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六話 ロケットパンチってことにしとこうね

「まさかこんなところでビッグベアーに出くわすとはな。私はジャンネ・ベターリーフという。改めてお礼を言わせてもらおう」


 おおお、さっきの頭悪そうな私のセリフを華麗にスルーしてくれるとは、なんて優しい人なんだ!


「私はカナン――えっと、カナン・ホワイトです。あっちで逃げてた人達と出会って、他にまだ戦っている人がいると聞いたので様子を見に来たんですけど――」

「そうだ! 村の人々は無事なのか!?」


 焦ったような声色で、ジャンネさんがそう問いかけてくる。


「ええ、ゾンビに追われてたんですけど私が蹴散らしといたので、ひとまず大丈夫だと思いますよ」

「良かった、みな無事だったか……。重ね重ねお礼を言わせてもらう」


 心底安心したというように息を吐くジャンネさん。

 いえいえそんな、と謙遜する私にジャンネさんが言葉を続ける。


「冥化したゾンビを倒すことが出来るとは、やはりカナンもスキル持ちなのだな。さっきの飛んでいたあれも――」


 うっ……そういえば私のスキルはあまり人に見せられるスキルじゃないんだった。

 どうしよう、私が異世界転移者だって教えちゃうのはマズいかな。

 うーん、ジャンネさんいい人そうに見えるし教えちゃいたい……けど、まだこの世界のこともよく分かってないんだし危なすぎるか。


「えっと、まあその……あ! さっきのジャンネさんの〈炸裂魔法〉最高に格好良かったですね! それに動きもすごく洗練されてて、思わず見惚れちゃいましたよっ」


 くらえ、今必殺の露骨な話題転換!


「……ほお、分かったのか。それとも私のことを知っていたか?」

「うん? 初対面だと思いますけど……ですよね?」


 ほんの少し前に異世界交流の第一歩を踏み出したばかりの私に、知り合いなんているわけない。

 なんだろ、もしかしてこっちの世界じゃ有名な人なのかな?


「……〈炸裂魔法〉などというマイナーなスキルを知っているとは、カナンはその若さで随分と博識なのだな。もしかして、中央の学院生だったか?」


 うへぇ、話題を変えてごまかすつもりが藪蛇だったっぽい。


「が、学院ですか? いや、えっと……まあちょっと遠くから来たんですけど、この森で迷っちゃいましてー! と、そうだ! とりあえず他の人達と合流して、顔を見せて安心させてあげませんか!?」

「む、たしかにその通りだな」


 向こうに居た人達を心配していたジャンネさんだけに、この提案はすんなり受け入れられた。

 必殺の露骨な話題転換、リベンジ成功の瞬間である。


 てかさ、「学院生」なんて言われて思い出したんだけど、私って若返っちゃったんだっけ。

 ここまで一人だったし鏡なんかもなかったからすっかり忘れてた。

 学院生って言葉から考えると、十代中頃くらいに見えるったことのかな。

 中身は学生っていう歳じゃないからなんだか恥ずかしい。本当はジャンネさんと同じか、少し上くらいなんだけどね……。




 ◆◇◆◇◆◇◆




「ロケットパンチ? 聞いたこともないスキルだな」


 今私は、ガタイのいいおっちゃんことフレッドさん、それからジャンネさん、あとはジャンネさんに足にくっついてる少女ことニーナちゃんと四人で一緒に歩いてる。


「いやまあ、うちの地方特有というかなんというか……マイナーなスキルなんですよねーあははーっ」


 ジャンネさんとフレッドさんから私のスキルについて聞かれたので、とりあえす思いついた適当なスキル名を返しておくことにした。

 ジャンネさんが訝しげな顔でじーっとこっちを見てるけど、気にしちゃ駄目だよ私!


 この世界では鑑定は一般的じゃないって神様が言ってたし、〈実体のない腕(ゴーストハンド)〉を直接見せたわけじゃないから大丈夫、なはず!


「すごかったー! びゅーって飛んできて、バーンってゾンビを倒しちゃったんだよー?」


 ニーナちゃんが嬉しそうに、ジャンネさんへと私がゾンビを倒したときのことを説明する。


「ああ、あっという間だった。お前さんに出くわさなかったらどうなってたことか、本当に助かったぜ」


 フレッドさんからのもはや何度目か分からないお礼の言葉に、私はたははと頭を掻いた。

 いえいえとんでもございません。

 こっちも下心あってのことだったのでお気になさらずー!


 ニーナちゃんもジャンネさんの足の横から顔を出して「カナンお姉ちゃんありがとう!」と言ってくれた。

 うう、癒される。


「おいおいニーナ、あまりジャンネさんに引っ付いて困らせるんじゃないぞ?」


 ジャンネさんの足から離れないニーナちゃんに、フレッドさんがやんわりと注意をした。

 ん? 今フレッドさんがニーナちゃんに向けて言った言葉がなんか引っかかった。


「あれ? 二人は姉妹じゃないんですか?」

「私はニーナ達と同じ村の人間ではないんだ。村で世話になるようになったのは三月程前からだ」


 ジャンネさんはそう言ったあとに、


「なんせ、それ以前は囚人だったのだからな」


 というなかなかショッキングな告白をそこに続けた。

 はははと爽やかに笑うジャンネさん。いやいや、笑えないよ!


 というか、ずっと気になってはいたんだけどね……ジャンネさんの首に嵌っている首輪と、そこから中途半端に伸びてる鎖。

 あれはやっぱりファッションとかじゃなくて、拘束具の跡だったんだ……。

 こんなに綺麗で清々しい人が囚人になるなんて、どんな事情なのか気になるけど……まあ、深くは聞かないほうが良いか。


「早く着かないかなーっ、楽しみだねージャンネお姉ちゃん!」

「……ああ、そうだな」


 笑顔のニーナちゃんに、ジャンネさんは頷きを返した。



 私達は今、フレッドさん達の村に向かっているわけじゃない。

 聞いたところによると、フレッドさん達はサンダ村というところの住人だったんだけど、そこを捨てて移住しようとしているところなんだとか。


 原因はやっぱりゾンビらしい。

 この三ヶ月の間はジャンネさんがゾンビ達から村を守っていたのだが、日に日に増え続けるゾンビの襲撃に、守り続けることが難しくなったとのこと。


 そして先日の「落ちてきた世界」の消失――。


「正直みな諦めてしまっていたのだがな、もちろん私も」


 自重気味に語るジャンネさんの言葉に、フレッドさんや他の人達も恥じるような笑みを浮かべていた。


「しかし『落ちてくる世界』が消え、生き残れる可能性が出てきたことでみなに活力が戻った。だがこれ以上村を維持するのは難しい。そこでみなで話し合って、安全な場所へ移ることに決めたんだ」


 村を捨て、全員で安全な場所へと移動を開始した。

 道中のゾンビはジャンネさんが全部片付けてたのだけど、運悪くビッグベアーと遭遇してしまい、ジャンネさんは一人で囮になって村人達をその場から逃した。

 そして逃げた村人達がゾンビに襲われそうになっているところに私が現れた――という感じらしい。


 つまり、今は安全な場所へと移動している最中なのだ。

 話を聞いて、もちろん私も同行させてもらうことにしたよ!

 安全な場所! いいよね!

 もう少しでゾンビ地獄ともお別れだー!


 でも一体どんなところなんだろう? 安全ってくらいだから、防衛能力に優れた場所だと思うんだけど。

 王都だとか、でっかい商業都市みたいなところなのかしらん?


「安全な場所ってどんなところなんですか?」


 気になったので、フレッドさんに尋ねてみる。


「ああ、ここから少し南下したところにある『人間牧場』ってところだ」


 ……へ? 街とかじゃないの?

 牧場? しかも人間の??


 なんだろ、あんまりいい響きはしないよね。

 そんなとこに向かってるって、果たしてホントに大丈夫なんだろうか。

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