第19話 あんまり馬鹿馬鹿言われると、本当に馬鹿になるものですよ
その日の夜。
レイフィードはミリルを部屋に呼び、ナナミとの経緯について一通りの説明をしたところ、
「ねーさんの馬鹿」
「……うぅ、返す言葉もありません」
「アホたれー、迂闊者、かわいいからって油断しすぎ」
半眼で妹に罵倒され、レイはがっくりと俯いた。
ミリルはいくらか気が済んだのか、表情を変えて思案する。
「にしても、ナナミさんがそんなに高性能メイドだとは思わなかったなぁ」
「ええ。あの人、槍捌きもさることながら、よく人を観察してますよ。確か頭もよかったはずですし隙がありません」
「そーだけど、そーじゃなくって。
私の姉さんを兄さんだと見破るなんて……そんなことありえるのかな? もはやチートだよチート。
ミリルだってうっかり素で間違えそうになることだってあるのに……」
「うん。絶対に、間違えないで、くださいね」
レイがミリルの肩をがしぃぃッと掴むが、ミリルはどこ吹く風である。
「で、これからはドルドレーグの護衛にもつくってこと?
それって私もなのかな?」
「……どうでしょう。ミリルのことは特には言われませんでしたね」
「むむ、面倒だから私は外れてる方が嬉しいけど……。
何も言われないのは、それはそれで無視されたみたいで面白くないなぁ」
腕を組んで不満顔のミリル。
レイはレイで軽く頭を抱えている。
「イマイチよくわからないんですよね、ナナミさんの考えることは。
秘密を盾に私を脅すにしては押しが弱すぎますし……」
「そだねぇ……ところで、姉さん。女装して騙してたことは謝ったの?」
「ええ、話の後にもちろん謝罪はしたのですが…………」
『はぁ……私は別に気にしていませんので。というか、実害があったわけでもありませんし。
私が見る限り、レイ様はお嬢様方の下着をパクってぱくっと咥えるなどの若的行為は見受けられませんでしたし、常に真摯たる態度でしたから問題があったようには思えません。
え? 若ですか? しますよ普通に。その程度の若的行為なんて朝飯前です。
それはそれとしてですね、実は私自身、あくまで自分の視たことからでしか判断できていないので、まだ完全には信じられないところもあるのです。
ね、レイ様本当についてるんですよね? 念のため見せてもらっていいですか? まぁまぁ、先っちょだけでもいいですから』
「……ナナミさんは、あまり気にしていない様子でしたね」
あっけらかんとしたナナミを思い出し、レイは眉を寄せて唸った。
「そういうところもよくわかんないね。
ともあれ、姉さんは気をつけるにこしたことはないよ。
本当はこんな風にぽんぽんバレていいものじゃないんだからね!
今後はより一層女の子として自覚のある行動を取ること!」
ぴっと指を立てるミリルに、レイはさらに顔を険しくさせる。
「アイデンティティが崩壊しそうですね……。
ですがナナミさんについては、これで本当に終わりとは限りません。
今後も何らかの要求があると見ておいた方がいいのかもしれませんね」
「そうかなぁ。姉さんは穿ちすぎなんじゃないの?」
「ミリルが楽観的すぎるんですよ。
男が女の格好してるなんて、やはり敬遠され忌避されても無理ないことです」
「うーん。そうっちゃそうなんだけど、相手が姉さんだからなぁ。
かわいいから細かいことはいいんじゃないのって思いそうだけど?」
「思いません。
とにかく、私はティオさん優先ではありますが、場合によってはドルドレーグさんの護衛にまわりますのでミリルも心得ておいてくださいね」
「はーい」
いい返事をするミリル。
それからミリルは、にっしっしと口に手を当てて笑う。
「……でもさぁ、姉さんに秘密を握られたら大変そうだなぁ。
秘密を盾に脅すだのなんだのって当たり前のように考えちゃうんだから」
「ええ。是非ともミリルの秘密を仕入れて、私の言うことをちゃんと聞いてくれる良い妹になって欲しいものです」
…………。
一瞬の間を置いて、二人はにっこりと微笑み合うのだった。




