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第22話 そろそろ折り返し地点です

「……参りました」


 ティオニアは眼前に槍を突きつけられ、弓を手にしたまま両手を挙げた。


 今は上級学校での模擬訓練中だ。

 ティオニアはナナミとの戦闘を終えた。

 短く息を吐いて、ナナミは笑みを浮かべる。


「お手合わせ、ありがとうございました。

 おケガはありませんか? ティオニア様」


「ええ。さすがの動きでした。ああも簡単に槍で矢を弾けるものなのですね」


 ティオは素直に感心する。

 自分がやれと言われても、間違いなくできることではなかった。


「それほどでもありません。訓練の賜物です」


 謙遜するナナミだが、内心では舌を巻いている。


 ティオの矢は正確だが素直な筋だ。知能の低い魔物相手には有効であるが、対人戦では素直さはアダとなる。

 もしも、ティオにフェイクやタイミングをズラす技術が加わったら、距離によってはナナミが敗北する可能性も出てくるだろう。

 数や力押しなどの純粋な実力も付いてくれば、現在の差は急激に縮まると言っても過言ではない。


(まったく、才能というのは本当に残酷なものですね。

 とはいえ、私もまだまだ貴族のお嬢様相手に負けてはいられませんが)


 ナナミは、ふんっと鼻息を荒くついた。

 それから目に見えて肩を落とした。


(はぁ。若にもティオニア様のような才能が1割でもあればよかったのに……)


 地に伏しているドルドレイグが視界に入り、ナナミは僅かばかり目元が潤むのだった。

 



 ◇ ◇ ◇




 ティオが武具を片付けていると、ミリルが声をかけてきた。


「ね、ね。ティオさんは、今度の中間試験出るの?」


 ふと、ティオの視界にはミリルの後ろで満足そうな顔をして倒れている、焦げ気味の男子生徒が入った。

 ……ティオはいろいろと察し、素直に質問に答える。


「私は出るつもりはないわ。今もナナミさんに負けてしまったばかりだし」

 

「えー、もったいないよぉ。ティオさん、いいセンいくと思うんだけどなぁ」


 ミリルの言葉に、ティオは困ったように笑った。


 中間試験というのは、上級学校での実践形式の模擬試合のことである。

 トーナメント形式であり、参加は任意。

 試験結果が本人に関わってくるのは、騎士や宮廷魔術師等を目指す者だけである。

 実家を継いだり結婚を考えている者にとては無関係であり、単なる気楽な一行事の観戦者であった。


「貴女たちは出るのでしょう?」


「もっちろん! 魔法も大解禁だしね!! お祭りみたいで楽しそうだし!!」


 ミリルはぐっと両の拳を握る。


 通常の模擬試合では、魔法にかなりの制限がかかるが(当たれば即死する場合も多いため)、中間試験に関してはそのあたりのフォローも万全であり、基本的にはなんでもありのルールであった。

 普段は制限のある状態で試合をするミリルも、自重する必要はないのだ。


(……いや、さすがに自重はするけどね。姉さんにだって本気で怒られたくはないし)


 ミリルはキャノン・フレアでやらかしたときのことを思い出し、たははと笑いが漏れた。


「何が楽しそうなんですか?」


 武具を片付けてきたレイフィードが加わる。


「中間試験だよ、中間試験。姉さんも出るでしょ?」


「ええ。アーノルド先生にも頼まれてしまいましたし」


 アーノルドは主に攻撃魔法を教えることを担当している若手の教師だ。

 家柄や出身等にこだわることなく生徒に対して面倒見がいいことから、レイをはじめ多くの生徒から特に好印象の教師であった。


「ナージュさんにも言われてるもんねー」


「そうなんですよねぇ……」 


 レイはため息を隠そうともしない。


 ナージュとは初めて戦って投げ飛ばした日以来、レイは訓練を共にしたことはない。

 今までは、あれやこれやと理由を付けてレイはナージュと関わらないようにしていたのだ。

 ナージュ自身も、そこまで頑なにレイと戦うこと自体にはこだわっていなかったのだが……。


「ナージュさん、口には出さないけど燃えてる感じがするんだよねー。

 たぶん中間試験があるから、そこに照準を合わせてたんじゃないの?」


「……そのようなことを、さきほど宣言されました」


「わっお、熱烈ぅ!!」


 目をキラキラさせて面白がるミリルに、レイはむぅっと唸る。


「私のことはもういいですよ。

 それで、ティオさんは出場するのですか?」 


「いえ、私は……」


 ティオが愛想笑いを浮かべて否定すると、レイは首をかしげた。


「そうなんですか? せっかくだから出てもいいと思いますけど。

 先生方の力添えもあって、こういった形でかなりの安全が確保されている状況で、各々が全力で戦うことができる機会なんて早々あるものじゃないですよ?」


 レイの無邪気ともいえる提案に、ティオは今更驚いたりはしなかった。

 ティオは、レイの普段の言動から、レイという女性はちょっと脳筋気味ではいないか? ということに気づき始めていたのだ。


(貴族の子女が全力で戦うなんて機会、そもそも普通はありえないのだけど……)


 常識的に考えれば、魔術師や騎士を目指す者でなければそもそも戦う必要などない。そんなものは護衛に任せればよいのだ。

 しかしティオはレイの提案に対して、なぜだかすぐに否定することができなかった。


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