シャドーマン
10月の肌寒い日に俺は立っていた。日も暮れた神社の境内に家に帰りたくないただそれだけの理由で寄っただけっだたのだ。俺の目の前では黒い怪物が鳥居の辺りで集まっていた不良少年たちをちぎっていた。最後の一人をちぎり終わるとその怪物は目もない真っ黒な顔をこちらに向けた。まるで「次はお前だ。」と言っているようだ。あの黒い怪物からは俺は逃げられないそう俺は確信していた。黒い怪物がゆっくりと、しかし、すばやくこちらへ向かってくる。俺のクソみたいな人生にも謎の怪物の被害者という役柄が与えられるならそれもいいかと思えてきた。大学でもサークルに馴染めず、成績も下の中で誰からも期待されない光の当たらない人生に光が当たるならそれも良いか。そう思っているうちに黒い怪物の腕が振り上げられた。もう逃げる気も起きない。俺の人生に光が当たることを確証されて終わる。そう思った瞬間誰かの叫び声が聞こえた。
「何をぼうっとしている!」
俺は黒い人影に突き飛ばされて黒い怪物の手を避けてしまった・俺が居たところを見るとそこには影のような黒い人影が黒い怪物を抑えこもうとしていた。あの黒い怪物は人を軽々引きちぎる程の怪力だというのにその黒い人影はそれに対抗している。そして、また黒い人影は叫んだ。
「逃げろというのがわからないのか!?こいつは俺の手でも余してしまうぞ!」
だんだん黒い人影が黒い怪物に押し負け始めている。このままでは黒い人影はやられてしまうだろう。俺はそれがなんだか気に食わなかった。俺のようなクソな人生が終わらせるなら良いが、黒い人影は俺を助けたヒーローだ。ヒーローがこんなところでやられてよいはずがない。俺は意を決して近くにあった石を黒い怪物目掛けて投げやった。黒い怪物にその石は当たって黒い怪物の気がそれた。それを逃さず黒い人影も黒い怪物と距離をとる。黒い人影は俺になぜこんなことをしたのか尋ねたが俺はなんとなくとしか答えられない。それに今はこの黒い怪物をどうにかすることが先決だ。黒い怪物は再びこちらに向かってくるようだ。俺たちが協力してもこの怪物は倒せないだろう。それでも俺はこのヒーローである黒い人影だけでも生かすつもりだ。黒い人影が黒い怪物を迎え撃とうとしたとき俺は横から黒い人影を突き飛ばし。
「逃げろ!お前はまだ死んではいけないヒーローだ。」
黒い人影は驚いたようだ。そして、俺の身体は黒い怪物によって潰されるはずだった。だが、俺の身体は黒い怪物の腕力耐えている。痛いには痛いが押しつぶされはしない耐えられる程度だ。なにが起きたかわからないが俺の頭の中で声がする。
「緊急事態だ。君を認めて勝手にシャドーフュージョンさせてもらった。」
この声に聞き覚えはある。あの黒い人影の声だ。
「今は何もわからないかもしれない。ただ俺たちならあの怪物を倒せる。だから叫ぶんだ。オーバー・シャドーと!」
わけもわからないがあの黒い怪物を倒せるなら構わない。俺は叫んだ。
「オーバー・シャドー!」
叫ぶと同時に俺の身が黒く輝き出す。俺の身体から黒い影が湧き出し装着されていく。俺の身体にはまるで子供の頃憧れたヒーローの姿となっていた。訳がわからないが力が溢れてくる。これならあの黒い怪物も倒せそうだ。俺は拳に力を込め前に突き出しながら頭の中の声に従い叫ぶ。
「シャドー・パンチ!」
俺の放ったパンチは黒い怪物を貫き風穴を開けた。まさに必殺技だ。風穴を開けられた黒い怪物の身体は収縮を始める。それが手のひら大まで収縮が進むとその中から小さな気絶したネズミが現れたのだった。頭の中で黒い人影は言う。
「このネズミが核となってあの黒い怪物シャドーサーヴァントとなって暴れていたんだ。それにしても私の力がここまで通用しないとは・・・」
まだ黒い人影は頭のなかでブツブツと言っているがとりあえず。この気絶したネズミをどうしようか悩んでいると、意外なことに頭の中の声から返答があった。どうやらネズミが核として使われて暴走していただけらしい。なので逃がしてやることにして境内の辺りに置いて厄介事に巻き込まれる前に家へ退散することに俺はした。不良少年が引きちぎられているのだ警察の厄介にはなりたくない。俺は神社の裏からこっそり逃げるように帰宅するのだった。
一人暮らしをしているアパートだというのにまるで聖域のように感じる。ホッと胸をなでおろすと、とりあえず頭の中でブツブツとつぶやいているこいつをどうにかすることをにした。ここならばどんな独り言をいっても気にはされない。俺は鏡の中の自分に向かって
「頭の中でつぶやいているお前は誰なんだ?そしてあの黒い怪物はなんなんだ?」
と聞いてみる。そうするとやはり頭の中で声が響く。
「俺の名前はマゴウンと言う。シャドーと呼ばれるこの光の世界とは違う影の世界の生命体だ。あの怪物は何者かがネズミを核に我々の影の一部を纏わせたものだ。影を纏わせることで小動物なら従わせられる為シャドーサーヴァントと呼んでいる。だがどうやらあの怪物は支配に失敗したようだな。」
意味が分からない。いきなり影の世界とか言われても訳がわからない。俺はさらに聞いてみた。
「どうして俺の頭の中からお前の声が聞こえるんだ。俺はどうなってしまったんだ!?」
沈黙の後に頭の中の声はこう言った。
「…不本意ながらお前と俺はシャドーフュージョンつまり一体化させてもらった。シャドーサーヴァントの力を見たように一部でも纏わせれば我々は大きな力を引き出す事ができる。俺の全てをお前に纏わせたのだ。これをしてしまうと目的を果たすまでシャドーフュージョンが解けることはない。」
こいつの言う目的ってのはなんだ。
「王の選定のためのサバイバルで勝利することだ。影の世界に一番最後に帰ったものが王となる。そのためには戦い勝たねばならない。先ほどのシャドーサーヴァントもその尖兵にするつもりだったんだろうな。ちなみに俺たちは心の声で会話できるかいちいち喋らなくても伝わっている。」
そういう声を出さなくてもいいとかは早く言って欲しかった。つまり、俺たちの世界は影の世界の戦場にされちまって、しかも俺もそれに巻き込まれたってことか。
「そういうことだ。緊急事態だったので勝手にシャドーフュージョンしたが君なら大丈夫だと俺は思っている。強大な的にも挑むその心意気は素晴らしい。たとえやけっぱちだったとしてもな。」
すべてお見通しというわけか。俺も悪い気はしない。俺の人生はきっとあのままでも光は当たらなかったろう。だが今はちがうマゴウンの力を手に入れた今ならヒーローにだってなれるはずだ。ヒーローになれば光の中に行ける。
「光の世界の住人だというのに光が当たらない人生と思うとはおかしいな。」
マゴウンがそうつぶやいた。光の世界といっても光の当たらない日陰者の人生と言うのは存在する。俺はそんな人生を送りたくなかったそれだけだ。
「マゴウン。それで他のシャドーはどれだけこちらの世界に来ているんだ?」
俺はマゴウンに尋ねた。その人数によってはこの世界がパニックになっていないことがおかしいと思ったからだ。
「7人だ。俺を含めてな。この町の周辺にシャドーは送られている。敵もすぐ近くにいるはずだ。」
マゴウンはそう答えた。ならばこの町だけの騒ぎに収まるはずだ。一応マゴウンにシャドーサーヴァントを作っていないか聞いてみる。
「そんなものを使う必要などない。俺と核となるお前がいれば十分だ。」
ようは俺は核にされているだけということか。それでも光が当たるところに出られるなら問題ない。なにしろマゴウンも俺なしでは動くことも出来ないだろう。とりあえず今日のところはこのくらいにしておこう。
「そういえば、君の名前はなんとうんだ?いつまでも君では使い勝手が悪い。」
あまりのことに俺も自己紹介をすることを忘れていた。
「俺の名前は守山 陸人という大学生ってやつだ。これからよろしくなマゴウン。」
俺は自己紹介をしていつもの日常にマゴウンを連れて戻っていった。マゴウンはどうやらこちらの世界のことに興味があるようで夕食の山々の唐揚げ弁当にすら喜んでいた。どうやら五感も共有しているらしくおかわりを要求してきた程だ。
翌日、俺は市の図書館へ向かった。シャドーサーヴァントの被害が話題になっていなければおかしい。インターネットではこの地方の情報は手に入りづらいと思ったので地方新聞を調べに来たのだ。しかし、新聞にも全く情報が載っていない。昨日の不良少年が引き裂かれた事件すら載っていないのだ。マゴウンにこれについて尋ねてみたが、マゴウンもわからないらしい。あの事件をもみ消せるほどの人間が影の世界に協力していると見るのが一番説得力ありそうだ。しかし、これでは他のシャドーフュージョンした人間を見つけるのは難しそうだ。困ったなとマゴウンに言ってみるとマゴウンから助言が有った。
「ペットの失踪情報を調べてみるんだ。あのシャドーサーヴァントの核にはネズミが使われていた。もしかしたらペットのような小動物を使っている可能性もある。もしこの推理が当たっていればペットの失踪情報が多い場所の付近にシャドーフュージョンした人間、シャドーマンと呼ぶのだが、シャドーサーヴァントを生み出すシャドーマンがその付近に存在するはずだ。」
ペットの失踪情報ならもみ消すほどじゃないと相手も考えているということか。失踪情報を地図上に点を打っていくと明らかに山間部の採石場周囲でペットの失踪情報が多くなっている。つまり、採石場にシャドーサーヴァントを生み出したシャドーマンが存在する確率が高い。これは有力な情報だぞ。俺がガッツポーズを小さく取った時に少女に声をかけられた。
「なにか良いことでもあったんですか?」
その声の主はスレンダーな身体にチューブトップにホットパンツと言った露出の多い格好の金髪ツインテールの女子高生くらいの少女だった。こんなうだつの上がらない男に声をかけるとはさてはビッチだなと思ったが顔には出さない。
「いや、懸賞に当たっただけだよ。」
そう言ってここはやり過ごすつもりだった。しかし、少女はこう続けた。
「おかしいですね。その新聞に懸賞なんてありませんよ。こんなんでも読んだからわかりますよ。」
そうだったのか。こんなバカそうな格好でも新聞を読んでいるのか…。最近の若者もやるな。と思っているときマゴウンの声が聞こえた。
「気をつけろ。この女、この新聞を読んでいる。しかも、それで何かを調べていた俺たちに声をかけてきている。もしかしたらこの女も探しものをしていたのかもしれない。」
確かにその可能性もある。ここはそれとなく聞いてみるか。
「君も何か調べ物でもしてるのかい?」
その少女は答えた。
「ええ、おそらくお兄さんと同じものをね。」
ビンゴだ。マゴウンの推理は当たったこの少女もシャドーマンだ。マゴウンの目的から考えれば俺たちを倒すつもりだろう。
「ここで話すのも何だし裏の公園に行きましょ。お兄さん。」
ここで暴れるのはこちらにも不利となる。ここは従ったほうが良さそうだ。
夜の公園には人っ子一人居やしないし周りの生け垣で外から中の様子も見えなさそうだ。
「そんなに気にしなくてもいいじゃない。私はリンというのお兄さんの名前は?」
いきなりの質問に俺は驚いたが一応答えておこう。
「俺は陸人という。君もシャドーマンなのか?」
「そうだよ。それでリクトさんに取引をお願いしに来たの。」
おくびもなくリンはそう言ってのける。警戒心はないのか。それに取引となんだ。だいたい想像はつくが。
「私の支配下に入ってほしいのそうしたらリクトさんもシャドーとの戦いに巻き込まれなくても済むし悪い取引じゃないとおもうんだけど。私達シャドーマンにはこの勝負勝っても意味は無いしね。」
やっぱりか。確かにシャドーマンの人間側には特は無い。マゴウンにもこの心の声は聞こえていたようだ。マゴウンは言った。
「こんな取引に陸人が乗るはずない。私が見込んだ人間なのだからな。」
そのマゴウンの理由のない信頼は嬉しいがちょっと重い。ここはリンの提案をもっと聞いてみよう。
「支配下に入るということは共闘とは違うということか?」
「そうよ。絶対に私のシャドーが最後に帰る契約をするの。私はリクトさんを戦わせたりしないしそのへんは安心して。ね?悪い取引じゃないでしょ?」
マゴウンは俺が興味を示したことに狼狽しているが俺には2つ気になることが有った。
「なぜ俺のシャドーをすぐ影の世界に帰さないんだ?戦わせないならシャドーマンで居させる意味もないだろう?」
リンはちょっと狼狽した感じを見せたがこう答えた。
「それは言えないわ。私の目的の為とだけ言ってあげる。」
だいたい話が見えてきた。リンは今私の目的と言った。つまり、リンのためにシャドーを利用する必要があるんだ。それはもう1つの俺の気になることとつながっていると見える。
「それじゃ、最後の質問がある。」
「何かしら?」
これは間違っていたら物凄く恥ずかしいしリンに失礼な質問だ。攻撃されるのも覚悟で質問しないと。
「リン、君実は男じゃないか?」
リンの顔から一気に血の気が引いいていく。
「そ、そんなわけないじゃない。こんなに可愛いのに。リクトさんは可愛い男の子が好きな変態さんだったのかしら。」
明らかに動揺している。これは確実に黒だ。
「男女の腰のクビレの位置ってのは違うんだよ。へその位置が女性のものよりリンのは低いんだ。」
女性のくびれはAVでよく見ているからわかる。うん、お腹は最高だ。お腹マスターの俺からしたらこの程度の違い見抜くなんて楽勝だ。リンもおへそを恥ずかしそうに隠している。
「そ、そうよ。私は男よ。私が可愛くあるためにシャドーが必要なの。シャドーの力で女の子らしく居続けたいのよ。」
それがリンの目的か。くだらないとは言わない。相当リンは悩んでいたのだろう。だが、
「それがリン、君の目的なら俺にもヒーローになるという目的がある。そのために支配下になることはできない。」
マゴウンが頭のなかで小躍りしているのが見えるがまぁそれは放っておく。リンの様子が明らかに良くない。
「そう…。それじゃ死んでもらうわ。もし交渉が決裂してもシャドーを帰すだけのつもりだったけど私が男とバレたなら話は変わるわ。リクトさんには死んでもらって口封じしないと。」
なんか恐ろしいことを言っているぞ。マゴウンもそんなに小躍りしていないで臨戦態勢に入れ。リンは言った。
「さようならリクトさん。オーバー・シャドー」
リンの体を黒いワンピースが包む。これがリンのオーバー・シャドーした姿か。正直このままなら勝てそうだ。しかし、リンは指をパチンと鳴らすと周りの小石を影が包み込み集まってゆく。
「来なさい。私の可愛い下僕シャドーサーヴァント・ベアちゃん」
影に包まれた小石は可愛らしいくまの形をしたゴーレムとなっていく。手を振り上げて攻撃してこようとし来る。
「ならばこちらもオーバー・シャドーだ。」
マゴウンんが叫ぶ。俺もおうと頷いて。
「オーバー・シャドー!ヒーローの姿を見せてやる」
俺の身体を黒い光が包む。身体の内から黒いスーツが湧き出てくる。これが二度目の変身。シャドーヒーロー伝説の始まりだ。
「ぷっ。ハハハッ。ヒーローていうからどんな格好いいのかと思ったらてるてる坊主みたいで可愛いじゃない。」
そういえば俺は変身した姿を見た事無がない。リンに向けられた手鏡の中に写る俺の姿は真っ黒なまんまるの頭にマントとピッタリタイツのまさにてるてる坊主のような姿だった。
「まるで雑魚戦闘員のようね。そんな雑魚みたいな格好の奴なんてベアちゃんで一撃よ」
ベアゴーレムは振り上げていた腕を降ろしてきた。俺はガードしたものの吹き飛ばされてしまった。質量が、エネルギーが違いすぎる。まともにやっていたらこちらのほうが先に力尽きてしまう。ここは一撃でベアゴーレムを沈めてやろう。俺は右手の拳に力を込める。
「シャドー・パンチ!」
ベアゴーレムの胴体に風穴を空けてやった。さすがにこれにはリンも驚いたようで口が開いている。だがその顔はすぐに笑い顔に変わった。ベアゴーレムはまだ動いてくるのだ。
「ちょっと驚いちゃったけど。そんな野暮ったい攻撃で私達のベアちゃんを止められると思わないことね。」
どうなっているんだ。前回のシャドーサーヴァント戦ではこれで影が振り払えたはずなのに。マゴウンに聞いてみる。
「どうやらあのベアゴーレムは小石一つ一つが核となっているようだ。小石一つでも残ればあのベアゴーレムは維持可能だ。しかも小石に気絶はない。こんなシャドーサーヴァントに長けているシャドーはおそらくシキだろう。」
冷静にマゴウンは分析する。つまりベアゴーレムを破壊するのは不可能ってことか。ここは無駄に攻撃せずに作戦が思いつくまで耐えるか?
「ベアちゃんの攻撃をよけてばっかりじゃつまんないし。私も攻撃してあげるよ。」
そういってリンは周り小石に影を纏わせて打ち出してくる。この小石の弾丸の一撃一撃もかなり鋭い。ベアゴーレムの攻撃ほどではないがこれじゃ長期戦は無理そうだ。そのとき俺はふと気づいた。
「マゴウン!お前はシャドーサーヴァントを作れないのか?」
マゴウンは残念そうに。
「俺はシャドーサーヴァントを作れないその代わりにパワーが強いんだが、それを質量で上回られるとは思いもよらなかった。」
どうやらシャッドーにも得手不得手があるようだ。マゴウンはパワー特化型シキは支配特化型といったところか。しかし、このままではピンチだ。このベアゴーレムだけでもなんとかしなければ。一か八かもう一度拳に力を込めて。
「シャドーパンチ!」
しかし、結果は変わらない貫通するだけだ。悔しいがここで俺の人生は終わってしまうのか?ヒーローにようやくなれたというのに。
「リン!今から降参してシキの支配下に入るって選択肢はあるか!?」
「ないわ!私の秘密を知ったからには死んでもらわないとね。死んで後悔するが良いわ」
即答かよ。そう毒づいても劣勢には変わらない。俺は戦うことで精一杯だマゴウンに良い作戦を考えてもらわないと。そう戦っている間にに俺の身体も悲鳴を上げ始めてきた。特に右腕はリンの弾丸に執拗に狙われて感覚が麻痺しかけている。身体にも疲労が溜まってきた。こんなことなら運動部にでも入っておくんだった。その時マゴウンが叫んだ。
「そうか!ベアゴーレムとリンを一直線上に誘導するんだ!」
たしかにそうすればリンの弾丸も打ちづらくなるだろう。やってみるとだけマゴウンに言って俺は戦いながらベアゴーレムを誘導する。しかし、リンも当然ベアゴーレムの後ろに入らないように移動する。
「ふふっ。ベアちゃんを盾にして私の弾丸を防ぐつもりかしら。でもそんなことさせてあげない。」
くそっうまくいかない。マゴウンも何も言わない諦めているのだろうか。俺の身体もボロボロだベアゴーレムの攻撃を避けるので精一杯になってきた。そして、リンの弾丸が背中に当たって衝撃が伝わるその瞬間マゴウンが叫んだ。
「陸人、ベアゴーレムを跳び越えろ!」
足に力を込め2m以上もあるベアゴーレムを俺は跳び越えた。これが最後のチャンスだ。ベアゴーレムとリンが一直線上に並んだ。マゴウンはさらに叫ぶ。
「そのまま突撃してリンを殴り飛ばすんだ」
全身に力を巡らせる。最後の力を振り絞って俺は叫ぶ。
「シャドータックル!」
ベアゴーレムの背中めがけ俺は突撃し、ベアゴーレムの身体を貫通してリンの近くまで近づけたここだ。右手に力を込めるこれが正真正銘最後の
「貫け!シャドーパンチ!」
その一撃はリンの腹部目掛けてまっすぐ突き刺さる。リンとシキの意識ごと吹き飛ばす。目の端でベアゴーレムが崩れていくのが見えた。俺たちはリンとの戦いに勝利したのだ。
リンは気絶している。シャドーパンチの衝撃でシキもリンから剥がれたようだ。俺はマゴウンに一つお願いをした。それはリンとシキを俺たちの支配下におくことだ。シキをこのまま影の世界に帰してしまうより戦力として取り込んだほうがいいと説得したが俺の本心は俺にもわからない。俺は男だけど可愛くありたいというリンを哀れんだからかもしれない。気絶しているシキにマゴウンの影の一部を纏わせる、これでシキはマゴウンの支配下に入ったという。目を覚ましたリンは泣いていた。もう自分の夢はかなわないと泣いていた。そんなリンに俺はこ言った。
「リン、もしお前がまだシャドーフュージョンしたいと思うなら俺達に協力してくれ。シキは俺のシャドーのマゴウンの支配下に置いた。もし、リンが協力するならシキとシャドーフュージョンして一緒に戦ってくれ。」
リンは潤んだ瞳で
「本当?」
と聞いてきた。
「本当だ。お前の力が必要なんだ。だから協力してくれ。」
「ねぇ。シキも私の夢に協力してくれる?」
リンはシキに尋ねた。するとシキはこう言った。
「いいわよ。私もリンのこと気にいってるし協力してあげるわ。」
「わかったわ。私とシキをもう一度シャドーフュージョンさせて。そうしたら私の目的も時間制限はあるけど果たせるしね。」
俺はリンに右手を差し出した。リンはそれを握り替えす。こうして俺とリンの協力関係が生まれたのだった。
「そういえば、リンの本名はなんて言うんだ。俺のフルネームは守谷 陸人というんだ。」
そうきくとリンは恥ずかしそうに
「私の本名は久屋 倫太郎っていうの。だけどこれからもリンって呼んでね。」
ハイハイと俺は返事をしておいた。それにしても意外に男らしい名前だ。
「今、意外に男らしい名前とか思ったでしょ!」
リンはバンバンと俺の背中を叩きながら言ってくる。
「ソンナコトナイヨ。」
と俺は否定するもリンはふくれっ面だ。そんなに男なのが嫌なのか。
「そういや、リンの目的は好きな男の子に振り向いてほしいとかそういうの?」
俺はなんとなくリンに聞いてみた。するとリンは
「違うよ。好きな男の子なんて居ないわ。ただ可愛くなっていつかお嫁さんになりたかっただけなの。」
と答えが返ってきた。やり方はバイオレンスだが夢はメルヘンだなとか俺は思った。
「リンとりあえず今日はもう遅いし送って帰るよ。連絡先も交換しないとな。」
「やだ送り狼かな?」
リンはふざけてそう返してくる。そんな気は俺にはない。俺の好みはもっとお腹に筋肉がついたスポーツウーマンだしな。
「うそうそ。もうシキもいるから大丈夫だよ。はい、これが連絡先よ。なにか新聞で掴んだなら私にも後で送っておいて。」
そういってリンは去っていった。今日のとことは俺も帰ろう。帰り道に弁当屋の山々でスタミナ弁当を買って少しでもスタミナをつけようと思いながら家路についた。
翌日、俺は身体をバキバキ言わせながら起き上がる。筋肉痛で今日は動きたくない。講義にも出たくない。でも単位を落として下の中から下の下か問題外に落ちるのは嫌なので大学に向かう。そうだ、リンにメールでもしておこう。昨日の採石場が怪しいということもまだメールしていない。一応リンにそのことをメールしておいたついでに今日は筋肉痛で動きたくないことも添えてだ。そうするとすぐにスマホはヴーンヴーンと唸り声を上げた。リンからの返信のメールだった。内容はこうだ。
「わかりました〜。私の方は筋肉痛もなくピンピンしています。これが若さの違いってやつですかね?今日お話したいこともあるんでリクトさんの大学におじゃまさせてもらおうと思うのですが、何時頃からなら空いています?」
正直返信に困る。マゴウンはシキが支配下にいるので大丈夫だというが俺は女子高生と合うのにディスカウントストアむらしまの服しか持っていないことで頭がいっぱいだった。このままではリンにダサいと見下されるそれだけは避けねば。いや、逆に考えるんだ陸人、むらしまのふくは軽くて丈夫しかも安いと三拍子揃っているかっこよさより機能を取ったということにするんだ。そうやって自分に言い訳して15時以降なら空いているとメールしてみる。するとすぐ返信があって。
「じゃあ、私の高校が終わったらすぐそっちの大学の校門に向かうんでよろしくお願いします。」
と書かれていた。女子高生と待ち合わせしているところを友人達に見られたら絶対になにか言われるのでとりあえず裏門に集合ということでメールをしておいた。その後もスマホは唸り声を上げたがきっと了解のメールだろう。もう講義が始まるギリギリだったので確認もせずにいた。
講義が全て終わり。裏門で立って待つこと1時間、やっと眩しい白のワンピースを着ているリンがやってきた。があまりの遅さに
「遅いなら連絡くれよ。」
と文句を言うとリンは
「最後のメールで16時位になるって送ったじゃないですか。もしかして見てなかったんですか?」
「講義ぎりぎりだったからしかたなかったんだよ。」
「ひどい。本当に見てないなんて。お昼休みとか見る時間なんていくらでもあったじゃないですか。」
正直、俺も済まなかったと思っているが認めるとなにか悔しいので認めない。
「まぁ、いいですよ。そんなことよりまとめたい事あるのでどこか机のあるところに行きましょう。」
そういってリンは校内のほうへ歩いて行くが校内で使えそうなところなんて食堂くらいだぞ。そう言うとリンは
「じゃあ食堂行きましょう。なに恥ずかしがってるんですか?もしかして女子高生と二人なのが恥ずかしいんですか?」
と俺の心を透かしたようなことを言う。ええいそのとおりだよと言ってやりたいがそこは唾を飲んで
「いいぜ。食堂はこっちだ。」
と案内する。頼むから友人たちよ食堂に居ないでくれ。
食堂には友人たち一同みんな居ました。うらぶれている俺が女子高生を連れてきたと一瞬で話題になっしまった。特にロリコンで有名な鶴舞なんかは生JKだね、生JKだねと喜んでいる。なにがそんなに嬉しいんだ俺たちも一年前までは高校生だというのに。そう強がってみたも恥ずかしがっていた事実は変わらず俺も同じ穴の狢だ。俺はできればリンと二人きりで話したいというのに友人たちは執拗に周りにたかってくる。これじゃシャドーマンの話は出来ない。仕方ないのでリンの手を取って食堂から無理やり連れ出してそのまま走って二人で近くの喫茶店まで逃げたのだった。、
「なんか駆け落ちしたみたいでドキドキしますね。」
とリンは赤ら顔で言うもんだからこっちも調子が狂う。リンにそんな気はないのは見ればわかるのにこっちが慣れてないものだからドギマギする。なのでそうそうに話を振っておこう。
「で、話したいことって何のことだ。」
「戦闘中に私のシャドーがシキだとリクトさんのシャドーは分かったじゃないですか。ということはシャドー達はお互いの名前と能力を知っているんじゃないかと思ってそれを話すために来たんです。」
なるほど、たしかにマゴウンはシキの能力も名前も知っていた。ということは全てのシャドーの名前や能力を知っていてもおかしくない。そのことをマゴウンに聞いてみると
「必要ない情報だと思っていたが確かに俺はシャドー7人全ての名前と能力を知っている。ただ能力もあいまいに知っているだけなんだ。」
「それでも何かの手がかりになるかも知れないしその情報を話してくれ」
俺はノートにマゴウンのいうシャドーたちの名前と能力をメモしていく。それをリンも覗き込んでいる。
「リンもシキにあっているか聞いてみてくれ」
「わかった聞いてみる」
そうしてマゴウンは話し始めた。
「まず俺マゴウンはパワー特化型のシャドーだ欠点はシャドーサーヴァントを作れないところぐらいだ。次にシキは支配力特化型のシャドーでシャドーサーヴァントを操ったり影で操ることを得意とする。イタダは情報収集特化のシャドーだ、イタダはどこからか情報を得ている。情報源は俺にもわからない。ショークはエネルギー分解型シャドーだ。ショークの攻撃を受けると影が霧散してエネルギーが分解されてしまうから攻撃を受けずに短期決戦で倒すのが定石だ。トシはコピー型シャドーで対峙したシャドーと同じ能力になる。やっかいそうだが、たいていはこちらのほうが経験値分有利になる。ゴヨクはパワー蓄積型シャドーになる。最大パワーは俺も知らないがそうなる前に叩きたい相手だ。」
ここまでで厄介そうなのはイタダだけだショークも短期決戦で倒せば良いしトシは経験値で勝てるだろうゴヨクもショーク同様短期決戦で決めれば問題なさそうだ。
「最後のシャドーだが、こいつが厄介だ。ヌンフと言ってこいつもパワー特化型だがシャドーサーヴァントを作ることができる。ただし、どうやらシャドーサーヴァントの制御が効かなくなるときいたこともある。今思うと初日にあったシャドーサーヴァントはヌンフのものだったかもしれない。」
ここまでの情報をまとめるとヌンフとイタダには注意が必要なようだ。しかし、こちらにはシキもいる。これならば行けるかもしれない。
「忘れるなよ陸人。これは個々の能力にすぎない。他のシャドーも支配下に入れられて共闘してこないとも限らない。そうなればショークやゴヨクと長期戦になる場合もあるしトシとの対戦も長期戦になれば厄介だ。気を抜いてはいけない。」
「わかってるよマゴウン。気は抜かないさ。」
そう俺は心の中でマゴウンに話しかける。
「ところでリン。シキの持っている情報となにか食い違いはないか?」
「うーん。ゴヨクなんだけどどうやら戦ってない間も力を貯められるみたい。短期決戦と言うより短期発見が鍵になりそうね。」
話しが一段落したところでケーキとコーヒーがやってきた。今日はとりあえずこの辺りにしておこうか。そう思ったらリンがいきなり
「ところでリクトさんって好きな人があの友達たちの中にいるの?」
と聞いてきた。口に含んだコーヒーを吹き出しそうになった。
「マエヅさんなんて綺麗だったし。もしかしたらと思ったんだけどどうなの?」
リンは前のめりになって聞いてくる。前津は腰まで髪を伸ばした快活そうな女友達だ。確かに綺麗だが俺のようなうらぶれた人間とは釣り合わないだろう。俺は俺に釣り合ううらぶれ仲間でお腹のぷにカチとした彼女が欲しい。
「そんなことはない。第一、前津はうちの学部No1に綺麗な高嶺の花さ。俺なんかが届くはずもない。」
そういってリンと笑い話や大学での話しをしていた。リンは高校二年生で挑戦する大学に悩んでいるらしい。うちの大学は一流ではないが二流でもない1.5流大学ってところだ。そののんびりした気風にリンはあっている気はしたから勧めてみたら意外にもちょっとリンも考えてみる気になったようだ。そんな他愛のない話しをしていると大学の方から悲鳴が聞こえた。人がこちらに逃げて来ている。逃げてきた人の話しによると裏門に怪物が現れて暴れているらしい。このままでは被害が広がってしまう。
「楽しい時間はすぐに終わってしまうな。」
そう俺は言って金を置いてすぐに裏門へ向かった、きっとシャドーサーヴァントのしわざだろう。ならば倒せるのは俺達かリン達しかいない。だがリンのオーバー・シャドーは顔が見えてしまっている。
「リン、君のオーバー・シャドーじゃ顔がバレるからここは俺に任せて逃げるんだ。」
一緒についてきたリンにそういうがリンは
「嫌です。リクトさんのサポートをするのは私の役目ですから。」
といってついてきてしまった。裏門に到着するとそこにはやはりシャドーサーヴァントがいた。前のシャドーサーヴァントよりも随分小柄で細い。どうやら小動物を核に作られた自動攻撃型のやつだ。リンに見張らせて物陰でオーバー・シャドーする。ここは堂々と出て、派手に倒して他のシャドーマンをおびき出す囮として使わせてもらおう。シャドーサーヴァントの前に俺は出ると
「シャドーサーヴァントよ。ここで眠るがいい!シャドー・パンチ!」
一撃を食らわして核を気絶させて影を振り払う。核はモルモットだった。この大学の実験動物だろうか?疑問に思っていると後頭部をいきなり何者かに殴られた。この痛みは普通のものではない。シャドーマンによるものだ。振り向くと、そこにはリクルートスーツのようなオーバー・シャドーに影の仮面をつけた男が立っていた。俺はそいつに
「お前がこのシャドーサーヴァントのマスターか?」
と聞くが奴は全くこちらの話を聞かず。自分の拳を見つめている。
「一撃で終わらせるつもりだったがここまでパワー差があるとはなマゴウンとやら」
まずい奴はこちらの情報を握っている。情報の差で負けてしまう前に終わらせる。右手に力を貯める。
「シャドー・パンチ!」
放った渾身の一撃は空を切った。敵はこの一撃を避けたのだ。
「情報差で負ける前に勝つつもりか。だが、そんなことはお見通しさ。そこにシキもいるんだろう?」
リンの方を指差してそいつは言う。そいつに向かって俺は言う。
「そこまでわかっているなら戦力差もわかっているだろう?支配下になってリン同じく協力してくれるって言うなら見逃すがどうする?」
「答えはNOだ。俺はお前達に勝てるさ。お前の身体は筋肉痛で固くなって動きも悪い。リンのほうも強がってはいるがお前との戦闘のダメージが抜けきっているふうには見えないしな。」
こいつ、何もかも知っていやがる。まさかこいつが要注意シャドーの一人イタダか。マゴウンは言った
「おそらくそのとおりだ。こいつはイタダ情報収集のエキスパートだ。情報戦では勝てないが情報が全てでないことを思い知らせてやれ。」
そのとおりだどんなバッドコンディションでもヒーローは戦わなければいけない。ここで負けるわけにはいけない。
「いけるか!?」
それだけリンに向かって俺は聞く。リンは近くにあったフルフェイスヘルメットをかぶるとオーバー・シャドーしてその声に答えた。
「ふふっ。いい気迫だ。だが情報こそが全てであることを教えてやろう。」
先手を取ったのはリンだった。ヘルメットと一緒にあったバイクに影を纏わせて突撃させる。だがイタダはそれを知っていたかのように避ける。避けたところを俺が一撃を加えようとするもそれすら避けられてしまいカウンターを入れられた。
「やはり前回の戦闘の余波は効いているみたいだな。シキもシャドーサーヴァントを出せるほどにはないと見た。マゴウンの動きも悪いこれなら余裕だな。」
「随分口が回るなっ!」
そういって殴るもやはり空を切る。攻撃が当たらない、何もかも見透かされているようだ。イタダの軽口も嘘ではないということか。
「シキ、ここは無理やり行くぞ。同時攻撃だ。」
俺はそう言うと敵に突撃した。俺を巻き込んだ攻撃をリンに命じたのだ。イタダが避けたところに散弾銃のようなリンの影を纏わせた石がヒットした。当然俺へのダメージもあるがこれならパワー差で勝てるはずだ。
「なるほどそう来たか。だが、予想の範囲内だ!」
そういうと俺を振りほどきリンの下に向かっていく。。リンを潰すつもりだ。
「そうは簡単にいかないよ!」
リンの背中からベアゴーレムの腕だけが現れる。少ない力で生み出したリンの省エネ技だ。
「いけ!ベアちゃんアーム!」
ベアちゃんアームが振り上がりイタダの頭を潰そうとした時。イタダの身体がぐるりと回った。ベアちゃんアームの攻撃を受け流しその力を利用してイタダはリンを蹴り上げるのだ。
「きゃあああ!」
リンが空高く吹き飛ぶ。
「リン!」
俺は両足に力を込めてリンの下へと跳んだ。リンを抱きかかえると校舎の屋上にリンを横たえた。本当に昨日の戦闘の余波がリンを弱らせていたようだ。イタダも屋上に跳んできた。
「あっけないな。これで先ほどのような作戦は使えないな。」
マゴウンにもイタダの情報収集力がどこまで効いているのかわからないようだ。それでもマゴウンも俺も立ち上がってイタダを倒さなければならない。リンを痛めてしまった責任も取らねばならない。それにシャドーサーヴァントを平然と暴れさせるイタダをのさばらしておくわけにはいかなかった。イタダは降参するようにこう言った。
「どうした、もう勝ち目はないだろう。降参して支配下に入るか?すぐ帰らせるがな!」
それを聞いて俺は微笑む。
「お前、実はもう策がないんだろ。だから降参を勧めてくる。情報屋タイプってのはそういう奴さ。」
「減らず口だな。まだ負けが見えていないのか」
減らず口上等だ。ここは勝たねばならない。たとえ不利であっても勝つのがヒーローだ。イタダに俺は向かっていく。しかし、イタダは近くにあった塵からシャドーサーヴァントを作り出す。ベアゴーレム程の力はないが今の俺の体力を削るには十分だ。
「マゴウン何か策は思いつかないか」
マゴウンに聞いてもマゴウンは頭を横にふるばかりだ。どうすればいい。下がればリンも戦闘範囲に入ってしまう。ここで俺は気づいた。シャドーサーヴァントの後ろにイタダがいることにだ。俺はリンの時と同じ作戦を試みる。マゴウンの待てという声も聞かずに俺は全身に力を入れて
「シャドータックル!」
シャドーサーヴァントを軽々貫通してイタダの下に来る。イタダは笑っていた。そうか、こいつは情報収集型シャドー同じ手が通用するわけがない。誘っていたんだ。それでも一か八か右拳に力を込めて
「シャドーパンチ!」
叫んでもやはり空を切ってしまう。
「ふふっ。ここまで作戦どおりだと笑ってしまうな。」
イタダは俺の首を手で締める。そして、リンがシャドーサーヴァントに襲われようとするところを見せつけようとしてくるのだ。リンの身体にシャドーサーヴァントの手が触れようとした時俺思わず。
「止めろ。止めろおおお!」
と叫んでいた。イタダの手を振りほどき背中を見せてリンの下へ駆け寄る。それを待っていましたとばかりにイタダは後ろから俺の後頭部を殴るのだった。意識が薄れていく。マゴウンが何か言っている。リンもシャドーサーヴァントに持ち上げられているのがわかる。せめてリンだけでも助けねばならない。俺は最後の力を振り絞りシャドーサーヴァントに跳びかかりリンを助けだした。リンが目を覚ましたので俺は茶化すように
「リン。俺をもう一発殴る元気はあるか?」
と俺はリンに聞くと、リンは右手をコツンと俺の顔に当てて目を閉じた。すでに俺も満身創痍だ。それでも俺がやらねば誰がやる。せめて一撃でもいれる事ができれば勝機は見える。俺はリンを屋上に出る部屋の屋根に乗せてイタダの前に立つ。
「次の一撃で決着を付けさせてもらう。」
俺は全身に力を込める。命の一滴までも振り絞って力を込める本当に最後の攻撃だ。
「いいよ。かかって来いよ。避けてやるからさ。」
俺は力を解き放ちイタダに向かっていった。シャドーサーヴァントなど壁にもならない。直線的にイタダへ突進していく。そして放つのだ。
「シャドーパンチ!!」
だがイタダには当たらない。
「ここまでのようだなマゴウン」
イタダがそう言うが俺は笑ってやった。俺の目的はイタダではない。俺が狙ったのは地面だ。ここはさっきまでの地上ではない。校舎の屋上だそこにシャドーパンチを当てたのだ。屋上に亀裂が入り崩れていく。
「バカな!なぜこんな無駄なことを」
俺は落ちゆくイタダを羽交い締めにして一緒に落ちていく。イタダは
「こんな真似をしても無駄さ。地面衝突したらどうせ僕の勝ちだ。」
「それはどうかな」
俺はイタダを空に向ける。そこには屋上の小屋の上に立つリンの姿があった。
「まさかお前たちは」
「そうさ、全てはこのためだったのさ。屋上を割って瓦礫を作るそれをリンがシャドーサーヴァント化して攻撃するのさ。俺とお前の耐久合戦さ。」
リンが瓦礫をベアちゃんアームの形にする。
「さあ覚悟しろよイタダ。あれは重いぞ」
ベアちゃんアームがイタダとそれを羽交い締めにする俺目掛けて降ってくる。
「がはぁ!」
イタダの身体がきしむ。同時におれの身体もきしんでいくがイタダ程ではない。
「マゴウン!シキ!この恨み忘れんぞ!」
そういってイタダは気を失った。イタダの核となっていた男は顔も知らぬが俺と同じくうらぶれた痩せぎすのオタクっぽい長髪の男だ。とりあえず拘束して。イタダも支配下におく。
「リン助かったよ。」
そう言ってリンを迎えに行く。リンはお腹を抑えながらピースサインをしていた。
「ありがとうリン。リンが気が付かなければ勝てなかったよ。」
「当たり前でしょ。私はリクトさんのサポーター何だから。それよりリクトさんの方こそ大丈夫なの?」
正直俺も立っているのがやっとだがここで弱音は見せられない。リンを下ろすとオーバー・シャドーを解いて立つ。マゴウンにイタダの処分を尋ねると
「陸人お前が思うようにすればいいさ。」
そういってくれた。俺はイタダを影の世界に帰すつもりだ。情報収集能力はとても魅力的だがそれは両刃の刃だ。もし支配下にいても反逆できる情報があればこいつは一気に瓦解させてくるだろう。それにシャドーサーヴァントを暴れさせていた事や動けないリンを攻撃したことが何より許せない。マゴウンはそういうとそうかとだけ言った。
俺たちはイタダを連れて市立美術館へやってきていた。ここには影の世界への通り口があるらしい。それは無題No7という真っ黒い絵だった。だがその絵はなにかおかしい。まるで吸い込まれるようなブラックホールのような黒さがあったのだ。
「この絵に飲まれるなよ。飲まれればお前も影の世界へ行ってしまう。」
そう言ってマゴウンはイタダをこの絵に放り投げるように行った。それにしたがってイタダを絵に放り投げると黒く絵が光ってイタダは消えていた。マゴウンが続けて言う
「影の世界はこういった意識を飲む絵の世界にあるんだ。この絵を見ていれば俺やシキには影の世界に帰ったシャドーがわかるのさ。今帰っているのはイタダとトシの二人のようだ。まだまだ戦いは続くな。」
マゴウンの言葉は次の戦いも近いことを告げているようだった。そのために派手に戦い始めたのだが実際に近づいていることがわかると恐怖が蘇ることもある。イタダのように情報を使うことでここまで追い詰めようとしてくる相手がいるとは思わなかった。
大学に帰ると崩壊した学舎のなかに拘束されたイタダの核になっていた男とそれを見張っていたリンがいた。俺はリンに男が何か喋ったかと聞いてみる。
「ぜんぜん。なにもしゃべる気ないみたいだね。目的もなんにもわからない。」
しかたない俺がやってみるか
「お前の名前はなんというんだ」
そっぽを向いてなにもこいつは答えない。仕方ないので男のポケットから財布を取り出し身分証を探しだす。
「港 礼二ここの学生か。お前に何か目的があったのかわからんがシャドーサーヴァントを使って暴れ人を傷つけた罪は償わなければならない。そうだろ。」
俺は港にそう言ってみた。港はうっと痛いところを突かれた顔をしている。
「港、君の目的は何だったんだ?イタダはもう居ない聞かせてくれないか?」
港は口を開いた
「誰かに頼りにされたかっただけなんでござる。イタダに利用されているとわかっていたでござるがイタダに頼られるのが心地よかったんでござる。いつも一人だったからさぁ・・・」
そう言って港は泣き出してしまう。こいつは俺だったかも知れない鶴舞や前津が居なかったらこうなっていたかも知れない。そう思うと港に手を差し出していた。港は不思議そうにそれを見ている。
「港、罪は償わなければならない。もし、お前にその気があるならこの手を取って共に戦ってくれ。俺は君に追い詰められていた。その強さと情報を武器にする手腕を頼らせてほしい。」
そういい終わると、リンが港の拘束を解く。港は俺の手をとって共に戦うと言ってくれた。これで3人のチームとなった。line交換をして今日のところは帰ることにした。今日は昨日以上に身体がボロボロだこういう時は好物である弁当屋の山々のチキンカツ弁当を食べよう。山々の弁当は蓋が閉まらない程の量で有名だがボチキンカツは弁当箱から完全にはみ出している程デカイそしてその大きさにたぐわず美味しい。俺はチキンカツにソースをかけて食べ、そして寝るのだった。
翌日、今日も俺は身体をバキバキ言わせながら起き上がる。もう講義すらどうでもいいくらい筋肉痛や昨日受けたダメージが響いている。だがそれでも、いかねばならない。下の中を守るために。lineを確認すると港からのメッセージがグループに大量に来ていた、どうでもいい話がほとんどだったが中には採石場の噂が有った。あの採石場では最近事故が多く、実質砕石が中止されているらしい。これはますます採石場が怪しい。しかし、今はダメージを癒やすのが先決だ。そのようにメッセージを送って講義に出る。講義の後で前津に呼び出されてしまった。これはどういうことだろう。まさか前津が俺に告白とかいうありえん展開がありうるのか。とりあえず、呼びだされた校舎に行ってみる。そこには前津が一人でいた。
「よう。なんのよう?」
俺はなんにも気にしてないふうにして聞いてみた。
「陸人くんもしかして貴方ってこの写真の黒いヒーローじゃない?」
その写真はまさしく昨日の戦いのさなかの自分だった。これはまずいヒーローとしてバレる訳にはいかない。
「そんな訳無いじゃないか。なんでそう思うの?」
そう前津に尋ねると前津はもう1枚の写真を見せてくれた。そこにはヘルメットを被ったリンが写っていた。
「この娘、リンちゃんだよね?リンちゃんと一緒にあの時外に出て行ってそれからこのヒーローが現れた。以上から陸人くん君がこのヒーローだと思ったのよ。」
見事な推理だ。そしてフルフェイスヘルメットなんて関係ないんだな。と俺は思った。心の中でマゴウンに相談してみる。マゴウンは
「別に言ってもいいんじゃないか?むしろ協力してもらえるかもしれんぞ。」
そうは言うがシャドーとか変わっていない人を巻き込みたくはなかった。
「この子リンちゃんとは違うんじゃないかな?ほらワンピースの色が違うし。」
「そんなのでごまかされないわよ。貴方がヒーローの正体なんでしょ?認めちゃいなさいよ。」
もうこれは無理だ。前津は押せ押せの性格をしている。これは隠し通せない。
「わかったよ。降参だ。俺がそのヒーローの正体だよ。だけど誰にも言わないでくれよ。誰も戦いに巻き込みたくないんだ。」
そうやって俺はキメた。しかし、前津は全く聞いていない。
「やっぱり、そうだったのね。これは血が騒ぐわ。」
前津が一人で盛り上がっているので俺は
「おい、なにをする気だよ。ヒーローてのは秘密だからな。」
「なに言っているの?陸人くん。ヒーローってことは力が有るんでしょ。それを戦いのためだけに使うのは間違っているわ。これからはヒーローの力で人助けするのよ。そのためにサークルを作りましょうよ。」
なにを言っているんだ前津はヒーローサークルを作るだって?
「そうとなったら早速人集めよ。」
前津が押せ押せの性格なのは知っていたがまさかこんなことになるなんて。
「そうだ。リンちゃんにも声をかけておいてよね。メンバーは多いほうがいいんだしリンちゃんもヒーローなんでしょ。」
しかたないこうなったらどうなっても知らないからな。とりあえずlineでリンと港に声をかけてみた。以外にも二人は乗り気だ。リンは大学の中を見れると乗り気だし、港はサークルという大学生っぽい響きに感動しているようだ。正直、不安しかないがなってしまったものは仕方ない。サークルを前向きに考えることにした。このあとリンと港と待ち合わせの約束をしてあるからその時もっと深く話してみよう。
待ち合わせ場所の大学内にある銅像の海洋くんの前に来てみると15分も前だというのに港は来ていた。そして、15分後にリンが現れた。とりあえず、晩ごはんの時間だしどこかの定食屋に入ることにした。近くにあった中華料理の南方園に行くことにする。ここはバンバンジーがオススメだが俺は裏人気メニューの烏龍唐揚げを頼んでみる。リンはおすすめどおりにバンバンジー定食に港は卵と海老の炒めもの定食のようだ。ここはすぐに料理が出てくる。料理が揃うまでリンにこの大学のことを港とふたりで教えていた。港も暗い奴かと思えば話せば面白いやつだ。リンもすぐなついている。料理が揃ったので食べながらだが採石場の話しを振ってみた。
「採石場にシャドーがいると思うんだが二人はどう思う。」
港は少し考えるとこう答えた。
「採石場での事故といい先ほど聞いたペット失踪の件数の多さと言い、間違いなくシャドーがいるでしょうな。それが誰かまでは絞り込めてはおりませんが、ペットの失踪の数からヌンフかゴヨクの可能性が高いでしょうな。」
リンはそれに続けて言う。
「もし、ゴヨクだったら早めに叩かないと不味いよ。それにヌンフはシャドーサーヴァントを制御出来ないなら被害がもっとでる前に止めないと。どちらにせよ早めに潰さないとね。」
「俺も同意権だ。早めに潰したい。しかし、イタダ戦のように回復せずに戦うのは得策じゃない。もうすこし待つ必要があるな。」
港もリンも確かにと言うかんじだ。それにしてもこんな堂々と話しても誰も気にしないなと話題にしてみると港が
「それはそうでしょう。断片的な情報ではただのゲームの話題にしか思えませんですしな。」
それもそうかと俺は納得した。確かにこんなありえない話信じるのは当事者くらいだ。ん?まてよ?
「なぁ、今日の昼に流したヒーローサークルのことなんだけど発案者の前津がシャドーマンである可能性はないだろうか。」
「十分にあると思うよ。そうじゃないと信じたのがおかしいし。」
リンはそう言いのける。港もそれに同意しているようだ。
「どちらにせよヒーローサークルを利用しない手はないと思いまする。もし前津さんがシャドーマンで有ったなら監視できますし、そうでなくても情報収集に使えまする。」
たしかにそのとおりだ。さすがイタダとシャドーフュージョンしていただけのことはある。
「流石だな港。頼りになるよ。」
そういうと港はドヤ顔をしていた。リンはというとバンバンジーの量に苦戦してそれどころではないようだ。
「なってしまったものは仕方ない。ヒーローサークルを利用するということで良いな」
リンも港も意義はないようだ。
「ところで・・・」
港がなにかを切り出そうとしている。
「守山さんとリンさんは付き合っておられるのかな?なにか僕はここにいてはいけない感じがするのですが。」
思わず俺はご飯を吹き出してしまった。俺がリンと付き合っているだって?リンはなんか顔真っ赤になっているしこれは俺が否定しないと不味い。
「そ、そんな訳ないじゃないか。第一こいつはおとぎゃっ!」
リンにつま先を踏まれたそれは言うなということだろう。
「ごほん。とにかく俺とリンは付き合ってなんかないよ。ただの協力関係さ。」
「なるほど、これから絆を深めていくということですな。この港、協力いたしますよ。」
だから違うといっても港は聞きやしない。食べ終わって俺はリンの分もご飯代を払う。この時港のニヤニヤ顔がとても不快だった。もう遅くなったからリンを家まで送っていくことにした。港は
「後は若い二人に任せまする」
といって帰ってしまった。そんな話をされた後だから俺もリンも気まずい。
「ねぇ。」
リンが俺に尋ねてきた。
「なんで、私達は助けたの?シキだって人を傷つけてたかもしれないし裏切る方法があるかもしれないんだよ。」
「なんでかはわからないけど君の夢は叶えづらいものだろ?だから、せめて短い間だけでも夢をみてもらえればと思ったんだ。」
「ふーん」
とリンは言った。顔は暗くて見えない。
「ねぇ。私ってちゃんと可愛いかな?」
「ああ、ちゃんと可愛いよ。」
リンはエヘヘと笑って先に走っていった。
「私にも、もう一つ夢が出来るかもしれないんだ。もしできたら協力してくれる?」
「任せとけ。ここまで来たらどこまでも協力してやるさ。」
きっと大学のことだろう。そう思っていた。俺はリンを送り届けると帰りにファンキーな駄菓子屋ドンドコ商店に寄ってうますぎる棒たこ焼き味を買って帰った。うますぎる棒はやはり美味いがパサパサするなと思いながら食べ終わると歯を磨いて眠りについた。
翌日も身体はバキバキ言っているが昨日ほどではない。身体を起こして講義へと向かう。大学の教室で前津と目があってしまった。前津はヒーローサークルとかいうのを作ろうとしている。なにかピースサインを送ってきているところを見るとメンバーが集まったのだろう。講義の後、早速前津に呼び出される。しぶしぶながらいってみると前津と鶴舞そして赤池がいた。
「このメンバーとリンちゃんでヒーローサークルを作るわよ!燃えてきたわ。」
前津は盛り上がっているようだ。鶴舞と赤池はどうせ前津かリン目当てだろう。
「一ついいか。一人俺の知り合いをこのサークルに入れたいんだけど。」
そう、俺も切り出す。港をこのサークルにいれるためだ。
「全然構わないわよ。むしろメンバーが増えるのは大歓迎。じゃんじゃん増やしていくわよ。」
前津はやっぱりノリノリで答える、やっぱりそう来るよね。
「港っていう他学部のやつなんだけどヒーローに興味あるみたいだから今度集まる時連れてくるよ。なんならこの後会う予定だからくる?」
前津に俺は聞いてみると前津はすぐに
「もちろん。今日会うわ。楽しみね!ヒーロー談義に花が咲きそうだわ。」
もしかしなくても前津はヒーローものとかの番組が好きなのかな。なんとなく格好もスカーフがそれっぽくなっているし。赤池もそう思っていたみたいだ。
「前津さん。もしかしなくてもヒーロー大好きだよね。」
と聞くと前津は間髪入れずに
「その通り。私にヒーローを語らせたら一日じゃ足りないわ。もしかして聞きたい?」
赤池は遠慮しとくとだけつぶやいてちょっと引いいているようだ。
「それにしてもヒーローサークルなんてなにをやるんだ?そんなもの大学が認めるとは思えないし。」
それに対して前津はこう答えた。
「ヒーローサークルはヒーローに相応しい行動をするサークルよ。早い話がボランティアサークルのようなものとして申請するわ。その裏で裏門に出た怪物みたいなのの目撃情報を集めてヒーローを助けるのよ。」
意外にまともに考えていたんだな前津も。とその場に居た誰もが思っただろう。俺は前津が怪物と言ったのが気になった。もしシャドーマンならシャドーサーヴァントという言葉を使うかもしれないと思ったがそれを使わない。このテンションでも口を滑らさないのは実は冷静なのかそれとも本当にシャドーマンでないからだろうか?
「顧問はどうするんだよ。顧問無しじゃサークルとして認められないだろう?」
「大丈夫。そこは目処が立っているわ。金山先生に前からボランティアサークルを作りたいって相談してたの。金山先生ならきっと顧問もやってくれるわ。」
前からボランティアサークルを作るつもりだったのね。それがヒーローを見て着火したと言うわけか。
「他にもヒーローサークルでやりたいことはいっぱいあるわ。衣装作りでしょ、撮影でしょ、地元ヒーローのPVの作成でしょ。夢が広がるわー!」
もうダメだこの前津はほっておくしかない。鶴舞も赤池もお手上げって感じだ。
「そうなると次は活動場所の確保だね。後資金の問題もあるね。いろいろ考えることは多そうだね。」
鶴舞がそういった。確かに衣装を作ったりPVをするなら場所も資金も必要だ。学生会館の部屋を間借りするにも資金がやっぱり必要だからそこんところは前津も考えているんだろうか。前津を見ると冷や汗を垂らしていた。考えていなかったようだ。
「ま、まぁ、とにかくメンバーも揃ったことだしこの後に港くんとリンちゃんと合流したら立ち上げ記念に食べに行くわよ!」
そう言って前津はこの場を締めたのだった。リンと港の待ち合わせに大勢で行くとリンは驚いて港は嬉しそうにしていた。港は友だちがいなかったから知り合いが増えるのが嬉しいんだろう。俺たち6人は学生証がなくても入れる食堂で打ち合わせをすることにした。
「それでボランティアは何をするんだ。」
口火を切ったのは赤池だった。
「ボランティアはボランティア募集情報を集めて参加したいのに参加するようにするわ。最初はほとんど全員参加みたいになると思うから頑張りましょう。そして、もう一つ、本命の活動は先日に裏門に出た怪物の出現情報を集めることよ。あんな怪物はヒーローじゃなきゃ対処できない。だから怪物とできるだけ合わないで済むような頻出地域を調べるのよ。」
前津はそう答えるが、俺たちは情報が表に出てこないことを知っている。
「それは至難なことだと思われまする。僕達も新聞を使って調べましたがなんの情報ものっていなのでございまする。」
港の発言に俺も賛同する、リンも同様だ。俺たちは出現率の高い地域が採石場ちかくであろうことは推理できるが実際に出現しているかはわからないはずだ。
「新聞の情報なんて遅いね。規制されていない情報例えばネットに上げられたツィートを調べればある程度は絞れるんじゃないかね。」
鶴舞がそういった。確かにそれならできるが…。
「その方法じゃ情報が不確実すぎやしないか?もし、敵が嘘の情報を流していたらこちらの出現度マップの信頼性が薄れてしまう。」
「いや、大丈夫でございましょう。」
俺の発言に対して港が答えた。大丈夫とはどういうことだろう。
「もし敵が嘘の情報を流すとしたらそれは不自然なものになりまする。それを弾くのは簡単でございましょう。それにもし敵が撹乱するなら敵に有利な本当の情報を少しずつ明らかにしたほうが良いと思われまする。敵もそれをしないところを見ると問題はないと思われまする。」
前津はひゅーと口笛を吹いた。
「港くんやるじゃん。そこまで頭の回る参謀がいると頼りになるよ。」
港はニヤけ顔だ。よっぽど前津に頼りになると言われたのが嬉しいんだろう。こいつ可愛いな。
「それじゃしばらくやることはtwitterで目撃情報を集めてマップを作ることで良いわね。そうすれば安全な地域がわかるしヒーローサークルっぽい活動だわ。」
前津はリーダー肌というかカリスマがあるな。心の中でマゴウンに俺は聞いてみた。
「マゴウン、前津にシャドーが憑いているかわかるか?」
「いや今のところなにもわからない。しっぽを出さないだけなのか本当に知らないのかはわからない。ただヌンフであればこんな回りくどいことをする相手を選ばないだろう。憑いているとしたらショークかゴヨクのどちらかだろう。」
「そうか・・・」
「陸人もしかして前津と戦いたくないなどと考えてはいないな?」
「いや、例えどんな奴が相手でも俺はヒーローを貫くさ。戦うに決まっている。」
「それならば安心だ。」
そういってマゴウンはまた黙ってしまった。
「守山くん話を聞いている?なんか心ここにあらずみたいな顔しているけど。」
「ん、ああ。すまんどこまで話が進んだんだっけ?」
「もう、ちゃんとしてね。リンちゃんの発案で共通Tシャツを作ることになったの。ボランティアをやる上でも共通のTシャツ着ていれば目立つし良いと思うのよ。」
そんな話になっていたのか。共通のTシャツとはリア充っぽいな。
「良いと思うぞ。そうすれば宣伝にもなるしな。」
「それじゃ共通Tシャツを作るのは決まりね。デザインは誰に頼もうかしら。」
「それなら私に任せて。」
リンが手を上げた。こいつデザインとかできるのか?なにか少女趣味的なものが出来上がりそうな気がする。
「なにかリクトさん失礼なこと考えてない?可愛いがわかるには他の感情もわからないとダメなんだよ。私に任せれば格好いいも可愛いも思いのままよ。」
「それじゃ、リンちゃんにデザインは任せようから。」
前津の鶴の一声でデザインはリンがすることになった。リンも楽しみそうだしこれで良かったんじゃないかな。
「それにしても。守山くん。リンちゃんに下の名前で呼んでもらっているのね。もしかして付き合っていたり?」
前津がニヤニヤした顔でそう言ってくる。港も何かキラキラした目でこちらをみてやがる。鶴舞と赤池はなんか引いいた目をしているのが痛い。
「そ、そんな訳無いだろう。俺みたいなうらぶれたやつにリンみたいに可愛い女子高生の彼女が出来るわけ無いじゃん。」
「あら、でも守山くんんもリンて呼び捨てにしちゃってるしリンちゃんを大学に連れてきたのも守山くんじゃない。動揺しているみたいだしこれは図星だったかな〜。」
くっそ前津め港より厄介だ。鶴舞と赤池の目線が痛すぎる。港はそんな期待に満ちた目で俺を見るな。だいたい前津はリンがシャドーマンなののを知っているはずだろ。
「私がリクトさんにお願いして大学に連れて来てもらったの。」
助けてくれたのはリンだった。だけど顔を真っ赤にして言っても説得力ないぞ。。
「リクトさんは私のよく行く駄菓子屋で知り合ったお兄さんなの。それで進学する大学に困ってるって相談したら自分の大学を案内してくれるって言ってくれたんだ。」
リン、ナイスフォローこれなら俺は優しいお兄さんで終わる、鶴舞の若干悔しそうな目線は気になるが赤池からの目線の痛みは減ったぞ。
「そうなのね。そういうことなら信じるわ。でもドンドコなら私もよく行くけどあんまりリンちゃん見かけないような気がするわ。」
前津まだ疑っているのかよ。
「それは時間帯が違うんじゃないかなー。」
そういって俺たちはなんとか付き合ってる疑惑をはぐらかした。実際付き合っていないんだから疑惑も何もないんだけど疑われるのは気持ちいいものではない。
「それじゃ季に食べに行きましょうか。あそこはご飯おかわりし放題だからお腹がなるわ。」
自重しろ前津。こいつは痩せの大食いだから羨ましいな。
「俺は一度リンを家まで送ってから行くわ。リンも連日外で食べるのは辛いだろうし。」
俺はそう言うが前津はまたニヤニヤ笑ってやがる。これは違うぞ。ただ心配だから送っていくだけだ。リンも嬉しそうにするんじゃない。
「それじゃまた後でな。」
そういって俺は前津達と別れてリンを送っていく。
「リン、Tシャツ格好いいやつにしてくれよ。可愛いのだと俺や港達男連中はきついからな。」
「何まだ私の腕を疑っているの?任せておいてよ。かっこ良くて可愛い最高のTシャツデザインを作って上げるわ。」
そんな他愛のない会話をする日常が俺には大切に思えてきた。リンと出会って短いというのに一緒に視線をくぐったからかとても大切に思える。
「リン見てみろよ。空に飛行船が浮かんでる。どこへ行くのかな。」
「本当だ。あの方向だと東京の方かな?」
リンの家の近くまで送って別れる。今日はドンドコによらずに季飯店に向かう。2日連続中華になるけど季の中華と南方園の中華は別物だ。季は炒めものメインの脂っこく濃い中華だからな。俺は青椒肉絲でも頼もうか。そう思って季飯店まで自転車をとばすのだった。
翌日、大分ダメージも回復してきた。翌々日に筋肉痛が来ることもないことをみると俺も若いらしい。
「リクトよこの世界では20代前半ですでに衰え始めるのか。ずいぶん衰えるのが早いな。」
マゴウンのずれた質問に冗談だとだけ返して。俺は今日も講義に出る。講義が終わるとヒーローサークルの活動だ。どうやら前津は金山先生に顧問になってもらったらしい。これで本格的にサークルとして動き始めようとしている。リンを待ってからいつもどおり食堂に集まる。前津は地図に広げる。
「それじゃ今日の活動はtwitterでの怪物の目撃情報をここにかき込んで行くことよ。PCがあればいいけどスマホでもやれるからみんなでローラー作戦よ。」
こうしてtwitterでの目撃情報をピックアップする作業が始まった。はたから見ると地図を前に一心不乱にスマホを操作する異様な集団に見えているかもしれない。twitter上には結構目撃情報が有った。やはり採石場付近も多かったが同じく市役所付近も目撃情報が多いことがわかった。襲われた情報までは出てこなかったことから考えると情報操作しているのではなく単純に人を襲うこと自体が少ないのだろうか。
「ちょっと写真を見て気づいたことがある。」
マゴウンが急に喋り出した。なんだと聞いてみると
「シャドーサーヴァントの核なんだが明らかに採石場と市役所では異なっている。採石場は小動物だが市役所の方は中型の生物をシャドーサーヴァントにしている。ちょうど人ぐらいの大きさの生物だ。」
「それは人をシャドーサーヴァント化しているってことじゃないのか?」
俺はマゴウンに心の声で聞いたがマゴウンはそれを否定する。
「それはないだろう。人間をシャドーサーヴァント化しても支配するのが難しい。多くは自分の意思で行動することが出来てしまい支配できなくなる。」
なるほど人ほどの知能を持つ生物では自我をシャドーサーヴァント化しても抑えきれないということか。
「ちょっと聞いてくれ。どうやら採石場と市役所付近の怪物の種類は違うようだ。写真に写っている形が全然ちがう。」
「よく気づいたわね。確かに2つの場所の怪物に異なる点が多いわ。つまり敵は二人いるってことね。」
「それはわからない。もしかしたら一人が二種類の怪物を作っているのかもしれないし、何人かが協力しているのかも知れない。どちらにせよこの付近は注意する必要があるってことくらいだ。」
そういいながらも俺は二人のシャドーマンが採石場と市役所にいると確信している。
「よっ!やっているなヒーローサークルメンバー諸君!」
一人のグラマラスで健康的な真っ赤な赤い髪を短くまとめた女性が声をかけてきた。お腹も程よくぷにカチしてそうな感じだ。
「金山先生こんにちは。」
前津が挨拶したのでみんなもつられて挨拶する。この人が顧問になってくれた金山先生か。
「うむうむ。ご苦労。これが怪物の出現マップかい?私の家の近くでも結構出現しているんだな。」
「金山先生どこにお住まいなんですか?」
俺は尋ねてみた。すると、
「私は採石場の近くに住んでいるんだ。バイクで飛ばしても何も言われないし、夜は静かだからね。」
まさか近くに採石場付近に住んでいる人がいるなんて思わなかった。これは情報を手に入れるチャンスだ。
「何かこの一週間ほどで変わったことはありませんでしたか?どうやら怪物が出始めたのも一週間ほど前からみたいなんです。」
「そうはいっても一週間じゃな。あ、でも最近夜に採石場の中から何かを殴るような音が聞こえてくることがあるな。」
これは有力情報だ夜にシャドーマンが採石場に現れる事が分かったなら奇襲をかけるのも可能だ。港も何やら考え込んでいるようだ。
「なんだ、危険だっていうなら気をつけるよ。君たちも気をつけたまえよ。むやみに近づいたりしちゃダメだぞ。本物のヒーローでもないかぎりね。」
そういって金山先生は去っていった。ちょどマップも情報を全て書き終えた。やはり採石場と最近になって市役所付近での目撃情報だけがあるようだ。まだ、この二人のシャドーマン同士は戦いに入っていないと考えてもいいだろう。もしこの数のシャドーサーヴァントがぶつかり合えばもっと多くの目撃情報が得られるはずだ。
「それじゃ今日はこのくらいにしておこうか。さて今日はどこに食べに行く?」
前津が切り出したがこの情報を元に俺はリンと港と話し合いたかった。
「じゃあまたリンを送ってくるよ。港も今日はついてきてくれ。」
「それじゃどこに食べに行くか決まったらメールするからね」
そう言った前津と別れ、三人だけにできた。俺はリンと港に目配せをする。
「採石場に夜シャドーマンが現れるというのは有力情報ですな。なにをしているかまではわかりませぬがこれだけでも値千金の情報ですな。」
港に俺も同意だ。これだけ情報を得られれば作戦も立てられる。
「それでいつ攻める?もう身体も回復しているんでしょ?今日でも私は行けるよ」
「リン。話を聞いていたか?作戦を立てる必要がある。攻めるとしたら明後日の土曜の夜だな。明日一日作戦立ての日にすれば十分だ。遅すぎてもシャドーマンがゴヨクだった場合厄介だしな。」
リンはなにかふくれっ面になっている。
「それでは明日は3人であつまりまするか。正直、僕も前津さんや舞鶴さん、赤池さんを巻き込みたくございません。」
「そうだな。この後のご飯の場所はトントンに決まったようだしそこで話してみよう。」
リンの家の付近まで来た。
「それじゃリン。また明日な。」
港も一緒に挨拶をする。手を振るリンを後ろに俺たちはトントンへ向かう。トントンということは今日も戦いだ。トントンは大盛り丼の店だ。最大の特盛りはご飯3合入っていると聞く。一人では入りづらい店だからか港も行ったことないらしい。
「胃薬の準備はしておけよ。」
そう港にひとことかけて俺たちはトントンという戦場へ向かった。
次の日はお腹が張った感じを受けながら目を覚ました。トントンのBIG丼を食べきったからこんなにお腹が膨らんでしまっている。
「まるで子供が出来たみたいだな。」
マゴウンの一言にも気にせずとりあえず講義への準備と作戦会議に必要なノートを持って大学へ向かう。前津は昨日トントンで今日も集まりたいと言ってたが今日はどうしようもない。前津からなにか視線が送られくるがそれに謝っておく。講義が終わったら前津に捕まる前に外に出た。まだ一時間程リンと港と集まるまで時間はある。俺はとりあえず市役所の方へ行ってみることにした。市役所まで大学から自転車で15分程だ。そこはとても怪物の目撃情報があるようには思えない程ひっそりとしていた。なにか起きているようには見えない。ここの市役所は若いやり手の市長が建てて移動したものだ。ここに移動したことで大分利便性が上がった。この場所も電車が通ったことで何もない荒れ地から変わろうとしているので調度良かったかも知れない。さすがやり手だ。俺は市役所裏にある団子屋でかりんとう饅頭を買って食べると大学の方へ戻った。
大学の裏門にはすでにリンも港も居た。前津達に見つかるとまずいので食堂ではなく喫茶店の方で作戦を立てる会議をすることにした。
「それで何か作戦に案はあるか?」
リンは首を横に振るが港には何かあるようだ。
「なにかはわかりませぬが採石場のシャドーマンは何かと戦っている様子。ならばその相手に紛れ込んで入り込むのがよいと思われまする。」
確かに金山先生はそんな音を聞いたと言っていた。それが本当ならその作戦が一番良さそうだ。
「しかし、敵シャドーマンが戦っているとは限らない。もしかしたらなにかトレーニングなのかもしれない。何かわからない以上B案も必要だ。」
俺がそう言うとマゴウンが語り出す。
「すこし考えていたのだが金山という女が言っていた殴るような音は別のシャドーマンと戦った音ではないだろうか。もしそうなら影の世界を見てみたほうがいい。」
マゴウンがそう言ったことをリンと港にいうとそれでは市立美術館に行こうとういうことになった。あの真っ黒な絵の前に立つやはりなにか吸い込まれるような感覚がある。
「やはりな」
マゴウンが言う。
「ショークが影の世界に帰っている。採石場のシャドーマンはショークと戦っていたのかもしれない。」
リンにも確認するがシキも同じくショークが帰っているのを確認したようだ。
港にそれに伝えるとむむむと考えこんでしまった。俺はこれ以上この絵の前にいると引き込まれるような気がしたのでそそくさそこから離れることにした。
「作戦は降り出しだな。」
美術館前の公園のベンチに腰掛けて俺はそう言った。
「もうこれは最初から正面突破しかないよ。」
リンは脳天気にそういうがゴヨクならともかくヌンフだった場合危険過ぎる。
「ここは相手のシャドーマンが絞り込めた事を喜ぶことしまする。」
港はそう言うとこう続けた。
「イタダから聞いていた話しでござるが、ヌンフはオーバーシャドーした時に自我を失い音や動くものに反応して攻撃してくるらしいのでする。それならばリンさんのシキの能力で囮を作って相手を撹乱すれば戦えましょう。ゴヨクの力がどれほど貯められているのかわかりませぬが守山さんとマゴウンさんの力ならば恐れることはないと思われまする。」
それしかないだろうな。ヌンフでないことを祈るしかなさそうだ。その後港と別れて、俺はリンを送り届けに行った。
「そういえばTシャツのデザインはできているのか?」
「もうすぐできそうなんだけど。ちょっとうまくいってないかも。」
リンはちょっと落ち込んでいる。
「ま、そういう時もあるさ。引き受けるくらい自信があるリンならきっとやれるさ。」
俺はリンを励ますために軽口を叩いた。本当は心配で仕方ないけどリンの暗い顔は見たくない。
「へへっ、ありがとう。私がんばるよ。あ、もうここで大丈夫だよ。それじゃまた明日ね。」
そう行ってリンは家へと帰っていった。俺も久々の一人で取る晩ごはんだ。明日のために力をつけようと山々特性豚丼を頼んで家で食べる。この豚丼は高いが味は絶品だ。マゴウンも喜んでいた。景気をつけたところで寝て明日へ備えるのだった。
次の日は昼前に起きた。いつもと違って大学は休みだからと目覚まし時計を設定せずに寝たのがまずかったようだ。朝ごはんんがわりに山々のスタミナ弁当を食べたら作戦を実行するために双眼鏡を買いに出かける。海新ならきっと双眼鏡もあるだろうと思って行く途中でバイクに乗った金山先生と出会った。
「どこに行くんだい?買い物?」
「海新に行って来ようかと思いまして。双眼鏡が欲しくなったので。」
俺はふつうに双眼鏡を買うと言ってしまった。
「双眼鏡とは何か見に行くのかい?まさか採石場の怪物でも見に行くつもりだったりしないね?」
俺はギクリと思ったが金山先生にはお見通しのようだ。
「やめておけと言っても無駄なようだ。怪物を遠くから眺めるだけならともかく近づくんじゃないぞ。本物のヒーローでもないならね。」
「わかってますってば。」
そういって俺と金山先生は別れた。
日が傾いてきた。リンと港と待ち合わせの時間だ。大学の裏門に集まるとそこには何故か前津がいた。
「金山先生に聞いたわよ。採石場の怪物を見に行くんでしょ。だったら車でいかないと。」
そういって前津は車を持ってきたようだ。これでは前津も巻き込んでしまう。
「俺たちは見学に行くんじゃないんだ。怪物をヒーローとして倒しに行くんだ。そこに怪物を作っている奴がいるかもしれない。俺やリンには能力があるし港も元々は能力者だ。だけど、前津はそうじゃないわざわざ巻き込まれに行くことはないんだ。」
そういって前津を説得しよとする。
「そう言ってもどうやって採石場まで移動するつもりなの?まさか自転車で行くつもり?リンちゃんだっているのよ。それに帰りはどうするつもりなの。無傷で済むとは限らないでしょ。」
それを言われるとこちらも辛い。このまま言い争いをしていても仕方ない。採石場入り口で待つことを条件に採石場まで前津と一緒に行くことにした。
採石場の扉は夜だというのに開いていた。前津と港を置いて俺とリンは中へ向かう。双眼鏡で採石場の中を見ると一人誰かが中央に立っている。オーバー・シャドーはしていないようだ。これはどういうことだと思いながらも。近づくとそこに居たのはライダースーツの金山先生だった。
「金山先生、生徒に近づくなと行っておいて自分は中に入るんですか?」
「いや何、ヒーローを待っていたんだよ。」
何か様子がおかしい。リンを一歩下がらせる。
「やはり君たちがシャドーマンだったか。私が採石場のシャドーマンさ。」
「なぜ先生があんな危険なシャドーサーヴァントを作って居たんですか?」
俺が金山先生に尋ねる。
「あれは逃げてしまったものなんだよ。私が私の力を試すために作った試金石の一匹ね。」
まさか、金山先生はシャドーサーヴァントを自分で作って自分で戦っていたのか。
「正直シャドーサーヴァントの相手はもう飽きたんだが私のシャドーは強力でね。街中で使えないんだよ。だから、わざわざここまで来てもらったわけだ。」
そうやって金山先生は笑う。
「来るぞ陸人!」
マゴウンが叫ぶと同時に金山先生が動きを見せた。
「さぁ、私を楽しませてくれ。オーバー・シャドー。」
金山先生が頭上で指をパチンんと鳴らすと同時に黒い炎のようなものが金山先生の周りを包み込む。
「まずいぞ。この感じヌンフだ。早く俺たちもオーバー・シャドーをするぞ!」
マゴウンが警告する。
「リン。作戦通り行くぞ。オーバー・シャドー」
「任せてリクトさん。オーバー・シャドー」
とりあえず俺は足元の小石をヌンフの近くに蹴りだす。ヌンフはその小石に向かって攻撃を仕掛けた。その力は凄まじい。ヌンフが足元の石を殴り飛ばしただけだというのに地面がえぐれている。
「リン!陽動を頼む!」
その声に反応してヌンフは声にならない叫びを上げてむかってくる。俺はひとまずヌンフの懐に潜り込んだ。ヌンフが俺を攻撃しようとする時にリンが小石の弾丸で気を引いた。これはチャンスだ。俺は右手に力を込める。
「貫けシャドーパンチ!」
俺のパンチはヌンフの胴体に確かに当たった。当たったがパワー差がありすぎてダメージになっていない。ヌンフは顔をこちらに向けて腕が振り下ろされる。なんとか受け止めるが。その衝撃に足がビリビリくる。
「リクトさん!行ってベアちゃん!リクトさんを助けて!」
ベアゴーレムがけたたましい音を上げてヌンフに向かっていく。その音にヌンフも反応したみたいだ俺は一度距離を取る。ベアゴーレムの再生力ならヌンフも手こずるはずだ。ヌンフの一撃がベアゴーレムにヒットするが風穴を空ける程度だその程度ではベアゴーレムが倒れないのは戦った俺が一番良くわかっている。今のうちにヌンフの影の薄いところを見つけなければならないがヌンフの影は揺らめいていて捉えにくい。
「オルルウラガラザ!!!」
ヌンフが何か叫びながら振り上げた腕をベアゴーレムに振り下ろす。その瞬間まるで閃光が放たれたような衝撃波とともにベアゴーレムは霧散してしまった。ベアゴーレムの核となっている石を全て一撃で砕ききったのだ。ヌンフがリンの方向を向く。リンがやられるのは阻止しなければならない。俺はヌンフに立ち向かっていった。その時イタダが執拗に俺の後頭部を狙っていたことを思い出した。もしかしたら後頭部は影が薄い傾向があるのかもしれない。
「リン!もう一回陽動を頼む。試してみる事ができた。」
リンが石の弾丸でヌンフの気を引く。その間に俺は後ろにまわり両拳を組んで力を込める。
「砕け!シャドーハンマー!」
俺は振り上げた両拳をヌンフの後頭部目掛けて振り下ろす。頼む効いてくれ。ヌンフの動きが一瞬止まった。しかし、ふたたび動き出す。俺を捕まえるとリンの方向へと投げ飛ばした。俺はリンと激突してしまった。俺のほうの傷は浅いがリンのオーバー・シャドーではダメージが深そうだ。
「マゴウンこのままじゃ不味い!何か策はないか!」
「すまない。ヌンフの力がこれほどとは・・・」
くそっ。マゴウンももう頼れない。ここは逃げるしかないのだろうか。しかし、入り口にはオーバー・シャドー出来ない港と前津がいるそこまでヌンフが追ってこないとは限らない。そんな危険に巻き込むわけにはいかない。
「リン。すまない。まだやれるか。」
「任せといて。私のシャドーサーヴァントはベアちゃんだけじゃないの。」
リンは強がっているのが見え見えだがそう言って立ち上がった。
こうなれば同時攻撃しかない。シャドーハンマーは少しは効いた様子だ。全く効かないというわけではないのだ。
「リン。俺はもう一度後頭部を狙う。同時にそこに強力な一撃を与えられれば勝算はあるかも知れない。」
「わかったわ。ならこの子が適任ね。」
そういうとリンは巨大なウサギ型のシャドーサーヴァントを小石で作り出す。俺はそのウサギゴーレムに乗る。
「すまないリン。陽動を頼んで。」
「しかたないじゃない。私は貴方のサポーター何だもの。それより来るわ!跳ばすから口を閉じていてね。」
そう言うとうさぎ型ゴーレムは跳び上がった、リンがヌンフを着地点へ誘導しているのが見える。俺は全身の力を両拳に込める。一瞬ヌンフがこちらを見た、だがもう止まられない。ヌンフの額目掛けてウサギゴーレムと同時にハンマーを打ち込む。
「ラビットシャドーハンマー!!!」
もうともうと土煙が立ち込める。
「やったか!?」
俺は激突の衝撃に耐えて立ち上がる。しかし、土煙が晴れた中に居たのは立っているヌンフだった。唖然とする俺に向かってヌンフはふりむいた、思わずガードの姿勢を取った。
「グララガアアダヴァラ!!!!」
奇声を上げてガードの上からヌンフの全力の一撃が俺を貫いた。意識が一気に遠のく。マゴウンの声が遠くなって消えた。
目を覚ますとリンがヌンフとなんとか戦っていた。マゴウンが俺の中に居ないのがわかった。マゴウンは隣に倒れていた。マゴウンはまだ誰かの支配下になっているわけじゃなさそうだ。
「リン!お前だけでも逃げろ!」
俺は思わず叫んだ、これ以上リンに傷づいてほしくない。
「リクトさん!気がついたんですね!」
一瞬リンがこちらを向いてしまった。その隙をヌンフは逃さなかった。ヌンフの炎のような影がリンに迫る。俺は思わず駈け出した。マゴウンもなしにオーバー・シャドーもせずにヌンフに立ち向かえばどうなるかわかっている。それでも駆け出さずにいられなかった。
「リンに手をだすなヌンフウウ!」
叫びながら俺はヌンフの顔目掛けて拳を突き上げる。その時不思議な事が起こった。俺の拳が光だしヌンフの影の一部をかき消したのだ。金山先生の顔が見えた。ヌンフのオーバー・シャドーが不安定になったようだ。その隙に俺はリンとマゴウンを連れて入り口へと逃げ帰った。前津と港が見えた。
「逃げるぞ!早く車をだす準備をしてくれ。」
そういうと車に俺とリン、マゴウンは乗り込み逃げ帰ったのだ。
「敵の正体は金山先生でシャドーはヌンフ。とても強力なやつだった。」
「でも無事ということは勝ったんじゃないの。」
前津は運転しながら聞いてくる。
「いや、俺たちはヌンフに負けた。だけど不思議な光によってできた隙をついて逃げてきたんだ。」
「これからどうするの。」
「分からない。リベンジするかそれとも諦めてヌンフの支配下に入るかだ。どちらにせよ今のヌンフはただ暴れるだけの存在だ。逃げよう。リン。大丈夫か。」
「大丈夫。ヤバイのは全部避けてるからね。」
「マゴウン最後の光は何だったんだ?」
「俺にもわからない。ただ、あの光はどうやらリクト君の中から光っていたようだった。もしあの光がリクトの力だとしたらそれがリベンジの鍵になるかもしれない。」
マゴウンは満身創痍ながらもしゃべっていた。
「マゴウンもう一度シャドーフュージョンしよう。俺は金山先生とヌンフをあのままにしておけないリベンジを目指して特訓するぞ。」
前津が話に割ってきた。
「なんか良くわからないけどその黒いマゴウンくんだっけとシャドーフュージョンすればヒーローになれるなら私もしたいわ。」
「駄目だ。マゴウンも言っているようにあの光がヌンフを倒す鍵なんだ。今のところ俺に賭けたほうが勝率は高い。」
「分かった。俺もまだ王を諦めたわけじゃないんでな。リクト。シャドーフュージョンだ」
そうして俺とマゴウンは再びシャドーフュージョンした。こうして俺とマゴウンは初めての敗北をして逃げ帰るのだった。
翌日にマゴウンの声で目が覚めた。今日は日曜日だ。身体はまだバキバキ言っているがヌンフを倒すために休む訳にはいかない。今はあの光の謎を掴む必要がある。
「あの光はもしかしたら光の世界とこの世界が影の世界で呼ばれているのと関係有るのかもな。」
確かにこの世界は光はあるが影もある。なのに光の世界と呼ばれているなら何かあるのかも知れない。俺は電灯の紐に向かって拳を向けるが光らないのを確認しながらそう思った。リンの様子も気になるメールして見るか。
「調子はどうですか?痛いところとかありませんか?」
そんな文面でリンにメールしてみた。するとすぐに返信があった。
「もうピンピンしてます。・・・っていいたいんですが筋肉痛はきていますね。今日は動きたくないです。」
どうやらリンも冗談をいう程度には復活したようだ。俺はあの時のことを思い出していた。俺はあの時マゴウンとシャドーフュージョンしていなかった。それでも、リンを守りたくて行動した。それくらいしかわからない。もしかしたら、シャドーフュージョンしていない人間には光る拳を打ち出す力があるのだろうか。マゴウンに聞いてみる。
「わからない。そんな話は聞いたことがないしそもそもオーバー・シャドーした相手にシャドーフュージョンもせずに立ち向かう人間など聞いたこともない。」
確かにそうだ。これではわからない。実験するしかあるまい。俺は夜に港を図書館裏の公園に呼び出した。
「すまない港、俺の実験に付き合ってくれ。シャドーフュージョンしていない状態でオーバー・シャドーした俺を殴ってみて欲しいんだ。:
「なにを言いますか。僕は罪を償うためにリクトさんに協力すると言ったでございましょう。それでなくともリクトさんには友達や居場所をくれた恩人でございます。なにも気にせずいればよいのです。」
「ありがとう港。それじゃ行くぞ。オーバー・シャドー。」
俺は変身した、周りには人の気配もない大丈夫だ。
「港さぁ殴ってきてくれ」
「行きますぞ。リクトさん!」
港の拳は俺に当たったが光ったりはしない。何度試そうと光ることはなかった。シャドーフュージョンは関係ないということなのだろうか。
「ありがとう港。どうやらシャドーフュージョンが関係しているかもという仮説は間違っていたようだ。」
「そうでございまするか。残念でありまする。」
港が殴るのを辞めたのを確認して俺はオーバー・シャドーを解いた。
「それにしてもなぜリンさんをシャドーフュージョンもなしに助けようと思ったのでございまするか?ヌンフがそれほど強力であるならリンさんに任せているしかないというのに。」
「それは・・・俺はヒーローに憧れているからかもしれない。」
「というと、どういうことでございまするか?」
港は俺に尋ねる。こうして口に出すのは恥ずかしいが仕方ない話すしかなさそうだ。
「俺は子供の頃からテレビのヒーローにあこがれていたんだ。脚光を浴びて颯爽と悪を倒しヒロインを助ける。そんなヒーローにさ。もし俺の憧れるヒーローならあの時負けるとわかっていてもリンを助けるそう思ったんだ。」
港は何かを考え始めたようだ。俺の話なんて恥ずかしい理想論でしかないのは俺自信が一番わかっているはずなんだが。
「もしかした、その憧れのヒーローに近づいたことが鍵だったりするのではないでしょうか」
「て言うとヒーローっっぽく振る舞えば光の拳を打てるというのかい?」
俺は冗談めかして聞いてみた。しかし港の瞳は真剣だった。
「人は光りの当たるところにいたいとおもうものでしょう。しかし、そんな場所はないのであります。光の当たるところにいたいのなら、光を作らなければならないのでありまする。」
「ということは、自分が光り輝く瞬間にあの不思議な光は生み出されるというのかい。」
港に聞いてみた。
「わかりませぬ。先ほどの言葉も漫画からの引用にすぎませぬ。それでも、それなりに説得力があるきがするのでございまする。」
「それなら今までヒーローのように戦ってきたの光らなかったのはおかしくないか?」
港も頭を抱えてしまった。
「そうなんでございまする。それが矛盾でござる。」
とりあえず今日はなにかきっかけをつかめたわけじゃないが。シャドーフュージョンが関係していないことがわかっただけでも良しとしよう。二人で南方園に行き遅めの晩ごはんを取ってその日は帰ることにした。
次の日、俺は大学に行く気になれなかった。行けば金山先生と出会うのが目に見えているからだ。それでも俺はヒーロー。単位を落としたとあっちゃ格好が付かない。それに前津たちヒーローサークルのみんなの様子も気になるしな。講義で前津と出会うもやはり前津も来るのが気まずそうだった。講義が終わってから食堂でヒーローサークルのみんなに敵の正体が金山先生であることを明かした。
「これってもしかして金山先生に俺たちみんな顔が割れているから襲われたりしないかな。」
そう赤池が言った。確かにその可能性はある。金山先生が怪物を作っていたことがバレれば問題になるその前に消すこともありえるだろう。
「そんなことはしないさ。」
後ろから金山先生の声が聞こえた。
「私はそんなことはしない。私は乾いているだけなんだ。血の騒ぐ戦いがしたい。あの光をもう一度見せてくれよ。なんなら今日でも良いよ。」
「敵に出せといわれて見せるわけないじゃないですか!」
そう前津は反論した。
「それじゃ時間制限をつけようか。私はこれから毎日、夜にあの採石場にいる。戦いたくなったらいつでもきてくれ。ただし、3日経っても来なければシャドーサーヴァント、あの黒い怪物だね。あいつを町に放たせてもらう。そうならないようにヒーローとして身の振り方を考えるんだね。」
そう言って金山先生は去っていく。時間制限は三日間。それまでにこのヒーローサークルのメンバーでなんとかしなければ町に被害が出てしまう。
「金山先生のシャドーサーヴァントだっけ?そいつって強いの?」
赤池が尋ねる。
「ああ、前回裏門に出た奴の比じゃない。人をちぎっているのを俺は見たことがある。」
俺はそう答えた。明らかに赤池と鶴舞の顔から血の気が引いている。
「今まで言わなくてすまなかったな。俺があの裏門の怪物を倒したヒーローの正体なんだ。土曜に採石場の敵シャドーマンを倒そうとしたんだが負けて返ってきたんだ。こんなことに巻き込んですまない。」
俺は謝った。謝って済む話ではないことはわかっていたがそれでも謝らずにいられなかった。
「町に怪物を放つならヒーローサークルにいてもいなくても同じだね。なら、なにかやれるだけヒーローサークルにいるだけ気楽だね。」
そうやって鶴舞は言ってくれた。
「前津さんは前から守山くんがヒーローなの知っていたの?」
赤池が前津に尋ねる。
「そう。土曜日も無理を言ってついていったんだ。そしたらこんなことになっちゃって。」
「そうか。水臭いな。ヒーローの手助けなんて科学者なら誰もが夢見るポジション。言ってくれれば協力したのに。」
赤池もそう言ってくれた。俺はシャドーマンのことはシャドーマンだけでなんとかしようとしていたがここに初めてヒーローサークルのみんなを頼ろうと思えてきた。
「みんな、ありがとう」
俺は礼をした。こんなにも温かい気持ちになったことはない。
「そうと決まったら何をしようか?」
前津が切り出す。
「俺は作ってみたい物があったんだ。自転車の新型ヘルメット素材なんだけど衝撃を受けると固くなる素材があるんだ。それで防御用ジャケットを作ろう。」
赤池が発案する。
「それならばジャケットを縫う必要がありますね。そういうことは私にまかせてもらいたいですね。コスを作るついでに磨いたこの裁縫の腕で作ってみせますね。」
鶴舞が製作を申し出た。
「ならデザインはリンにまかせて。金山先生との戦いで後頭部が弱いことが分かったしそこを守るデザインを今書いちゃうから。」
リンがデザインを考えてくれた。
「なら防御用ジャケットはそちらに任せてこちらは謎の光について調べまするか。」
港が発案した。ヒーローサークルが回っている。これなら勝てそうだ。
「守山くんみんなをもっと頼ってね。私達はヒーローの味方ヒーローサークルなんだから。」
前津がそう締める。俺はヌンフにリベンジすることを誓った。
リンのデザインはすぐに出来上がった。ジャケットにフードのついたパーカーのようなものだ。赤池は素材を集めるのに少し時間が必要らしい。防御ジャケットは赤池達に任せて、前津と港。俺の三人であの光の謎を突き止めることにした。昨日に港が言ったいた仮説は確かめようがない。だいたいヒーローらしい行動という曖昧な定義で発動するとは思えなかった。だけど前津はそれを真剣に考えている。
「ヒーローらしい行動じゃなくて人の目を引くような行動のことかな?」
というそれならば俺にも光を見た体験がある。見返りを求めず助ける瞬間に人は輝いて見える。TVの中だけでしかそんな光景は見たことなかったがあれは確かに光だったかも知れない。だけど、今俺はマゴウンを王にするために戦っている。町にシャドーサーヴァントを解き放たせないために戦っている。見返りを求めている俺にそんな事ができるとは思えなかった。
3日は簡単に経ってしまった。光の拳を再現することは出来なかったものの防御用ジャケットは完成した。このジャケットが助けてくれる。そう信じて俺達は採石場に向かった。採石場の入り口にリンと俺以外のヒーローサークルのメンバーに待ってもらうことにした。俺とリンはジャケットを羽織るとぐっと親指を立ち上げた。いよいよ金山先生との戦いが始まる。採石場の中央に金山先生は立っていた。
「ようやく来たか。今か今かと待ちわびたぞ。」
金山先生は話し始めた。もう待てなさそうだ。
「さぁ光の拳を再現できたか答え合わせの時間だ!オーバー・シャドー!」
再び金山先生を黒い炎のような影が包み込む。
「リン!勝つぞこの戦い!オーバー・シャドー!」
「もちろんよ!リクトさん!オーバー・シャドー!」
俺とマゴウンはヌンフに向かって突撃する。今の俺にはジャケットもある。それを信じて俺はヌンフ目掛けて賭ける、ヌンフは待ち受けるように手を振り上げて構えをとっている。ヌンフが手を振り下ろした瞬間に俺は跳んだ。
「リン!援護してくれ!」
「任せて!」
リンの小石の弾丸でヌンフがリンの方向を向いた、これならば後頭部を狙える。
「シャドーハンマー!」
ヌンフの後頭部に俺の両拳がめり込むだがここで油断してはならない。ヌンフにダメージは入っているようだがそれでも倒したわけじゃない。俺はくるりと回って着地すると次の攻撃に移る。とにかくヌンフの後頭部を全力で殴り続ければあの光に頼らなくても勝機は見えてくるはずだ。
「いっくよ!ベアちゃん!リクトさんを援護して。」
ベアゴーレムと俺はヌンフを挟み撃ちにする。ベアゴーレムがけたたましい音を出すおかげで俺はほとんどフリーだ。しかし、ベアゴーレムはヌンフには一撃で沈められてしまう可能性はある。
「グララガアアヴァハフ!」
ヌンフがベアゴーレムを消し飛ばした。その隙に俺はヌンフの後ろを取れた。両拳に力を込め再びの
「砕け!シャドーハンマー!」
二発目もヒットさせられた。だがヌンフの動きは鈍くならない。ひらりと着地する予定だったがヌンフの指先が俺の胴体にかすっただけで吹き飛ばされる。だがジャケットのおかげでダメージは少ない。なんとか立ち上がるとヌンフはリンの方へと向かい始めようとしている。マゴウンもリンを助けろと言っている。俺はヌンフの気を引くように足元の石をヌンフに向けて蹴りあげる。
「ヌンフ。貴様の相手は俺だ!」
俺の叫び声にヌンフはこっちを向いた。またもヌンフと俺は対峙し互いに突撃する。さっきと同じように跳び越えて後頭部に攻撃を当てようとするが、跳んだ瞬間に足をヌンフに掴まれた。ヌンフに振り回されて地面にたたきつけられる。ジャケットがなければ即気絶のダメージを受ける。それでも俺は立ち上がる。ヌンフはまだこちらを見ている。
「まだだ、ヌンフかかって来い!」
ヌンフは俺目掛けて突撃してくる。跳んで避けることは俺のダメージでは無理だ。ここはヌンフのワキに避けて後頭部を狙うのが良さそうだ。
「リン!」
俺とヌンフが衝突する瞬間にリンが小石の弾丸をヌンフの顔面に当てて気を逸らした。その隙をついて俺はヌンフのワキに入った。俺はヌンフを後ろから抱きかかえるとそのままバックドロップの要領でヌンフを頭から地面に叩きつける。自分の重さにやられたんだそう簡単には起き上がれまいとは思わない。相手はあのヌンフだ。用心しなければならない。俺はヌンフから距離を取る。ヌンフはスクッと立ち上がった。アイツにダメージは入っていないのか?でも少し動きが鈍くなった気がする。もう一度同じ作戦で行ってみるか。
「リン!さっきと同じ動きで行くぞ。」
「ちょっと待って!」
リンの言葉をまたずに俺はヌンフと臨戦態勢に入る。衝突は時間の問題だ。
「リン!今だ!」
リンの弾丸がヌンフの頭に後ろから当たる。これで意識がそちらへ向くかと思った。しかし、ヌンフはそれに構わず俺に向かってくる。ヤバイ。ヌンフの強力な右拳が俺の胴体に突き刺さる。意識が吹き飛びそうだ。正直立ち上がるのもやっとだ。
「陸人!これ以上は危険だ、またシャドーフュージョンが剥がれる危険がある。ここは逃げるんだ!」
マゴウンの提案だがそれは出来ない。ここで逃げればシャドーサーヴァントが町に放たれる。
「シャドーサーヴァントは俺達がいれば倒すことは出来る。俺達がいなくなればヌンフがどんな行動を取るかわからないだろう。」
マゴウンの説得も俺は聞かない。確かにマゴウンの言うとおりかも知れない。それでもそれでも俺は引く訳にはいかない。俺が立ち上がるまでの間にリンにヌンフの魔の手が当たる、リンが吹き飛んでいく。
「リン!大丈夫か!」
リンの返答はない。やはり俺がやらねばならない。
「ここで戦え。そして勝ってみんなの下へ帰るんだ。」
俺自身の魂がそう言っている。俺は俺自身の意思で立ち上がってヌンフに向かった。その時だ俺の右拳に不思議な光が再び光り始めた。マゴウンのオーバー・シャドーもかき消す光だ。俺はその光る右拳をヌンフに向ける。
「俺は俺の意思でヌンフ、お前を倒す!その証がこの光だ。」
俺はむき出しになった右拳をヌンフに向けて突き出す。
「掻き消せ!ブライトパンチ!」
光はヌンフの影をかき消し金山先生の腹部に当たった。しかし、うっすら見えた金山先生の顔はニヤリと笑っていた。この光の一撃でもヌンフは止まらないのか。右手を避けてヌンフの両手が俺に迫る。蚊でも叩き潰すかのようにヌンフに叩き潰された。右はなんとか影をかき消して無効化したが左にはダメージが入った。左からの攻撃を支えた右足にダメージが大きい。光を強くしてもそれは金山先生と生身で戦う事と変わらないということか。インドアな俺では光を使っても勝ち目が薄い。
「マゴウン!俺に力を貸してくれ!」
「言われなくても!」
光を取り込むようにマゴウンの影が覆うが光がそれを打ち消してしまう。
「くっ。なんとかして光と影2つを合わせなければ勝てないというのに。」
「陸人すまない。俺がこんな時に不甲斐ないばかりに・・・」
マゴウンが珍しく弱音を吐いている、それほどヤバイってことか。
「マゴウン、俺達ならやれる。なぜかはわからないが自分を信じた結果にこの光を手に入れたことがわかるんだ。マゴウンも自分を信じてみるんだ。」
「陸人・・・。わかったやってみよう。」
この間もヌンフの攻撃は続く俺は紙一重で避けたりかき消してなんとかしているが中々光と影を混ぜあわせることが出来ない。
「やはり光と影を混ぜるなんて不可能だ。影は光を光は影を打ち消してしまう!」
くっ、万事休すか。ここまで来たっていうのに。
「リクトさん!しゃがんで!」
「リン!気がついたのか!」
リンの声とともに後ろからベアゴーレムがヌンフを攻撃する。俺はその隙にヌンフと一旦距離を取る。
「マゴウン一つ可能性を見つけたぞ。」
「何!陸人!本当か!」
「ああ、ベアゴーレムを見て気づいた。あいつは小石を組み合わせて作られている。光と影を混ぜるのではなく組み合わせる。光の隣に影を影の隣に光を置くことで力を組み合わせられるかもしれない。」
「やってみよう」
マゴウンに影の調整は任せ光の調整は俺がやる。少しでもずれれば打ち消されてしまう。それでも俺達なら出来る気がした。なぜなら俺達は二心同体だからだ。同じ身体を共有するもの同士心を通じ合わせられぬはずはない。右拳が白と黒のマーブルに染まる。
「行くぞマゴウン!」
「ああ!陸人!」
「覚悟しろヌンフこれが俺達の力!光と影の融合!ブライト・シャドー・パンチ!!!」
ヌンフに拳を突き立てると、辺りに黒い影と白い閃光が広がる。地面は割れ、後には静寂だけが残った。
腕には金山先生の体その後ろにはヌンフらしき黒い炎があった。
「やったのね?」
「ああそうだ。俺達はヌンフを倒したんだ。」
急いでヌンフをマゴウンの支配下にいれる。金山先生を拘束するものはないがこのままにしておけないので入り口まで担いでいく。そこにはヒーローサークルのみんなが待っていてくれた。こうしてヌンフと死闘は幕を閉じた。
とりあえず金山先生の目がさめるのを待つ。金山先生はじきに目を覚まし
「私は負けたのか。」
とつぶやいた。
「そうです。俺達ヒーローサークルの勝利です。ヌンフは悪いですが影の世界へ送り帰させてもらいます。」
金山先生は名残惜しそうな顔を一瞬したが
「そうか。敗者に選択権はない。君たちには済まないことをしたな。」
そう言って金山先生立ち上がろうとする。ふらふらとした足つきだがなんとか立っている。
「金山先生まだ乾いているんですか?」
「正直言うとな。ヌンフの力で暴れてもなにも癒されはしなかった。私の乾きはどうすれば癒やされるのだろうかね。」
「わかりません。わかりませんが自分の力で見つけなければ乾きは永遠にそのままだと思います。ヌンフとの戦いで俺は自分を信じて戦うことを知りました。先生にもそれが必要なんだと思います。」
金山先生はすこし微笑むと
「そうか。そうだったのかもな・・・」
とつぶやいてどこかへ行ってしまった。ヌンフの身柄はとりあえず俺が預かることにした。誰かにあずけてシャドーフュージョンしてしまっては問題になるようなシャドーだしリンは実家で連れ込むわけにはいかない。一人暮らしでシャドーフュージョンしている俺が一番適任だろう。
「リン。今日もありがとうな。いつもリンには助けられっぱなしだよ。」
「大丈夫。私もリクトさんにはそれだけ助けられているから。」
リンはそう言ったが俺には覚えがないと言うとリンはくすくす笑うだけで目をそらしてしまった。
次の日、講義が終わるやいなやすぐにヒーローサークルのメンバーで市立美術館へヌンフを送り帰すためにやってきた。ヒーローサークルのメンバーは初めてこの絵と対面する。
「なにか不思議な絵ね。真っ黒なのに輝いているというか。吸い込まれるよう。」
前津が近づこうとするのを俺は制止した。
「それじゃあなヌンフ。お前には色々と借りがあるが最後に帰ったマゴウンと話をしてくれ。」
そう言ってヌンフを絵に投げ入れた。絵は一瞬光ったように見えたがすぐに収まりヌンフが消えた。
「マゴウン影の世界の様子はどうだ」
「ヌンフ、イタダ、ショーク、トシの4人が帰ったようだ。残るは後一人ゴヨクだけだ。」
いよいよこの戦いも終わりに近づいてきたということか。一度食堂にヒーローサークルのメンバーと戻って話し合いをすることになった。
「で、ゴヨクってどんなやつなの?」
前津がそうそうに切り出す。
「ゴヨクは何でもパワー蓄積型シャドーらしい。パワーが溜まっていない早めに倒したかったが今となっては仕方ない全力でやるだけさ。」
「それと謎の光は扱えるようになったでござりまするか」
港に尋ねられる。
「ああ、この通り光を制御できるようになったみたいだ。これは自信の光のようだ。自分を自分で信じる時この光があふれだすみたいなんだ。」
港はふーむという顔をしている。前津は自分も光を出せないか試しているようだ。
「なぜ俺だけこんなことが出来るかわからない。もしかしたらシャドーフュージョンしたことと何か関係があるのかもな。」
「そうかもね。」
後ろから金山先生の声が聴こえた。振り向くとそこには金山先生がやはり立っていた。
「警戒しないでおくれよ。もう何もする気はないさ。むしろ君たちに協力しようと思ってやってきたんだ。その証拠にヒーローサークルの顧問だって続けるきさ」
金山先生はそう言って笑うが昨日までシャドーサーヴァントを町に放とうとしてたんだ気は抜けない。
「まぁそうはいっても警戒しないのは無理か・・・」
そういって金山先生は席につく。
「一つだけわかっていることがある。私は守山くんたち以外と戦ったことはないということだ。残っているシャドーはどれくらいだい?」
「あと一人だけ。パワー蓄積型のゴヨクってやつだけです。」
「ならそいつは残りの二人を実力で倒したことになる。しかも、倒したやつを支配下においていない。それだけ自信があるのだろう。もしくはなにか帰さなければならない理由があったかだ。」
「マゴウン今の話どう思う」
「帰さなければならなかった理由というのは分からないがゴヨクはパワー蓄積型といっても一日に得られるパワーは光の世界では限られる。そう警戒する必要はないと思うが・・・」
マゴウンは意外に楽天的に考えているようだ。どうやらマゴウンの中ではゴヨクは下の存在のようだ。
「なんにせよ。用心はすることだね。守山くんはシャドーサーヴァントを作っていない様子だ。ゴヨクからすれば足取りの掴めない相手。ゴヨクはそろそろ派手に動くかもね。」
そう言って金山先生は会議があるとかで帰って行ってしまった。
「どうしようか。ゴヨクが市役所近辺にいることは間違いなさそうだけど無理にこちらから動くひつようもないし。」
「それに関して何だけどね。市役所近辺の怪物、シャドーサーヴァントだっけ、それの目撃情報が最近ないんだよね。ちょうど一週間前から目撃情報が一つもなくなっているんだね。」
前津の発言に鶴舞がそう答えた。一週間前からゴヨクも身を潜めたということか。
「もしかしたら別の所に移動したのかもしれないね。」
リンがそういうのでマゴウンにシャドーの行動できる範囲を聞いてみた。
「マゴウン、シャドーはどれくらい遠くまで行けるんだ。」
「シャドー単体ではあの絵から遠くへは行けない。だがシャドーフュージョンしているならどこへでもいけるな。だが、ゴヨクがこの市から逃げたとは考えにくい。むしろ何かの計画のために一時的に離れただけと考えるのがスマートだな。」
俺はマゴウンがゴヨクが逃げたのではなく何かのために一時的に離脱している可能性が高いと言っていることをみんなに伝えるとリンもシキが同じようなことを言っていると付け足してくれた。
「シャドーマンの気配とか察知できればいいんだけどな。そのへんどうなの?守山くんマゴウンくんに聞いてみて。」
前津が言うので一応聞いてみるとどうやらシャドーマンの気配はオーバー・シャドーやシャドーサーヴァントのように表に影が出てないとわからないならしい。前津達にもそのことを伝える。
「これじゃ手の出しようがないね。また市役所付近に目撃情報が出るまでまつしかなさそう。それじゃ、今後もtwitterで目撃情報を探す感じで活動していこうね。」
前津がそう締める。
「なにか武器みたいなの作れればいいけど銃刀法違反になるのはまずいから作るのは難しそうだね。」
「いやどちらにせよマゴウンはシャドーサーヴァントみたいにものに影を纏わす事はできないんだ。武器があっても他のシャドーマンのように強化は出来ないみたいなんだよ。」
赤池が武器を作りたいといったので俺はマゴウンの弱点をポロッと言ってしまった。みんなはそうなんだと流しているがもし周りにゴヨクがいたらまずい発言だ。
「それじゃ今日はケバブ食べたい気分だしナシーズケバブいかない?あ、守山くんはリンちゃん送ってからでいいよ。」
もう完全におもり係か俺はと思いながらもリンとの帰り道は結構楽しい。
「リン。忙しかったけどTシャツのデザインはどこまでいった?」
「うーん。できかかってたけどまた作りなおしかな。ゴヨクを倒す頃には出来上がると思うよ」
楽しみにしてるぞと俺はリンの頭を撫でながら言うと、リンは子供扱いしないでと怒った風に口を尖らす。そのリンのしぐさがたまらず可愛かった。
「じゃあなリン。また次もよろしくな。」
「任せといてよ名サポーターってことを自覚させてあげるわ。」
そういって俺達は別れた。俺はナシーズケバブで頼むエスニックな料理を楽しみに自転車を走らせた。
次の日も講義の後ヒーローサークルで集まったがまだ目撃情報は出ていなかった。ゴヨクの目的が謎だ。もし最初からパワーを貯めることが目的ならシャドーサーヴァントを表に出したりしないで最初から雲隠れするはずだ。だというのにシャドーサーヴァントを作って表に出したかと思えば雲隠れ全くもって動きが読めない。もしかしてこうやって混乱させるのもゴヨクの作戦なのだろうか。俺達ヒーローサークルのメンバーは市役所の見回りに行ってみたがなにもないごく普通の日常が流れているだけだ。マゴウンもシャドーの気配はないという。ゴヨクは一体何者なんだろうか。
「これじゃ、何をやってもわからないわね。明日から休みだし久し振りに体を休めに遊びにでも行く?」
前津が脳天気にもそんなことを言い出した。
「いやゴヨクの反応があればすぐに向かいたい。ゴヨクはパワー蓄積型だ時間が立つほどこちらが不利になってしまう。」
「じゃあ私とショッピングに行きませんか?」
そうリンが言い出した。
「だから、すぐにゴヨクが現れ次第いきたいんだよ。」
「私と一緒ならすぐに戦いにいけますし、ショッピングの行き先も市役所近くのイーキョーなら問題ないじゃないですか。」
前津と港がなんかニヤニヤしているのが気になる。
「そういうことなら二人で行ってきたら良いんじゃないかな?ゴヨクもすぐ動くとは思えないし。」
赤池までそう言い出してきた。
「ちゃんとリンちゃんをエスコートするだね。それもヒーローの勤めだね。」
鶴舞お前はリンが好きだったんじゃないのか。
「それとも、私とショッピング行くの嫌ですか?」
そんな潤んだ目で俺を見つめないでくれ。
「わかったよ。確かにリンと一緒ならすぐに対処もできるしな。」
そんなこんなでリンとショッピングの予定が出来てしまった。その後今日もリンを家の近くまで送っていく。
「明日楽しみですね。リクトさん。」
「ああ、そうだな。でもショッピングなんてお店を俺は全然知らないぞ。」
「大丈夫ですよ。私が一杯教えてあげますから。」
そんな話をして俺はリンを送り届けるとみんなが待っている南方園に向かう。南方園では明日の俺とリンのショッピングの作戦会議が繰り広げられていた。
「守山くん。明日どんな格好で行くつもりなの?」
「いつもどおりのTシャツにジーンズだけど?」
前津に尋ねられてそう答えると前津はなにもわかってないとでも言うように両手を上げて首を降った。
「なにもわかってないわね。もう少し格好つけなさいよ。せめてシャツでも羽織ってみたら?」
「えーめんどくさいよそんなの。それに相手はリンだぜ。大丈夫だって。」
「全然大丈夫じゃないでござるよ。相手は女子高生でござりまする。隣にうらぶれた大学生がいたら即職質ものでございましょう。」
港はそうは言うがそこまで俺の格好は酷いのか。
「せめてよれよれのそのTシャツはないわね。新しいのを出してくるかシャツを買ってくること。良いわね!」
前津に念を押されて思わずおうと言ってしまった。確か4月に俺が夢を持って大学に入った時の服がまだあったはずだ。あれなら大丈夫だろう。
「大変なことになってしまったな。」
マゴウンまで笑いながら言ってくる。本当にそうだよ。俺とリンはなんでもないというのに。しかし、俺の胸の奥で何でもないという言葉が反響した。
翌日、俺は土曜だというのに早めに起きて身支度をする。普段は通さないクシで髪を梳いで、4月から来てなかった格好いいと思われる服に袖を通す。鏡に移った自分は自分が思ったより様になっている感じだ。待ち合わせの時間が近づいたので待ち合わせの駅前に移動する。リンも待っていた、リンの格好はチビTにミニスカートとこの辺では見ないような若い格好だった。やはりお腹はぷにぷにしてそうだ。もうちょっとカチっとしていればな。
「ちょっとリクトさんなんでお腹を見つめているんですか!?」
「いやゴメン、ゴメン。どうしてもチェックしたくなてしまうんだ。」
「全く変態なんですから。それにしてもちゃんと格好考えてきてくれたんですね嬉しいです。」
俺も格好を気にしたことに気づいてもらえると嬉しい。なんか顔がこそばゆかったので早々に俺達はイーキョーへ自転車で出発した。道中もマゴウンにはゴヨクやシャドーサーヴァントの気配に気をつけてもらったが何もなかったようだ。
「それじゃとりあえず。私の服を見に行きましょう。あっちにお気に入りの店があるんです。」
連れて行かれたショップは本来なら俺が入ることはないであろうキラキラしたリア充臭するショップだ。
「これとこれなんか良いと思うんでうすけどどっちが似合います?」
正直、色以外同じに見える。だが聞いたことがある。こういう時、実はほしいのは決まっていて男性を試すためにこんな質問をするものらしい。ならば模範解答はこうだ!
「君はどっちがの服が良いと思う?」
「うーん、最初のほうが可愛いかなって気がするけど、後のほうがカラーがクールかなって思う。」
どうやら間違った発言ではなかったようだ。よかった。
「どちらも似合うと思うけど、リンには可愛い方が似合うんじゃないかな?」
「そうだね!それじゃこっちにする。」
ピンチを切り抜けたぜ。マゴウンは腹を抱えて笑ってやがる。ちゃんとこいつはゴヨクの気配を探しているんだろうな。
「ゴヨクの気配ならシキにも探させているからもっと力を抜いて大丈夫ですよ。リクトさん。」
リンがそういうなら大丈夫なんだろう。その後もリンのどっちが似合う攻撃は続いた。俺はセオリーを全て使い尽くしうまくそれを切り抜けることができた。
「リクトさんってこういうこと苦手そうなのに案外ちゃんと出来るんですね。」
「俺だって大学生だぜ。こういう経験がゼロってほうがおかしいだろうが。」
ごめんなさい嘘です。こういう経験今日までゼロだったのでネットで調べておきました。
「そうなんだ。意外かも。」
む、なんか失礼なことを言われた気がするぞ。
「悪かったな意外で。」
そう言いながらリンの頭をワシャワシャとしてやる。
「ちょ、やめてよ。髪セットするのに時間かかったのに」
とリンは言う。知るか俺をバカにした罰だ。
「ちょっと髪を整えにいってくる」
そういってリンはトイレに向かった。そういや忘れていたがリンは男だ。どっちに入る気だ。女子トイレはバレたらまずい。だけど男子トイレもそれはそれでまずい。どっちに入るんだ。そう目の端でリンの後を追うとユニバーサルトイレに入っとていった。そうかそういうのを使えばいいのか。
「おまたせー。」
リンはすぐ帰ってきた。
「どちらのトイレに入るかヒヤヒヤしたぜ。」
「私は基本的にはユニバーサルトイレ使っているよ。どっちにも入るわけいかないからね。あとはコンビニとか共用だから便利かも。」
意外な話を聞いた。そういえば高校とかはどうしているんだろう。
「高校とかどうしているんだ?男子高校生として通っているのか?」
「ううん。学校の先生に説明したら女子の制服で大丈夫になったよ。さすがに特別扱いのことはあるけど女子高生やってるよ。」
そうだったのか。俺の知らない苦労もリンはしているんだろうな。
「お、ちょうどお腹も減ったしフードコートで何か食べようぜ。」
「いいよ!食べ終わったらリクトさんの服見に行かない?いつもよれよれのTシャツだし今日みたいなのばっか持ってるわけじゃないでしょ?」
「う、わかったよ。たまにはそういうのもいいだろう。」
俺はピザを頼んでリンはサンドイッチを買ってきた。ここのピザは石窯で焼いているのが売りだ。フードコートのピザのわりに美味しい。
「あ、おい外見てみろよ。また飛行船だ。こっちに向かってくるのかな?」
「本当だ、大きいですねー。」
なんて言いなが昼ごはんを食べ終わったとも話していた。なんてことない話だ。リンと出会ってからリンと話しているのは楽しい。俺の知らないことをリンはたくさん知っている。
「む、この感じシャドーサーヴァントの気配だ。」
マゴウンが急に言い出した。リンに目配せするとシキも感知していたのかリンも立ち上がる。急いで俺達は食事のゴミを片付けるとマゴウンにシャドーサーヴァントの気配の方向を聞いた。
「上の方から気配があるぞ!」
俺達はイーキョーの屋上駐車場に上がってみるがそこはなにも変化はない。
「マゴウン、まだ気配はあるか!?」
「ああ、まだ上の方から気配がある。」
おれは頭上を見上げるとあの飛行船が頭上にあった。あれにシャドーサーヴァントがいるのか?
飛行船は市役所前の広場に泊まろうとしている。俺達は急いで外に出ると市役所前の広場に向かう。市役所では誰かを迎えるためか警備員が立っていた。飛行船から出てきたのは若きこの市の市長である栄市長だ。
「マゴウン、シャドーサーヴァントって栄市長のことか?」
「いや、まだ飛行船の中からシャドーサーヴァントの気配はしている。ここは囮を使うしかないようだ。」
リンに俺は周りをよく見るように言った。
「オーバー・シャドー・・・」
俺達は右の小指を人から見えないようにしてオーバー・シャドーさせた。これに反応した奴がシャドーマンだ。反応した男が一人いた。栄市長だ。栄市長はこちらに来ると。
「市長を出迎えるとは奇特な青年もいたものだな。握手でもしようか。」
そう言って右手を差し出す。
「ごめんなさい。彼、今右手を怪我しているから私が代わりに握手させてもらうわ。」
リンがオーバー・シャドーが見つからないようにフォローを入れる。
「それで右手を抑えているんだね。可愛い彼女さんだ。できれば君たちとはまたここで出会いたいね。今日の夜とか。」
そういって栄は握手すると市役所に消えていった。俺はオーバー・シャドーを解除するとニヤリと笑った。そうか、最後のシャドーマンは栄市長だったのか。これなら情報が新聞に載らなかったのもわかる。それだけの権力をあの市長は持っている。そして、あの言葉。今日の夜に戦うということだ。
「リン。戻るぞ。今日の夜が決戦だ。」
「ちょっと待ってあの飛行船をちょっと見てみるわ。」
飛行船にはもうだれも乗っていなかった。
「リクトおかしいぞ。中に何も居ないのに気球船からまだシャドーサーヴァントの気配を感じる、しかもかなり大きい。」
どういうことだ。中に誰か潜んでいるようには感じない。
「リクトさんおそらくこの気球の中に何かあるみたい。シキがそう言ってる。」
こんなデカイ気球の中に隠さないといけないシャドーサーヴァントがいるのか。俺には気球が虫の繭のように見えた何か良くないものが中で胎動しているように感じた。
夜になった、俺達は持ってきていたジャケットを羽織っておく。もうすでに市役所前の広場には人の気配はない。近くにあるネイチャーダインのビルにも明かりは灯っていない。そこに栄市長が現れる。部下も連れて来ているようだ。
「やっぱり君たちが最後のシャドーマンか。どっちが支配者なんだい。」
「俺のほうがリンのシャドーを支配下に置いている。」
「そうかい。ということは君を倒せばはれて私が王になれるということだ。」
「どういうことだ。王になるのはシャドーの話だろう?」
「別にシャドーを帰してやる必要はないだろう。私はシャドーサーヴァント化を使って強化兵や強化武器を作ってこの国の、この世界の王になるつもりなんだよ。どうだい?君も協力するなら見逃してやらんこともない。」
栄市長が俺達に右手を差し出す。俺はその手を払いのけた。
「おお。怖い。右手は怪我してなかったんだね。良かった良かった。全力でこの兵器を試せるというものだ。」
「抜かせ、行くぞゴヨク。覚悟はできているか?オーバー・シャドー!」
「私もいかせてもらうわ。オーバー・シャドー。」
ふぅと栄市長はため息をつくと
「せっかちな人達だ。ならこちらもいかせてもらうよオーバー・シャドー」
見たこともないほど濃く大量の影が栄市長を包みこむ。そこから現れたのは仮面をつけた片手マントの姿をしたゴヨクだ。
「なんだこの影のパワーは!?」
マゴウンが狼狽している。辺り一帯が暗闇に包まれるほどの影がゴヨクから湧き出している。
「私は影というものが何かずっと考えていたんだ。そして光あるところに影がるという単純な結論に至った。」
「それがどうしたっていうんだ。」
「だから私のように光輝くものの下にはそれだけ多くの影が集まる。ゴヨクの能力は影の蓄積さ。トシとショークを倒しても余りあるほどに影を貯められた。はっきりいって君たちには勝ち目はないよ。」
「そいつはどうかな?」
俺は右手に光を貯めるマゴウンも影を移動させた。右手がマーブルに光り輝く。
「これが俺達の必殺技ブライト・シャドー・パンチだ!」
叫びながらゴヨクに向かう。しかし。その間に栄市長の部下が割って入る。
「この人間。シャドーサーヴァント化しているぞ!」
「ならばそのまま影を打ち消せブライトパンチ!」
光だけで俺は栄市長の部下の影を払う。
「どうやら、君は私と違う方向から光の真実に近づきつつあるようだ。」
「人をシャドーサーヴァント化させようとも俺の拳で影を払う。意味はない。」
「そうだね。君にはね。」
ゴヨクはリンを指差す。リンは今にもシャドーサーヴァント化した部下7人にやられようとしていた。いくらシャドーマンのリンでもこのパワーのシャドーサーヴァント7人で接近戦は分が悪すぎる。
「リン!」
俺は部下たちをリンから振りほどく。
「影よ消え去れ。ブライトゲイザー!」
地面にめがけて光を打ち出しそのまま反射させ7人の影を消し払う。
「ひゅー。やるね。じゃあこいつならどうかな。」
泊まっていた飛行船の気球が蠢き出す。気球の中から現れたのは空飛ぶ戦艦だった。
「こいつは戦艦三笠。かつてアドミラル東郷がロシアのバルチック艦隊を打ち破った栄光の旗艦。こいつのように光る歴史をもつ物は影に押しつぶされずにシャドーサーヴァント化出来るのさ。」
周囲に渦巻いていた影が全て戦艦三笠に集まる。黒き影の戦艦三笠が完成した。
「それじゃひとまず。一発打っておこうか。主砲シャドーカノン放てっ!」
影がビームのように撃ちだされた俺はリンを抱えてなんとか避けた。当たった地面がえぐれている。
「なかなかの威力だろう。君のその光る右手で打ち消してみるかい。無駄だとは思うけどね。」
確かにこの威力では打ち消せるとは思えない。
「リンすまない。ウサギゴーレムをしてくれ。あの戦艦に跳び乗るぞ。」
「でも空中じゃ制御聞かないのよ良い的になっちゃう。」
「大丈夫だ。俺を信じてくれ。」
リンは頷くとウサギゴーレムを創りだしてくれた。それに俺とリンは背負われるとウサギは跳び上がった。
「バカか。そんな空中じゃ狙い撃ちほうだいじゃないか。シャドーカノン撃ち落としてやれ。」
ビームのような影が俺達目掛けてやってくる。
「リンしばらく目を閉じていてくれよ。」
俺はビームに向かってマーブルに光る右手を突き出し飛び出す。
「防げ。ブライト・シャドー・パンチ!!!」
ビームは俺の右手に当たり拡散していく。余波が俺の身体やウサギゴーレムにも襲いかかる。俺は押し負けまいとウサギゴーレムに足を預け踏ん張った。なんとか俺達は三笠の甲板になんとか乗り込む。
「無理をしたな陸人。」
マゴウンが言う。だがこれしか三笠を突破する方法はない。
「おやおや、随分ボロボロだね。それにここに来て良いのかい。ここは私のフィールド。何もかも思い通りなんだぜ。」
「それがどうした。世界征服を企む悪の野望をくじくのはヒーローの役目。その役目を全うするだけだ。」
それにここならば相手もシャドーカノンを打てば三笠が傷つく、なかなか打てまい。
「じゃーん。この刀なんだと思う?なんと本物の三笠の主砲を使って作られた三笠刀って言ってね。こいつも歴戦の霊が宿っているんだ。こいつをシャドーサーヴァント化させてもらうよ。」
そう言うとゴヨクが持っていた刃が黒い刀となる。
「これで君の右腕を切って研究させてもらうよ。」
「悪に落ちた刀にヒーローは切れやしない!」
俺はゴヨクに突撃する。敢えて右手を前に出すとゴヨクはそれにつられて右手に斬りかかってくる。しかし。マーブルに光る右手には刃は立たない。その隙に俺は左手に力を込めて放つ。
「貫けシャドーパンチ!」
入った感触はある。だが、右手に斬りかかっている刀の力は緩まることはない。刀は右手の表面を伝って俺の首にかかろうとした。下にしゃがんでなんとかその攻撃を避けるも、今度はゴヨクに蹴り上げられる。だがダメージは少ない。着地してから反撃しようとした時。
「リクトさん危ない!」
「もう遅い!シャドーカノン斉射!」
俺は主砲の目の前に飛んでいた。シャドーカノンが当たってはひとたまりもない。俺はまた右手を主砲に向けて防御の体制を取る。シャドーカノンが発射されるもなんとか右手で拡散させる。身体は大丈夫だ。だが気づいた時には後ろに押されすぎた。三笠の甲板からはみ出してしまっている。
「つかまってリクトさん!」
リンが小石を鎖のように連ねて伸ばしてくれているそれに捕まりなんとか三笠からぶら下がる形でくらいついた。
「良かったリクトさん今上げるわ。」
リンは俺を覗き込んでいる。俺はぐっと親指を立てた。
「小賢しい小娘だ。」
俺が引き上げられると同時にゴヨクがリンのお腹に刀を突き立てた。
「リン!」
「ごめんなさい。これ以上サポート出来ないみたい。」
そういってリンは俺の腕の中で意識を失った。シキが俺の腕の間からボトリと落ちる。
「シキ、シャドーフュージョンしてリンを治してくれ。」
俺は不甲斐なさと怒りに震える声でそう絞り出した。シキは頷いてリンとシャドーフュージョンした。
「まだ彼女をシャドーマンの戦いに巻き込ませるのかい。ここで楽にしてやればいいというのに。」
「ゴヨク!栄!お前はここで倒れてもらう。正義にリンに誓ってお前を倒す。」
俺はリンのためにも勝たなければならない。ヒーローへの憧れなどもはやどうでもいい。ゴヨク。栄。こいつらを倒せれば全てどうでもいい。
「ならばやってみるが良い。こちらはたっぷりためた影があるんだ負け要素はない。」
俺は怒りに任せて右手に光を、左手に影を込める。
「砕けブライト・シャドー・ハンマー!」
両手を振り下ろす。
「そんな大振りな攻撃当たるとでも思っているのかい。」
「思っていやいないさ。でも三笠にはダメージが入るだろう!」
そうやって決めるも三笠はビクともしない。おかしい渾身の一撃だぞ。いくら三笠といえども少しは揺らぐはずだ。その時俺は右手も真っ黒に影が覆われている事に気づいた。
「どういうことだマゴウン。影の配分を間違えたか!」
「違う、光が急になくなったんだ!」
光がなくなった?俺がヒーローなんてどうでもいいと思ったからか?
「ハハハ。どうやら光の真理から遠退いてしまったようだね。これで決まりかな。」
茫然自失する俺にゴヨクの刀が迫る。
「負けないで!」
リンの叫び声が聞こえた気がした。リンは未だ倒れているが俺の心に確かに聞こえた。俺はゴヨクの刀を避けると持ち直した。そうだ俺は俺のためだけに戦っているんじゃない。マゴウンの心、リンの心、シキの心を背負っている。
「守山くん!がんばって!。」
下にはいつの間にか野次馬が集まっている。その中にヒーローサークルのみんながいた。
「守山さんがんばるでございまする。きっとはチャンスはありまする。」
「ジャケットを信じて!あれは僕の最高傑作だ。」
「守山、君がやらねば誰がやるんだね!?」
そうだ、俺は俺だけの心を背負っているんじゃない。みんなの心を光を背負っているんだ。
「うるさいやじうま共だ。シャドーカノンで黙らせるか。」
「そうはさせないぞ。ゴヨク!栄!」
俺は立ち上がりゴヨクを指差す。
「はっ、そんなボロボロで光もしない身体で何をやるって言うんだ。もう君は研究材料にもならない。バラバラにしてあげるよ。」
ゴヨクは俺に切りかかってきた、その刀を俺は右手で受け止める。
「何!オーバー・シャドーだけでこの三笠刀は受け止められないはず!?」
俺の全身にヒビが入ると同時に俺の影がはじけ飛び俺の身体は光りに包まれた。全身に白と黒の文様の入ったヒーロースーツの男それが今の俺の姿だ。
「俺は光の真理に至った。光とは人の心。生きるもの希望。それを束ねる者こそが真に光り輝く。ブライト・シャドー・マンここに降臨!」
「それがどうした。こっちには三笠と三笠刀がある。三下の希望を束ねた程度で負けるはずはない!」
ゴヨクは足元に斬りかかろうとする。俺はそれを跳んで避ける。
「馬鹿め同じ手に二度もかかりやがって。シャドーカノン斉射!」
シャドーカノンに力が貯められる。俺は両手で壁を作りシャドーカノンに備える。放たれたシャドーカノンを俺2つに割ってみせた。
「見たか。ゴヨク。栄。これが光を束ねる者の力だ。誰かの光に乗っかるだけのお前に負けはしない。」
俺は左手を振り上げ右手に力を込める。
「や、止めてくれ。降参するから、支配下に入ってお前を王にしてやるからさ。」
「そんなもんに興味はねえ!罪を償いやがれこの馬鹿野郎が!」
俺は力を解き放つ。
「ネオ・ブライト・シャドー・パンチ!!!」
ゴヨクにこの渾身の一撃が突き刺さるその衝撃で空は昼かと見間違う程の光に包まれる。衝撃波でネイチャーダインのの看板が欠けた。栄とゴヨクは気絶したのか分裂した。
これで戦いは終わった。ホッとしたのもつかの間三笠が落ち始めている。マゴウンではシャドーサーヴァント化は出来ない。ここで3人共地面に激突して死ぬのか!そう思って目をつむってしまう。
「目を開けてリクトさん」
リンの声が聞こえた。目の前でリンが立っている。リンが三笠をなんとかシャドーサーヴァント化させて着陸させた。思わず俺はリンに抱きついてしまった。リンが無事だったのが嬉しかった。
「もうリクトさん。ゴヨクをどうにかするのが先でしょ。」
そう言われて俺は慌ててゴヨクを支配下に置く。これで全てのシャドーを影の世界に帰す準備が整った。
「リン。お腹の傷は大丈夫なのか?」
「正直ヤバイかも。シキがなんとかてくれているから立っていられるけどね。」
急いでヒーローサークルのみんなに救急車を呼んでもらう。リンを救急車に乗せると俺は栄に話しかけた。
「なんで世界制服なんて子供でも見ない夢見てしまったんですか?」
「私は子供の頃から悪の幹部というのに憧れていてね。世界征服して世界平和をもたらそうと思ったそれだけさ。でもそれも希望の力に負けてしまった。」
「世界征服してもそこはディストピアなだけですよ。」
「それでも、争いがなくなるなら良かったのさ。希望は争いや災厄を呼び寄せる両刃の刃だ。」
「そうですか。でも俺は争いを止めるのも希望の力だと思います。」
「そうか。君はヒーロー何だな。悪の幹部はヒーローに弱いものだからな。」
栄は寂しそうにそういった。栄の処遇は警察に任せることにした。三笠の窃盗という前代未聞の容疑で逮捕された栄の瞳に希望の光りはなかった。
次の日。俺はゴヨクを市立美術館の黒い絵に投げ込んだ。こうしてゴヨクとの戦いは幕を閉じた。
「マゴウン、お前も帰るのか?」
「そのことなんだが」
マゴウンは言い出しづらそうになにかを言おうとしていた。
「俺達の本当の目的は王となる者を見つけることなんだ。陸人お前はこの死闘に勝利した。影の世界の王になってほしい。」
マゴウンは急に真剣な目をしてそう言い放った。
「何を言っているんだ。マゴウンお前が王になるんじゃないのかよ。俺はヒーローのお前が王になるならと思って協力したんだぞ。」
「陸人、君も十分にヒーローだ。王たる資質を持っていると俺は見ている。」
マゴウンは本気だ。確かにシャドーフュージョンが自力で剥がせないなら、普通はシャドーフュージョンしたまま影の世界に帰るしかない。
「悪いがマゴウン。俺は影の世界に行くことは出来ない。こちらの世界には俺を頼ってくれる俺の希望があるんだ。マゴウン諦めてくれ。」
「ならば俺と戦え陸人。勝てばお前を影の世界に連れて行き王になってもらう。負ければおとなしく帰ろう。」
「分かった。だが戦いはリンの容体が収まるまで待ってくれ。」
「良いだろう」
リンの容体が落ち着くまで6日間かかった。今はリンは立ち上がれるくらいに回復している。
「リン。すまない。」
「大丈夫だよ。リクトさん。シキも私も最初からわかっていたことだし。」
そういうと俺達はリンからシキを引き剥がした。市立美術館でシキを影の世界に帰ってもらい。俺達はヒーローサークルのみんなとともに夜の採石場にやってきていた。
「リクト覚悟はできているな。」
「言わなくてもわかっているだろう」
『オーバー』「シャドー」「ブライト」
同時に叫ぶとそこには白く輝くヒーローである陸人と黒く輝く影マゴウンの姿があった。
「あれがシャドー・・・」
赤池がつぶやいた。
「行くぞマゴウン!ブライトパンチ!」
「迎え撃とう!シャドーパンチ!」
2つの拳はぶつかり合い。破裂音とともに鋭い閃光と衝撃波を放った。先手を取ったのはマゴウンだ。マゴウンはブライトパンチを拳の側面で捉えると。そのまま陸人の顔面へと拳を突き立てた。しかしこれで倒れる陸人ではもはやない。顔面にめり込むマゴウンの右腕を掴むとそのまま振り回しマゴウンを地面に叩きつける。
「ゴハァッ!」
マゴウンが一瞬見せた隙に陸人は地面に向かって拳を振り下げる。
「掻き消せ!ブライトゲイザー!」
マゴウンは間一髪直撃は避けるが余波で吹き飛んでしまう。だがこれで終わるマゴウンではなかった。
「流石だな陸人!だがこれはどうかな。シャドーカノン!」
マゴウンの両腕が砲塔に変形する。陸人は腕をクロスさせて防御の体制をとる。シャドーカノンは三笠と同様の威力で陸人を襲う。陸人が怯んだ隙にマゴウンは近づいてくる。
「陸人!これを受けてみろ。シャドーキック。」
陸人のこめかみにマゴウンのつま先が突き刺さる。だが陸人は倒れない。
「マゴウンンンン!」
叫び声を上げたかとおもうと陸人はマゴウンの脳天に頭突きをする。そのまま陸人はラッシュを仕掛ける。
「ブライトラッシュ。弾け飛べェ!」
光速となった陸人の拳が散弾のようになってマゴウンを貫いていく。マゴウンが膝をついた。陸人もスタミナが切れたのかラッシュを終える。マゴウンはバク転をすると距離を取った。
「さすが王たる器の持ち主だ。陸人。お前はやはり王になるべきだ。」
「残念ながらそれは引き受けられないな。俺にはこちらの世界の希望を守る役目があるんでね。」
「ならば!!!」
マゴウンの身体がゆらめきだす。まるでヌンフのように炎となっていく。
「これで終わらせてもらう!シャドーバスター!!!」
膨れ上がったマゴウンは肩をこちらに向けて猛スピードで突進してくる。陸人はそれを受け止めるつもりだ。
「ありがとう。マゴウン。でも俺にも守るものがある!ブライトチャージ!!!」
陸人の光が一瞬消え、そして強烈に輝き出す。周囲は夜だというのに昼以上に明るい。
「これが俺の全力だ受け取れマゴウンンンン!!!ブライト!パンチ!」
「陸人オオオ!こちらも行くぞオオオ!シャドー!パンチ!」
2つの拳がぶつかり合い。衝撃波は地面を割った。もうもうと立ち込める土煙の中立っていたのは陸人だった。
「大丈夫かマゴウン!」
陸人はマゴウンに駆け寄って行く。
「ありがとう。陸人。全力を出してくれて。これで悔いなく俺は帰れる。」
そう言うとマゴウンは意識を失った。
俺はヒーローサークルのみんなの元へとマゴウンを連れて戻った。みんなは喜んで俺達を迎えてくれた。
「よかったわ。陸人。これでこちらの世界にいれるのね。」
前津がいう。
「マゴウンさんもさすがでございまする。よく健闘いたしました。」
港がマゴウンに声をかけた。
「これがシャドーか。できれば研究したいけど仕方ないね。」
赤池がマゴウンを触りながら言っている。
「俺は信じていたんだね。さすが守山だね!」
鶴舞が俺をたたえた。
「マゴウンこちらこそありがとう。マゴウンがいなければ俺はあの神社でこんな希望に出会えずに死んでいた。本当にありがとう。」
俺達は帰りに山々の唐揚げ弁当を2つ買って帰った。マゴウンと出会った日に買ったあの弁当だ。マゴウンんは初めて自分の身体で食べる弁当をうまそうに食べていた。こいつともお別れかと思うと急に寂しくなる。
「陸人、寂しいのか?」
マゴウンが聞いてくる。俺の心はすけて見えるのだろうか。
「そんなことないさ。」
俺は強がってそう答えた。
翌日、俺は講義を休んでリンのお見舞いにマゴウンと共に行った。リンはマゴウンに驚いたようだ。
「マゴウン。今までありがとうね。」
リンはそうマゴウンに語りかけた。
いよいよお別れだ。市立美術館のあの絵の前に来た。今日は休館日だが。栄元市長のはからいで開けてもらえた。
「いよいよ、お別れだマゴウン。ありがとう。」
「ああ、陸人。こちらこそ助けてもらってばかりいたな。」
俺達は抱き合うとマゴウンは絵のなかへと消えていった。
「マゴウン!俺はきっとこの世界の希望を守る。だからお前も影の世界の王として守るものを守るんだ!」
そう俺はマゴウンに向かって叫ぶ。マゴウンは消える閃光の中で親指をぐっと立てて答えた。
その後、ヒーローサークルはいつもどおり活動している。今の活動はボランティア活動がメインだが前津は地域ヒーロー化計画を立てているようだ。衣装とアイテムは鶴舞と赤池が頑張ってなんとかするらしい。一方、俺はというとヒーローサークルの看板頭としてリンとともにボランティア活動に励んでいた。今日もその帰りだ。
「リン。今日も寒い中お疲れ。受験勉強ははかどっているか?」
「うん。大丈夫だよ。絶対にリクトさん達とおなじ大学に行くんだからね。」
「もうリンと出会ってから半年か。」
「そんなに経ったんだ。シキやマゴウンは元気かな。」
「あいつ達なら大丈夫さ。その証拠にほらこのTシャツのシャドーマンも笑ってら。」
Tシャツはリンがデザインしたものだ。デフォルメされた俺とマゴウンのオーバー・シャドーした姿が笑顔で戦っている。リンは当たり前でしょと笑っている。
「ねぇ、リクトさん。私が前二つ目の夢ができたら協力してくれるって言ってくれたよね。」
「ああ、そんなことも有ったな。」
「あのね。リクトさん。私ね。リクトさんと付き合いたいの。」
一瞬時が止まった。
「私は男だけどまだまだ可愛くなるしいつか綺麗になるからお願いします。」
正直、俺もリンを憎からず思っている。リンが差し出した右手を俺は握り返した。
「これってOKてことで良いの?」
「お前は俺のサポーターなんだろ?だったらずっと一緒さ。」
俺達の道は不安だらけだ。それでも希望を失わず自分を信じるかぎり光は照らされる。そう信じて俺達は未来を生きる。
初めまして、ねぼけたくまと申します。
シャドーマンは初めて僕が書いた小説になります。この度、友人のすすめもあってドライブの奥から引っ張り出して、小説家になろう様に投稿させていただきました。
こいつを書きたくなった理由は、なんでしょうね?読むとこの頃に、大好きな日本橋ヨヲコ先生の特別展を見に行って、先生のギャラリートークを聞き、「俺もなんか作ってやるぜ!」みたいな気持ちになっていたのを思い出します。
実はシャドーマンの世界線で、別の小説を二本書いています。片方はアップしようと思っているのですが、もう片方はもうお見せできないくらい酷い出来なのでアップは勘弁してください。
それでは、もうこんなお時間です。またお会い出来たら幸いです。さようなら。さようなら。