第14話 仲良きことは素晴らしきかな
レイフィード達は王都のギルドへと戻ってきた。
薬草採取や魔物討伐の成果報告のため専用の受付所に並んでいた。
何もすることがなくてぼぅっとしているレイは、くいくいとティオニアに袖を引っ張られた。
「……その、今日はごめんなさいね」
「え? なにかありましたか?」
「だって、貴女たちのために今日はギルドに来たのに、私が調子に乗ったせいでほとんど何もできなかったでしょう」
「あ、あぁ……」
結局のところ、今回森に行った成果は、ドルドレーグによる薬草採取とティオとナナミによる魔物討伐だった。
(そういえば当初の目的は、私とミリルがハンターとしての経験を積みに行くような話でしたね)
レイにとっては、ティオに正体がバレなければなんでもよかったので、経過の内容なぞ特に気にしていなかったのだ。
「ティオさんが遠距離から安全に魔物を倒せるのに、あえて危険を犯す必要もないですよ」
これはレイにとって本心から思うことだ。
反撃を食らうことなく、敵の間合いに入ることなく倒せるのであればそれが一番だ。
「確かにそうかもしれないけれど……やはり私は今日、浮かれていたのかもしれないわ。
今までこんな風に皆で外へ出るなんてこと、なかったから。ガラにもなくはしゃいでしまったようね……」
「ティオさん?」
「次からはギルドへは二人で行きなさい。その方が貴女たちのためだわ」
ティオの影が差すような笑顔に、レイはきゅっと胸をつかまれるよう感じた。
「ダメです」
思わずレイはティオの正面に回って否定していた。
レイの頭には、ティオと別行動をしていたら護衛できないということが前提としてある。
しかしそれとは別に、ティオを一人にはしたくないという気持ちが自然と生まれていた。
まだ数日しか行動を共にしていないが、ティオは放っておくと単独行動ばかりしているように見えるのだ。
ティオは他人にきつい態度をするわけでもない。ティオ自身が他人と関わらないようにしているように、レイには思えたのだ。
「だ、ダメって言われても……」
「ティオさん、貴女、お父様に私たちのことを面倒見るように言われているのでしょう? だったらちゃんと役目を果たしてください。そんな早々に放り出すようなことしないでください。
ティオさんがどうしても私たちと共にいたくないというのであれば仕方ありませんが、そうでないならば一緒にいればいいじゃないですか。
私は、ティオさんがいる方が絶対にいいです」
「……そ、そうなの…………私は、いてもいいの?」
「当たり前です! そこは悩まないでください」
むんっと鼻息荒く言うレイに、ティオは先ほどとは違う笑みを浮かべた。
「そう…………なら、いいわ。また次回がんばりましょうか」
「ふふ。ですね!」
レイとティオのやりとりを後ろで見ていたミリルは、思わずため息をついてしまった。
(姉さん、なんでまたギルドに来る話取り付けちゃうかなぁ)
レイの性格上、今のティオとの会話でそういう流れになってしまうのは無理からぬことかもしれない。
しかし、頭ではわかっていても、ミリルはなんとなく面白くない想いを抱えていた。
(……う、まずい。これまた私の悪い癖だよ…………あぁぁぁぁ、もう!!)
ミリルは、ぺちっと自分の頬を叩く。
そのおかげか、少しだけ余計な考えが吹き飛んでいったように感じた。
傍らではドルドレーグが腕を組んでウンウン頷いていた。
「仲良きことは美しきかな。僕も、是非次回もご一緒させていただくとしよう」
さりげなく次の約束をなし崩し的に取り付けようとするドルドレーグだが、ナナミはバッサリと告げた。
「いえ、次回の若はソロですよ」
「なぜに!?」
「だって、ティオニア様たちと一緒ですと若に戦う機会がなさそうですから。
貧弱な若がさらなる進化を遂げてしまいそうです」
「いや、そんな、ことは、ないぞ……」
「乾坤一擲の心構えですよ、若!」
「大博打するなら、せめてもうちょっとマシな舞台を希望するぞ僕は……」
「ぁははは」
二人のやりとりに、傍で聞いていたミリルは思わず笑いが漏れてしまった。
「あらあら、若の情けない姿にミリル様も苦笑されていますね」
「ナナミの付き人らしからぬ不遜な態度に笑っているのだろう」
「はは。二人とも、どっちが主人かわからないね」
「ミリル君もそう思うだろう? 本当に、ウチのメイド様にはそろそろ弁えるという言葉を覚えて欲しいものだよ」
ふっと鼻で笑うドルドレーグ。
しかしドルドレーグの視線の先にいる人達には、まるで彼の言葉は届いていないご様子だった。
なぜか上機嫌のナナミが、さわりさわりとミリルの頭を撫でていた。
「あの……どうして私撫でられてるの?」
「ふふふふ。ミリル様が可愛らしいからですよ。本当にレイフィード様が大好きなのですね」
「うぇぇええ!? な、なんで!?」
ミリルは思わずナナミから距離を取る。
思わず戦闘態勢を取ってから、はっとしてレイの方を向き、ナナミの言葉が聞こえていないことを確認してほっとする。
「まぁ。コロコロと表情が変わって面白いですね」
「誰のせいだよ! ま、まったく、根も葉もないこというのはやめてよね……」
「これは失礼を致しました。ですが、一つだけ申し上げておきますと、あのような目をしていますとボンクラ男でもない限り一発で察してしまいますよ。
隠しておくつもりであれば、せめて態度には出さないようにすることに越したことはありません」
「な、なんのことかミリルには全ッ然わからないけど、参考にだけはしておくわ!」
「ふふふふ。是非そうしてください」
微笑ましいやりとりをする二人を前にドルドレーグは呟いた。
「仲良きことは美しきかな。次は僕も混ざりたいものだよ」
ドルドレーグはキラリと涙が一粒溢れそうになる。
と、ドンッと肩にぶつかった衝撃に大きくよろけた。
「どわぁ!?」
どうにか転ばずにはすんだものの、ドルドレーグは弾き出されてしまう。
入れ替わるようにスキンヘッドの男がその場に残った。
「んだぁ? 誰かいたのかよ、気付かなかったぜ!!」
しらじらしく大声で言うスキンヘッドに、近くの仲間らしき大男が肩を叩く。
「はっはっはっは!! てめぇは下手すぎるぜ、嘘がよぉ!!」
「るせぇな!! マジで気付かなかったんだって!! ハッハッハ!!!」
唖然とするドルドレーグ。
男たちに不穏な視線を向けるナナミ。
ミリルはスキンヘッドの男の方を見て、
「あ、昼前にぶつかった失礼なハゲだ」
身も蓋もなく言った。




