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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

潰すことが大好きです!〜鈍器の魅力に憑かれた魔女は鉄の身体で押し通る〜

 師匠は言っていた。


『とにかく全力で振り抜け、そうすれば相手は死ぬ』


 私を取り囲む10人を超える武装した男たちが緊張した面持ちでジリジリと包囲を狭めてくる。

 距離はおおよそ3メルー(3m)、魔術なら発動前に潰されてしまう距離だ。

 先日は奇襲を受けていきなりこの距離でこいつらに襲われた。

 非力な魔女であった私になす術はなく、こいつらはいとも簡単に私を蹂躙して見せた。


 だが今は違う。


 見上げなければならなかった男達は、今や見下ろす対象。視線が高いという事はそれだけで相手を威圧できる、前回痛感したことの一つだ。


 私は得物の長柄の鉄棍を強く握り、ありったけの力で横に薙ぐ。


 ブォ!ガッ!ガン!ブチッ!ゴツッ!


 右の男の頭が爆ぜる。二人目の頭は上半分が吹き飛び、三人目、四人目は首がちぎれ飛び、折れる。

 あ、五人目は柄で引っ掛けた。だけど振り切れば問題なし。

 横のお仲間を巻き込み、団子になって転がってゆく。


 鉄棍を伝わってきた鈍い感触。


「…………」


 ガン!キンッ!


 おっと、背後から殴られた。

 二人かな? 振り向きながら右腕を振る。


 残念、相手の持っていた盾に直撃。だが構わず撃ち抜く。私の拳は鋼の拳、手持ちの盾など何するものぞ。

 盾を割り、鎧を穿ち、胴体を貫く。


 ズブッ!


「…… んっ」


 恐怖に怯えるもう一人と目が合う。不愉快。

 左の平手で頬を張る。


 バチン!


 首がグルリと半周、不快な視線が消える。


「あはっ!」


 残った男達は情けない悲鳴をあげながら後ろに向かって走り出す。

 まあ、見逃す理由はない。勿体無いし。 ん? 勿体無い? …… うん、勿体無い。


 右腕を死体から引き抜き鉄棍を拾いあげ、投げつける。


 胸を貫き、地面に縫いとめる。うーん、


「いまいち」


 脚力にモノを言わせ追いすがり殴り倒す。


「いいかも」


 最後の一人は頭を掴み、潰す。


 ブシュッ!


 これは、ちょっと……





「好き」






 掴んで、叩きつける。 追いすがり潰す。 回りこみ、かち割る。

 やっぱり、


「楽しい」


 どうやら私はこの作業が気に入ってしまったらしい。

 魔術にはなかった自らの手に残る感触が何とも言えず心地よい。

 これは下っ端も逃したくないなぁ


 私は身体に刻まれた魔術式の中から結界式を選び、魔力を注いで師匠(変態ジジイ)謹製の広範囲結界を展開。これでもうオモチャたちは逃る事ができない。


 まあ、前回は私がオモチャ役をやったのだ、今回は彼らに役を代わってもらうのが平等とゆうものだ。


 結界の中の小さな世界、私は走り回り潰す。


 プチッ! プチッ! プチッ!


 ああ、これはあれだ。

 茹でた豆をサヤから押し出す作業、あれに似ている。

 最初は面倒だと思いながら始めても、いつの間にか熱中してしまう中毒性のある単純作業。


「ふふふっ」


 彼らは遅い。

 彼らは非力で、

 柔らかい。


 弱い彼らは逃げ惑う。


 速くて、

 硬くて、

 強い私は、


 鉄棍を振るう。


 上から下へ、右から左へ。

 調子に乗りすぎ地面を叩くと、鉄棍が歪む。

 何かの拍子にうまく当てると、相手が爆ぜて快感が伝わる。


 より良い感触を求めて、少しずつ振り方を修正してゆく。

 全身を使い、振り抜く。


 今の私の身体、師匠が製作したこの魔導鎧は見た目こそ民間流通品だが、その性能は各国家の誇る最上級モデルにも匹敵する、こんな傭兵崩れの反乱軍もどきなどには、万が一にも遅れを取る事はない。


 さあ、そろそろ彼らの頭目を探し出そうか。私がこの身体を選んだ理由。

 生身の身体では到底敵わぬ魔導鎧に身を包んだ私の仇。


 彼は速いだろうか?

 彼は硬いだろうか?

 彼は強いだろうか?


 彼を潰すと気持ち良いだろうか。


 楽しみだ。

 私を蹂躙した時の彼らもこんな気持ちだったのだろうか。

 もしそうならば、彼らの行動にも頷ける。

 こんなにも楽しく、こんなにも心躍る。


 ああ、早く彼に逢いたい。





******



「ステラ! 意識が戻ったか!だが一刻を争う状態だ。早く治療方針と対価を決めてしまうが良い。ワシのオススメはホムンクルスのタンクでポーション漬けだ。2ヶ月もあれば回復もしようし、お安くあがるぞ」


師匠が話しかけてくる。


目がよく見えない。

全身が酷く痛み、うまく動かない。

それでも私は死なずに済んだらしい。


きっとこの師匠(変態ジジイ)が何か手を回していたに違いない。

彼は以前から研究対象として、私の身体にご執心だ、それを失うのを恐れたのだろう。

だが、よくあの状態の私を生きたまま連れ出せたものだ。


あの状態、思い出すと怖気が走り激しい不快感で吐きそうになる。

何より悔しい。不意を突かれ押さえつけられただけで何も出来なかった。


…………


純粋に、腕力が足りなかった。

魔術など使う暇すらなかった。


非力な私は彼らの嗜虐心を刺激するよいオモチャになった。

治療方針か。

もう、どうなっても構わないかな。

身体の傷は治せても……


そうだ、もう要らない、こんな傷モノの身体などどうだっていい。

必要なのは尊厳を取り戻すこと。


「先生、地下室のアレで…… 対価はこの身体、私の抜け殻を差し上げます」


残り僅かな体力を振り絞り希望を告げたところで限界だったのだろう、意識が遠のいた。





再び目を開けると嘘のように痛みが引いている。

身体を起こす。


カシャッ


…………


腕を見る。

鈍色に光る金属の腕。

立ち上がる。

視線が高い。


どうやら師匠は私の希望を聞き入れてくれたようだ。


魔導技術の粋と金属加工の匠の技の融合。

戦場の華、人生の棺桶。


魔導鎧


人間と鎧を直に繋いでしまう狂気の産物。

その力は一騎当千、一部の最上級品に至っては生物の到達点と言われる英雄「超越者」にも比肩しうると言われている。


そんな魔導鎧に私はなった。


流石は師匠、よい仕事だ。

違和感が殆どない。

強いて言えば身体の芯が冷えたような感覚があるくらいか。

破損した生身から必要な部分を移植するにも手術が必要だが、一人で行ったのだろうか。此処には私以外の人手はない筈だが。


こうして現状の把握をしていると戸が開き、赤い小さな塊が部屋に入ってくる。


「ステラさん、お目覚めになりましたか?」


私を見上げ、首をかしげる。


これは……


赤いローブに赤い靴、白と黒の美しい毛並み。クリッとした大きな瞳。

長い尻尾で直立歩行する、猫。


「わたしステラさんのお世話をさせて戴く事になりました、賢者様の使い魔でケットシーのニーヤと申します。以後よろしくお願い致しますね」


「かわいい」


「ふふふ、ありがとう御座います。ステラさんもたいへん凛々しくなっておられますよ。馴染むまで少しかかるかもしれませんが何かおかしな所は御座いますか?」


おかしな所、違和感……


「さむい」


かな?


「それはいけませんね。ステラ様には温度を感じる部位は残っていなかった筈なのですが。精神的なものでしょうか?賢者様に相談してみなければわかりませんね」


顎に手を当て考える仕草をする目の前のモフモフ。


「あったかそう」


「えっ?って、きゃー!な、何をなさっているのですか!」


目の前のモフモフを抱き上げる。

ローブの下からの手を入れ、柔らかいお腹をクシャクシャと撫で回す。


「い、嫌です!やめてください、そんな所、あっ!」


構わず撫で回す。


「ひっ!」


必死で争うニーヤ。

身体を捻り、腕に爪を立て噛み付く。


「フゥー!フゥー!」


息が荒く必死さが伝わってくる。

なんだかキュンとしてしまう。


「かわいい」


私の言葉に反応したニーヤは目をつむり涙を流しながら噛む力を強める。

どんどん愛おしくなってきた。


ニーヤが動いたために手は背中だ。

撫でる。撫で回す。

私の手が背骨の一番下、尻尾の付け根に到達するとひときわ大きく身体が跳ねた。


ん?ココがいいのかな?


とんとん、揉み揉み。


「ひっ!そ、そこ嫌ぁ!!」


ん〜。

続行。


わしゃわしゃ、とんとん、揉み揉み。

ピクピク跳ねる小さな身体。


「あ、あっ、んっ!」


抵抗が小さくなる。

心がほんわりする。


その後、ニーヤがグッタリと動かななくなるまで思う存分撫で回すと、身体の芯の冷えた感覚は、ほんわかと暖かい気持ちへと変わった。






ニーヤを作業台に寝かせ地下の工房を出る。

師匠は研究室だろうか。

玄関ホール経由で二階の研究室に向かう。


…………


なんだこれは。

悪趣味に過ぎる。

透明なガラスで作られたホムンクルス培養タンク。

その中には赤子のように身体を丸めた全裸の女性。

まあ、私の抜け殻だ。怪我はまだ癒えていない。


こんなものをよりによって玄関ホールに飾るとか感性を疑う。

とりあえず師匠には一発入れておこう。


おや?何故頭がついている?

普通魔導鎧には最低でも人の首から上が必要になる筈だが、今の私の頭は空っぽか?


…………


よし、よく分からないけど二発殴ろう。


研究室のドアを蹴破り、師匠に詰め寄る。


「ホールのアレはなんですか?説明してください先生(変態ジジイ)


「落ち着け。他にタンクの空きがなかったのだ。移動させる時間も場所もなかったしな」


むむ。


「それに他にタンクを置ける場所などワシの寝室くらいだぞ?」


「それは絶対に嫌です」


「傷が治る頃にはこの部屋のタンクが空く、其れまでの我慢だ」


仕方ない、後でシーツでも掛けておくか。


「それと、今の私、中身空っぽなんですか?抜け殻に頭が付いたままでしたよ?」


「その辺りは今後のメンテナンスの事などと一緒に後日説明しよう。それよりも今は用事があるんじゃないのか?」


用事?ああ、用事があるのだった。

私はお遊戯の途中で抜けてきたのだ、戻らなくてはならない。

そうだ、早く、早くだ。


「手ぶらではなんだろう。お土産を用意しておいたから持っていくといい」


「あいつらは?」


「移動にはまだまだ時間がかかりそうだと聞いた。好きにしてくるといい」


壁に立てかけられていたお土産、長柄の鉄棍と縦に鉄板状の突起のついたメイスを受け取り部屋を辞す。


「身体の使い方は分かるだろうが一つアドバイスだ。素人のお前がうまくやろうとしてもダメだろう。その身体を信じて、とにかく振り抜け、そうすれば相手は死ぬ」


師匠のいい加減なアドバイスを背に受け、私は出発した。




******





ほとんどの相手が逃げ惑う中、私に向かってくる一つの影。

私と同じ2m超えの体躯、全身を覆う金属の鎧。


「あは!」


間違いない、彼らの首魁の魔導鎧。

近隣の村を襲い、規模を拡大する自称反乱軍「赤狼党」を束ねる元傭兵の


「私の仇」


魔導鎧用の肉厚の長剣を抜き、独特の「ブーン」とゆう駆動音をさせながらこちらに迫る。


「まさかこんなに辺境で俺と同じ9割のゲーテックモデルにかち合うとはな。

しかも新品のどノーマル、追加装備なしときた」


9割のゲーテックモデル

体の9割をゲーテックとゆう名前の上級魔導鎧に取り替えた魔導鎧。


まあ、私のは偽装で中身別物なのだけれど。


「俺達を消す為にその身体を手にいれたってとこか。この領の貧乏領主にしちゃあ随分張り込んだもんだって、おい!だんまりかよ。」


微妙に見当外れの推論を垂れ流す彼は、私の事を覚えていないのだろうか。

私はあなたの為にこの身体のになったとゆうのに。


「悲しい」


せっかく高揚していた気持ちが一気に盛り下がるのを感じる。


「まあいい、昨日今日鎧乗りになった様なヤツなんざ俺の敵じゃねえ。

まだこの馬鹿げた規模の結界を張りやがった術者も探さなきゃなんねしよ。

サッサと死ね!」


彼は一方的に喋べり終えると、襲いかかってくる。

結界についても、つい最近出逢った魔女の事など思い出しもしないようだ。


失望した。

楽しく無い。


「いらない」


適当に処理して帰ろう。


長剣を振り上げ、迫るゲーテックモデル。

この民間で入手可能な範囲での最上位魔導鎧は「速さ」と「拡張性」に優れる。

各々の好みや戦場の状況に合わせて様々な追加装備を選択することが出来るのだ。


目の前のゲーテックはどうやら魔導鎧同士の戦闘に主眼を置いている様子。

出来るだけ可動域を確保しながらの対衝撃用鎧に、同種の相手に致命傷を与えられるだけの威力を持った長剣。


私は、近づかれる前に鉄棍を振るう。


ガキィッ!


長剣で弾かれ不快な音がする。

対するゲーテックはそのまま迫り、長剣を振り下ろす。


身体を捻り、弾かれた鉄棍を無理矢理引き戻す。


ギィン!


なんとか長剣を防ぐが鉄棍が折れる。

続けざまの斬撃は私の左肩口を襲う。


キーン!


甲高い音を立てながら2mを越える私の身体が弾かれる。


「!? 何で切れねえ!てめえ何しやがった!」


私は何もしていない、何かをしたのは師匠(変態ジジイ)で、私はそれを手伝っただけ。

そのせいで無駄に魔導鎧に詳しくなってしまったが、それも今役に立っている事を考えると良いバイトだった。


身体の硬さは私の方が圧倒的に上らしい。

どうやら師匠の努力は無駄では無かったようだ。

折れた鉄棍を捨て、腰のメイスを抜く。

カクカクしいフォルムが可愛い。


ここからは私の番。

もうこのゲーテックに魅力は感じないが、師匠の技術に興味が湧いた。

手の中の獲物を強く握りしめ、振り上げ、叩きつける。


む、避けられた。


泳ぐ身体を無理矢理引き戻し、もう一度。


ガキィッ!


ゲーテックが長剣で受け止めるが威力を殺しきれなかったようで、そのままへし折れる。

得物を失っては其れまでだ、ゲーテックの腰にも予備の武器が有るようだが、まあ、させない。


態勢を立て直す暇を与えぬよう手数重視で殴る。

何度も、何度も、何度も。


ゲーテックは腕を上げ頭を庇っているが腕のフレームが目に見えて歪んでゆく。

そうか、彼の頭の中は生身だった。


私の打撃から必死に頭を守る様子が可笑しくて、もう少しだけ遊んであげる事にする。


頭以外の上半身を強さを替えながらくまなく叩いてゆく。


バキッ! ベコッ!ガン!ガン!ガン!


ふふふ。魔導鎧は丈夫にできている。


振り下ろす。

右腕が上がらなくなったようだ。


振り下ろす。

胴体がへこむ。


振り下ろす。

あ、首が変な方に向いちゃった。


振り抜く。

ゲーテックの頭が弾け飛び腕に軽い痺れが走る。


「気持ちいい」


簡単に処理するつもりのゲーテックの解体は思った以上の満足度が得られた。

気分がのっていればと悔やまれる。


彼らの残りはもう少し。

もう少しだけこの余韻を楽しめる。


もう少しだけ楽しんだら、明日からの事を考えよう。


今はただ、もう少しだけ。



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