四話 どこもかしこもアレだらけ!
ここから新規ストーリーとなります。
よろしくお願いします。
モフモフだったりふわふわだったり、癒されボディな愛らしい生き物と仲良くなっちゃったりして、そこから始まるのんびり異世界スローライフ。
そんな希望を胸に、意気揚々と歩き出してから早五日。
私は未だ森の中にいます。
てかさ、広すぎるよこの森!
こんなことなら、落下してるときにちゃんと地形を観察しておくべきだった……。
まああのときはテンパってて、そんなこと考えてる余裕なんてなかったんだけどさ。
そんな出口の見えない森の中で、私が出会う相手といえば――ゾンビ、ゾンビ、ゾンビ。
どっちに歩いてもゾンビ。人にもモフモフにも遭遇することなくひたすらにゾンビ。しかも結構な数の。
昨日なんて、歩き続けてやっと森の中に集落っぽいのを見つけてさ?
ひゃっほーいっ、ついに異世界人との交流が始まるぞー!
て具合に期待させるだけ期待させといて、中に入ってみたらどの家も荒らされ放題で、残っているのはもちろんゾンビのみ。
しかもゾンビ達は、一定距離まで近づくと一斉にこっちに向かってくるっていう面倒な仕様付き。
最初こそ驚いたり恐怖に陥ったりもしたけど、ここまで頻繁に出くわすとなるとね、もうすっかり慣れてしまった。
なぜか匂いがなくて、倒した後に死体が残ったり飛び散ったりなんてこともなく、すぐに消滅してくれるのはありがたいんだけどね。
それでも土気色のゾンビ達がワラワラとこちらに押し寄せてくる光景は、全くもって気持ちいいもんじゃない。
ほんとなんなのこの世界? 酷すぎない?
せっかく滅亡フラグをへし折ったのに、待っていたのがゾンビパニックとか心底げんなりだよ。
ということで、〈実体化した鋼腕〉パンチで迫りくるゾンビ達を排除しながら、私は現在進行系で森の中を彷徨い続けている。
……やっぱり直線に動かすのは簡単だけど、進路を曲げたり回転させたりと自在に動かそうとすると、魔力の消費が激しい上にコントロールも難しいなぁ。
それに出現させる位置も、自分から離れるほどに魔力を食う感じがする。
〈実体化した鋼腕〉の数を増やしてみたり、出来るだけ遠くに飛ばしてみたり動かし方を変えてみたりと、試す相手に困らないのはいいんだけど、さすがにそろそろうんざりしてきた。
神様から貰った水と食料にはまだ少し余裕があるけど、それだっていつまで保つかはわからない。
頑張って滅亡の危機を回避したのに、餓死エンドとか笑えないよね……。
手持ちの物資が尽きるまでに、なんとしてでもこの森から出るか、人のいる場所までたどり着かねばなるまい。
……生きてる人、どっかにはいるよね?
◆◇◆◇◆◇◆
それにしても、ここのゾンビ達ってちょっとおかしい。
神様からもらったリュックのポケットに入っていた「サルでも分かる異世界入門」という小冊子によると、この世界では生物、非生物問わず全ての存在にマナが宿っていて、マナの保有量がそのまま存在の強さに繋がるらしい。
そしてマナの大きさは基礎能力と魔力の大きさにも直結する。
マナがレベルでもあり最大マジックポイントでもある――そう考えれば分かりやすいかな?
それからモンスター(厳密には人もだけど)を倒すと、保有していたマナのうち一定割合は世界に還るんだけど、残りは倒した人間の糧となる。
だからゾンビだろうと倒せば私のマナが増えるはずなんだけど……これだけ倒してもなぜかマナが増えてる実感がないんだよねー。
うーん? 冊子に書いてないだけでアンデッドにはマナがないとかあるのかなー?
わからん。
とにかく現状だと、ただただ倒し損というか、時間と魔力の無駄遣いというか。
せめてマナが貰えるんであれば張り合いも出てくるんだけどなー。
そんなことを考えながら、もはや害虫駆除でもしている気分でゾンビに〈実体化した鋼腕〉パンチを振るっていたら――遠くから悲鳴のような声が聞こえた気がした。
意識を集中してみると……やっぱり聞こえる!
間違いなく人の声だ!
悲鳴を上げるような状況というのが少し気になるけど、とにかく向かってみるしかあるまい!
人に会えれば、町か集落まで連れて行ってもらえるかも知れないもんね!
私は音の聞こえた方向へと、全速力で駆け出した。
◆◇◆◇◆◇◆
生い茂る木々の隙間から、十数人の逃げ惑う人とそれに群がる多数のゾンビを私の目が捉えた。
おおおおやったー! 土気色の肌じゃない生きてる人間だー!
私は駆けつけるやいなや「露払いは任せろー(バキバキ)」とばかりに〈実体のない腕〉に〈硬質化〉をかけ実体化させた〈実体化した鋼腕〉を〈多重発動〉で複数生み出し、ゾンビ共をガツガツ殴り倒していく。
よし、今日は十本出しても余裕があるぞ。
最初は四本動かすだけでかなり辛かったということを考えると、なかなかの進歩なんじゃないだろうか。
〈多重発動〉自体にはそれほど魔力を使わないんだけど、それ以外のスキルには結構魔力を持ってかれるんだよねー……。
なんてことを考えながら、私は襲われていた人達へと目線を向けてみる。
怪我してたり齧られたりしてる人は……良かった、いないみたい。
いったいなにが起こっているのか理解出来ないといった感じで動きの止まった人々を横目に、私の〈実体化した鋼腕〉達は十秒足らずで全てのゾンビを駆逐し終えた。
うむ、相変わらずマナはもらえてないみたいだけど今回も快勝であった。
得意げに助けた人達に向き直ってみると――あれ、私あんまり歓迎されてない?
みんな警戒してるような、怯えているようなそんな表情。
「……えっと、どうもこんにちはーっ」
私は取り繕うように親しみやすそうな笑顔を作って、明るく声をかけてみた。
……緊張の一瞬である。
「あ、ああこんにちは。えっと、嬢ちゃんは一体……」
おっかなびっくりといった様子で、正面にいたガタイのいいおっちゃんが返事をくれた。
よし、言葉が通じる!
心の中でガッツポーズを決めて、私が自己紹介をしようとしたところで――。
「あの、あっちでお姉ちゃんが戦ってるんです! 助けてください!!」
小さな女の子が私の前に駆け寄ってきて、必死の形相でそう訴えた。