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第15話 揉め事くらいよくあることです

 ミリルの言葉にスキンヘッドの男が視線を向ける。


「あぁ? だれだお前」


「あんたが昼前にぶつかった可愛いハンターちゃんだよ。

 で、今度はなに? まさか他人を押し出して謝りもせず、列に割り込みでもしようっていうの?

 でかい図体しててセコイことするね」


「……なんだと糞ガキぃ」


 瞬時に場の空気が一変する。

 周りで見ていたハンター達が少しずつ距離を取っていくのをミリルは感じた。

 何人かのハンター達が小声で、「ああ、またゲドー達が新人にからんでるのか」だの「本当にあいつらは、実力だけならそれなりだろうに……あの子達には悪いけど、面倒に巻き込まれるのはごめんだな」などと言うのが聞こえる。


(やっぱりどうしょもない奴なんだな、こいつ。ゲドーってまんま外道じゃん)


「怒らねぇでやるから、もう一片言ってみな。嬢ちゃん」


 まったく目が笑っていない表情で、男は指を鳴らしながらゆっくりとミリルに近づく。


「はぁ。やることが何も学習してない子どもと一緒だね。

 おじさんたち本当にハンターなの? 街のチンピラじゃないの? 恥を知らないの? 名前のとおり外道なの?」


「……く、くくく。てめぇ、よくぞそこまで啖呵切ったもんだぜああああああ!?」


 ゲドーがミリルに手を伸ばしてくる。

 子供と思っているのか、舐めきった動きだ。速くもなく、意図は丸分かりだ。

 ミリルは落ち着いて捌こうとするが、視界にレイとティオの姿が入る。

 レイが険しい顔でティオをかばう形で立っていた。


(あ、ティオさんいるんだっけ)


 ここでいなしてしまっていいものかどうか、ミリルが一瞬迷ったときにはすでにゲドーに胸ぐらを掴まれていた。

 ミリルはそのまま軽々と持ち上げられてしまう。


「こ、こらっ君!! その娘を離せ!!」


 それまで黙っていたドルドレーグが前に出る。

 ドルドレーグは自分が荒事に向いていないことなど、某メイドのおかげで文字通り痛いほど熟知していたが、目の前で知り合いが凶行に晒されているときに黙って見ていることなどできなかった。


「はっ、坊っちゃんはひっこんでな!!」


「がっ!?」


 ゲドーによる蹴りをまともに食らい吹き飛ぶドルドレーグ。


「おらっ、忘れもんだよッ!!」


 いやらしく嗤い、ドルドレーグに向かってミリルを投げ放った。

 ミリルは一直線にドルドレーグの元に飛ばされて、


「おっと危ない」


「……えへへ。ナイスキャッチ、ナナミさん」 


 ドルドレーグの前に立ったメイドの腕にすっぽりと収まっていた。




 騒がしさにレイが振り返ると、ミリルがゲドーと対峙しているところだった。

 場は一触即発の空気で、レイはさり気なくティオの前へと出て事態の推移を見守る。

 ミリルとゲドーが言葉を数回かわすと、突如ゲドーが激昂してミリルの胸ぐらを掴み持ち上げた。


(このッ!!)


 レイは即座に止めにかかろうとするが、背中の服の部分を握られていることに気づき動くことができなかった。

 そうこうしている内に、ドルドレーグはゲドーに蹴られ、ミリルは投げられてしまう。

 ミリルはナナミに受け止められ怪我はなさそうだが、ゲドーの蛮行にレイの頭の中は急速に白くなっていく。

 レイはゲドーに向かって一歩踏み出して、


「姉さん!!」 


 ミリルの呼びかけにレイは、はっと我に返った。


(……危ない。そうでした、今は対象に内密の護衛任務中です。迂闊な行動はできないですよね)


 レイは一度冷静になるため深呼吸をした。


(……もしも今ここで争って、ギルド職員などに顛末を話す羽目になったら、その場で身分確認をされてもおかしくはありません。そうなれば、もはやティオさんに身分を隠すことなどできないでしょう。だからミリルだって男にやられるままだったのでしょうし……。

 だったら最初から揉め事にならなければいいんですけど、まぁミリルですからね)


 レイは改めてゲドーの前に出ようとしたが、すでにそこには先客がいた。


「貴方! 一体何のつもり!? 先程から数々の目に余る所業、到底許すことなどできないわ!!

 表へ出なさい!! このティオニア・エルリエールが相手をします!!」


(えええええええええええええええ!?)


 レイは、自分の後ろで怯えて背中に捕まっていたはずの少女が、ゲドーに向かって啖呵を切っていることに驚きを隠せなかった。

 実際のところ、ティオは怯えていたわけではなく、怒りで震えていただけなのだが。


「な、なんだと……?」


 さすがにゲドーも人を蹴って投げた後にも、その者たちと別人とはいえ、まだ向かってこようとする女がいるとは思っていなかったのか、戸惑いが隠せないでいた。


「私が相手をすると言っているのです。どうしたのですか? 小娘一人に怯えることなどないでしょう?」


「……おいおい、嬢ちゃん。お前もうそれシャレになってねぇってわかってるよなぁ?」

 

「貴方こそ理解しているのでしょうね。二人には必ず謝罪してもらいますよ」


 大の男、それもハンター相手に一歩も引かないティオに、レイは気が気ではなかった。

 しかし、同時に護衛の者としてはあるまじきことだが、危険を犯してでもミリルのために行動してくれたことを嬉しく思った。


 だからこそ、レイは普段なら死ぬほど嫌がる奥の手を使うことに躊躇いは…………若干しかなかった。

 小さく咳払いをして、喉の調子を整える。そんな必要はまったくないのだが、レイの矜持的なものが許さなかったのだ。


「…………そんなぁ、喧嘩なんてぇ、しないでくださいよぉ」


 レイは頭の中がからっぽの出来の悪い売女のような台詞とともに、ゲドーの腕にしなだれかかる。

 突然の凶行にティオ、ドルドレーグ、ナナミの脳内には特大の疑問符が浮かび上がった。


「な、なんだてめぇ!?」


「わたしぃ、つよいひとすきなんですぅ。あなたのワイルドな姿にぃ、メロメロっていうかぁ」


 レイは、もはや自分でも何を言っているのかわからなくなっていた。心中では自己嫌悪で死にそうである。

 レイの目が羞恥でぐるぐる回っていることに気づいているのは、妹のミリルだけであった。


(うっわ、姉さん捨て身の技に出たなぁ。ハマりすぎててもうミリルは何かごめんなさいとしか言えないよ)


 レイの玉砕アタックに、ミリルは思わず合掌した。

 そんなことは露知らず、ゲドーはだらしなく鼻の下を伸ばす。


「ほ、ほう……お前見る目あるじゃねぇかよ」


「こんなところにいないでぇ、あっちに行きましょうよぉ。一緒にぃ、お・は・な・し、しましょ~?」


「へ、へっへへへへ。そうか、いいだろう。お話とやらをしようじゃねぇか」


「わぁい、嬉しいですぅ。そちらの方も、ご一緒にどうですかぁ?」


「お、俺もかよ」

 

 満更でもなさすぎる表情でゲドーの連れの男が寄ってくる。

 レイはすかさず片手を連れの男の腕に回して僅かに力を入れて歩き出す。

 距離を置いていたハンター達は、レイ達が自分の方へと近づいてくるとわかるやいなや、そそくさと道を空けた。

 ゲドー達はレイに抵抗することなく、誘導されるままギルドを出るのだった。

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