第13話 急造パーティで冒険に行くのです
少年、ドルドレーグの年はレイと同じ16歳で、背丈や体格は平均的なものである。
ドルドレーグはふたたび黒髪をふぁさぁっとかきあげて、ふっと笑う。
「実は、そのメイドに依頼をひとつこなしてこいと命令されてしまってね。
どうせなら仲間を募ろうと思い、同期であるティオニア君とミリル君を見つけたから声をかけたところだったのさ」
「なるほど。そういうことだったんですね…………あれ? 命令? メイドさんからですか?」
強烈な単語の違和感にレイが首を傾げると、ドルドレーグは特大のため息をついた。
「そうなんだよ。あれでもナナミは僕の世話役のメイドなんだけどね。
幼いころから僕に付いているせいか、主人である僕に遠慮というものがまったくないのさ。
まぁ、精神的に未熟な者によくありがちな、大好きな相手ほどいじめたくなるというそれなんだろうけど、僕としては少々頭の痛い案件でね」
「私のご主人様は旦那様ですよ。若は旦那様のご子息にすぎません」
「ひぃッ!?」
ドルドレーグが文字通り飛び上がった。
おそるおそる振り返ると、そこにはいつのまにか周囲を圧倒する存在感を放ち続ける微笑を浮かべたメイド姿の少女がいた。
レイには気のせいか、メイドの背後に『ゴゴゴゴゴゴ』といったような効果音が幻視された。
風もないのにメイドの赤髪がゆらりゆらりと揺れている。
「い、いたのかいナナミ……」
「当然です。私は若のお付きなのですから。
……ティオニア様、レイフィード様、ミリル様。はじめまして、私はナナミと申します。
若のお付きのメイドです。お見知りおき願います」
ナナミと名乗るメイド姿の少女が綺麗に礼をする。
様になる立ち振る舞いだが、手にもった槍が強烈な存在感を発していて何もかもを吹き飛ばす勢いであった。
困惑するティオとレイ。ミリルは深くは気にせずナナミのメイド服を興味深く見ていた。
「ナナミさんって武術訓練のときに見たけど、すっごく強かったよね。最近のメイドさんはなんでもできるんだねぇ」
「ありがとうございます。若に強くなってもらいたい一心で若と共に訓練をしていたのですが、気がつけば槍術にある程度の自信をつけることができていたのです」
「すごーい! メイドの鏡だね!」
(それメイド関係あるんですか?)
レイは口には出さず疑問に思った。
ナナミは「それで」と口にして、ドルドレーグを振り返る。
「若はどの依頼を受けるのですか?」
「そ、そうだな。僕はまだハンターとして登録はすんでいるとはいえ名ばかりであるのも同然だ。
まずはこのあたりから始めたいと思っているのだが……」
ドルドレーグの指し示す先は常時依頼状態のひとつ、薬草採取だった。
レイとミリルは、はっとして見合わせる。
(そうです! 常時依頼でしたらいちいち受付に行く必要ありませんね!)
(薬草採取にしろ魔物討伐にしろ、成果を報告して報酬をもらうだけだもんね! 細かい手続きもないし!)
(なぜこんなことが思いつかなかったのでしょう!)
レイは自分自身に憤慨しながらも、気合で困った表情をつくりあげた。声もいつもよりも高めにして話し始めた。
「……あの、実は私たちもギルドへ依頼を受けに来たのですが、なにぶん初めてのことですし不安もあります。
よろしければドルドレーグさんとご一緒させていただけますか?」
レイの言葉にドルドレーグがぱぁっと顔を輝かせる。
「も、もちろんだよ! いやぁ、渡りに船とはこのことだね!
これでも僕はある程度の目利きができる。少し見れば大抵の素材であれば判別できるから採取に時間がかかりすぎることはないさ!」
どんっと胸を叩くドルドレーグに、ミリルはわざとらしいほどに大袈裟にノリを合わせる。
「へ、へぇ! それは助かるなぁ!! 私は薬草とかさっぱりだからなぁ!!」
「そうなのかい? よければ見分け方のコツなんかを教えるよ。抑えておくポイントはそれほど多くはないからね」
ふわっさぁと黒髪をかきあげるドルドレーグ。
それまで黙って事の推移を傍観していたティオが柏手を打つ。
「話はまとまったみたいね。それじゃ、さっそく行きましょうか」
皆がぞろぞろと歩き出す中、ナナミは一つ小さく頷いてから後に続く。
やけにキラキラとした笑みを浮かべて、レイの隣についた。
「ふふふふ、よろしくお願いしますね、レイ様」
「ええ。がんばりましょう」
こうして、急造の5人パーティが出来上がったのであった。
◇ ◇ ◇
5人が入ったのはデルギス森林である。
王都オルレシアンから南東に位置する森であり、強力なAやBランクの魔物はあらかた狩り尽くされているため、初心者ハンターが簡単な依頼をこなすにはうってつけの場所であった。
レイもミリルも薬草を採取しつつ、適当に出てきたリトルラビットあたりの最低ランクの魔物を狩ればいいだろうと思っていたのだが……。
「ッ!!」
引き絞られた弓からは高速の矢が射出される。
狙いたがわず、矢は豚姿の2足歩行の魔物であるオークの眉間に突き刺さり、一撃で彼の魔物を絶命させた。
「ふぅ……話には聞いていたけれど、オークって大きいのね。自分たちより大きな魔物は一瞬戸惑ってしまうわ」
ティオは額に浮かんだ汗を袖でぬぐった。
ティオの後ろに隠れていたドルドレーグが、ぱちぱちぱちと拍手する。
「おお!! 見事なヘッドショットだ!! ティオニア君は本当にすばらしい腕をしているな」
「ありがとう。剣を持つよりも、私にはこちらの方が向いているの」
「今まで出てきた魔物は、ほとんどティオニア様の弓で倒してしまっていますね。私としては楽ができて嬉しい限りです」
しゃあしゃあとのたまうナナミに、ティオは苦笑する。
和やかな空気の中、レイはおずおずと手を挙げる。
「あ、あのー。……ティオさんって、実は前からハンターやってたりとかしませんでしたか?」
「え? ないわよ。護衛の者と狩りに出たことは何度かあったけれど。それも小動物が出るところだけよ」
「そ、ソウナンデスカー」
思わず棒読みになるレイ。
(こ、これが実質初めての魔物討伐ですか? 初討伐でオークを一撃ってそんな人一体何人いるのでしょうか……一応オークってDランクの魔物で初心者であるFランクハンターにはかなりの難敵のはずなんですけど……)
(ティオさん、ヤバイね。なんでも出来る人だなーって思ってたけど、これは本当に予想以上だよ)
(私たちの初討伐のときなんてひどいものでしたよね。一日中山を駆け回って、討伐できたのはロウバード1匹っていう……)
(今日はほとんどティオさんが弓で仕留めてるからねぇ。抜けてきた魔物はナナミさんが槍で瞬殺だし。薬草はドルドレーグが採取してくれてるし)
(私たち、本当についてきただけですね)
安心したような、ちょっとだけ残念なような、そんな複雑な心持ちでレイとミリルは顔を合わせるのだった。




