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とどけ、とどけよ、あの月に

作者: mkSa

                           ☆


「...お姉ちゃんを探していたんです」


 女の子が言った。すると、月はみるみるうちに紅くなり、雷のような声が轟いた。


「愚かなうさぎよ、姉などいないだろう!嘘をつくならバレないようにするんだな、それとも私を馬鹿だと思っているのか?どちらにしろ二度と、月には帰らせん!」


                           ★


 星のよく見えるある夜、11歳になった裕也は妹のお見舞いから帰るところだった。


「おそくなっちゃったな...早く帰らないと...」


 裕也は足を速めた。すると蝉の声に紛れて、しくしくと誰かの泣く声がした。


「こんな時間に、誰だろう...」


 始めはドキっとし、怖いとも思ったが、裕也は弱い子ではなかった。「僕らは少年探偵団!」と、大好きなテレビの歌を小声で口ずさみながら、声のする方へ向かった。

 泣き声が近くなり、裕也は息をひそめた。見ると、公園の滑り台の上で、紺のリボンをし純白のワンピースを着た女の子がうずくまって泣いていた。


「きみ、どうしたの?」


 裕也は女の子に勇気をもって近づき、聞いてみた。


「...れないの」


 女の子は顔もあげずにつぶやいた。


「っえ?聞こえないよ」


「帰れないの!帰れなくなっちゃったの!」


 そうして女の子はまた泣き出した。さっきよりも大きな声で。


「迷子になっちゃったのか、それは大変だ。きみはここの町の子じゃないのかい?」


 女の子は首をこくりと縦に振った。


「じゃあ、どこの町から来たんだい?」


 女の子は答えずに泣いていた。


「遠い町なの?」


 女の子はうなずいた。


「そうか、でも、どこから来たのか分からなくちゃ助けられないよ...」


 すると顔を膝にうずめたまま、女の子は右腕をあげた。指さす方向を見上げると、そこには満月が美しく輝いていた。裕也には女の子の伝えたいことが分からなかった。


「きみは...月から来たというのかい?」


 女の子はゆっくりとうなずき、月を見上げた。大粒の涙が、その雪のように白い頬を伝う。裕也はもう、なんて言えばいいのか分からなかった。すると、女の子はゆっくりと語り始めた。


「わたし...今はこんな姿をしているけど、ほんとうはうさぎなの。

 うさぎはね、春の間しか...地球にいてはいけないんだ。桜が散って、田植えもすんで...夏になってもお月さまに帰らないうさぎは...死ぬまで地球で過ごさなきゃあいけない...

 でも、そんなの嫌だ!お月さまには、お母さんもお父さんも待ってるし、それに弟もいるんだよ!!わたしが帰らないと...」


 そうして女の子はまた泣き出した。


「どうにかして、帰れないものなのかい?」


 裕也が聞くと、女の子はもっと声を大きくして泣いた。


「ひとつだけ方法はあったの!でも、でも!!お月さまが...月の涙を探しだらって...だがら...だがら探したんだ!それで...お月さまとお話しできたの!

 でも...お月さまに、なんで帰ってごなかったか聞かれた時...わだし...わだし...嘘を、ついちゃったの...!!

 そじたら...そじたら...お月さま怒って...

 もう、それがらお月さまのお顔が2度と見えなくなっぢゃって...お月さま...あんなに、あんなに優しがっだのにぃ...」


 裕也は月を見上げた。何とも美しく輝いているが、それだけだった。前に見た時は、もっと優しく輝いていたな、と思った。


「謝ったのかい?その...お月さまに」


「謝ったよ!何度も、何度も!...でも、わたし、それまでにもずっとお月さまに嘘ついてたの、小さいことをね...お月さまは気にしないと思ってたから...

 だけど...だけど...一度だけね、お月さま言ってくれたの。うそつきは嫌いだって、遅刻するやつは嫌いだって...それでも嘘をつき続けちゃった。あの時、正直に話してれば...そう思えば思うほど...悔しくて、悔しくて...」


 裕也は滑り台に上がり、女の子の肩に手を置いた。


「これからは僕も、きみのためにお願いするよ...きみが月に帰れるようにね...だからもう泣かないで...」


「でも...でも...」


「だからきみも!これから毎日お月さまに想いを伝えるんだ。もう一度会いたいって、話したいって!そうすれば...きみの、お月さまもきっとわかってくれる」


「なによ、分かった風に言って...もうわたしは1週間もここで...」


「分かるさ。僕はもう5年もお願いしているんだ...妹の病気が治りますようにって、早く退院できますようにって。毎日、毎日!

 そしたら今日、ようやく回復の目途が立ったんだよ!だから、だから諦めないで。お月さまはきっと、きっと聞いてくれるから!」


 すると女の子は前に少しずれ、一気に滑り降りた。


「ありがとう!わたし、そうするね!できるなら、あの日のようにまた、お月さまとお話ししたいもん!みんなに話すこともたくさんあるから!だから...!!」


 そう言って、女の子は暗闇に消えていった。


                           ☆


                   あのうさぎは月に帰れたのだろうか。

                 青い夜空に、今日も月は美しく輝いている...


                           ★


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