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七話 抱きしめたいよーコンチクショー!

 人間牧場へ向かう道中は度々ゾンビが襲ってきたけど、私がサクサク排除することで問題なく進んでいくことが出来た。

 あのビッグベアーみたいなのはやはり特別だったみたいで、結局あのクラスの魔物(ゾンビ?)に遭遇することはなかったよ。

 野犬や鹿なんかのゾンビには何度か遭遇したけど、熊とは違ってたいした障害にはならなかった。


 ジャンネさんは剣さえあれば自分が戦うことが出来たのにと申し訳なさそうにしていたけど、同行させてもらっている以上は役に立つのは当たり前なので、気にしないで下さいと言って納得して貰った。


 そんなこんなで歩き続けること一日半――。

 やって来ましたよ人間牧場に。


「噂では聞いてたが……こりゃすげぇな」


 フレッドさんの言葉に、私もコクコクと頷いてしまう。

 見えてきたそれは、周囲を高い防壁で囲まれた立派な町だった。

 入り口らしき場所には門番らしき人も二人いるね……て、あれはー!?


 獣人だー! モフモフだー!!

 灰色の毛並みをした、犬とか狼とかそっち系? 人間寄りじゃなくて獣寄りのモフモフ。

 体格からして男性だとは思うけど、とにかくモフモフであることに間違いない!


 門へと向かって歩く私達に気づいて、獣人の門番さんが驚いたような顔をしてこちらへ近づいてきた。

 もう一人のほう(こちらは普通の人)は、街の中へと走って行く。


「驚いたな、まさかこの付近にまだ生きた人間がいたとは。どこの村のものだ?」

「ここから北西に二日ほど進んだところにあるサンダ村だ。ゾンビの襲撃がキツくなったんで村人全員で移動してきた。ここに置いてはもらえないか?」


 門番さんからの質問にフレッドさんが答えを返す。

 こちらに対する敵意はなさそうで、門番さんは純粋にこちらを気遣うような表情を見せた。


「この状況で二日も歩いてくるだなんて、相当大変だったろうに」

「ああ、ここに来るまでに何度も襲われたよ」


 フレッドさんとモフモフの門番さん=モフ番さんが話している最中、私はモフ番さんのほうをチラチラと盗み見る。


 モフモフ触ってみたいなぁ……。

 やっぱり触ったら怒られるかな?

 思い切って「触ってみていいですか?」て聞いてみようかとも思ったんだけど、冷静に考えてみると初対面のおじさんに、


「すいません、ちょっとその体触らせてもらっていいですか?」


 て聞くのと大差ない気がしたので、それはもう破廉恥どころか完全に変態の所業だと思い至って泣く泣く諦めることにした。


「すぐにでも中で休ませてやりたいところだが、少し待ってくれ。今主様(あるじさま)の屋敷へ確認に行っているところだ」


 そういって笑顔を見せるモフ番さん。


「主様?」

「この牧場を守って下さっている方だよ。ここは主様の力で守られた町なんだからな」


 うっかり口から出てしまった私のつぶやきにも、モフ番さんは律儀に答えを返してくれた。いい人だ。


 しかし牧場なのに町なの? どういうことなんだ。

 私の中の牧場と、この世界の人達にとっての牧場とでは概念が違うの?

 うーんわからん。


 考え事をしながらモフ番さんとフレッドさんとの会話を聞いてたら、もう一人の門番さんが戻ってきた。横に真っ白なモフモフを連れて。


 うおおおおおおおおおおおお!!

 なんだこれー! なんだこれーーーー!!!


 子犬をそのまま大きくしたみたいな感じなんだけど、白くて小柄で。

 服装と仕草から察するに女の子に見えるけど……とにかくか可愛い、可愛いよ!!


「あの……主様から……。あなたと……あなたのお二人を、屋敷にご案内しろと……」


 控えめな声でそう言って、白いモフモフの彼女は私とジャンネさんを指差した。




 ◆◇◆◇◆◇◆




 白いモフモフっ子に案内されて、私とジャンネさんは町を歩く。

 他の人達はひとまず村の中に入る許可が得られたそうで、門番さん達に連れられて休める場所へと案内されていった。


 私はモフモフっ子ちゃんの横に並んで、積極的に話しかけてみる。


「名前聞いても良い? 私はカナンって言うんだっ」


「えっと……フォルテと、言います……」


 照れたようにうつむきながら、そう答えてくれた。可愛い。

 仲良くなりたいなー。そしてそのモフモフを触らせていただきたい。


「フォルテちゃんの毛並みって、真っ白ですっごいキレイだよねー」


 軽いジャブ、なにげない褒め言葉のつもりだったのに、フォルテちゃんは驚いたように目を開いてこちらを見てきた。


 あれ、なんか触れちゃいけないことだったりした……?

 ヤバい、嫌われたくない。


「……あ、えっと、ごめ――」


 私が慌てて謝罪の言葉を口にしようとしたところで、フォルテちゃんは消え入りそうな声で、


「あの……嬉し……ありが……と」


 と言ってうつむいてしまった。


 おいおいー可愛すぎるだろー! その仕草は反則だろー!

 抱きしめたいよーコンチクショー!


 案内されている途中で畑を耕す人や、町中で井戸端会議をしているおばさんたちなんかを見かけたけど、みんな血色も良く生き生きしていて、虐げられているような様子は見当たらなかった。

 拍子抜けしたというかなんというか、中はめっちゃ普通の町だね。


 ほんと、なんでここが人間牧場なんて名前なんだろ。

 知ってたりするかなーと思ってジャンネさんへと顔を向けると、彼女の顔には緊張の色が浮かんでいる。


 あれ? やっぱ警戒しとかないといけないの……?


 そうこうしているうちに、主の屋敷らしきものが見えてきた。

 町の中心部にあるそのお屋敷は、主の屋敷という名にふさわしいくらいに大きく、そして立派な造りの建物だ。


 おおー庭もきっちり手入れが行き届いている。

 てか、庭まで含めるとこの屋敷だけでこの町全体の半分くらいは占めてるじゃないだろうか。

 フォルテちゃんが扉を開け中へ。私達も後に続く。


 うはー中も広いなー当たり前だけど。


「そ、それではしばらくお待ちください……」


 フォルテちゃんは一礼すると、どこかへ行ってしまった。

 私は手を振ってフォルテちゃんを見送り、玄関ホールをキョロキョロ見渡す。

 甲冑とか壺とか絵画とか、そんな類が飾ってそうなイメージの建物だったけど、見当たらないなぁ。以外とシンプルだね。

 でも床に敷かれた絨毯は見事なもんだ。あと天井に吊り下がってるシャンデリアも趣がある……的な? 多分。


 私が興味津々で周囲を観察していたら、正面の階段からゆったりと人が降りてきた。

 真っ白なドレスに身を包んだ、透き通るくらい白い肌をした銀色の髪をした女性――。


 一瞬――ほんの一瞬だけ、すさまじい死の予感が私の全身を貫いた。

 息が出来ない。


「……興味深いスキルを所持しているのですね。それにその数……。なるほど、あなたが『落ちてくる世界』との衝突を阻止した転移者なのですか」


 ジャンヌさんの爽やかな美しさとはまた違う、寒気を感じるほどに透明な美しさを持った女性が、抑揚のない声でそう告げた。

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