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第11話 王都を歩こう

 翌日の朝。

 レイフィードとミリルがティオニアを連れて教室まで行く道すがら、


「おはようございます、お姉さま! ミリルちゃん! 今日も良い天気ですね!」


「……お、おはようございます」


「おはよー」


 レイとミリルが挨拶を返すと、なぜか挨拶をしてきた生徒の周囲から歓声が上がった。

 「やっぱりかわいい!!」だの「昨日の訓練での、真剣な眼差しを思い出すわ……」だの好き勝手言っていた。


(なんですかこれ……一体どういう状況なんでしょう。

 というかお姉さまって何です? 私の妹はこの世にたった一人しかいないんですけど……)


 朝から思わぬダメージを受け、足元がふらつくレイ。

 挨拶をしてきた娘をよく見たら、昨日の昼休みにレイに突っかかってきた王国貴族の女生徒であった。


「手本のような掌返しね。

 よくもまぁ、王国貴族の子女まで誑かしたものだわ」


「誑かしてなんていませんよ……」


「私は姉さんの天然っぷりは知ってるから慣れてるけどね。

 お嬢様たちには刺激が強かったと思うなぁ」


 ティオとミリルの言葉に、レイは傍から見てもわかるくらいに肩を落とす。


 昨日、レイとナージュの戦闘訓練を見ていた者たちにより、今やレイの強さは上級学校全員に知れ渡っていた。

 ナージュは言うことこそ極端だが実力は確かなもので、上級学校では1、2を争うほどの強さである。

 そのナージュを、ふわふわとした田舎貴族の娘であるレイがあっさりと投げ飛ばしてしまったのだ。

 目立つのも当然であった。


「ね、ね、ティオニアさん。ちょっとこちらへ……」


「はい? なんですか」


 女生徒に声をかけられて、ティオは言われるがまま廊下の隅へと移動する。


「ティオニアさんは、よくあの二人と一緒にいますよね? 一体どうやってそんなに仲良くなったのですか?」


「別に普通でしょう。特別なことは何もしていないわ」


「旧知の仲ということなのですか?」


「上級学校で初めて知り合ったわ」


 その言葉に他の女生徒も群がってくる。


「ティオニアさん! お願い、二人と仲良くなる秘訣を教えてください! 私も貴女のように仲良くお話したいの!!」


「私も!」


「ワタクシも!!」


「俺はミリルちゃんを撫でたい! むしろ撫でられたい!!」


「……いえ、申し訳ないのだけど、本当に何もしていないの。

 強いていえば、少し勉強を見てあげたことくらいかしら」


「勉強!? その手があったか!!」


「くぅぅ、ワタクシ座学は苦手ですの!!」


「ああ、お姉さまに体術訓練をして欲しいです……」


「俺はミリルちゃんに魔法を打ち込んで欲しいぜ!!」


「…………皆さん、がんばってくださいね」


 


 ◇ ◇ ◇





 生徒達が待ちに待った休日。

 各々が遊び、実家、訓練等思い思いの場所へと散っていく。

 校内に残っている者はほとんどいなかった。

 

「案内をお願いしてしまい、すみません」


「ティオさん、ありがとね」


「いいのよ。どうせやることなどなかったし。寮にいても勉強くらいしかしないでしょうから」


 レイとミリルはティオを連れて街へと出ていた。

 親ばか力を思う存分発揮しているのか、ティオに足りない物品など存在しなかったのだが、レイやミリルは長旅で荷物も最小限にしていたため、何かと日用品等が不足していたのだ。


「それにしても、本当に人通りが多いのですね。

 お祭りでもあるみたいです」


「陛下の聖誕祭などがあれば、この比ではないわよ。大通りなんてまともに歩くことなどできないでしょうから」


「ええ!? これ以上人が増えるの!? ……王都ってすごいんだねぇ」


 ミリルの素直な反応にティオは微笑する。


「陛下はお目見えにならないけれど、パレードは見事なものよ。

 王国近衛兵と魔法師団も行進するのだけど、あれだけの数を見ることは稀ね。一見の価値はあるわ」


「なにそれ見たい! 聖誕祭っていつやってるの?」


「残念だけど、つい先日したばかりだから。まだまだ先ね」


「えぇぇぇ。なぁんだ、つまんない。姉さん、来年まで王都にいる?」


「……お祭りを理由に王都に居座ることはありませんよ」


「えぇぇ、いいでしょ別に。じゃあ、生誕祭のときには……」


 ミリルがレイの横で袖を引っ張っていたところ、正面から歩いてきたスキンヘッドの男とぶつかってしまう。


「わぶっ!?」


「……ってーなぁ」


 男は体格がよく、小さなミリルは簡単に飛ばされてしまう。

 レイはミリルの背に手をかけて転倒するのを防いだ。

 ミリルはすぐにレイから離れて、男の前へと行く。


「ぶつかって、ごめんなさい」


「……ちっ、クソガキが。前むいて歩くこともできねぇのかよ馬鹿が」


 男は吐き捨てて歩いていく。

 ミリルは下を向いて震えていた。


「大丈夫?」


 ティオがミリルの肩に触れる。

 相手は男で柄も悪い感じであった。

 ティオにとってミリルは年下の少女である。

 いくら魔法が達者に扱えるといえども、男からひどい言葉を言われれば泣くこともあるのだろうと思い声をかけたのだが……。


 ミリルはキっと男の去っていた方を睨み、


「あんのくっそハゲ!! あんたこそ前向いて歩きなよ!! 今度会ったらぶっとばしてやるかんな!!」


「どうどうどうどう。その辺にしておきましょうね。淑女の面が完全に消滅してしまっていますよ」


「紳士でもないチンピラに、淑女である必要なんて一片たりともない!!」


「はいはい。ティオさんも引いてるからねぇ。よーしよーし」


 レイは動物に接するようにミリルの頭を撫で回す。

 ミリルは憮然としているが、一喝したおかげなのか次第に落ち着いてきていた。


「す、すごいこと言うわね、貴女……」


「全然大したことないですよ、こんなの!」


 腹立たしげにしているミリルに、ティオはカルチャーショックを受けていた。


「わ、私とミリルは田舎の出ですので……」


 心中で偽装身分の出身地であるネイフィードの地に謝りながら、レイは田舎のせいにするのであった。


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