悲報・ライバル敗退
「はぁ……、はぁ……」
左文字商店街のメインストリートを息を切らして走る絃四郎。
左右を忙しく見回す彼は、目を見開いて驚愕の表情を浮かべていた。
「どうしてだ……、何でこんなことになっているんだ」
巨大なたんこぶを頭にこさえて失神している者、道の端でガクガク震えて蹲っている者、なぜか腹を膨らませて笑みを浮かべて寝転がっている者。商店街のそこら中に敗北した者たちが倒れていた。
皆、どう見ても拳を交えて敗れたという感じではない。傷は少なく、まるで死闘を繰り広げたあとがないのだ。
しかもマサキと別れてまだ二十分も経っていないのにだ。
そんな短時間で、これだけ敗れた者たちがいるなんて今までどんな大会でも見たことはない、異常だった。
その中には、先ほどの歴戦の猛者たちもいた。
絃四郎は猛者たちの醜態を見て、中国五百年の継承者だとか盛り上がっていた自分が恥ずかしくなった。開会式の時の高揚感を返してほしい。
だが、それなりの修羅場をくぐり抜けてきたはずの格闘家に一体何が起こったのか。
「か…の…びら…き」
か細い声で絃四郎の名前らしきものを呼ぶ声。よく見ると、道の端にできた人の山の天辺にマサキの姿があった。
「マサキ、マサキ‼︎ 一体何があったんだ……」
絃四郎はマサキを助け起こす。胸元を見ると、バッジはすでに取られていた。
ひどい傷を負っている様子はない。むしろほぼ無傷と言っていい状態だが、先ほど見かけた奴と同様に、マサキも腹が膨らんでいた。
「ゲフ……」
マサキはゲップを出した。口からは仄かに醤油の匂いがする。どうやら何かを食べたらしい。
「観音開……、手強い敵がいる。そいつはオレたちが想像もつかないような力を持っている」
「マサキ、誰なんだ‼︎ それは⁈ 」
「お前は……気をつけるんだぞ。決してどんな奴にも油断をするな。……おえっぷ」
マサキはさらに大きなゲップを出すと、ごはんを食べて満足した子どものような表情を浮かべ、眠りについた。
「おい、マサキ‼︎ マサキぃぃぃぃ‼︎ 」