第18話 メイドさんアタック
…………。
「なーんて、これ私の冒険者カードなんですよね」
「……え?」
ぴっとナナミがカードを裏返す。
そこには確かにナナミの名前が記されていた。
(な、なんだ……正体がバレたかと思ってびっくしりましたよ……)
ほっと胸をなでおろすレイフィード。
ナナミは冒険者カードを仕舞いながら、何気なく口に出す。
「レイフィード様がすでにハンターとして活動されているとは思っていましたが、その若さでBランクとまでは思いませんでした。
さぞかし様々な任務を達成されてきたのでしょうね」
「ええ。最初のころはそれはもう必死に……」
言いかけて、レイは、さぁっと顔色を失っていく。
「なるほどなるほど。とすると、やはりミリル様もそれなりのランクなのでしょうね。
美しさもさることながら、実力も有しているだなんてすばらしいことです」
「あ、あの! ナナミさん!」
「はい、どうしましたか?」
焦るレイに、ナナミは落ち着いて微笑を浮かべている。
「その……もしかして、聞いてました?」
「ええ。レイフィード様とギルド受付の方が話していたことでしたら、すべて」
こともなげに応えるナナミ。
レイはがっくりと肩を落とす。
(…………うわぁ、迂闊でした……。今更誤魔化したところで、冒険者カードを見せろと言われたら終わりです……。これはもう正直に話すしかないでしょう。
しかし、まったく気配に気づきませんでしたね……)
レイはすぐに覚悟を決めて、どのように説明するか頭を悩ませた。
レイはちらっとナナミを見ると、さらなる爆弾が飛んできた。
「盗聴はメイドの基本性能ですから。ですが、私はそれだけにとどまりません。
……レイ様、私、ずっと違和感があったのです。
貴方の見た目からは女性らしさしか感じられないのに、歩く等の基本動作は男性よりの印象を受けるのです。
なにより、ミリル様やティオニア様を見る目は、女性として見守るというよりは幾分強いように感じられました」
「…………」
レイは今度こそ何も言うことができなかった。
呼吸が不規則になっていく。
ナナミはすでに結論が出た上で、レイに話していることが明白だったからだ。
「レイ様は、男性であるにも関わらず、なにゆえそのような格好をしていらっしゃるのですか?」
からかいは皆無で、ナナミはただ問いかけてきた。
レイの背中は、すでに冷たい汗がいくつも浮かんでいる。
(……まだ、実際に男であることを確かめられたわけではないです。
しかし、ナナミさんの眼は冗談を言っている様子はまったくありませんね。
今、否定することはできますが……)
レイは首を振る。
たとえ今回避できたとしても、結局は疑惑をもたれた時点で終わりなのだ。
レイが女として過ごせるのは、レイが普通に女の出で立ちであることだというのは間違いないが、本質は相手がレイを視ていないからだ。
当然のことだ。すぐに判別できない外見でもない限り、だれがいちいち、その人の性別を疑うというのか。
しかし一度疑われれば、それはもう隠し続けることなどできはしない。
それこそ、剥かれれば終わりだ。
レイは……ナナミと目を合わせ、答える。
「実は、趣味で」
意を決して、レイは真実を認めながらも虚実を伝えてみた。性別がバレたときの最終兵器であった。
ナナミが、ぱぁっと顔を輝かせる。
「やっぱりそうですよね! そんなに似合っているんですもの!! 私もレイ様が男性の格好しているよりも今の方が断然グッドだと思いますわ!!」
「……はい。妹にも言われます」
(ぐ、ぐぅッ……なんとなくなんとかなりそうですけど、心が痛いですねぇ……)
レイは胸に手を当てる。そうすれば痛みがちょっとだけ和らぐような気がした。実際には徒労であったが。
「ですが、趣味というのは嘘ですよね。
レイ様の処女ではないという発言は、レイ様が自分を女性よりに思っているのであれば矛盾します」
「あ、あれは!! ……ちょっとびっくりしてしまって」
「もしや、すでに後ろの穴を開通……?」
「してませんから!? 何もありません!!」
否定してから、レイは羞恥で顔を両手で押さえる。
押しても引いても道がなかった。
「さて、そんなレイ様の尻穴事情にも大変興味はあるのですが、そちらはこの度の本題ではありません。
私がこの場に来た理由についてお話しますね」
レイは、前置きがアレすぎてイマイチ真剣になりきれなかったが、ふぅっと息を吐いて聴く態勢を整える。
「私が来たのは、レイ様に若の護衛をお願いするためです」
「……ドルドレーグさんの護衛、ですか?」
レイが拍子抜けてオウム返しをする。
レイは、もっと無理何題が来るものと思っていたのだが。
「知ってのとおり、若は物凄い勢いで弱いです。貧弱です。2階から落としたら普通に死にそうです」
「……ひどいですね。言いたいことの意味はわかりますが」
「若の戦闘センスのなさは筋金入りなのです。軽傷程度でしたら負っていただいて構わないのですが、むしろどんどん負えばいいと思うのですが……万が一にも命を落とすことがないとも限りません。お屋敷にいたころとは、まったく環境が違いますから。
今日のギルドの時のようにトラブル巻き込まれることもあります。
基本的には私が付いているので、よほどのことでもない限り問題はないのですが……、やはり不安は残ります。
そこで、レイ様の出番というわけです。
なにも、そちらが受け持っているお嬢様のように四六時中付いていろとは言いません」
(……ティオさんのことについても、やはり感づいているのですね)
レイはもう、ナナミには何もかも見透かされているのではないかと、あきらめの境地に達しそうになる。
そんなレイの胸中を知ってか知らずか、ナナミは椅子から立ち上がった。
「レイ様の出来る範囲で結構です。どうか若をよろしくお願い致します」
ナナミが深々と頭を下げる。
「あ、頭をあげてください!」
レイもベッドから立ち上がり、ナナミの肩を掴んでまっすぐに立たせる。
秘密を握られ脅されると思っていたら、請われていることにレイはひどく動揺してしまった。
「……ではレイ様、引き受けてくださるのですか?」
「この状況で私に是非はありません。
ナナミさんが私のことを黙して下さるのであれば、できる範囲ではありますがやらせていただきます」
「レイ様、ありがとうございます!!
こんなに面白いことを黙っているだなんて、とてもとても残念で非常に耐え難いことですが、若の安全には変えられませんから!!」
「…………」
レイは若干不安が残るが、自分は到底選択などできる立場ではない。
ナナミの職業意識の高さに賭けるほかないのであった。




