試合が開始してから少しの間、ナージュは距離をとったまま、ティオが矢を射るのを数度見た。

 この間にナージュはティオの動きや視線、実際の矢の速さを読み切って接近し勝負に出たのだ。

 

 レイの言葉に、ティオは負けたとはいえ、自分が少しは評価されていたことに少しだけ気をよくした。

 素早く走り回るミリルを見ながら、ティオはぐっと拳を握った。


「……再戦のために、私も少しは強くなるわ」


「い、いえ。ティオさんは貴族ですし、ティオさんが強くなる努力をするよりも良い護衛をつければいいと思うのですが…………」


 中間試験に乗り気ではなかったティオに出ることを勧めたのはレイ自身である。

 レイは、ティオが自身の実力を知り、なによりも訓練では味わうことのできない、全力で戦うという貴重な経験をしてもらえればいいと思っていただけなのだ。

 断じて、ティオ自身に強くなれ!! という気などはさらさらないのだが、あさっての方向へやる気を出し始めたティオにレイは小声でしか正論を説くことはできなかった。


「サンダー・スピア!!!」


 ミリルが走りながら不敵な笑みを浮かべて、魔法を唱えた。

 ミリルの右手には、虚空より生まれた雷を這わせた漆黒の槍が出現する。


「くっ!?」


 マリーは警戒して大きく間合いをあけようとするが、ミリルが詰めるスピードの方が速い。


 ミリルは数歩マリーを追い、走りながら振りかぶって雷槍をマリーへと投擲した。

 狙いたがわず雷槍はマリーの胸の前に飛来して、見えない壁に阻まれるように静止して、


「穿て!!!」


 空から落ちる雷撃と共に、耳をつんざく轟音が生じる。同時に、教師がかけた防護術が砕ける音が響いた。

 後に残るのは、呆然と膝を付くマリーの姿だった。




 無邪気に勝利を喜びレイの元へ走っていくミリルを、アーノルドは複雑な表情で見ていた。


(……まったく、彼女は相変わらず教師の度肝を抜く魔法を使うな)


 サンダー・スピア自体はCランク魔法であり、他の生徒ならいざしらず、今更ミリルが使用したところで驚愕するほどではない。

 だが、その詠唱速度、制御技術はアーノルドだけでなく、教師陣を凌ぐ完成度であった。


(サンダー・スピアなら防護術を貫通してマリーを負傷させてもおかしくはないのだが……ミリルの奴、手加減したな)


 防護魔法には物理的、魔法的攻撃を防ぐ効果があり、万能とも思えるが致命的な欠陥があった。

 それは、ある程度のレベルによる攻撃での致命傷を防ぐことはできないことである。

 ゆえに実践レベルで使われることはほぼないが、冒険者学校に通う生徒程度の力であれば問題はない……、


(ナージュ、ナナミあたりはその辺の冒険者よりも腕が立つようだし、カーマイン姉妹は正直どれだけの力を隠しているかわからん。

 彼らが本気を出したら防護術程度では攻撃を防ぐことなどできないだろうな。

 まぁ、今までの彼らを見る限り、他の生徒達に対して悪意からの致命的な攻撃などはしないだろうし、防護術のみを破壊する程度の芸当はやってのけるだろうが……)


 アーノルドは武術専門の教師たちが、完全に観戦者気分で次の試合を待っているのを見て苦笑する。


(彼らは優秀だが、訓練に事故はつきものだ。

 生徒たちを傷物にはできんし、いざというときはどうにかできるよう俺も十分に気を付けねばな)


 アーノルド自身、試合を楽しみにしながらも怪我人を出さないよう教師として気を引き締めるのだった。

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