表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボーダブレイカ  作者: 高温動物
27/35

始まり

 どれほど走っただろう。道など関係なく、ただ駆け抜けた。

 酷く身体が重い。身体中が血生臭くて堪らなかった。

「っ……げほっ……」

 ようやく足を止めたのは、昼間に訪れた劇場の屋根上だった。呼吸すると、まだ少し煙に咽てしまう。

 燃え盛る王城から流れてくる黒煙は都市を暗く歪めていた。


「…………」

 全て、失ってしまった。

 たった一晩で家族も、愛する者も、主君も、帰る場所さえ失った。その上、今やこの身は大罪人。直にエインフィリアを歩くことすらままならなくなるだろう。

 いっそ自決を、などと考えもした。しかし、その前にやることがある。

 手中に握られたままのペンダント。服も髪も乱れているのに、これだけは無傷で輝きを放っている。

「……まだ、死ねない」


 やけに身体が重いのは、長い髪に血がこびり付いているせいだろうか。凝固した髪は風にそよぐこともなく、ただひたすらに不快だった。

 だから――ミレアはナイフを取り出し、

「メイル、アンタが愛した騎士は――死んだわ」

 ザクッ、と長い黒髪を斬り裂いた。


 放たれた髪束が解け、夜空へと舞い散る。

 メイルが褒めてくれていた頃は手入れに気を遣っていたはずだが、今は何の感慨も抱けなかった。

「あの頃に戻っただけ……いや、違うか。一つだけ、目的がある」

 頼る人もなく死を待つだけだったあの日。孤独という意味では今も似たようなものだが、今のミレアには出来ることがあるのだ。


「見ていて、メイル。絶対に、アイツだけは――殺してあげる」

 ペンダントは着けなかった。これは自分の物ではないから。だが、これだけが唯一の手掛かりであり、撒き餌なのだ。

 肩口までの長さとなった髪を揺らし、ミレアは再び駆け出した。


 姫のデコイでもなければ従者でもない。

 ただの復讐者と化した彼女が目指す先――ドットフィリアへ向けて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ