第17話 技術はあるにこしたことはありません
レイフィードはどうにか裏道を迷いながらもギルドへと戻った。
ギルドに併設されている酒場に視線と向けると、ミリルが手を上げるのが見えた。
「姉さーん、こっち、こっち~!」
周囲の者も気づき、ティオニアとドルドレーグは明らかにほっとした表情になり、ナナミはミリルと同じように笑っていた。
「お待たせしてしまい、すみません」
レイは席について皆に謝罪する。
ドルドレーグが真剣な表情で心配そうに尋ねる。
「レイフィードくんは……その、大丈夫だったのかい? 彼らは、その……」
「えっと……」
(う、結局いい感じの言い訳が浮かばなかったんですよね……うぅ、ど、どうしましょうか)
レイは助けを求めるように左隣のミリルを見る。
しかし、ミリルはレイの視線に気づいているであろうに、ふいっと逆方向を向いた。
え? とレイが思った矢先、正面に座っているナナミがいつの間にか手にしていたハンカチを目に当てていた。
「レイフィード様の尊い自己犠牲、私、決して忘れはしません」
「……はい?」
ナナミがわきわきと右手の指を動かす。滑らかというよりはぬるぬるといった感じだった。
「あのゲドーという男達に、その美しき新雪とも見まごう柔肌をまさぐられ、蹂躙され、ねぶられ嬲られ犯されてきたのでしょう?」
「はぁぁぁぁああ!?」
レイは、かぁぁっと紅く染まる。
「な、なんですかそれ!? そんなことされているわけないでしょう!? どっから出てきたんですか、その発想!?」
「え? ですが、あの流れですと…………それに、ミリル様も……」
レイは光の速さでミリルにもう一度顔を向けた。
相変わらずミリルはあさっての方向を向いて、頬に一筋の汗を垂らしている。
レイはミリルの肩をガシィッと掴んだ。
(ちょっと、ミリル! 一体皆さんに何を吹き込んだのですか!?)
(……いやぁ。あの後ね、皆が姉さんを追いかけようとしたからさぁ。それはまずいでしょ? どーせあいつらを叩きのめすことになると思ったし)
(えぇ。結局はそうなりました。
私もある程度距離は置きましたけど、さすがに盛大に暴れる姿を見られるわけにはいきませんでしたね)
(だから、ちょっとね、ミリルも皆を止める言い訳を考えなきゃいけないなぁって一生懸命がんばりまして。
…………姉さんは何がとは言わないけれど、とっても上級者だから大丈夫だよ!
きっとゲドー達を、どういう方法かはよくわからないけど絶対に満足させて帰ってくるから、私たちが追いかけてもお邪魔だよ!
て感じで納得してもらったの。てへっ)
(ちょっとミリル!! なんですかその言い方!!
そ、それじゃあまるで私が…………はっ!?)
レイはさきほどから黙っているティオに目を向ける。
ティオは最初こそ安堵していた表情を浮かべていたが、今はレイを見る目が、表情が、顔色がおかしい。
切れ長の目は鋭さをすべて削ぎ落され細かく揺れていて、表情は羞恥が見て取れて顔色は赤く熟れ、俯いたまま決してレイと目を合わせようとしない。
完全にエロい人を、いや、もはや猥褻物を前にした反応となっていた。
気のせいではなく、明らかにレイとの距離があいていた。
「待って待って、待ってください! ティオさん、誤解ですからね?
私、変なことはしてませんからね?」
「つまり、レイフィード様にとっては極々自然な行為である、と」
「無駄に含みを持たせないでください!! ホント何もしてませんから!!」
半泣きになりながら否定するレイに、ナナミが真っ直ぐに凄まじい勢いで手を挙げた。
「では、レイフィード様は処女なのですか?」
「誰が処女ですか!?」
我慢できずに噴き出すミリル。がーんっとショックを受けるドルドレーグとティオ。
ティオは傍目に見て明らかに、ぷるぷると震える。
「や、やっぱり……貴女って、貴女って…………」
「いや、その、今のは言葉のアヤであってですね! とにかく違うんです!! ホント信じてくださいよ!?
その、たまたま巡回していた衛兵の方に助けていただいた的な……あ、そんなティオさん、黙って離れないでください!! お願いですから信じてくださいぃぃぃぃ!!!」
レイが皆に、ドエロテクニシャンの疑惑を払拭することに成功したのは、それから数十分後のことであった。
◇ ◇ ◇
ギルドから上級学校へと戻り、皆とも別れた後。
レイは自室に戻ってから制服のままベッドに伏した。
(…………ホント、今日は心底疲れました)
一日を振り返ると、3人で買い物に行き、ギルドへ行き、ドルドレーグとナナミを連れて5人で採取や魔物討伐をして、達成報告をする際にチンピラハンターに絡まれてそれを倒して、皆の誤解を解いて帰り今に至る。
(……盛りだくさんのような、そうでもないような。
でも、皆さんとワイワイとするのは楽しかったですね)
レイは自然と笑顔になり、ゆっくりとまぶたを閉じる。
(このまま寝てしまったら、服、シワになってしまいますね……)
そうは思うものの、レイのまぶたは閉じたまま。
吐息もゆったりとした一定の感覚となり……レイはぱちりと目を開けた。
「こんばんは。レイフィード様、いらっしゃいますか?」
レイは起き上がって移動しドアを開ける。
目の前にはクラッシックスタイルのメイドがいた。
「ナナミさん、どうしました?」
「夜分に申し訳ありません。少々お時間よろしいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ」
レイは自分を訪ねてきたことに疑問を感じながらも、ナナミを部屋へと招く。
自分はベッドに座り、ナナミには勉強机に設置されている椅子に座ってもらった。
「あ、お茶でも飲みますか?」
「いえ、結構です。お気遣いありがとうございます。
……レイフィード様にお忘れ物を届けにきただけですので」
「忘れ物、ですか?」
レイは、はて、と首を傾げる。
心当たりに行き着く前に、ナナミがぴっと胸元から人差し指と中指で茶色のカードを取り出す。
(え? あれって……まさか…………)
「ギルドに落ちていましたよ。レイフィード様の冒険者カード」
「…………」
意味ありげに笑うナナミに、レイは言葉を返すことができなかった。




