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第21話 寝れば吹き飛びます

 かくん、と頭が下がりティオニアは目を覚ました。

 

「ここは……」


 呟いたものの、目の前の風景を見て、すぐに自分が校舎裏にいたことを思い出した。


(そうだ。私、あてもなく歩いて、それでこんなところまで来たのよね)


 ベンチの前には先客がいた。小鳥が丸くなっていたのだ。

 ティオはそれを見つけて、手当をして、


「それで、眠ってしまったのね。

 ……貴女みたいに」


 ティオは隣で、すやすやと眠るレイフィードに目をやる。

 レイは僅かに口を開いて、小さく胸を上下させて気持ちよさそうに眠っていた。

 レイの姿は無防備で、ティオは知らず曖昧に笑った。


(こんな姿を見せてしまったら、また貴女に群がる人が増えそうね。

 まったく、当人にはそんなつもりなど欠片もないでしょうに)


 初めて会ったとき、ティオはレイとミリルに見とれた。

 自分とは違い、二人は愛される者なのだと直感的に理解できた。

 なるほど、貴族の娘とはこのような人たちのことを言うのだと痛感したのだ。

 だからこそ、父に頼まれていたことも相まって、余計なお世話でも焼こうかと考えたのだ。

 しかし、まさか当人たちがあれほど婚姻に対する意識が皆無だとは思わなかった。


(貴族であれば、多かれ少なかれ女としての最大の武器を使うことは意識するでしょうに。

 まさかそれどころか、ハンターとして生きていくことを視野に入れることになるだなんて……)


 ミリルの魔法の腕は言うに及ばず、レイに関しても騎士を目指すナージュを倒しているのだ。

 ハンターとしてやっていける実力は十分だろう。


(そういえば、近頃は真面目に訓練を受ける人が増えたわ)


 レイがナージュを倒したころからか、生徒達の中で変化があった。

 気のせいではなく、戦闘訓練に対して初めのころと比べて真摯に取り組む生徒が増えたのだ。

 もちろん、訓練の必要がないと考ている者は一定数おり、彼らは訓練そのものに参加していない。

 しかし、訓練に参加している生徒の中で不真面目に取り組む者はおらず、参加をしていない者たちも揶揄するような態度を取る者はいなかった。


(教える側が優秀、ということもあるのでしょう)


 教師たちは元はハンターであり、貴族についてもある程度の関わりや理解があるようであった。

 少数ながら貴族の出身である教師もいる。

 そのおかげか、生徒達への接し方は教師によってそれぞれ違うものの、おおむね反感を買われるような教師はいなかった。


(でもきっと、それだけじゃなくて……)


 ティオは隣に座るレイに目を向ける。

 レイはよく生徒に話しかけられる。

 それは訓練の時間も同様だ。

 ミーハー気分でレイに話しかける生徒もいるのだが、レイはそれを知ってか知らずかあまり真剣には取り合わない。


 レイが訓練に臨む様は、真摯であった。

 常に全力で! という程ではないが、少なくともレイの訓練の様子が不真面目だと考える者はいない、という程度にはしっかりと取り組んでいた。

 訓練について生徒から請われれば、自ら教えることもあったり、共に教師に教わったりもした。

 そんな場面をティオは何度か見ていた。


(あんな姿を見ていれば、その気のなかった生徒たちだって多少は感化されるわね)


 自分はどうだっただろうと振り返ってみると、やはり答えは同じようだ。

 少なくとも、座学の時間よりは真剣に取り組んでいることは間違いない。


(本当に彼女たちがハンターになるとしたら、後追いの人も出てきてしまうかも……)


 その様子を思い浮かべて、ティオはくすりと笑った。


 実際のところ、腕っぷしがあればハンターとしてやっていけるのかは、ティオにはわからない。

 ティオはハンターの生きる世界について知らないのだから、わかるはずもない。

 にもかかわらず、ティオには二人の姉妹がハンターとして生きていく姿が朧気ながら想像できた。


(今、目の前で眠っている貴女を見ると、そんな姿も霧散していきそうだけど、大丈夫?

 …………なんて、他人の心配をしている状況でもないわね)


 自分の立場を振り返って、ティオは嘆息する。

 ティオが上級学校に入った理由は、正にレイやミリルに語った話そのものであった。

 父、ニーグレッツ・エルリエールはあくまでティオの勉学のためと言い張り直接は語らないが、それ以外にティオが上級学校へと入る理由はない。

 エルリエール家には兄も姉もいて、跡取りの心配はない。

 ティオの役目は本来であれば、良縁を築いてエルリエール家の地位を少しでも底上げすることであるが……、


(相手の家柄や人柄を見定める前にタイムリミットがくるでしょうね。

 だれよりも権力に妄執する、あの人がいるのだから……)


 上級学校へ逃げたところで、半年の猶予の後には屋敷に戻らなければならない。

 この先に続く道が変わることはない。

 自分には、道なき道を行く力も意思もないのだから。


(…………つまらないことを考えたわね。気分が悪いわ)


 ティオは世界を拒絶するように目を閉じた。

 見ることの感覚が遮断されると、音や臭いに敏感になる。

 ティオは、隣から聞こえるゆっくりとした小さな吐息に身を委ねた。




 ◇ ◇ ◇




「なにこれ?」


 レイの部屋で目を覚ましたミリル。

 レイも、隣の部屋のティオも不在であったことから、ふらふらと探していたところ、校舎裏で二人を発見したのだが。


「……うーん? どういう経緯でこうなったんだろ?」


 誰にともなく問いかけるが、応える者はいない。

 ミリルの目の前のベンチには、レイとティオが肩を寄せて眠っている姿があった。

 ミリルからは、二人が仲睦まじく一緒にお昼寝するほどの仲には見えなかったのだが。


(なんか、ティオさんの服汚れてるしなぁ。ホント、よくわかんない状況だよこれ)


 ミリルは疑問に思いながらも、レイの横に座りレイの膝の上に頭を倒した。

 こうしてスキンシップを取ることは以前であれば何度もあったことであるが、上級学校に入ってからは一度もなかった。


(ふぅ。極楽極楽……)


 それから数分もしない内に、眠り姫が3人に増えた。





 なお、この後3人がうたた寝していることはナナミの知るところとなり、ドルドレーグと共にじっくりと鑑賞され、いつの間にか3人を見守るその人数は十数人に膨れ上がっていった。

 気がついたレイが、変な声を出してしまったのも無理からぬことであった。


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